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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一章 理想の生き方
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第五話 会遇

 帝歴403年 7月10日

 

 俺は起きてすぐ真っ先に昨日の事を姉さんに謝罪した。

 姉さんは気にしていないと返してくれたが、本心はどうなのだろう。


 それから朝食を終え、荷物の最終確認をしていると屋敷の前に馬車が到着した。用意していた荷物を馬車の運転手へ預けるとそれに乗り込む。

 俺達の向かいの席には昨日アノラから聞いた人物であろうか、ラウとシンと思われる女性とその奥に青年が座っていた。


 そして姉さんは俺とリンが乗り込んだのを確認すると自分の自己紹介をはじめた。


 「はじめましてお二人さん、私はシファ・ラーニル。

 そしてこの子はリンで、この子が私の弟のシラフだよ。

 二人の事は事前に聞いてたけど、あなたがシンちゃんでそっちがラウ君?」


 姉さんの言葉に、向かいの女性が返事を返した。


 「はい、私の名前がシン・レクサスです。

 そしてこの御方が私の主であるラウ・クローリア様です。

 以後、学院の方でもよろしくお願い致します」


 女性は藍色の美しい長髪の人物でなんというか事務的で冷たい印象を感じる人だった。

 が、思ったより硬い人では無さそう。

 そして彼女は様と付けて言った事から、ラウという青年は彼女の主人なのだろう。

 しかし何も語ろうとしないラウという人物。

 彼女が固くない印象を受けた最大の要因だろうか。

 男は常に無表情で思考が全く読めない上に、こちらに対して興味を以前として示さないのである。

 というか、会って早々挨拶も何もない。


 運転手が荷物の確認が取り終えると、こちらに出発の合図を告げ馬車は学院へ向かう船の出る港町、サウノーリを目指し出発した。


 屋敷が見えなくなると姉さんから、先程から無言を貫くラウ達に対して会話を投げ掛けた。


 「シンちゃんは、ラウ君の従者なのかな?」


 姉さんが質問を投げ掛ける、それに彼女は事務的に答えた。


 「私はラウ様に仕える者です。

 その認識で良いと判断出来ます」


 「そうなんだ……。

 そっちのラウさんも何か聞きたい事は無いの?」


 ラウは視線を外に向けていた。

 姉さんの言葉に気づいたのか簡潔に言葉を返した。


 「特に無い」

  

 彼から聞こえた始めての第一声がこれである。

 たった一言そう告げ、また外の方へと彼は視線を向けてしまった。


 ラウという青年はかなり無愛想な人物である。

 まぁ容姿こそ、かなりの美形の部類だろう……。

 男の俺でも直接見るには見るには抵抗感を覚える程のもの。

 しかし、その態度はかなりの無愛想で最初の印象もあってかなり失礼な奴という認識。

 その態度の悪さに絶句せざるを得ないのだ………。

 こんな奴が、昨夜のアノラさんから聞いた話みたく、陛下の目に止まるなどあり得るのかと一瞬俺は思った。


 「なんか昔のシラフに似ているね……」


 俺の右肩の上に座っていたリンが口を開く。


 「そうかよ?」


 「だって昔、お城に居る時のシラフなんて大体いつもこんな感じだったでしょう?」


 すると、リンの言葉が何かの勘に障ったのか、

 ラウが彼女に対し声をかけた


 「何を言っている、そこの妖精は……?」


 ラウの鋭い視線がリンに向かう、リンは少し怯えながらも


 「いや……昔のこいつが今のあなたみたいな態度をしていたからついそう思って……その……。

 悪気は無いんです、本当です、うんうん……」

 

 ラウに怖じ気付きながらもリンは弁明を繰り返す。

 その様子にラウは、興味を失せたのか


 「くだらない……言及するほどでも無いか……」


 そしてラウは再び外に視線を向けてしまう。


 俺は目の前の二人を見ていると異質な物を僅かに感じていた。

 それが何なのかは具体的に分からないが、一番嫌な感じを感じられるのはラウである事は間違いないだろう。

 俺は二人の魔力の流れというか気配を僅かながら見る事が出来た。

 二人の魔力は物などに宿る微量なそれをかなり濃くしたソレである。


 端的に言えば、彼等の魔力は一般的な人の魔力とは明らかに質が違うと言えばいいだろう……。

 まるで鉱物や植物のそれ等の類いが、人の姿をとっているかのようで、生き物が本来持っているモノではないという感じである。


 俺がラウをそう観察していると、彼はそれに気付き


 「私に何か言いたい事でもあるのか?」


 「いや、なんでも無い。俺の見当違いだ」


 「何が検討違いなんだ?」


 ラウが問い詰めてくるので、俺は自分の感じた事を彼に伝える。


 「いやさ……なんというかそっちの魔力が普通の人間と質が違う感じがしたんだよ……。

 ラウだったか、自分ではそういう自覚はないのか?」


 「質が違うか……」


 そう呟くと、ラウは視線を再び外に向ける。

 掴みどころがよく分からない彼の素振りに俺は少なからず何かの既視感を感じていた……。


 俺はリンの言っていた事の意味がなんとなく分かって来てしまったと薄々と感じながら、俺も外に視線を向けた。 


 馬車は、この不釣り合いな四人と妖精一人を乗せ港町を目指し進んでいくのであった。

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