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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二章 炎の覚醒編 序節
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第三十三話 主の命を受けて

帝歴403年7月28日


 よく晴れたその日、俺は鍛錬に取り組んでいた。

 剣を習い始めて8年が経った今となってはもはや習慣の1つ。

 そんな俺の横には小柄で華奢な少女が練習用の木剣を振っている。

 いや、剣に振られている様子である。


 そんな俺達を三人と一匹が見守っていた。

 一人は姉のシファ・ラーニル。

 加えて、同じ組のクレシア・ノワール。

 そして俺の仕えている主ことルーシャ・ラグド・サリアである。

 もう一人、本来なら同じく見学しているであろう人物、小さな妖精ことリンは既に姉さんの膝の上で呑気に昼寝をしていた。


 「すみません、もう駄目です……」


 気持ちを落ち着かせ目の前の稽古に集中しようとしていた矢先、突然俺の横で剣を振るっていた少女が突如仰向けに倒れた。

 息が乱れ、既に満身創痍のご様子。

 俺の隣で先程まで剣を振っていた彼女の名は、

 シルビア・ラグド・サリア。


 丁度向こうで見学をしているルーシャの妹である。


 「大丈夫ですか、シルビア様。

 初めは、あまり無理をしない方が……?」


 「うぅ……。手が………。」 


 シルビアは自分の手をじっと見つめている。

 その手はほんのり赤く、痛々しく感じた。

 なんとも言い難い彼女の様子を見兼ね俺は一度鍛錬を切り上げ手を差し伸べる。


 「シルビア様。

 それでは、一度休憩に致しましょうか?」


 「あ……はい…、その…済みません……。

 私から言った事なのに足を引っ張ってしまって………」


 シルビアは俺に謝ると差し出した手を取り、少しふらふらとしながらもゆっくりと立ち上がる。

 そして俺と彼女は休憩の為に見学している三人の元に向かう。


 俺が何故こんな事をしているのか?

 その理由は6日前に遡る。


 帝歴403年7月22日

 

 俺は姉さんに電話を掛け、事の次第を伝えた。

 シルビア様が神器に選ばれた事、そして今後について相談したい旨を伝える。


 「なるほど、シルちゃんが神器に……。

 了解、何とかしてみるよ」


 シルちゃんとは姉さんが付けたシルビア様の愛称である。


 「恩に着るよ、流石の俺には手に負えないからさ」 


 「まあそれは仕方ないよ。

 それじゃあ一度シルちゃんに変わってもらえる?」


 俺はシルビアに端末を手渡す。

 僅かに震えながら、それを受け取り通話に応じた。


 「………変わりました。

 その…………」


 「シルちゃん、話は聞いたよ。

 私が可能な限りで何とかしてみるから。

 どの程度まで持っていけるかは分からないけど、シルちゃん次第でそれなりには行けると思うからさ」


 「ありがとう御座います、シファ様」


 「それでだけど……。

 うーん、まず前提としては……まず、

 基礎体力を付ける事からだね。

 神器を扱うにしても、元々の体力が無いと体が保たないからさ……。

 シルちゃんの場合は特に体格が恵まれてる訳でもないからさ、神器を扱った衝撃以前に、相手の攻撃を防いだ時点で吹き飛ばされかねないからね」


 「分かりました、頑張ってみます」


 「うんうん、その意気だよ。

 それじゃあ基本は私の提案した項目を一人でこなす自主練でもいいんだけど。

 あとは、空いてる日に私も一緒に練習に付き合うよ」


 「はい、よろしくお願いします」


 俺は会話の様子を見ているだけだが、何となく問題は無さそうに感じた。

 しかし、それはここまで。

 突然シルビア様の表情が曇る、何かあったのか耳を澄ませると……。


 「ええと……これはその……」


 僅かに怯えながら、シルビア様は声が震えていた。


 「シルビア、これは一体何の話をしているの?」 


 「ルーシャ姉様……これはですね……その。」


 「神器がどうとか言っていたよね?

 お姉さんに何か隠しているでしょう?」


 「うう……。」


 目の前の少女が少し怯えている様子だ。

 何かあったのか気になるが……。


 「シルビア、多分そこにシラフがいるんだよね?

 すぐに、変わりなさい。」


 「え……あ、その……」


 「変わりなさい、シルビア」


 「……はい」


 シルビアの手が震えている。

そして俺に震えながらその端末を返した。


 「姉さん、シルビア様が急に怯え始めたんだが……。

 一体何を……」


 「シラフ、一体これはどういう事なの?

 いつ私の妹が神器なんて物に選ばれたの?」


 「…………。」


 あ、そういうこと……。


 俺はその後、ルーシャに事の次第を説明した。

 何故、姉さんの近くにルーシャがいたのかは分からないが……。


 「とりあえず、それが知っている事の全容だよ。」


 俺からこれまでの顛末。を聞き終えたルーシャは呆れたようにため息をつくと、


 「分かりました。

 まあ、奇妙な話で信用ならないけどあの子が人に嘘つくのは下手なのは分かっているから、ひとまずは信じる。

 むしろ、シラフに迷惑を掛けちゃったわね……」


 「ありがとう、ルーシャ。

 まぁ、頼れるのが俺くらいだったんだろうよ。

 彼女の性格を考えるならさ」


 「うん……。

 ううん、別にいいよ。

 私も少し言い過ぎたし……。

 でもあの子が神器に……。

 扱う武器は何なの?、剣、槍?それとも斧とか?」


 「形からして、多分狙撃銃だよ」


 「えっ狙撃?何……もう一度言って貰える?」 


 「だから、狙撃銃……」


 「本気で言ってる?」


 「本気で言ってる」  


 「そう……ふーん。

 シラフ・ラーニル、サリア王国第二王女の権限を持って、私の妹であるシルビア・ラグド・サリアへの神器の指導を要請するわ」


 「姉さんに頼んでいるから、俺は今回の件にあまり関係無いと思うんだが?」 


 「いいえ、私の妹なんだから私と同じように妹も助けなさい。

 それに次期十剣の候補なんだから、先輩のあなたがしっかりと面倒を見る事。

 これはサリア王国第二王女ルーシャ・ラグド・サリア直属の命令よ」


 ここで女王権限を使うのかよ……。

 しかし逆らえない、ただでさえルーシャと同居している事はサリア王家に秘密にしている事もあるし。

 何より、下手に逆らうと後で何を言われるか……。


 この分だと、例の祭も強制参加になるんだろうな


 「分かりました。

 俺が責任を持って指導を勤めます」


 「よろしい、それじゃあ妹をお願いね」


 そして通話が途切れた。

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