第三十一話 選ばれた姫君
俺は待ち合わせの場所である学院の中庭に俺は来ていた。
多くの花達に囲まれ、いくつかの休憩場所が用意されている中、目立つように屋根があるその場所を見つける。
そこでは、端末を見て暇そうに足をパタパタと仰いでいる人形のように小柄で華奢な姿の少女が目に入る。
間違いない、彼女が待ち合わせの人物だろう。
俺は例の少女に近づき、話しかけた。
「お久しぶりです、シルビア様。
待たせてしまいましたね?」
俺の声に気付き、ゆっくりと俺の方を向くと少し驚いて身だしなみを軽く整えると優しい笑顔で話かけた。
「いえ、私も今来た所ですから、気にせずに。
あの……、どうぞ座って下さい。
すみません、変なところを見せてしまって………」
目の前の彼女は小柄で華奢、触れれば壊れるかのようなはかない印象を受ける。
姉達がそれぞれ強気や清楚といった様子に対し彼女は小動物のような可愛らしい印象を覚える。
それでも、顔立ちの整い方はしっかりと受け継いでおり自分より三つ程年下にも関わらず素直に美しいと感じるまでに成長していた。
俺の知る彼女の印象としては、年の離れた妹いや娘や孫とかにも似た感覚だろうか。
いつも姉であるルーシャか両陛下の元から離れられずにいた頃が懐かしく思う。
今となっては離れても、王族としての品格や立場を持ちながら年相応の姿を見せてくれる。
そして俺はそんな彼女に示された向かいの席に腰掛けると、テーブルに二人分の昼食を置き、一回り小さめの小包を彼女に渡した。
「これが例の物です。
俺なんかの作った物が、口に合えば良いですが」
「いえ、そんな……。
突然の無理を聞いてありがとう御座います。
それでは早速いただきましょう、シラフさん!」
●
そして俺達は共に昼食を取り終えた頃、会話を交わしていた。
「どうして、俺なんかの作った弁当を食べたかったんです?
いつも、周りと同じ学食で済ませているとルーシャから聞いていましたが………」
「ルーシャ姉様がシラフさんの話をしていたんです。
彼の作ってくれる料理が非常においしいと……。
だからその、私も食べてみたいなって………」
「そうですか……」
ルーシャがそんな事を言っていた事に驚く。
料理の感想なんて、最初時しか聞かなかったはずだし………。
まぁ、好評なら何よりだが……
「はい。
それで私もシラフさんの料理を一度食べてみたいって思って姉様に頼んだんです。
でもその、直接姉様の部屋に赴くのは帰り道が正反対で私の体力だと時間的にも少し厳しいんです……」
「それで自分のお弁当を……。
その、お味はどうでしたか?」
「はい、とても美味しいです。
また機会があったら、その……またお願いしてもいいですか?」
「俺なんかの物で良ければいつでも作りますよ」
「はい、ありがとう御座います!」
そして、俺は本題を切り出す。
ルーシャから聞いているのは、彼女へ弁当を作って欲しい事と何かの相談事が俺にあるらしい。
俺に相談とは、シルビア様にしては珍しい事だが。
特に、最も信頼しているはずのルーシャに言えないような悩みを俺に相談するのは、聞く側としてもかなり緊張する。
「それで、俺を呼び出したのはどういう理由で?
何か俺に相談事があるんですよね?」
「はい……実はこれについて相談があるんです……」
そしてシルビアは自分の髪を掻きあげ、自分の両耳についている小さな耳飾りを見せた。
その金属は青みを帯び羽を模した装飾品と伺える。
しかし、俺はこれを何処かで必ず見たことがある気がしたのだ。
「きれいな耳飾りで実にお似合いですが………。
それが何か?
別に、法でピアスを身につける行為が禁止されてる訳でもありませんし……、髪で隠す分にはまぁいいんじゃないですかね?
世間的な目を気にする人も居ますが、自分個人としては本人の意思を尊重しますよ」
当たり障りもないように、とりあえずこの場をどうにか収める為に言葉を選んだ。
本人はその年でピアスをつけてしまった事を気にしているのか、それとも似合っているのか不安なのか。
真意は読めないが、とりあえず褒めておき反応を待つのが良さそうだろう。
しかし、返ってきた回答は俺の予想とは違った。
「あの、その………そうじゃないんです。
その、神器なんです……コレ」
「そうですか、神器……。
って、神器ぃ?!」
「はい。
昨年辺りから姿を消したサリアの秘宝である天臨の耳飾り……。
それが、その……二ヶ月程前のある日。
その………目が覚めたらこれが私の枕元にあって……。
私その時、寝惚けて「何なのかな?」ってよく分からずに触ったら、その………。
突然光を放ってしまって……はい」
不安げにそう語る彼女の様子から、事実なんだろう。
うーん、コレは参ったな………。
「なるほど……。
つまり……、シルビア様は選ばれてしまったと……。
神器に」
「はい……、国に返したいです……。
でも、返したくてもその返せなくて……」
「そうですね……。
シルビア様が神器に選ばれたとなれば、つまり……」
「はい……。
神器の契約者はその生涯は契約者である事に変わりありませんから。
そして、契約者が死ぬまでその神器に新たな契約者が現れる事はありません。
お父様からはそう聞いています」
「それは、困りましたね……。
それに十人目となれば……」
「はい、十剣の治める四国において約400年以来の事ですから。
それもあって……えっと、なんというか……。
引くに引けなくなって……」
「…………」
「シラフさん……。
私どうすればいいんですか……」
俺は困惑する目の前の彼女にどんな声を掛ければいいか思い悩んでいた。




