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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
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因果は巡り重なりつつ

帝歴404年1月10日


 「………、夢?」


 床に倒れ伏していた私は全身に鈍い痛みが残る中で、辺りを見渡す。

 先程まで確か、リリィと試合をしていて……。

 それから、


 身体に感じる何かの重量感に気付き、私はその方向へと視界を向けると私と大差ない程の傷を負ったリリィの姿が目に入った。

 

 余程疲れているのか、私の身体を枕代わりにし寝息をかきながら熟睡している模様である。


 「引き分け、いや……この分だと私は負けたのか……」


 乾いたようなため息が漏れ、高い天井を見上げる。

 これで何度目の敗北だろう?


 カオスという存在を倒す為だけに時間を費やし力を身につけたはずだと思っていたが。

 蓋を開ければ格上の存在が溢れてくる。


 夢で見た未熟な頃の私の記憶……。

 シンと初めて王都へ赴いた頃の、どこか懐かしくそして楽しかったとさえ感じた思い出……。

 

 外の世界に憧れ、私はさらなる知識と見聞を広げる為に王都に一日でも早く行きたかった。

 私の無理をシンは受け入れ、いざ行ってみれば厄介事に絡まれたりと色々と散々だった訳だが。


 だが、当時の時点で既にシンよりは力を付けていた私が初めて格上だと認識した存在、ティルナ。

 ラーニルの姓を持ち、その名に相応しい実力を兼ね備えた存在だった………。


 今の私なら恐らくは、彼女に勝る程だろうか?


 あの時、少しでも選択を謝れば賊と同じ末路を辿っていたに違いない。


 「ラウ、さま……」


 「………」


 シトラ達の気配はない。

 こちらの試合の見物に飽きて、先に向かったのだろうが……。

 

 リリィが私に固執する理由は、ノエルに植え付けられた潜在意識のようなモノだろう。

 シンよりも後に作られた彼女は、元々シンの代わりに行動を共にするように設計されていた。


 しかし、シンは彼女自身の意志で私との道を選んだ。

 今ならまだ引き返せるところに居るリリィを、植え付けられた意志に任せ、わざわざ私の進む道に巻き込むのか?


 私より優れた能力を持つ事は十二分に理解した。


 だが…、本当にそれでいいのか?


 いや、元々は私の目的を遂行するべく必要な存在としてノエルは生み出した。

 ソレを私が利用しない選択肢などないはず。


 それでも、今の私の進む道に巻き込ませる程のモノが存在しうるのだろうか?


 目的も定まらず、気付けば元の家に帰ってきただけ。

 そして、本来共に居るはずのシンはもう居ない……。

  

 「いや……。

 今更何を考えているんだろうな、私は……」


 全身の疲労感に任せるまま、気付けば再び意識が途切れようとしていた。



 「置いて行って良かったのか、あの二人?」


 「彼等の邪魔をしては悪いからね。

 それに一度お前とは話したいと思っていたんだ」


 私の前を歩く、未来の自分。

 どうも慣れない不思議な感覚を覚えながらも、先程の言葉の真意が気になった。

 まぁ、昔の自分が丁度目の前に居る訳だ。

 これから先に起こる出来事の助言か何かなのだろう。


 「二人を置いた理由はソレかい?」


 「そんなところかもな。

 まぁ、実際聞かれたくない話ではある。

 特に、ラウにはね」


 「ラウには聞かれたくない話か……」


 「実はな、彼が何の為に生まれたのか、私はもう既に知っているんだよ」


 「………そうだろうな。

 曲りなりにも未来の私自身だ。

 これから起きる出来事の多くは知っていて当然だろう?」


 「………ノエルさんは帝国を捨てた後にこのサリアにその余生を過ごした。

 時代の流れに揉まれながらも、あの人は自分の信念に基づいて帝国で続けていた研究をその最期まで尽くし、後の事をシンやリリィに託した。

 そして、ラウにも……」


 「………」


 「実はサリア王国のクローバリサとノエルさんの家系であるクリフト家とは、帝国時代から縁があってね。

 この村の土地を与えたのもクローバリサなんだよ」


 「クローバリサ……。

 確か王国でも名のある貴族の一つだったか」


 「まぁ、今の私も知ってるのはそのくらいだろうな。

 私も、あの人の細かい過去を知るまではその程度でしか認知していなかった。

 とにかく、かの家とノエルさんは昔からの付き合いがあったんだ。

 で、クローバリサ家から村の土地を得る代わりに一つの取引をしていてね」


 「何の取引を?」


 「ホムンクルスを何体かを提供して欲しいとのこと」


 「ホムンクルスを?」


 「ああ、何でも強い兵が欲しいそうでね。

 しかし、サリア王国にはヴァルキュリアという世界的に見ても強力な軍隊が存在している。

 それなのに、クローバリサ家はホムンクルスの兵を欲したんだよ」


 「人間が人間の兵が信用出来ないとは不思議な話だ」


 「あの家の者達は人間ではない、いや正確に言うならクローバリサともう一つの家は、その起源が人間では無かったというのが正しいか……」


 「人間ではない?

 つまり、ラウやシンのようなホムンクルスや人造人間といった類いの家系であったと?」


 「そこまで複雑なものではないさ。

 妖精族、彼等の存在を聞いた事はあるだろう?」


 「ああ、だが既に滅んだ種族のはずだ」


 「その通り、しかし彼等はその末裔なんだよ。

 クローバリサは妖精族にとっての王家に当たるオベイロンの血族として。

 そしてもう一方は、彼等を裏切ったカーエルフの末裔として、お互いに名前を変えて今尚存在している」


 「オベイロンとカーエルフ……」


 「シファ・ラーニルの弟君であるシラフ君の家系が、カーエルフの末裔であるカルフの家だった。

 両家は遥か昔から対立していてな、カルフ家が正式に王国の貴族としての爵位を与えられても尚、細かいいざこざは絶えなかったが」


 「貴族同士の争いに手を貸すとは、あの人にしては珍しい判断だな。

 それで、それとホムンクルスの兵と何の関係が?」


 「ここサリアより北のヴァリス王国とカルフ家は昔から親しい付き合いがあってね。

 カルフ家が爵位を与えられたきっかけも、ヴァリス王国との関係があったからだとも言われる程だった。

 まぁ他にも、他国の有力商会との繋がりが強かったり、クローバリサが内政で支配力を得たのならカルフは外交で力を持った家だった。

 両家が相容れなくとも、その存在はサリア王国にとって重要な役割を果たしていたんだ。

 帝国との対談の際に一枚噛んだのが、カルフの一族と言われるくらい、あの家はかなり重要な役職だったと言えるだろうな」


 「ソレが何だと?」


 「クローバリサにとって、カルフ家はかなり邪魔だったんだよ。

 内政こそ一番の力を持っていたが、帝国勢力の拡大に伴って外政の力が非常に重要になった。

 ホムンクルスの強い兵を求めたのは、そんなカルフに対する警戒だったのだと、当初はそう思っていた」


 「今は違うと?」


 「カルフの家は事実上滅んだ。

 生き残りの彼がいるにしろ、今のカルフにそんな力はない。

 だからクローバリサはあの人に頼んだんだ。

 クローバリサ家はホムンクルスにカルフを襲名させ、元々カルフ家の傘下にあった勢力を自分達のモノにしようとしたんだ」

 

 「ならば、わざわざ強いホムンクルスである必要はないだろう?

 何故力を欲したんだ?」


 「生き残りの彼が居るだろう?

 十剣シラフ・ラーニル、もといハイド・カルフの存在が非常に厄介だった。

 シファさんの管理下の元で存在しているのが、より面倒事らしくてね、彼の扱いに関しては非常に難しかったそうなんだよ」


 「例の弟君がそこで邪魔だったと?

 つまり、彼を殺す為に強いホムンクルスを?」


 「半分は正解だよ。

 クローバリサ家が強いホムンクルス、もといラウ君を生み出すように指示した本当の理由は、ハイド・カルフの監視役を欲したからなんだ。

 神器の力に対抗しうる力を持ち、尚且つ十剣の助けになれる存在をクローバリサ家はノエルに求めたのだからね」


 「敵対しているはずの彼の助けに、ラウを利用したかったのか?」


 「ああ、クローバリサ家は元より彼を殺すつもりは無かった。

 むしろ陰ながら彼を助ける意向を示していた。

 ノエルさんは土地の兼ね合いもあって、ソレを承諾し早速制作に取り掛かった。

 が、彼女の方もただ向こうの要求に飲む訳ではなく個人的な私怨も兼ねて帝国の英雄の遺伝子やグリモワールを組み込んだ彼を生み出した。

 そして時が来たら彼自身に選ばせるつもりだったんだよ、今のサリアか過去の帝国かを……。

 ノエルやラウに仕えていたシンはソレを知っていたからこそ、彼に同行したんだと思う」


 「………」


 「もし、今のシラフ君がサリア王国の未来に邪魔であると判断すればクローバリサ家はラウに彼を始末させた後に、カルフ家を代理で襲名させるだろう。

 丁度今、その大きな岐路にシラフ君は立っているだろうがね………」


 「ソレ、一体どういう意味?」


 「シラフ君の父親が生きていたんだ。

 本来ならば、クローバリサ家の先代当主と先代のサリアの国王陛下の手の者達によって選定の義を装いカルフ家は親子共々暗殺される予定だった……。

 その後、時を見計らってうまいことラウ君にカルフを襲名させるのが本来の計画のようだ。

 当時のクローバリサ家の当主とサリアの国王は仲が良かったのだが、当時の記録から察するにあまり良い話を聞かない人物等らしいしな。

 細かい理由はどうあれ、両者を筆頭に一家を皆殺しにしようとしたのが事実だ」


 「…………」


 「と、話がこれだけならまだマシなんだがな……。

 余罪を挙げれば正直キリがない上に、私でさえあの親子の復讐には同情もしたくなる程だ。

 しかし、今現在その当人等は既に亡くなっている訳なのが更に酷い。

 責任を取る本人が既に死に絶えた、だがそんなモノを軽く受け入れる程お人好しな訳が無かった。

 激しい憎悪の因果は次の世代に渡り、今にも復讐の刃は血に染まろうとしているんだ。

 何とも酷い有り様だの思わないかい?」


 「………。

 自分の工房欲しさに、その条件をあの人は受け入れたのか?」

 

 「真意は分からないが、事実としてこの地下空間が存在しているんだ。

 何らかの条件を飲んで、建てた事にかわりはないだろうな。

 まぁ、あるいは建前の条件を呑んで本来の意図を読み取れなかったのかもしれないが………」


 「そうか………」


 「サリア王国は確かに素晴らしい国だ。

 しかし、大きな光の裏には相応の闇が存在している。

 私の故郷であるラークも同じだったろう?

 私の父が、教職の裏でアルクノヴァとサリアの二重スパイとして暗躍もしていたくらいだからな。

 文明を築いた国等どの国も似たようなモノさ」


 「それで、結局何が言いたいんだ?」


 「これから向こうの資料を回収する前に、あるモノを見せておく。

 いいか、これから見るモノについて決して他言はするなよ?」


 「…………、一体何を見せるつもりだい?

 念押しする程のモノなのか?」


 「まぁ、見れば嫌でも分かるさ」


 彼女の言葉の真意が何なのか、興味は尽きないが未来の自分がそこまで言う程のナニカに対し、恐怖に似た悪寒を僅かに感じていた。

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