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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第五十一話 共にいる資格を

帝歴403年8月27日


 あの日から彼と話づらくなっている。

 五日前……私はシラフと言い合いになった。

 最悪とも言える雰囲気の状態で、私はあの場を去った。


 あの時はシラフが悪い……それは間違いない……。

 でも彼の過去を知った今となっては複雑な感情が湧いている。


 彼は十剣としての責務を果たす為に神器を使えるようになりたいと言った。

 しかし……その十剣は過去にシラフを殺すか否かで話し合いをした。

 結果として彼はシファ様が引き取ったが精神に著しい異常があった為彼を救う為に記憶と力を封印したのである。


 彼が力を使えないのはシファ様の施した封印の影響。

 そして自身の余りに過酷な過去の記憶なのだ……。


 今も彼を苦しめている原因の一つに、彼の家族であるシファ様が居る。

 そして、彼は十剣達からは未だ警戒されている罪人でもあるのだ。


 今までそんな事など全く知らなかった。

 彼に向けられた奇異的な視線はそういう意味もあったのだろうか……。


 そんな彼は今、十剣としての責務を果たす為に日々鍛錬を努めている。


 シファ様が私に言った、覚悟があるかと……。

 覚悟はしていた彼の過去を知るために私はそれに踏み込んだ。

 そして今苦しんでいる……シファ様は私以上に日々苦しんでいたのだろう……。

 それなのに私は彼を怒鳴りつけてしまった……。

 彼の主として私は最低過ぎる……。


 「ルーシャ、今日は帰れない。

 夕食はとりあえず作り置きしてある物が用意してあるから少し温めれば食べれる。

 明日の夕方には帰るから、留守番を頼む」


 彼の声に私は何も返せない。

 何を返せばいいのか、分からない…………


 「…………」


 「それじゃあ行って来るよ」


 そして彼は出て行った。

 確か今日はクレシアの家に招待され彼女の屋敷に泊まるらしい。

 クレシアの父親が以前シファ様の世話になったらしい。

 それで、お礼と歓迎を兼ねてもてなしてくれるそうだ……。


 「……多分……ルーシャのお父様は彼の事を知っているんだろうな……。

 そして……やっぱりあの子には黙っているんだよね」


 ため息が出る……彼の存在自体が特殊過ぎるのだ……。

 神器の適正者……そして十剣……。

 シファ様に育てられ、その詳細はごく一部の者達しか知らないのだから……。


 彼の別れ際、私は何も話せなかった。

 未だ許せないという訳では無い……ただ彼と話す事にためらいが出るのだ……。

 彼の事を知れば知るほど惹かれていく……。

 同時に自分の愚かさ、無知で何も出来ていない事に嫌悪感を抱く。

 主として相応しくなろうとした、この学院に入学してから彼に相応しい主になると決めたのに………。

 何も変わってない、変わってたと勘違いしていた………。


 こんな私が彼と共にいてもいいのだろうか……?

 これからも彼を好きになっていいのか分からなくない……。


 以前クレシアをあれだけ励ました自分……。

 今、自分はクレシアと同じような場所に立っているのだろうか……。


 一体、私は……どうしたいの……。



 俺は驚いていた。

 それは目の前に佇む、左右対称の巨大な建物である。


 「クレシア、本当にお嬢様だったのかよ」


 「そうらしいね。

 通りであの姫様と仲良くなれる訳だね」


 リンは俺の肩に座り、そんな事をつぶやく。


 「そうだね……。

 この前私はあの子の屋敷に泊めて貰った事あるから知ってたけど……」


 「この前って……ルーシャが遊びに行った時か……。

 姉さんも行ってたのは初耳だけど……」


 「それとは違うよ。

 ちょっと先にあの子のお父さんへの事前の挨拶に。

 野暮用があってね」


 「それなら、俺も同伴したんだが?」


 「そこまでの必要は無いよ、代表として私一人が行けば良かったくらいだからさ。

 それにシラフまで行ったら向こうに勘違いされるかもね、ほら縁談の話かと思われるんじゃない?」


 「あー、確かにそういう誤解もあり得るか……」


 「そうそう……。

 クレシアの屋敷で出されたお菓子はすごく美味しかったし……」


 「リンも行っていたのか……。

 てか、お菓子って……それが目的かよ」


 「何よ、文句あるの?」


 「別に……。

 それより早く呼び鈴を鳴らすよ。

 こんなところでいつまでも立っていたら、流石に不審者に思われるだろう?」


 そして俺は呼び鈴を押す。

 少しすると屋敷に仕えている者と思われる人物が現れる。

 年齢からして20代くらいだろうか?

 かなり若い侍女が俺達を出迎えた。


 「お待たせいたしました。

 旦那様から既にお話は聞いております。

 ラーニル家の者ですよね」


 「はい。

 本日はお招きいただきありがとうございます」


 「いえ、とんでもございません。

 ささ、どうぞお屋敷にお入り下さい」 


 侍女に案内され俺達は屋敷の中に入る。

 応接室に案内され、茶を煎れて貰うと……、


 「それでは、旦那様をお呼び致しますのでここで少々お待ち下さい」 


 そう告げて、部屋から去って行った。


 「……やっぱり、広い屋敷だな……。

 こっちの屋敷の何倍もあると思うよ……」


 「そうだね……。

 まあこっちは森の中に建てたから大きくすると費用が掛かる上に、掃除とかの手間がかなり掛かるからね。

 年末には私達も総出で掃除しないといけないでしょ?」


 「まあそうだな……。

 それより、クレシアのお父さんってどんな人なんだ?」


 俺が質問をするとリンが答えた。


 「ええと……顔は怖い人だけどそれに似合わずかなり温厚な人だね。

 逆に奥さんが優しそうに見えたけど、怒った時はかなり怖かった」


 「怒ったって、一体何をしたんだよ?」


 「ええと、旦那さんが食事の時に酒を飲み過ぎて怒られたんだ……。

 その時の旦那さん涙目で正座をして1時間近く説教されたんだよ……」


 「…………。」


 「でも、かなりいい人だよ。

 その時に私に服をくれたんだ……。

 小さい時に人形に着せていた衣装をね」


 「なるほど……」


 そんな会話を交わしていると、扉が開いた。


 「遅れて済まない、少し所用があったもので……」


 現れたのは、少し強面な男性。

 しかし外見とは裏腹にかなり物腰が低いと感じた。


 「それで、君が例の弟さんか……。

 噂には聞いてるよ、その若さで十剣の一人だそうじゃないか……」


 「ええ、まあ……」


 「是非私と握手をしてくれないかね?」


 男性は俺に手を差し出す。


 「俺で良ければ、喜んで」 


 俺はその手を握り握手を交わす。


 「本当に……似ているな君は……」 


 「?」


 握手を交わした後、俺達はしばらく昔のサリアについての話をした。


 クレシアの父親は以前サリアで流行っていた伝染性を研究するために、一時期サリアに住んでいた時期があったらしい。

 その中で姉さんに出会い、色々な事を勉強したりしたそうだ。


 「いやあ……実に良かったよ。

 なるほどサリアでそんな研究が進んでいたとは……」


 「私も詳しくは知らないですけどね……。

 あなたの残して研究材料を基盤に進んでいるらしいですよ」


 「なるほど……それで……」


 話は長く続いた、姉さんがどれほどの知識量を持っているのかは分からないが医者とそれだけ長話をするのはかなり物だと思う。

 しばらくして話に一段落がつくと、気付けば昼を過ぎていた頃だった。男性は時計を見て時間を忘れていた事に気付く。


 「しまった……。

 私とした事が客人を招いておきながら」 


 「そういえばもうこんな時間だね……」 


 「シファ姉……長過ぎだよ……」


 「いいじゃ無いかリン、別に長話くらい」


 そう言う俺も実際は長話に飽き、外の景色を適当に眺めていたのだが……。


 「それでは昼食にしましょうか、侍女に用意させますので少しお待ちを」 


 そう言うと、男性は部屋から出てしまった。恐らく侍女を呼びに向かったのだろう……。  


 男性がいない内に俺は立ち上がると、体を伸ばし固まった筋肉をほぐしていた。


 流石に長話は体にこたえるな……。

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