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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第四十九話 守る為には

 シルビアの戦いを見ていた私は、傷が落ち着くとゆっくりと立ち上がる。


 「シルちゃん……もうあんなに使いこなしてるよ。

 もしかしたら……あの子以上の逸材かもなぁ……」


 自分の状態を確認する、先程の傷は既に完治していた。

 行動するには支障無い。


 「シルちゃん、もう大丈夫だよ。

 後は私に任せて」


 「分かりました、シファ様」


 私は弱っている彼の元に近寄る。

 彼は殆ど衰弱している様子だった……。


 「無理矢理使用した結果だね……。

 やっぱり……まだ厳しいのかな……。

 もしかしてって、少しは期待してたんだけど………」


 私は彼の神器である剣に触れる。

 どのようにすればいいのかはすぐに分かっている、相応の処置を施せばいい。


 「今、助けるから。」


 あの子にそう語り掛けると、彼の意識は徐々に薄れていった………。

   


 帝歴403年 8月22日


 「っ……。」


 体が重い、全身に倦怠感がある。

 俺はゆっくりと目を開け自分の状態を確認する。

 そこは白い天井と清潔感漂う見覚えが無い場所だった……。

 体をゆっくりと動かし、辺りを再確認する。

 俺はベッドで寝かされていたようで、周りはカーテンに囲まれている。

 恐らくここは病院だろう……何があったのか記憶をたどる。

 シルビア様と姉さんを交えて鍛錬をしていた。

 俺はその中で神器を使用した、その後は……。

 思い出せない……ただ一つ覚えているのは……。

 最後の最後で聞こえたのは子供の声……、それだけだ。

 辺りを見渡すと、左手に違和感がある事に気付く……。

 俺の手を握りそのまま寝ている人物がいた。

 薄焦げ茶の髪……子供のように無垢な寝顔を浮かべているクレシアがそこにいたのである。


 「どうしてクレシアが……ここに?!」


 「目が覚めたんだね、シラフ」


 声の方を向くとカーテンから顔を覗かせている人物がいた。

 金髪の髪を揺らす女性、俺の仕えている主であるルーシャその人である。 


 「ルーシャ、どうしてお前まで?」


 「その様子だと、自分に何があったのか分からないんでしょ?」


 「分からない……。

 あの時、一体何があったんだ?」


 「それじゃあ、これを見て。

 見せながら説明するから……」 


 ルーシャは端末を取り出し操作をする。

 目的の画面を表示させると俺に見せた。


 「昨日の昼頃、その時の記事だよ」


 見せられた記事には、半壊し瓦礫の山と化している闘技場の写真があった。

 記事の内容は、


  崩壊した闘技場、神器の力は計り知れない。 


 と記されていた。


 「これ、シラフ達がやったんでしょう?」 


 「……。」


 「まあ、ほとんどはあなたとシルビアの影響だろうけどさ……。

 ほんと、無茶ばかりするんだから」 


 「俺と彼女が?

 一体何があったんだよ?」


 「本当に知らないようね。

 いい、シファ様によるとね、あの日シラフは神器を暴走させてしまったらしいの。

 それで動け無くなったシファ様を守るために、シルビアが暴走したあなたと戦っていたのよ……」


 「戦ったって……それじゃあシルビア様は……」 


 「心配しなくても、あなたよりは随分軽症よ。

 かすり傷程度で済んでる。

 即日検査は受けたけど、日帰りで元気にしてたくらいだしさ?」


 「そうか……」


 「それで思ったんだけどさ……」


 「何だよ?」


 「いつまでクレシアと手を握ってるの?」


 俺の手をクレシアはしっかりと握っており、俺はなんとなくその手をどかすに出来なかった。


 「あ、いや……なんか……。

 そのさ、外そうにも悪い気がして……。」


 「そう……、まぁクレシアにら感謝しなさいよ。

 私やシファ様、シルビアがいない間は彼女がずっとあなたの看病をしてくれていたんだから……。

 ほんと、いつの間にそんな関係になったの?」


 「いや、別にそんなんじゃないよ。

 でも、そうだったんだな……。

 余程心配掛けたみたいだな」


 「そりゃそうでしよ!

 いい、今日は8月22日だよ

 あれから3日間ずっっと意識不明だったんだよ!

 私だってすごく心配したんだからね!!」


 「3日間か……」


 「今回ばかりは流石に無理し過ぎだよ……。

 ねえ……どうしてシラフはそんなに神器にこだわるの……。

 神器が無くたって、私の知るシラフは強いのに……。

 どうして……?

 そんなに、神器の力が大切なの?」


 「俺は十剣だ。

 神器に選ばれた人間として成すべき事を果たさなければならない。

 神器が使えないまま十剣であるのは嫌なんだ」


 「十剣って……!

 そんな理由で自分を犠牲するのはやめてよ!

 あなたは確かに十剣よ……でもシラフが居なくなったら私やみんなの気持ちを考えてるの!!

 あなたの存在が自分だけの物では無いことくらい、いい加減分かってよ!!

 ほんとに私、心配してるんだよ!分かる!?」


 「ルーシャは姉さんと同じような事を言うんだな」


 「っ……!」 


 「俺は十剣だ……。

 その責務を果たす為に強くありたいだけだ」 


 「そう……」


 「…………」


 「あなたが理解出来ない…。

 どうしてそういう生き方しか出来ないの。

 ……あなたのそういう生き方は間違ってる」


 「間違ってるのなら……。

 俺のこれまでが間違いだろうな」


 「っ、勝手にしなさい……!」 


 そしてルーシャは去って行った。

 静寂に包まれた空間……。

 張り詰めた空気だけは残っている。

 しばらくして先程まで寝ていたクレシアが目を覚ました。


 「ううっ……」


 ゆっくりと目を開けるクレシアに俺はとりあえず話し掛ける……。 


 「目が覚めたようだな……」


 「シラフ……意識が戻ったの?」


 「そうだな。

 それと悪いが、そろそろ手を離して貰えると助かる」


 クレシアが自分の手元を見る、自分のしていた事に気付き咄嗟に手を離す。

 

 「えっと、そのごめん。

 それと、ルーシャからは色々と聞いたよ。

 付きっきりで看病してくれたんだよな……」


 「はい……」


 「ありがとうな……看病してくれて……」


 「いえ……私が勝手にした事ですから。

 それにこの病院はお父様が院長を務めている病院ですから」


 「クレシアの父親は医者なのか?」


 「はい……お父様が直接治療をしましたから。

 きっとすぐに良くなると思ってました。

 でも、目が覚めないから心配で……だからその」


 「なるほど……」


 「あの……ルーシャから聞いたんですよね?

 私の看病の事……。

 あの、それでルーシャは?」


 「……ちょっと色々あって喧嘩になって……。

 ルーシャは俺にしびれを切らしてもう帰ったよ」


 「そっか………。

 あの……お父様から、シラフに伝言があるんの」


 「伝言?」


 「はい……。

 体調が良くなったら今度屋敷にシラフを招待したいそうで」


 「そうなのか……どうして急に?」


 「はい……お父様は以前シファ様にお世話になったそうで。

 是非良かったらお二人を屋敷に招待し、それなりのおもてなしをしたいそうです」


 「そうか……了解した。

 必ず姉さんを連れて伺うと伝えてくれ」


 「はい。

 あの、それじゃあ私は先に失礼するね。

 今度は体に気を付けてよ……。

 ルーシャ、私なんかよりもずっとあなたの事を心配してたから。

 ルーシャに仕えてる騎士なんだからさ、主に心配掛けちゃ駄目だよ、そういうのは……」  


 そしてクレシアは去って行く。一人残された俺はベッドに横になる。


 《自分のこれまでが間違ってるか……》


 咄嗟に出た言葉……だが何故か妙に頭に残る言葉……。 


 《間違ってる……か……》


 クレシアが最後に言った言葉、すごく心配していたと……


 「心配していたか……。

 なら俺は心配を掛けない為にもっと強くなるしか無い、守る為なら尚更そうだろ……ルーシャ」

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