第五十ニ話 家族としての想い
帝歴403年8月27日
クレシアの屋敷に招待された俺達。
現在、屋敷の主ことクレシアの父親と姉さんやリンそしてクレシアも交えながらの遅い昼食を取っていた。
「クレシアもまだ昼食を取って無かったんだな」
父親が自分の横で細々と食べているクレシアに声を掛けると。
「課題を済ませていたんです、毎日計画的に行わないと後で苦しむ羽目になりますから」
同じ部屋で食事をしているにも関わらず、クレシアの機嫌は何処か悪いと感じる。
そんな彼女の様子に対し父親も少し身が縮んでいるように見える。
「そうか……」
「クレシア、反抗期なの?」
「そうかもね、でもこれは私が悪いんだよ。
一週間前に娘が取っておいたお菓子を誤って客人に出してしまってね。
替えを買うにしても期間限定らしく次に買えるのは来年だったんだ……」
「あー、食べ物の恨みは怖いね……うん」
「それは置いておくとして……それにしても君とクレシアが既に知り合っていたのは驚いたよ。
シラフ君が編入した組がまさか娘と同じ組、そして隣の席とはいやあ運命的な物だね」
父親が話の流れを変えようとしたが、クレシアは相変わらず機嫌が悪そうだった。
むしろ先程より悪化していないか?
え、そんなに俺との出会いって彼女をかなり困らせていたか……。
機会があれば早めに謝るべきか?
そんな感じで少し気まずい昼食は進んでいく。
食事を終えた後、姉さんは父親と話があるらしく別室に移動。
俺とクレシアとリンが部屋に残された。
「それで、シラフとクレシアはこれからどうするつもりなの?
何か予定ある?」
「どうするって言われても、正直自由時間みたいな物だし……。
クレシアは何か予定あるのか?」
「私はさっきも言ったように課題をしようかな……。
でも、それくらいしかする事ないしね。
シラフは学院から出された課題もう済ませたの?
シラフ鍛錬ばかりして、課題とか疎かにしそうじゃないかって思って」
「大丈夫だよ、俺はとっくに終わらせたからさ。
鍛錬の時間を作りたかったから早めに済ませたんだ。
長期休暇は9月10日まで、そして闘武祭の予選が9月3日からだからな」
「そっか……シラフは闘武祭に出るんだよね……。」
「そうだな。
だから鍛錬をより詰めておきたいんだけどさ……。
折角の招待があるからはるばる礼服まで着て来ているんだ……。
せっかくのソレを汗で汚す訳にはいかないだろ?」
「そういえば、今日は堅い服装だなって思ったよ。
シファさんもドレスっぽい服装だったし……」
「そういう事、だから俺はこれといって暇なんだ。
そして俺に付いて来ているリンは常に暇だろ?」
俺の横でくるくると回りながらリンは答えた。
「まあ常に暇みたいなものかな、毎日昼寝ばかりしているからね」
「そういうことだよ。」
「なるほど。
それじゃあシラフ?
今日は私の勉強手伝って貰えるかな。
分からないところとか教えて欲しいからさ」
「了解、俺で出来る事なら任せてくれ」
●
「さてと、それじゃあ本題に入りましょうか?」
シラフ達の元を離れて、別室にて私は彼女の父親と口裏合わせをしていた。
「そうですね。
その為にあなたを呼んだのですから」
「クレシアには彼の事は黙っているよね?」
「はい。
言われた通りに、彼は既に死んでいると伝えました。
しかし娘は彼の墓参りをする為に奮闘してるとのことを侍女から聞いております。
立ち直ってくれたのは嬉しい限りなのですが……」
「聞いてるよ。
彼女の手伝いをルーシャがしているからね。
でもあの子に娘さんが救われたのは事実だと思うよ」
「はい。
姫様には確かに救われておりますが、実際のところ状況は悪化していると言えるでしょう」
「そうだね。
まあ彼にバレるのは、いずれ時間の問題だと思うよ」
「はい……」
「それに、多分君の娘さんの方は彼の事が好きみたいだしさ」
「そうなのですか?
娘がハイド君を?」
「私がそう見えるだけかもしれないけど。
でも幾らかは、彼に惹かれてつつあるのは流石に疎い私でも分かるくらい。
でも、シラフはそこら辺鈍感みたいだけどね……」
「そうですか……」
「それでなんだけど………。
問題は最悪の事態に備えたいって事だよ」
「最悪とは?」
「考えられる最悪の状況の事。
私の中では彼の記憶が戻る時、あなたの娘さんが近くにいる事だと思ってるんだ」
「何故ですか?」
「私が封じた記憶には火災と家族やその近辺の人達の記憶がある。
封印した記憶を呼び覚ます鍵となる物、それを彼女が持っているの」
「持っている、とは?」
「あの子がいつも身に付けてる赤い石の首飾りだよ。
いつもは服の下に隠してあるから分からないけどね。
万が一それを彼が見た場合記憶が呼び覚まされる恐れがあるの。
でも彼女にそれを伝える訳にはいかない、何故なら彼は既に死んでいると伝えているからね」
「娘が常に大事そうに持つ、あの首飾りですか?」
「あの石って、どんな物なの?
何か高い宝石か何かだったりするの?」
「いえ、かなり前に一度調べましたがアレは人口物。
術者の魔力を結晶化された物でしてね……。
ですが、あの石はどうしてか娘の呪いを抑える役割があるようでして……。
あの石がある事により、呪いの侵食は六割程抑えている。
我々が彼女に魔術や薬を投与している以上の役割を果たしているんですよ」
「……理屈は分からないの?」
「ええ、これと言って特に。
あの石の模造品は作れはしたんですけど、アレと同じ効力は一切無くて……。
とりあえず、彼女に持たせたままにしています。
それが彼女の為にでもありますしね……。
石に関してはそれで良いとして、これからどうするおつもりで?」
「いずれは彼女にも伝える必要があるかもしれないね。
でも、それは可能な限り控えたいんだ。
もし、あの子の真実を知ったら彼女は恐らく耐えられないと思う。
以前、ルーシャには話したけどね……。
ソレを知ってからシラフを前にすると自然と動揺が日常的に出ているんだよね……。
そして今、最も彼に近い存在であるあなたの娘がそれを知ったら………。
多分、あの子はその異常に気付いて自分で調べ始めると思う。
自分の犯した罪についてを無自覚に……」
「シファ様、彼が犯した罪とは一体?」
「神器の使用による民間人の大量殺人。
例の火事を引き起こした人物はあの子自身なの……。
その結果、あの子は自分の両親を失ってしまったみたいなんだ」
「な……」
「あの子にはいずれはそれを知るべき事だとは思っています。
でもそれは必ずしも今では無いと思っています……。
十剣となって、まだ1年。
学院に編入して新しい生活に馴染み始めたところだから、まだまだ未熟だからゆっくりと時間を掛けてあげるべきだと思うの」
「シファ様は過保護ですね……」
「過保護……確かにそうかもしれないね。
アストやクラウスの時でさえ、少し過保護過ぎるって本人達から言われちゃったし……。
シラフにも同じように思われてるのかなぁ………」
「私からは彼は強い心を持っていると見えました、あの人の息子だけあります。
彼の目に強い意志を感じた、あの人に負けない程の強い意志と覚悟の目だ。
彼は必ず立派な人間に成長しますよ」
「そう思ってくれるだけで十分ですよ」
「私は娘と彼の為になるのならあなたに協力します。
自分が恨まれても大切なその人が幸せであって欲しいと願うのはあなただけではありませんから」
「ありがとう、ノワール」




