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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二章 炎の覚醒編 序節

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第三十話 拭えぬ疑惑

帝歴403年7月22日

 

 今日は珍しく移動教室がない日らしい。

 故にそのまま自分の組の教室にて座学を受けていた。

 今、俺の目の前には教師が数学の問題とそれの解説が黒板に板書している。

 目の前の式は難しいが……いや難しかったの方が正しいだろう。

 サリアにいた頃、家庭教師はこそ付かなかったが俺はそれなりに自分で勉強に取り組んでいた。

 小さい頃から対して力があった訳でも無かった俺は、力が無い事を補う為に勉強には多少は他人よりも努力していた方である。

 今もそれは続けており、それが功を差したのか目の前の問題に関して、俺にとっては難題という訳でも無い。

 いつの間にか午前の授業もとうとう最後を迎え、前の生徒の何人かは教室の時計を見るなり今か今かと終了の鐘が鳴るのを待っているように伺えた。


 「シラフ?……ちゃんと授業聞いてるの?」


 俺の隣に座っているクレシアが、人差し指で脇腹をつつき周りからバレないように俺に聞こえる程度の小さな声で話し掛けてきた。


 「一応聞いてるよ。

 向こうでは何度か教わっていたから、大して分からない訳じゃないし……」


 俺も同じく小さな声で彼女に応える。

 彼女は「そう、ならいいけど………」と、小さく頷くとその視線が黒板へと戻った。


 学院に編入して今日で四日目。

 俺はクレシアのおかげで難なく学院生活へと馴染み始めていた。

 先日、八席であるラノワさんと姉さんが試合を行った。

 結果は予想通り姉さんの勝利で幕を閉じた。

 それから当然のように姉さんの名前は学院中に知れ渡ってしまったが……。

 まあ、知れ渡っているのは実力以外もあるだろう……。

 俺はあの日の夜に姉さんに電話を掛けた。

 試合で使ったあの力が何なのかを知るために。

 そして姉さんからの返答は簡潔なもの。


 「いずれ話すよ。

 今はその時じゃないからね……」


 そう姉さんは言った。

 いずれ……つまりいつかは話してくれる。

 それがいつになるかは分からないが……。

 そして気になるのは、奴等の事だ。

 例の二人、ラウとシンである。

 あの者達の目的の一つに姉さんを殺す依頼がある事、そしてあの二人の本当の目的だ……。

 更に二人へ依頼した者は俺の顔見知りである事だ。

 依頼人の事も気になるが、更に二人はある人物を尋ねようとしているのだ。


 元八英傑のアルス・ローラン。

 彼の所在を俺は知っている。

 何故ならその人は俺達の組の担任教師であるからだ。

 奴に教えるべきでは無い……いや既に見つけているはずだ。

 もし奴が俺達の敵となれば、その時は……。

 俺が思考を巡らしていると気付けば時間は過ぎていく。

 気付けば終了を告げる鐘が鳴り響いていた。

 教師が終了の合図を告げると、連絡は無いのかそのまま教室を立ち去る。

 昼休みを迎えた教室は、生徒達の声ですぐに賑やかになっていた。


 「シラフ、何か考え事?」


 クレシアが先程までの俺の様子に違和感を感じたのだろうか。

 やはり、心配そうに話し掛けてくる。


 「まあ色々と……。

 授業は分かってるから問題無いと思うけど」 


 「分かってても聞いて無かったんだね。

 全く、ちゃんとしないとルーシャに悪いよ」 


 「そうだな、次からは気をつけるよ。

 なんか、ここ最近色々とあり過ぎて頭が整理仕切れていないんだよなぁ……」


 「学院にも慣れているとは思っていたけど……。

 もしかして、ルーシャと何かあったの?」  


 ルーシャの事だと思われていたようだ。

 まあ、それもあるにはあるが先程の事とは違う。

 しかし彼女にその話をする訳にはいかないから、それで押し通すことにする。


 「別に、ルーシャからはお弁当作って欲しいと頼まれただけだよ。

 それで、まあ昨日から彼女専属の料理人へとね……。

 元々、家事全般は俺の担当みたいだが………

 俺はあと少しで騎士から執事か召使いにでもなりそうだな、あはは…」


 「料理人って……騎士なのに?」


 「ルーシャはあれでもサリアの王女だ。

 護衛以外にも、彼女の身の回りの世話も俺の仕事の内なんだよ。

 時給はどんなもんか分からないが、タダ働きでこき使う程うちの主は腐ってはないからな」


 「ふーん、お世話か……。

 ねえ、シラフから見てルーシャはいつもどんな感じなのかな?

 学院では優等生で生徒からも人気を集めているから流石の私も昔のルーシャの様子とかあまり知らないんだよね」

 

 「そうだなぁ……。

 まあ、昔はかなり乱暴でお転婆だったよ。

 よく彼女の姉に叱られていた光景を目にしていたな。

 勉強は投げ出すは、同年代の他の貴族と言い争いやつかみ合いになったり……。

 ソレに俺も巻き込まれたり……、ここに居る彼女とは別人ってくらい違ってるな」


 「乱暴でお転婆……今とは想像つかないね……。

 勉強も投げ出すってことは無かったなぁ……、面倒事でもサボらずちゃんと向き合っていたし……」


 「そうみたいなんだよなぁ。

 今の彼女は学院でもかなりの優等生で人望が厚く人気者って事を他の生徒から噂で聞いてる。

 成長してもらって何よりだよ」


  俺の言葉にクレシアは笑うと、


 「ふふふ。

 それで、シラフ?

 昼食は今日どうするの?

 私はこれからルーシャと食べるけど、一緒に来る?」


 「いや、今日は先約がいるんだよ。

 王女様からも許可は既に貰ってる。

 午後の授業には必ず間に合うように戻るからさ」


 「先約って?」


 「クレシアなら知っている人だと思うけど……。

 ルーシャの妹君。

 サリア王国第三王女のシルビア・ラグド・サリア。

 今日はこの人と一緒に昼食を取る予定なんだ」


 「なるほど、ルーシャの妹か。

 あの子前に会った事あるけど……。

 どうしてシラフが?」


 「いや、まぁその挨拶を済ませていないんだよ。

 今後恐らく護衛とかで付き添いをルーシャから頼まれるだろうからさ

 それを兼ねて今日ら予定が取れたんだ。

 それに、いつかは同じく在学している第一王女にも挨拶に向かわないといけないしさ」


 「そうなんだ……。

 シルビアさんとはいつ以来なの?」


 「去年の夏が最後だったから一年ぶりかな?」


 「へえ、それじゃあやっぱりルーシャの兄弟の人全員と面識とかはあるの?」


 「そりゃあ、あるにはあるよ。

 国王陛下や女王陛下、彼女の兄にあたる第一王子から一番末のシルビア様まで。

 両陛下とその子供五人全員と面識があるよ」


 「すごいね……、王族と面識あるのって……」


 「すごいのは姉さんだよ……。

 王族との縁があるのは姉さんの方だし。

 まして、何故か姉さんには両陛下すら頭が上がらない程なんだからさ」


 「え……どういう意味なの?」

 

 クレシアが不思議そうに、それを尋ねるが約束の時間が近づいている。


 「そのままの意味だよ。

 そろそろ時間が押してるから俺はもう行くよ。

 ルーシャのことをよろしく頼む」


 俺は机の中にしまっている自分ともう一人の分の弁当を取り出すと少し急ぎ足で教室を出た。

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