第五十話 宿命的と運命的な
帝歴403年 8月20日
「シン、例の事件はどうなっている?」
「そうですね、途中からシラフ・ラーニルは神器を使用しましたが、その際何らかの不具合により神器が暴走後、意識不明に陥りました」
「……それで、奴を止めたのはシファか?」
「いえ、止めたのはサリア第三王女であるシルビア・ラグド・サリアです」
「あの小さな王女が?
新たな契約者としては耳に入れていたが、既にそこまでの実力を?」
「はい……。
彼女は彼等と共に鍛錬に参加していました。
しかし最初はほとんど力は無いに等しい状態。
実戦形式のもので、ほとんど彼女は立っているだけでしたから、とてもじゃありませんが出来たモノとは言えません。
しかし、シラフ・ラーニルの暴走化に伴いシルビアは神器の力を覚醒させた模様です。
最初はさして強くはありませんが時間と相手の動きを学習しその実力は、暴走状態とはいえ彼を上回った程です。
個の強さだけなら既に他の十剣達とさして変わらない程の実力者と言えるでしょう。
事件の報告は以上になります」
「そうか……。
それと例の暗号の解析はどうなっている?」
「資料の解析にはまだ時間が掛かります。
暗号化された機密資料の解読が終わりましたら、私から後ほど連絡しますのでそれまでお待ち下さい」
「了解した、解析終了後はこちらで整理する」
「承知致しました。
お休みなさいませ、ラウ様」
通話が途切れ、ラウは一息つく。
「また随分と長い電話だね、ラウ君。
君の彼女かい?」
「いや、召使いのような者だ」
「そうか……。
にしても、君のいる国は凄いね先日あった我々八席の集会に君達の話題が出たよ。
次の時代の八席候補だとね」
「………、それで何が言いたい?」
「これからの闘武祭、最も注目されるのは私達や君達同士のぶつかり合いだろうな……。
闘武祭は四つに分かれて予選が行われる。
本戦に出れるのは四つの内の上位4名。
我々オキデンスからは君を含めて十剣のシラフ・ラーニル、そして新たにサリアの姫君、私やラノワが出るのかな、あくま私の予測だがね」
「王女については何処から情報を?
情報はまだ出回っていないはずだが?」
「情報源は今日の記事だよ。
端末に出ている、サリアの姫君闘武祭に向けて……とね」
「情報が回るのが随分と早いことだな」
「まあね。
この学院の広報部は世界一情報を集めるのが早いと言われているんだ。
まあ卒業後の彼等は各国に散ってしまうが、彼等は卒業後も世界の報道関係を牛耳る一員になるだろうな」
「それで話の続きは?」
「いやなに、大した話じゃないさ。
君達との戦いは、随分と盛り上がるだろうなって。
それと序列1位の彼から君に向けての伝言を預かっている、全く面倒なやつだよ」
「何だ?」
「決勝の地で会おうラウ・クローリア、だそうだ」
「学院の序列1位、……そいつは強いのか?」
「無論だとも……彼は昨年度において一度も試合で本気を出していないのだからね。
そして序列2位の彼女が唯一強いと認めた者だ、その実力は折り紙付きだよ。
私も正直、アイツの実力の底は分からないんだ」
「…………。」
「言っておくが私のような八席と、四番内に入ってくる連中は常人とは大きくかけ離れた実力者と言える。
卒業後は各国への兼勢力として扱われるくらいだ。
そっちの十剣同様、国家の軍事力の一角を担う、まさに一騎当千と言える連中ばかりだ」
「なるほどな」
「まぁ君なら四番内には入れるだろうよ。
でも1位の座を取る事は遥かに難しいだろうら。
学位序列4位の武神、序列3位の剣聖、序列2位のワルキューレ、そして学位序列1位の神殺しときた……。
あれ等は全員化け物揃い……。
そもそも序列2位に関しては人間ですらない」
「絶対に勝てない訳ではないのだろ」
「面白いね君は……。
もし君が良ければ私が君に魔術を教えてあげようか?
名ばかりとはいえ、八席の一人であるこの私がね。
何、君は筋が良いし真面目だから結果は私が保障するよ」
「自分を苦しめるだけじゃ無いのか?
例の祭りでぶつかる可能性もあるだろう?」
「いやいや、実際そうでも無いよ。
知識ある者としては、優れた者がそれを引き継ぎ更に発展させて欲しいと願う物だからね。
君が成長するのを見るのは個人的に興味がある、結構な魔力、いや特殊な魔力といえるのか、見てる分でも面白いからね、君は」
「まぁいい。
そこまで勧めるのなら、私に魔術を教えてもらおうかシトラ?」
「構わないよ。
君の成長が楽しみだ」
●
帝歴403年 8月25日 夜
夏の夜。
この時期特有のぬるい風が体に纏わり付く、それはあまり気持ちよい物では無い……。
そして今の状況も自分にとっては良くない状況だ。
「さて……追いかけっこはおしまいだよ。
侵入者さん?」
「っ……。」
目の前には銀髪の女性がいる。
美しい髪が月の明かりに反射し、その姿は女神のようだと感じる。
しかし向けられている感情は明らかな敵意であろう。
そして恐らく私の存在が何なのか気づいているはずだ……。
「最近妙な視線を感じておかしいって思ってたんだ……。
ずっと遠くから私を観察している事は前から分かっていたけどね……。
結構隠れるの上手いみたいだし、教えた人の腕が良かったのかな、自己流なら大したものだよ。
だからここ最近まで正確な位置まで、上手く掴めなくてほんとに苦労したよ」
「っ……それで私をどうする気ですか?」
「……なるほど、性別は女性か……。
まあ背丈と体格からそうじゃないかなぁとは思ってたんだよね。
あなたの体格は他の人と比べて華奢だから。
戦い方も恐らく魔力を軸に使うタイプ、私と同じ?
でも、近距離よりは遠距離向きなのかな?
剣等を扱うにしては、その腕は細過ぎる。
弓、あるいは銃や魔術が得意なのかな?
でも、その割には身体の動きは軽いというか運動神経はむしろ良いくらいだよね」
「…………。」
「それじゃあ質問を変えよっか?
あなたの目的は何?」
「…………シファ・ラーニル。
あなたが死んで貰う事です……。
それが今という訳ではありませんがね。」
「……私を殺すつもりだったんだ。
あー、なるほどね……。
でも、あなた1人に容易く殺される程私は甘くない。
それくらいわかってるんでしょ?
だから、彼を……ラウを仕向けた。
そうだよね?」
「…………」
「あなたは一体何者なの?
なんとなく、雰囲気だけでは私の知ってる人、いや多分一方的に君が知ってるのかな?
性別はわかっても正直、君の声にはあまり見覚えが無いんだ……。
少なくとも、あなたは私を知っている……いや、何度か関わりがあったのは確かだよね?」
「それを知って、あなたはどうする気です?」
「いや……なんというかさ……。
それだけの実力なら、私の実力が分からないはず無いでしょう?
無謀なのは理解出来てるから、下手な手出しはしてこないくらいだからさ。
だからこそ、ラウを仕向けたのは良い判断だとは思うよ、うん。
でも、今の彼って君より弱いよね?」
「………………。
いざとなれば例えあなたであろうと抵抗します!」
「抵抗ね。
ねえ……あなたのいた時にあの子はいたの……?」
あの子?彼女の指すあの子ならつまり………
「もういませんよ……。
大切なモノの何もかもを失った。
あなたの持ち込んだ因縁のせいで!」
感情に任せ私はローブの一部をめくり、ソレを見せた。
右腕は灰色を帯びた機械の義手と化し。
ソレは右足も同様に………。
「………」
「私はまだここで終われ無いんです……」
「待って!」
彼女が私を止める為にローブを引っ張った。
それまでローブで隠していた自分の素顔が表に出る。
私は自分の素顔が露わになり動揺するが、私の顔を見た彼女も同じく動揺している……。
「嘘……なんで………あなたが生きて………」
見られた……自分が何者なのかを………。
恐らく、今最も知られたく無かった人物に……。
私の真実を最も知られている彼女に…………
「見ないで……!!」
彼女を振り払い距離を取る。
お互いに気が気でない状況に、頭がおかしくなりそうだ……。
一刻も離れたい、彼女の元から今すぐ…………
「なんで、なんで………?
あなたが生きられるはずが………。」
「いずれ……私の言葉の意味が分かります……。
然るべき時にまたお会いしましょう、シファ」
私はローブで再び素顔を隠して彼女の元から去っていく。
この場から去る私を彼女が追うことは無かった。




