第三十七話 在るべき在り方を
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学院の中央都市にて、自身の職場である大病院の自室にて私は目の前の書類に頭を悩ましていた。
「ノワール院長、娘さんの検査の結果が出ました」
部下の一人が娘に先日受けされた検査の結果を運んできた。
「そうか、それで結果は?」
「こちらに……」
一人の医者が検査の結果が表示された端末を手渡す。
「投与した薬に……効果は見られないか……。
進行具合は前回より0,1パーセント進行……」
「このまま進行した場合、あまり長くは持たないかもしれません」
「君は、この経過を見て患者はどれくらい持ちこたえられると踏んでいる?」
「正直に申しますと。
このまま進行した場合長くて二年程でしょうか……。
今からでも、入院させて療養に専念しようにも娘さんの呪いは、ここに置く方が遥かに危険であるかと」
「そうだろうな……。
このまま、治療法の研究は随時進めろ。
魔術研究会とも随時連携を取り我々の出来る最善を尽くせ。
娘には一刻の猶予がない、1日でも早く治療法を見つけるのだ。
私は私で、北のセプテントに研究施設を構えるアルクノヴァ殿にも協力を仰ごう」
「了解致しました」
そう言うと一人の医者が部屋を出て行く。
誰もいなくなり、私は一人頭を抱え込み項垂れるように机に頭を打ち付ける。
己の手には力が込められ、憤りの感情が表すかのように力強く机を叩く。
衝撃で、辺りに仕事の書類が散乱しようとも気にも留めず何度も何度も机を叩いた
「クレシア……私は君に何も出来ないのか!!」
私はただ苦悩していた、最愛の娘を救え無い自分の無力さを恨みながら……。
私は、どうればいい?
どうすれば、娘を助けられる?
教えてくれ、娘を、クレシアを救えるのなら私は何だってする、たから頼む……。
どうか、どうかクレシアを私達から奪わないでくれ
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現在俺は一日の授業を終えた後の放課後。
闘武祭の出場手続きの為にシルビアと共に書類の確認をしていた。
そして俺達の目の前には、担任であるアルス先生がそこにいる。
「これでいいですか?」
シルビアの書いた書類をアルスは一枚一枚と確認していく。
一通り眺めると、
「ああ、神器の申請手続きはこれでいいよ。
まさか君が闘武祭に出場するとはね」
「はい……その、色々あって」
「そしてシラフ君は彼女が申請して置いて出らざるを得なかった様子かな?」
「大体そんな所ですね。
王女自らが出場するのに元々護衛役として力を付けている俺が出ないのは流石にと思った次第でして」
「なるほどな。
本当に面白いよ、君達は。
書類は私が確認する、シルビア君は先に下がっていいよ」
「はい、それでは失礼します。
シラフさん、放課後にまたお願いしますね」
そう告げると、シルビアは去って行く。
部屋に二人きりにされ、俺は目の前の書類にペンを入れていると、彼から言葉を投げかけられる
「シルビア君、実にいい子ではないか?」
「ええ、立派に成長しています。
サリア王家としての務めもありますが、彼女は自分の意思をしっかりと持ってる方ですよ」
「そうか、素晴らしいよ本当に。
彼女のような王族が居るのなら、サリアの未来は本当に明るいな」
俺は自分の書類を確認しながら
「アルス先生に聞きたい事があります」
「何かね?」
「ラウ・レクサスという方をご存知ですか?」
「…………。
何処でその名を?」
「自分の知り合いがその人の事を言っていましたので、アルス先生は何かご存知かと」
「そうか………」
「彼の事を知っているんですね?」
僅かな沈黙も開けず、彼は即答した。
「知っているよ、なんせ帝国最後の英雄だからな。
俺がこうして教師でいるのも彼のお陰だ」
「そうですか」
「何か気になる事でもあるのかい、シラフ君?」
「この学院に生徒に帝国と縁のある人物がいます。
既にご存知かと思いましたが……」
「知っているよ、三日程前に俺を尋ねてきたな。
ラウ・クローリアとシン・レクサス、君の言う縁のある人物というのは彼等の事だろう?」
「知っていたんですか、奴を?」
「知ってるも何も、アイツから手紙でいつか来ることは伝えられていたからな。
それでいつか私の方を尋ねて来たら、例の場所を教えておけとね」
「例の場所とは?」
「学院の大図書館だよ。
その中でも帝国に関する資料の場所を奴等に教えた。
今頃、一通り調べ尽くしてる段階だろうな……」
「そんな事をして大丈夫なんです?」
「問題ない、二人の善悪の判断は俺なんかよりしっかりしてるだろうよ。
あいつが遺した、帝国最後の希望なんだだから俺はそいつの可能性に賭けてみようと思っただけさ」
「それに、後悔するかもしれませんよ?」
「するかもしれないが、俺はしないよ。
むしろあれで正しいと思ってる。
間違っていると思うなら自分の力でそれを証明するしかない。
弱い人間の言葉はただの理想だ。
強者となって現実にしなければ理想論など無意味だ。
言葉を本物に出来る物が真の強者だ」
「…………。」
「納得出来ないかもしれないがこれが現実だろう。
思えば、俺は子供の頃からそれと向かい合わせで生きて来たな……。
毎日が嫌になりそうだったよ。
でも、そんな中で自分が強くなり己が理想を追い求めた奴がいた。
それが、英雄と呼ばれたラウ・レクサスだ。
奴は俺の知る中で一番苦労した奴だろうな、ノエルさんも相当だが、比較に出来ないくらいは。
本当に、世の流れというのは理不尽というかね」
「随分と英雄さんを称賛しますね」
「あいつと出会わなければ今の俺はないからな。
そもそも妻と結婚して子供が出来る事も無かったくらいだ、その娘は成績を盾にして家に引き籠っているが」
「彼の最後は知っていますか?」
「内戦による戦死と聞いている。
例の魔水晶には誰も近づけ無いから、帝都にあるという死体の行方も分からないがな」
「戦死……。
あの、あなたはラウの………。
ラウ・クローリアの目的が何か分かりますか?」
「分かるよ、カオスと呼ばれる存在を殺す事だったはずだ。
それが奴が作られた理由らしいからな」
「カオス?
なんですそれは?」
「分からない。
ノエルは以前、俺にその名前だけを俺に伝えていた。
カオス自体が何なのかは俺にもさっぱり分からない」
「そうですか」
「まあ、彼も闘武祭に出てくれるらしいよ。
君が祭りを勝ち進み、その先で奴と剣を交えればその本質が分かるかもしれないな。
俺から言えるのはそれだけかな」
俺は書類を書き終え、ソレを手渡す。
先生はそれを軽く確認すると、綺麗に書類を整えて胸ポケットにしまい込んでいる煙草に手を付けた。
「書類は確認、お使れシラフ君。
今年の闘武祭は個人的にも楽しみにしているよ」
俺はゆっくりとその場を立ち、凝り固まった身体を伸ばす。
「そうですね。
あなたの言葉通り、祭りを勝てば良さそうです。
最善を尽くしこの目で真意を確かめますよ。
サリアを守る騎士として、一人の剣士として……。
ラウの真意はこの目で見定めます
それでは、自分はこれで失礼します」
そして俺は部屋を出る。
部屋を出ると、入口の前にシルビアが俺が出るのを待ち伏せていたのか扉の横に座っていた。
「わざわざ、ここで待っててくれたんですか?」
「はい、場所まで歩きながらでも同じ神器使いとしてお話をしたかったので……。
いけませんでしたか?」
「そんな、構いませんよ。
俺に出来ることで良ければあなたの力になります」
「ありがとう御座います、では行きましょうか?」
そして俺はシルビアとと共に鍛錬に向かう。
闘武祭、そこで奴等の真意を確かめる為に俺は強くならなければならない………。
帝国が何だろうと、俺は自分の最善を尽くすのみ。
王女を守る騎士として、十剣として……。
それだけは変わらないのだから………。




