第四十四話 罪と責任
クレシアと別れた私はシラフに少し遅れる事を連絡し、人気が無く静寂とした公園に寄っていた
少し疲れたベンチに私は座り込み、思考を巡らせ出来事を整理していく。
今日の出来事で私は確信した事があった。
コレが本当に事実なら、とんでもない事だろう。
そして、私は端末を手に取り、一連の出来事の顛末全てを知るであろう人物に電話を掛けた。
「どうしたの、ルーシャ?
こんな時間に私に電話なんて珍しいよね?」
「えっと………シファ様は今は何をしていますか?」
「そうだね、特に何もせずぐうたらしてるよ。
さっき同室の子に、時間の無駄ですねって言われた所……。
学院の課題も貯めちゃってるし、ほんと学生生活って面倒事が多いよね?」
「そうですか………」
「元気ないよね?
その様子だと何かの相談だったりする?
もしかして、またシラフと喧嘩とかしたの?」
「いえ、そんな違います!!
でも、シファ様にお聞きしたい事があって」
「何かな、私で良ければ何でも相談に乗るよ?」
いつものように、明るく振る舞う彼女。
これから、その関係が崩れるかもしれない………。
それが分かっていた、でも私は聞くしかない。
「シファ様、シラフは本当にシラフなんですか?」
「シラフはシラフだけど……何かあったの?
やっぱり喧嘩でもした感じなの?」
「いえ、その……今日。
私はクレシアと一緒に例の幼なじみについて探っていたんです」
「そうなんだ……。
何か分かったの?」
「はい……。
私達が突き止めたその場所は……。
10年前シラフが保護された場所でした。
この事実を彼女には、クレシアにはまだ私の意思で伝えていません」
「…………」
私の言葉を聞いた途端に先程までの元気な声が、パタリと途絶えた。
嫌な悪寒が、全身に巡る。
地雷のようなモノに踏み込んでしまった事を知るのにそう時間は掛からなかった。
「シファ様。
当然、知っているはずですよね」
「流石だね、ルーシャ………。
そこまで、突き止めたんだ……」
「やはり、知っているんですか?」
「知ってるよ」
「それじゃあやっぱり………。
彼は、彼の名前は………」
「…………そうだね。
シラフは私が、あの子に付けた仮の名前だよ」
その言葉で、私は全てを確信した。
彼、シラフの本当の名前………彼の真実を…………。
「っ…………何の為にそんな事を?」
「あの子を守る為だよ。
それが私に課せられた使命だからね」
「教えて下さい。
シファ様、シラフは……。
ハイド・カルフとは一体何者なんですか……」
「ルーシャは知ってどうしたいの?」
「可能ならば、彼とクレシアはその真実を知ってちゃんとした再会させるべきだと思います。
クレシア自身も、彼自身もそれを望むはずです」
「出来ないよ、そんなの」
「何故です?」
「あの子の過去は私が封じているの。
封印が解ければ、あの子の精神は壊れるから」
「え……」
「最後の忠告。
ルーシャ、君がこれ以上あの子について知ろうとするってことは相応の責任が生まれるよ。
いくら、彼の主だろうと親友の為だろうと関係ない。
あなたがこれから知ろうとしているのは、そういう類いの話なの。
その全て理解した上であなたに覚悟があるの?」
それは初めて聞いたシファ様の厳格な言葉だった。
覚悟を問われている……。
王女としてでは無い……一人の人間として、私はこの人に問われているのだ。
でも、既に私の覚悟は既に決まっていた。
「覚悟は出来ています。
シラフの事を私は知る権利がありますから。
主としてだけじゃない、親友の為にも、私自身の為にも彼の事を知る必要がありますから」
私の返事を聞き、彼女は僅かなため息をつくと間を開けて言葉を返した。
「…………分かった。
私の知る限りのあの子の全てを話すよ……」
「はい」
そして間を置くと、彼女はソレを語り始めた。
「今から10年程前……。
国からカルフ家に使者を送られた。
目的はその家の長男神器の適性があるかを見る為。
結果としてその子には高い適性があり、神器は高い共鳴反応を起こした。
本来であれば微々たる物になるはずで、少しだけ強い光を放つ程度……。
この前のシルちゃんみたいな感じくらいの小規模なモノになるはずだった」
「…………」
「でもね、その子には適性があり過ぎたの……。
潜在能力があまりに高過ぎて、自身が選ばれた能力であった炎の力を抑えきる事が出来なかった……。
契約の際に生まれた炎は凄まじく、その場にいた人間全てを焼き払ってしまった。
その肉も骨すらも、何もかも残らない程に……。
死者は確認が取れただけでも20人以上……。
その中で生き残ったのは、一人だけ。
神器の契約者自身であるその子だけだった」
●
帝歴393年4月7日
「あれが例の子供か?」
「ああ、そうらしい。
力を暴走させ自分の親すら焼き払ったらしいよ」
「自分の親をか、嘘だろ?」
「間違いない。
現に国から送った使者達の遺体は愚か骨すら見つから無かったんだ。
加えて、コイツの住んでいた屋敷は炭くずと化し原型はほとんど無くなってしまっているらしいぜ」
「まじかよ?!
それじゃあこの子供はどうなるってんだ!?」
「それがな、まぁ上の方では物騒な話だが今すぐにでも殺そうとかいう話も出ているんだよ。
まだこんな子供を殺そうなんて、ほんと上はどうかしてるのかもな……」
「いや、しかし神器使いは身分関係無しに十剣によって処罰されるはずじゃないのか?
それが、ただの子供だろうと王族だろうと厳粛に十剣の総意に基づいて裁かれる」
「そうだったな…、確か剣の栽判だっけ……?
それは、確か前回は百年以上昔じゃないのか。
百年ぶりに裁かれるのがこんな子供とはおかしい話だよな、ほんと………」
そんな会話を交わしながら男達は後ろの男の子に目を向ける。
看守達が警護している牢の向こう側には、手足を拘束された男の子が虚ろな目をして倒れていた。
その目に生という物は感じれず、死や絶望を垣間見た末に自我の消えた人形のソレである。
子供の名は、ハイド・カルフ。
罪状は神器による民間人の大量殺人。
サリア王国史上最年少の神器の担い手にして、サリアの歴史史上最悪の事件を引き起こしてしまった僅か6歳程の子供であった。




