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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第四十三話 手掛かりを求めて

帝歴403年8月12日


 静寂なその空間には、見渡す限り本で埋め尽くされていた。

 ラーク大図書館オキデンス支部。

 世界各国の本が揃っている世界有数の図書館の一つ。

 その中で、私達はサリアに関する書物を読み漁っていた。


 「うーん……これは違うかぁ……。

 ねえ、本当にサリアの事なの?」


 「うん、10年くらい前って沢山火災があった事は鮮明に覚えてるの……。

 あの時期って、伝染病が流行してたからその消毒を兼ねて各地で火葬が多発してて、お金の少ないあるいは伝染病の医薬品に手が届かなくなった貴族とかも、一家心中で焼身自殺が横行したり大変な時期だったって、向こうで暮らしてた時にお母様が以前言っていたの。

 だから、きっと当時の記録は残ってるはずだよ」


 「そうなんだ。

 でも、カルフ家について探してこれで3日目。

 手掛かり一つ無いなんて……」


 「でも、おかしいよね?

 私の記憶が間違っているのかな……。

 でもここまで来たんだからやれる限りは全部やろう。

 まだ全部確かめた訳じゃないんだしさ」


 「うん、そうだよね」


 そんな会話を続けながら私達は膨大な数の書物を手当たり次第に読み漁り続けた。

 気付けば時間は午後三時……。

 今日もまた閉館時間を迎えるかもしれないと諦めつつあった……。


 「うーん……見つからない……。

 手当たり次第探して見てはいるけど、まだ小さな手掛かり一つ無い……。

 クレシアの方は何かあった?」


 「私も見つからない。

 有名な貴族家系の名簿はあったんだけど、カルフ家の記述は無いの……」


 「それはいつの記述?」


 「えっと……396年版だね……」


 「あー、じゃあ10年前の物では無いか……。

 ねえ、何か他に覚えている事は無いの?

 小さな事でもいいから」


 「えっ……そうだね……ええと……」


 クレシアは再び考え込んで、必死に何かを思い出そうとする。

 すると気になる言葉を呟いた。


 「そういえば……時計……」


 「時計がどうかしたの?」


 「えっと、男の子の父親が持っていたんだ。

 首から下げてて……何かの模様があったように見えたけど……。

 こんなの、何の手掛かりにならないよね……」


 「え、それ本当!!」


 私はすぐに心辺りがあったので反射的に大声を出して飛び上がった。

 館内に私の声が響き渡り、係員の一つから静かにするように注意を受けて謝罪に頭を下げまくる。

  

 そして私は逃げるように、クレシアの手を取り再び図書館内の資料探しに向かった。


 「急にどうしたの、ルーシャ?」


 「クレシアの言葉で思い出したの……。

  ええと……、サリアというか私達の方面の国ではね。

 十剣となった家系に対して剣の紋章が入った時計を贈る風習があるの」


 「そうなの……?」


 「うん……つまり十剣について調べれば何か出るかもしれない。

 まだ、深い確信は無いけど……クレシアが時計について言及してくれたからほぼ間違いないと思う」


 「そう……でも、手掛かり一つはあったね」


 「うん。

 お墓なら一家揃って同じ所に埋葬するはずでしょ。

 だから、家系から探った方が早いと思う」


 「分かった、私ももう一度改めて探して見るよ」


 そして私達はサリアの十剣を手がかりに書物を読み漁り始めた。

 しかし、閉館時間20分前に差し掛かっても何一つ手掛かりは掴めなかった。


 「はぁ……。

 今日はもう駄目ね……日を改めて……。

 あるいは、場所を変えようかな?」


 「場所を変えるって……。

 ルーシャ、もしかして中央図書館に行くつもり?

 あんな巨大な施設から探すなんて……二人だけじゃ」 


 「わかってるよ。

 でもさ、クレシア?

 ここまで来たんだからやれるだけやってみよう。

 いっそ向こうの宿泊施設も借りて泊まり込みでさ、1年の時以来になるよねお泊り会とかさ?」


 「そうだね、うん……分かった。

 ルーシャがそこまでして付き合ってくれてるんだから、私も頑張るよ」


 「その活きだよ、クレシア。

 そうと決まったら、出した本を片付けなきゃね」


 読み漁った本を片付け、図書館を出る準備をしていると私の不注意で人とぶつかってしまう。

 慌てて、ぶつかった人物に謝罪の為頭を下げる。

  

 ほんと、私今日は何やってるんだろうなぁ……。


 「……すみません!そのっ……前見てなくて!」


 目の前には黒髪の青年がおり、倒れていた私に手を差し出してきた。


 「その様子だと、特に怪我は無いようだな」


 男の容姿はかなり整って、正直かなり美形。

 かなり身長も高く、男女関わらず格好いいと感じる程である。

 でも、なんというか無機質故の威圧感が拭えない。

 

 相手があまりに無表情故に、怖気付いてしまう。


 「大丈夫です。

 その……ありがとう御座います」


 「礼はいらない、こちらの不備でもある」


 差し出された手を取り、立ち上がる。

 青年の手にも本があり同じく返却する為に来ていたのだろうか?


 「まだ、何か?私に用でもあるのか?」

 

 「いえ、その………あの?

 よくここに訪れるんですか?」


 「ああ、休日や放課後には調べ物の為によく訪れる。

 だが、ここにある本には大抵目を通し多少飽きていたところだ。

 この長期休暇を期に別の大きな図書館にでも向かおうか検討している」


 「そうですか……」


 「君には何か探し物でもあるのか?」


 「はい、実は……」


 私達は目の前その青年に私達の事情を簡単に説明した。


 「なるほど……、家系を辿って……。

 カルフ家についてなら……確かアレか……」


 「もしかして何か知っているんですか?」 


 「この前、図書館にある本の一括整理があった。

 それで片付けられた物の中に混ざっていたと思われる。

 見つからないのはそれが原因かもしれない」


 「片付けられたって……そんな……」


 「………。

 これも何かの縁だ、その場所を教えよう。

 君の端末を貸してもらえるか?」


 「本当ですか?」


 「そうだ、さっさとしろ。

 こちらも時間が惜しいんだ」


 私は自分の端末をその青年に渡す。

 青年は端末から地図を表示させ、何らかの操作をしたのち私へ返した。


 「端末内の地図に青い印がついておいた。

 そこが恐らく探している場所だろう」


 「あの、教えてくれてありがとう御座います」


 「礼は要らない。

 私は、これで失礼させてもらう。

 道中気を付けるように、サリアの第二王女」


 そう言うと男は、私の後ろに居るクレシアへ視線を向けるとその後、特に何も語らずに去って行った。

 そして、私達も時間も押している為に急いで館内から出て行った



 図書館から出た私達は、最寄りの喫茶店で少し休憩していた。

 お互い小さなケーキを頼み、ようやく出た成果を噛み締めて喜びを分かち合っていた。

 親切なあの男子生徒のお陰、後で何かしら感謝の礼をしないといけないと思った。


 去り際、私の素性には気付いていたみたいだしまた何かの機会で会うことがあれば必ずお礼を伝えよう。


 「手掛かり掴めたね、クレシア」


 「うん。

 最初、少し怖い感じの人かと思ったけど、実際優しく接してくれたし結構いい人だったね」


 「そうだね……、ほんとあの時はヒヤヒヤしたよ」


 「そうだよね……。

 ねえ、それで場所は何処ら辺だったの?」


 「うん、少し待ってて……今出すからさ……」


 端末から地図を表示させ、教えて貰った場所を探す。


 「あった……多分ここだね……」


 私は端末内の地図に印の付けられた場所をクレシアへと見せた。


 「場所は王都から北東20キロ程の位置だね。

 なるほど……あの更地が例の場所だったんだ……」


 「更地?」


 「うん。

 あの場所ってさ、ここ近年まで草一つ生えない場所だったんだよ。

 元は結構な御屋敷が立ってて何かの残骸が残っていたようだけど、まぁ原型が無くてね……」


 「それがあの子が亡くなった火災なのかな……」


 「多分そうなんだね。

 あれ……、でもこの場所って……」


 私は思わず言葉を失った。

 地図の指す場所に、私は………。 

 

 「ルーシャ?」


 「いや……でも……じゃあ何で……」


 この場所、いやあり得ない。

 だって、それならクレシアの幼馴染って………


 「ルーシャ?

 ねぇルーシャ、ほんとにどうしたの?」


 クレシアの声に気付き、私は首を振り意識を現実へと引き戻す。

 気づいてしまった事実を、彼女に今すぐ伝えるべきか悩んだが、その前にあの人に直接事実を確かめなければならない。


 「っ!何でも無いよ。

 ちょっと疲れてるだけだよ……うん。

 ほら、今日はほんと暑かったからさ、あはは」 


 「そう……ならいいけど…。

 私の為だからって無理し過ぎて体壊さないでよ?」


 「大丈夫だよ、そんなに私貧弱じゃないから。

 毎日毎日、生徒会の仕事で缶詰めされてるからね、これくらい耐えれなきゃ。

 正直やってられないよ、あはは……」


 気づけば、喫茶店での時間は流れ頃合いを迎える……。

 そろそろ解散してもいいくらいだからお開きにする。


 「それじゃあ、そろそろ私は帰ろうかな。

 シラフが夕飯作って待ってるだろうからさ……」


 「そっか、それじゃあまた今度ね。

 今度はあの子の墓参りに向かう為の支度しないとね」


 「うん……。

 でも……もう少し計画立ててからにしよう。

 急に帰省の支度をするのは大変だからさ……。

 長期休暇もまだ余裕あるからね」


 「確かにそうだね……。

 それじゃあルーシャ、また明日」


 そう言って私に笑顔で手を振り、店を後にする。

 彼女の楽しげな背中を見送りながら、私は真意を確かめるべく近くの公園へと足を運ぶ事にした。

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