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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第五十四話 八席、召集

 統一記念日、それはかつてこの世界を支配していたオラシオン帝国が生まれた日である。

 帝国はかつて、この世界全土を支配していた大国。

 かの国がそう呼ばれる以前はオラシオン王国と呼ばれた小国であった。

 帝国はかつては南大陸全域に存在していた一つの大国であったが四国に分かれ、それぞれが分割統治、及び管理されていた国々である。


 オラシオン王国はその東側を統治し、四国の中では弱小国の最たる部分に位置していた。

 しかし弱小国といえどその資源や国土は他の三国よりも遥かに恵まれていた。

 故に王国は、度重なる侵攻や支配を三国から受け続け、民は捕虜にされれば奴隷として売り払われ、食料や物資の多くは他国に略奪されることを繰り返される。

 そんな奪われ続ける事を百年以上も繰り返され国の情勢は確実に悪化の一途を辿っておりこの時、いつ滅亡に陥ってもおかしく無いほどに至っていた。


 そんな中、当時の国王の息子であった後の初代皇帝ゼロア・オラシオンは三国からの支配から自国を解放する為に一人立ち上がる。

 民から義勇軍を集い、少ない兵力で王子自ら最前線に立ち戦うことを決意したのである。


 そんな些細な小さい抵抗から始まった戦争は後に四国統一戦争と呼ばれるまでに十年以上に渡り長く続き南大陸を血に染め上げたのである。


 そして、この戦争はオラシオン王国及び彼等に賛同した各国の連合側が最終的な勝利により幕を閉じる。


 三国を打ち破り、敵国だった三国を支配。

 そして統一を果たしたオラシオン王国は国名を改めオラシオン帝国と改名。

 後に世界を支配する大国が誕生したのである。


 今日はそんな帝国が生まれを祝う日である。

 帝国が滅びた今もその日を祝う習慣は根付いており、帝国が滅んでも尚、20年経った今でも続いていた。



 帝歴403年8月28日


 クレシアの屋敷を俺達は昼前には外出していた。

 理由は昨日交わした約束の為。

 彼女を祭りに連れて行く為に、俺は彼女の護衛役を任されていたのだ。


 昨日の晩のうちに彼女の両親からも無事許可を得る事に成功し、外出は問題ない。。

 しかし、屋敷を出るまで彼女の両親や姉さん等に逢引だとかで散々とかわれたりしていたが……。


 「シラフ、早く行こう!」


 薄焦げ茶の髪を揺らす彼女は祭りの雰囲気に乗られ、

 いつもの物静かな様子とは別人かのように楽しげでいる様子。

 まるで幼い子供のようだと俺は思った。


 「分かったから、そんなにはしゃぐなよ。

 護衛をするにも守れないだろ」


 俺は楽しげな彼女の方へと向かう。

 街は既に祭りの雰囲気と化しており、屋台や出店が連なっていた。

 良く見れば屋台を経営しているのは全員生徒。

 学院都市である事を改めて知る。

 普段は見ることの無い光景に俺自身も少なからず心躍る感覚を感じた。


 「色々な店があるんだな……」 


 「確かにそうだね。

 シラフはどれから見たい?」 


 「一通り見ながら考えるよ。

 クレシアはどうなんだ?」


 「私は、あれが気になるかな。

 ほら?行ってみよう、シラフ」


 「そうだな」


 祭りの雰囲気を楽しむ彼女に、少し呆気に取られそうになるも、この日を俺も楽しまないとな………。


 そんな事を思っていた。

 


 首都に向かう列車に揺られ、それから送迎の車に乗り換え車窓から町並みを見渡す。

 既に、サリア、いや亡き帝国以上の発展を遂げたこの町並みに複雑な感慨を受けていた。


 「ここが、首都か。

 やっぱり、大きい街だね。

 流石に、サリアよりも規模は上ってところかな」 


 「そうですね、あの案内は?」


 「大丈夫だよ、わざわざ見送りありがとうね。

 私はちょっとここに用があるからさ」


 「そうですか、それでは私は仕事がありますので失礼します。

 先日は本当にありがとう御座いました。

 また機会があればよろしくお願いします」


 「うん。

 それじゃあ、またの機会にノワール候」


 私が見送りにまで来てくれた彼を見送ると、新たな送迎の黒い車が私の前に止まる。

 車からは、黒髪の男が降りてくると私に一礼をし話し掛けてきた。


 「呼び出しに応じていただき感謝します、シファ様」


 「それはどうも、相変わらずだねヒサメ。

 そっちのお母様は今もお元気?」


 「はい、相変わらずの様子ですよ」


 「そう。

 それじゃあ、行きましょうか。」


 男の乗っていた車に私は乗り込む。

 車内で、他愛ない雑談を交わしている内に目的地へとたどり着く。


 彼はヒサメ、確か5年くらい前にヤマトから来た来賓として彼の両親と軽い挨拶を交わしたくらい。

 学院の生徒として再会したが、昔の姿とは当然違ってかなり大人びているように印象を受けた。


 正直忘れられたものだと思っていたが………。


 「大きい建物だね」


 「はい、ラークの象徴とも言える建物ですから。

 場所はこの上です、こちらへどうぞ。」


 彼の案内の元、目的の部屋の前にたどり着く。

 豪華な装飾に彩られた巨大な扉がそこにはあった。

 扉が開くと、数人が既に部屋に待機している様子である。


 「あなた様が何故このようなところに?」


 私の来た事に見しれた長髪の男が声を出した。


 「私も呼び出しを受けたの、まあ特別枠としてね。

 久しぶりだね、アレク。

 ねえ、私の席は何処かな?」


 「はい、こちらの空いている席です」


 「ありがとう」


 シファは示された席に座る。

 それから少しすると、扉が再び開いた。

 現れたのは長身の男性と、背に白い羽を持つ銀髪の女性だった。


 「まさか、我々以外に呼ばれる者がいるとはな。」


 「あなたは……?

 あの……そのお姿は本当にシファ様本人ですか……?」


 「そうだけど、あなたは?」


 「あっ……はい!

 私はミカエル様の直系の子孫に当たる、リノエラと申します。

 あなた様の噂は両親から聞いております。

 かの大戦においての大英雄だと……ええ、本当に実在しているとは………」


 「ああ……ミカエルの……。

 でも、天人族が人間と交流しているなんて珍しいね?

 事前にそういうのは聞いてたけど、向こうの考えに何か変化でもあったの?」


 「まぁ、はい、そうですね………。

 ほんの、十年程前から交流が始まったんですよ。

 今までは、人類への深い干渉は避けていたのですが、我々も時代の流れを汲もうという流れからか彼等との交流を図ろうという流れが生まれたんですよ。

 私はその交流の手始めとして、彼等の文明や生活を知る手始めとして学院に派遣されているんです」


 「なるほど、そっちは色々な事情がありそうだね」


 「そこまで深い意味はありませんよ。

 以前は派閥争いが多くて面倒事がありましたが……。

 今はもうある程度落ち着いていますから」


 「そっか。

 まぁそれなら良かったけど………」


 私と彼女が会話を交わしていると、また誰かが入ってくる。

 黒い髪の女性で腰には長く僅かに湾曲した剣を差していた。 


 「へー、あなたが誰かと話しているのは随分と珍しい事もあるようね?」


 「っ、シグレ・ヤマト……。

 私に何か用ですか?」


 「別に、特に無いわよ。

 なるほど、アレが……例の彼女……。

 確かに、只者ではありませんね……。

 なるほど、ラノワを倒したという話はどうやら本当の話みたいですね」


 「………、あなたは?」


 「これは、失礼しました。

 私は、ヤマト国第三王女のシグレ・ヤマトと申します。

 以後お見知り置きを、ラーニル家の主様」


 「よろしく、シグレさん。

 第3って事は、帝の直系か……なるほどね。

 それで、えっと?

 後、何人くらい来るのかな?」


 「シグレさんを含めて、これで十六人。

 後はラノワさんとシトラさん……そして3位と1位と、理事長ですね。

 あと、僕の名前はカイル。

 カイル・テルードと申します。

 以後、よろしくお願いしますシファさん」


 私の問いに答えたのは、青髪の男。

 カイルと名乗ったその男は室内であっても帽子を被っている。

 何処か野性味を感じる雰囲気からして、多分混血ながらも獣人だろうか?

  

 王族に天人族に、獣人族、なんとも多種多様な者達が一同に介しているみたいである。

 私も言えたものではないか………。


 「あの人は来ないよ、含めて私が代理だから。

 だから後残り四人じゃないかしら?

 まあ、1位のアレが来るとは到底思えないけど」


 シグレはそんな事を言うと、部屋に人が入ってきた。


 「これはまた勢ぞろいだな、下界の皆さん。

 お久しぶり、去年の祭り以来じゃないか?」


 「その変な挨拶は辞めろ、シトラ。

 遅れて済まない、我々で最後かな?」


 「いえ、後は1位の彼と理事長です。

 全く、シトラは相も変わらず引き籠もりですか。

 不摂生が過ぎますよ、仮にも八席、そもそも学院の生徒としての自覚が………」


 「何をするも、私の勝手だろう?

 八席の権限で私は不登校を貫いているんだ、文句があるなら八席から外せばいいだろう?

 最も、あの祭りに出ずとも特待の優遇を使って似たような事をすればいいだけさ」


 「全く……この人は………」


 シグレの言葉に動じないどころか、なんとも惰性というか………。

 アレが、ラウの同居人のシトラ・ローラン。

 直接会うのはこれが初めてだが、確かに人間にしてはかなりの魔力量をしている。

 

 最も、本人の性格は真面目とは反対。

 親の生真面目さに逆らうように生きてきたというか、そんな彼女と共に少し遅れて額に僅かながら汗を流すラノワの様子を見る限り………。


 多分らこの子を連れ出すのに苦労したのかな?


 「まぁでも、最近はよく働く召使いが出来たから結構私生活が充実しているよ。

 この分だと、在学中には私を遥かに超える偉大な魔術師になれそうだよ」


 シトラの言葉に対しヒサメが話し掛けた。


 「お前以上とは随分な言いようだな、シトラ。

 それほど見込みがあるのか、例の奴は?」


 「まあね、魔力の総量は私より少し低い程度だが何より筋もいいし覚えがいい。

 長期休暇の間に私の知識を詰め込めるだけ詰め込んでやるさ?」


 「そいつの頭は大丈夫なのか?」


 「問題無いよ、私の方が軽く参ったくらいだ」


 そんな事を言うと、シトラとラノワは自分の席に着く。

 そして、間もなくして再び扉が開いた。


 「私達で最後かな、遅刻させて済まないね」


 「別に構いませんよ。

 理事長、早く席に着きましょうか」 


 「では、そうさせて貰うよ」


 入って来たのは、黒と白の髪の毛が混ざった男と初老の男性である。


 「理事長ともう一人は誰?」


 「彼はローゼン。

 学位序列1位、学院ラークの頂点に立つ八席の序列第一位。

 申し遅れましたが、私はメルサ。

 メルサ・ハーヴィーと申します。

 以後よろしくお願いしますね、シファさん」

  

 私の隣に座っているブロンド髪の生真面目そうな印象を受ける人物。

 メルサと名乗ったが、多分この子は普通の子かな?


 そして、一つの空席を残して全員が揃う。

 理事長が咳払いをすると、全員の視線が理事長へと向いた。


 「さて、急な呼び出しに応じてくれて礼を言うよ。

 貴重な休暇を割いてしまって悪いね。

 それじゃあ早速本題に入らせて貰うよ。

 全員こちらの画面を見て欲しい」 


 すると、天井から画面が降りて来る。

 理事長が指を鳴らすと画面が変わり、一枚の写真が映される。

 写真は先日のシラフが起こした、事故の物であった。


 「これは、オキデンスで撮られた19日の記事の写真だ。

 知っていると思うが神器の暴走により引き起こされた物で………。

 今のところ、死者や怪我人は確認されていないが第三競技場は半壊した。

 現在は復旧作業に移されている。」


 「それで、何か問題でも?

 こんな事は毎年二件程はあるが?」


 シトラの言葉に理事長はうなずくが


 「まあ、そうだな。

 しかし、これは本題の一部分でしか無いよ。

 本題はこれだ」


 理事長が再び指を鳴らすと画面が変わる。


 「これを見て欲しい。

 先日、こちらに届いた映像だ」 


 そして、とある映像が流れ始めた。

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