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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
297/324

私の為の戦い

帝暦404年1月11日


 その時、私は死を覚悟した。

 過小評価し過ぎた油断が招いた、己の窮地。


 全身が麻痺毒にでも侵されたかのように、魔力がまともに機能せず全身が思うように動かない。


 声を出す事も叶わない。


 「では、さようなら……アクリ・ノワール」


 「っ………」


 死が迫った刹那、私達の前を立ち塞ぐように誰かの影がそこにはあった。


 「…………お前は、まさか……」


 長く伸びた赤い髪、その姿はかつてのあの人を彷彿とささせたがすぐに別人だと理解する。

 

 「騒動の主犯はあなたね」


 その細い手で軽く彼女の攻撃を受け止める謎の女性。

 新手の敵か、でも私を助けた?


 「今は大人しくしていなさい。

 それで、あなた一体何者?

 私を知ってるって顔してる」


 「ヘリオス、貴様……。

 何故ソイツをかばう?」


 「………知ってるみたいね、私を」


 「当然でしょう、我が主達があなたをどれほど血眼になって探したと思ってるの?

 ここに現れたって事は、私達と敵対するつもり?」


 「民間人に斬りかかるような奴の知り合いなのは癪だけど、彼女を助ける為に私はあなたと戦うわ」 

 

 「っ………お前は、いつもいつも……。

 そんな態度で、我が主からの好待遇………。

 ほんと、気に入らない……その顔、その態度、全部が気に食わない!!」


 両者の攻撃が交錯する。

 先程の私との戦いと同等、いや人の姿を捨て攻撃の軌道が予測困難なはずにも関わらず、この人は全部見えて対処している。

  

 この人の右手に握られているのは、剣のような形をしている長銃である。

 銃であるにも関わらず、近距離での攻撃を剣術を扱うかのように銃を振るい幾度となく攻撃を繰り出していた。


 一見すれば粗々しさと勢い任せみたいな、野性味そのものみたいな攻撃。

 しかし、あの人の攻撃は全てが精錬されており計算され尽くされた正確無比な動きなのである。


 強い、それも私が見てきた中で誰よりも……。


 「っ、何でいつもいつもお前ばかり!!」


 サイが彼女から距離を取ると、黒い液状の形態となったその腕だったはずの部分から無数の棘が機関銃のように放たれる。

 しかし、それに臆する事なく相手が距離を取ったと同時にこの人は銃口を向けた。


 「チャージ・サード………」

 

 声と共に凄まじい魔力が銃に込められた。

 彼女の放った気迫に、私までも背筋が震え肩が竦んだ。


 「私の邪魔をするなァァァ!!」


 「ガード・セブンス………」


 放たれた無数の棘達は、彼女の目の前に現れた燃え盛る障壁に阻まれる。

 凄まじい熱量を放つ壁に、あの赤髪は大きく揺れその全身を炎の衣が包んでいく。

 

 炎の衣と共に彼女の背には蝶を思わせる燃え盛る羽が現れ、その姿はかつての先輩の姿を彷彿させた。

 

 「チェック・ナインズ」

 

 その瞬間、炎の壁は消え去り炎と化した彼女の身体が目の前のソイツに向かって突っ込んでいく。

 彼女との間合いは一瞬で詰まり、銃口はソイツの身体に触れた瞬間、激しい破砕音を上げて弾け飛んだ。


 「っ…………」


 爆破の衝撃と巻き上げられた埃が、視界を多い砂嵐の如く辺り一帯を覆い尽くす。

 嵐が晴れていき、ズタズタに全身が爆散したあの女を平然と見下し、銃口を再び突きつけるあの人の姿が視界に入り実力差を見せつけられる。


 「当然生きてるよね、加減はしたから」


 「っ………ガハッ……どうして……どうしてお前は……」


 「あなたは何を知ってるの、私の何を?」


 「まぁ今のあなたが覚えてる訳がありませんか」


 「答えなさい、あなたは私の何を知ってるの」

 

 「ヘリオス・カーエルフ、それがあなたの名前。

 以前はこの世界で最も恐れられた殺戮者の一人であり、仲間を引き連れ世界に戦争を仕掛けた。

 それから長らく収監されていたあなたを目覚めさせたのは、我らが主の一人であるタンタロス様です。

 その御恩を忘れて、あの方に仕える私達に敵意を示すとは正気の沙汰とは思えませんよ……」


 「ヘリオス・カーエルフ………」

 

 「報告通り、かつての記憶はないのは事実ですか。

 でも、それでこれだけの力を扱えるとは………。

 やはり、殺戮者としての経験は身体が覚えてるみたいですよね?」


 殺戮者?戦争を………?

 この人達、何を言って………


 「騒ぎの場所はここのようだな、シトラ」

  

 「しかし、色々と終わってるみたいだよ?

 てか、ここで一体何があったらこうなるんだ」


 「あわわわ………あの人達一体何なんですかぁ……!」


 騒ぎを聞きつけて、見しれた者達の顔が見れた。

 ラウさんとシトラさん、そしてもう一人は……誰?


 「アクリと……、アレは………」


 爆散したサイの姿を見て、ラウさんは突如私を助けたヘリオスに向かって攻撃を仕掛けた。

 右足による蹴り上げ、しかしソレを難なく左手で受け止めそのまま彼を投げ飛ばす。


 「お前、何者だ?」


 「あなたはどっちの味方?」


 「アクリ、アレは何だ?」


 私はラウさんの問いに答えようとするも、まだ身体が思うように動かない。

 というか、全身に酷い傷を受けているので声も出ないし立つのもままならないのだが………。


 不味い、色々と誤解が重なる状況だ。


 「お前がアクリをやったのか?」


 「私は襲われた彼女を助けただけよ、彼女を殺そうとしたのはそこの倒れてる彼女の方。

 彼女は私を知ってるみたいだけど、私は彼女を知らないわ」


 「…………」


 一触即発もいいところ。

 シラフ先輩なら真っ先に攻撃に転じるところだ。

 これ以上事態が訳の分からなくなる前に、早く私が誤解を解かないと………。


 「動くな、アクリ………。

 君、その体で下手に動くと本当に死ぬぞ……。

 魔力中毒、いや違うな………。

 この症状はリリィのソレと似ているな………」


 シトラの介抱を跳ね除けようにも、動かない。

 でも、この状況は本当にまずい。


 「っ………待っ……」  


 リリィ、誰のことを言っている?

 というかさっきから呆然と突っ立ってるそこの獣人は何者? 


 状況が読めない、でも早く何とかしないと………


 「…………」


 ヘリオスを見たラウさんは、その姿に何かを察したのか警戒をより強める。

 交渉が難しいと判断した彼女は、すぐさま銃口を彼に向け、同時にラウさんも銃を錬成しお互いに武器を引き抜いたのだった。


 「シファの弟と同じ力………。

 ラグナロク、いやだが以前会った彼等とは雰囲気が違う………。

 しかし、同じ神器を持って……」 


 「私と戦うつもり?

 これ以上怪我人をあまり出したくないの」


 「これだけの惨事を引き起こしておいてか?」


 「私は、そこで倒れている彼女を助けただけよ」


 「民間人が神器の保有など、聞いたことがない

 所属は何処だ?」


 「わからない」


 「ふざけているのか?」


 「ふざけていないわ、私は何も覚えてないの。

 私には記憶がないの、路頭に迷っていた見知らぬ私をここの人達は助けてくれた」


 「嘘では無さそうだな……」


 会話が物騒過ぎる、お互い銃口を突き付けて臨戦態勢もいいところ。

 しかし、ラウさんの言葉通り神器を使った彼女の存在には違和感を覚えた。


 しかも、その力は多分シラフ先輩と同じモノだ。

 でも、同じ神器が二つ存在するなんてあり得るのか?

 

 シラフ先輩が追ってるラグナロクという組織の人間が同じ神器を使用していたと言っていた気がする。

 

 でも、その人は男性で目の前のアレとは別人。

 サイの発言が真実と仮定するなら、この人はヴァリス王国の人間であり、彼女の仲間だったということ。


 マスターが研究していた人工神器とは、別のカタチで実用化されたモノと考えていいはず……。


 「あなた達の方こそ、何者なの?

 私を知ってるコイツの仲間?

 それとも、そこの彼女の仲間?」


 「私はラウ、ラウ・クローリア。

 そこの彼女は、私の知人によく似ている。

 怪我した方の彼女とは、一応知り合いだ」 


 「ラウ……」


 「お前の名前は?」


 「ヘリオスよ、ヘリオス・フレン。

 でも彼女は、私をヘリオス・カーエルフと呼んだわ」


 「ヘリオスだと………」


 ラウさんは当然心当たりがあるはず。

 シラフ先輩の神器の銘がヘリオスであるからだ。

 名前だけなら、同じ名前など幾らでも居る。

 でも、扱う能力と名前が被るとなると……。


 「とにかく、落ち着きましょう!!

 ここはまず!はい!、ええと………とにかくです!」


 そして後ろで慌てふためき、とうとう勝手に騒ぎ出した獣人の少女………。


 状況が混沌としつつあり、騒ぎを止められそうなシトラさんに至っては、アレを放置し私の手当をしてくれている。

 ありがたいけど、今すべきことなのか……。


 別に結構傷は痛いですけど、多分治る範囲。

 最悪治療が少しくらい遅れても問題ないはず。


 「出掛けていると聞きつけて来てみれば………。

 全く、すぐに手を引けとあれ程言ったのに……」


 そう言って、男は倒れているサイに駆け寄り傷の具合を見ていた。


 男?待て、いつの間に?

 

 私と同じ反応を、ラウさんやシトラ、そして例の獣人。

 そして、ヘリオスと名乗った彼女も同じく驚いた反応を示したのだ。


 「済まないね、こちらの手違いで色々と無礼を働いてしまったようだ。

 後日、改めて謝罪の旨、及び相応の賠償をしよう。

 ラウ・クローリア、シトラ・ローラン、リリィ・ザルフィア、アクリ・ノワール。

 そして、ヘリオス。

 僕はね、君を探していたんだ。

 一応、今の君の状態は既に報告を受け聞いている。

 記憶喪失なんだって、色々大変みたいじゃないか?」


 「っ………」

 

 倒れたサイから離れ、ヘリオスへと近づく謎の男。

 彼の得体の知れないナニカに、ヘリオスが僅かに怯えていると、差し出した手をラウさんが払い除ける。


 「彼女の関係者なのか?

 しかし、私達を知っているとはどういう意味だ?

 名前は?」


 「あー、失敬。ついいつもの癖でね。

 自己紹介がまだだったね、ラウ君。

 僕の名はタンタロス。

 いやこれはまぁ表向きな名前でね、役職上のコードネームというか、なんというか……。

 本名はビーグリフ・ロゴス、まぁヴァリス王国の官僚みたいなものさ?

 君達の事は前々から知っているよ、ノエルのホムンクルスと、帝国のアルスの一人娘、そしてアルクノヴァのホムンクルス。

 これで間違いないだろう?」


 「間違いはない」


 「そうか、良かった良かった。

 直接君達に会うのは初めてだからね、まさかなぁとは思ったんだ。

 まぁ挨拶はこの辺にして……、

 彼女をこちらに引き渡してくれないかな、ラウ君?

 正式な書類は自警団、間もなくサリア国王から正式名な証明を貰える手筈なんだ。

 どうせ今日会ったばかりなんだろう?

 僕の部下が君の友人を害して件については色々と思うところはあるだろうが、ここは私の顔に免じて彼女を大人しく引き渡して貰いたい」


 「………」


 なんだろう、この人。

 雰囲気は優しい印象、そして彼の言葉には何処にも違和感はない。

 いや、違う……この人……あのホムンクルスとは別の方向でかなり危険な存在だ。


 ラウさん、もうそれに気づいてる。

 彼女を渡したら取り返しがつかないと、分かっているんだ………。

  

 「私の言葉が信用出来ないかい?」


 「唐突に現れて、騒ぎも無かった事にして、そしてそんな都合よく彼女を引き取る真似をしたいなど、おかしいことこの上ない。

 何が目的だ?」

  

 「目的も何も僕はただ、知人を引き取りに……」


 「彼女は聞くところ記憶喪失の様子。

 どんな事情があるかは知らないが、私に対して即座に武器を構えた彼女が、お前には怯えた様子を示した。

 改めて聞く、お前は何が目的だ?」

  

 「はぁ……、そういう勘の鋭いところは創造主に似ているよ………。

 僕は正直手荒な真似はしたくないんだけど、彼女を返さないのが君達なら話は別だ」


 男はそう言って、先程までの優しい雰囲気が消えラウさんの顔面を突如掴み掛かると後ろへと放り投げた。


 「ヘリオス、手荒な真似はしたくないんだ?

 僕と一緒に来てもらうよ」


 「グリモワール起動……対象の観測を……」


 「その申請を却下」


 ラウさんがすぐさま反撃に移ろうと動くも、男の声にラウさんのグリモワールが反応に魔力の高まりが突如無くなる。


 「な………」


 「ラウ君。

 僕はね、君を知っているんだよ。

 君の持つグリモワールの事も当然さ。

 しかし流石だな、ノエル。

 グリモワール内部の一部書き換えもしていたんだ。

 なるほど、この世界の文明も中々甘くみれないな」


 「グリモワールが使えない……だと……」


 「ここまでするつもりは無かったんだ。

 しかし、君達が来るのは僕も想定外……。

 セフィラパラドックスのシトラ君がこの近くに飛ばしたのは、何の意図か偶然か………。

 でも、君達程度で良かったよ。

 最悪シファ・ラーニルを引き当ててしまった場合は本当にどうしようかと思ったからね。

 まぁ、そんな彼女も今は居ないみたいだ。

 何処の誰かは知らないけどね」


 「貴様、一体何者だ?」


 「言っただろう、僕はビーグリフ。

 ヴァリス王国の………いや違うか、君の聞きたいのはそういう話ではないよね」


 「………」

  

 「僕はね、今のこの世界を生み出した存在さ。

 君達が魔力と呼ぶファムを生み出し、君達人類の信仰する世界樹を建造し、神器、そしてグリモワールの制作者でもある。

 そこのヘリオスや異種族を生み出したのも僕、そこで倒れてるサイ君に関しても同様にね」


 「な………」


 「驚いたかい?

 つまりさ?

 僕には君のグリモワールや神器の攻撃は効かない。

 僕の生み出した魔力という概念であり、グリモワールや神器なんだ。

 そもそも、創造主である僕個人を直接害せないんだよ。

 いや違うか僕の命令は絶対順守、僕が命令すれば全ての神器は愚か、魔力だって管理下にあるんだよ。

 僕が目指す世界に必要だから、僕はこれ等を生み出したんだ、君達は僕の道具を借りてるってだけの猿なんだよ。

 わかるかい、猿ども? 

 余計な手間は掛けたくないんだ、だから大人しく彼女を引き渡してくれよ、な?」


 「っ………」


 不味い、でもあの人に彼女を渡すのは………。


 「私が行けばいいんだよね、ビーグリフ。

 彼等は私とは無関係、だからこの人達には手を出さないと約束して」


 そう言って、ラウの肩を掴んで二人の間にヘリオスは割り込んだ。


 「そうしてくれると僕も助かるよ」

 

 「………、っ。」


 「ありがとう、私を助けようとしてくれて。

 大丈夫よ、あなた達ならきっと………」


 「サイ、いつまで寝そべっている。

 そろそろ戻ろう、ここに用はない」


 黒い液体となり、元の人型へと彼女は戻ると身体を伸ばし自分の動作確認をする。


 「申し訳ありません。

 今後の活動にも支障はないかと」


 「そうか、それでは戻ろうか………。

 また会おう、ラウ君。

 それと、もし彼に会うことがあれば伝えてくれ」


 「彼だと?」


 「シラフ君だよ、私の古い知人でね。

 父娘共々、我々は君を待っていると………。

 来るも来ないも自由だが、来ないなら我々の敵とみなし近い内にサリア王国共々死んでもらう。

 期日は、結婚式の翌日。

 王都の中央広場にて……、君の答えを聞く、とね」


 そう言って、男とサイはヘリオスを連れて私達の目の前から去って行った。


 「シトラ、アクリの容態は?」


 「問題ない、ただ動くにはもう少し掛かりそうだ。

 君こそどうなんだ、アレに君の力を封じられたみたいだが」


 「………想定外だ。

 あの男、今の私ではどうにもならない。

 先程見た通り、私の力はあの男の前では無意味だ。

 それに、神器の力も………」


 「…………」


 「それと、気になった事がもう一つある。

 シファについて、あの男はもう居ないと評した。

 彼女に何かあった可能性がある。

 連れ去られたヘリオスも気になるが、まずはシファを捜索するべきだろう。

 シトラ、リリィ。

 アクリの事は任せた、私はシファを探す。

 翌日の夜まで戻らなかった場合、彼女無しで今後の動き及び対策を錬る。

 あの弟も交え、戦力を可能な限り集めておきたい」


 「だが、神器も効かないのだろう?」

  

 「戦い方は素人に少し毛が生えた程度だ。

 しかし、能力が非常に厄介。

 他の手下も相応、あのサイという者のように癖の強い輩が数多くいると見ていい。

 とにかくだ、私はシファを探してくる」


 そう言って、ラウさんはこの場から立ち去ってしまった。


 「………ま……ずい」


 「アクリ、無理して喋ろうとするな。

 まだ身体は」


 「問題、ありません……このくらい。

 シファさんは本当に亡くなっている可能性が高い。

 教皇って人の話が本当ならですが………」


 「教皇が……?」


 「ええ、だから今ラウさんが離れてしまうのは本当に不味いんですよ。

 余計な時間を来ない人間の為に割くのは、無駄でしかありません……。

 そんな事をしてるくらいなら、信頼出来る戦力となりそうな人達を少しでも集める方が無難です。

 最も、私でこのザマとなるとアレに勝てるかどうか」


 「………君の話が本当だとして、今から捜索に向かうのも難しい。

 全く、次から次へと厄介事とはな……。

 アクリ、シラフ君は今何処に?」


 「テナさんの屋敷です、そこにルーシャ王女も。

 テナさんはそろそろ味方を連れて来る頃でしょうが、その人達にこの場の処理は任せましょう。

 あのビーグリフって人、何か得体のしれない力で色々な人達を懐柔している可能性があります」


 「どういう意味だい?」


 「神器かそれに付随する魔術の一種で、言葉に信用を持たせる力があの人には働いているかと。

 何もデメリットがない訳では無いでしょうが、あの人の言葉は交渉や様々な分野で色々と融通が効くみたいな事が出来るんだと思います。

 ヘリオスさんの身柄を預かる為に、普通国王からそんな許可が降りるなんてまずありませんから。

 それが仮に嘘を連ねただけだとしても、私達なんかを相手に真実も嘘も語る必要はハナから無かった。

 腹の底が見えませんよあの人……」


 「………交渉についてはどうする?

 彼に伝えるのかい?」


 「伝えたところで、結果は変わりません。

 ルーシャ様が彼を引き留めるに決まってます。

 つまり、私達はどのみち戦いに巻き込まれますよ。

 逃げるなら今のうちですね、でも彼等を野放しにするのは後々世界全体に影響が出始めると思います。

 向こうが世界征服とか企んでる可能性がない訳ではありませんので……。

 やるなら、向こうの戦力が全て整っていないサリア王国への滞在期間の間くらいですね。

 地も数の利も恐らくこちらにありますし。

 ここで彼等を討つ、それが私達に残された唯一の勝てる手段です」


 傷が残る身体を奮い立たせ、治癒魔術を施しながら私はゆっくりと立ち上がる。


 「さてと……。

 それじゃ、テナさんが戻り次第シラフ先輩の元へと戻りましょうか?」


 「本気かアクリ?

 私達の独断でこの国を巻き込むのか?」


 「巻き込む?

 向こうは最初からこの国を消すつもりですよ。

 今まで無事だったのは、シファ・ラーニルとシラフ先輩の存在あってのモノでしょうね。

 他には……、何か経済的要因とか?

 向こうも大人ですし、お金は欲しいですからね。

 サリア王国って割とお金の流通に関して心臓部みたいな役割をしているんですよ。

 欲しい人達は結構居るんじゃないですか?」


 「いやだが………」


 「まぁ、私達とは無関係ですからね。

 シトラさん、それとそこで狼狽えてる獣人さんも巻き込まれたくないなら、今すぐ手を引いて下さい。

 最悪、私とシラフ先輩だけで何とかしますので」


 「あの、えっと……。

 私も行きます!!」


 そう言って、声を上げたのは例の獣人。

 うーん、なんかこの子居ても、邪魔になりそう。

 すごく鈍臭い雰囲気が………。


 「あなたが?

 どうして、来るんです?

 私、あなたとは初対面ですよね?

 シラフ先輩とは幼馴染みたいな古い付き合いがあったりとかします?」


 「えっと……あの、私はリリィって言います。

 ノエル様に生み出されたホムンクルスの一人で、えっとラウ様からシラフさんの護衛役をして欲しいって私、頼まれて………」


 「護衛って……あなたが?

 本気で言ってます?」


 「あの、えっと………」


 「アクリ、彼女の実力は私が保証する。

 一応、練習試合とはいえラウを一撃で戦闘不能に追い込んだ実力がある。

 彼女なら、君達の足手まといにはならない。

 むしろ、良い協力者となるだろう」

  

 ラウさんが一撃で、コイツにやられた?

 でも、シトラさんがそう言うなら信じても良さそう。

 ラウさんが彼女に彼の護衛役を命じたのにも何かしらの意図があるはずだ


 「…………、わかりました。

 シトラさんはどうします?」


 「コレを見て黙認するのもな………。

 それに、サイとかいう存在を生み出した者に興味がある。

 君、結構強いってラウから聞いたけどうっかりやられるとは、相手も相当手練れみたいだね。

 それとも、君がそこまで強くなかったとか?」


 「少し油断しただけですよ。

 その油断が割と致命的でしたけどね」


 「アレを生み出した者を知っているか?」


 「ヴァリス王国のアーゼシカと」


 「アーゼシカ………、なるほど。

 ソイツは私が何とかしよう。

 おそらく、私と同類の魔術師かもしれないからな」


 「でも、研究者ってだけかもしれないですけど。

 テナさんの姿も見えてきましたし、私達も動きましょうか?」


 自警団を引き連れたテナ達と合流した私達は、この場の出来事を軽く報告して、あとの事は彼等に一任した。

 問題が問題なので、テナさんの権限を以て今回の出来事を王国騎士団の管轄で処理する事になった。


 ビーグリフ率いるヴァリスの者達に対して、こちらは男と女数人、その全員が未成年ときた………。

 それに加えて王国騎士団の協力が得られるとするならかなり助力としては大きいが、彼等の実力を信用してもいいのだろうか?


 まぁ、この国の軍はシファ・ラーニルが鍛えた国。

 その練度は世界でも上澄みの部類だろう、恐らく。


 決して勝てない戦いじゃない。


 いや、勝たないといけないんだ。

 

 シラフ先輩の為にも、私の為にも………

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