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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
271/324

新たな仲間と、始まりの場所へ

帝歴404年1月10日


 朝の騒動が収まり、騒ぎに釣られて起きたこちらのシトラは欠伸をかきつつも、眠そうな様子でゆっくり朝食を食べる。

 もう一人の方は、私と獣人のホムンクルスであるリリィの手当を受けた事でかなり疲労している模様である。


 「そちらの私は随分と呑気なものだな……」


 「君の方は、朝からお疲れのようだね。

 初めてみる顔が居るが………。

 ラウ、アレは君の趣味かい?」


 「第2世代型ホムンクルスのリリィ・マルクト・ザルフィア、通称リリィ。

 ノエルやシンの後継として控えていた、ホムンクルスの一人だ。

 獣人族を元にしており、身体能力は非常に高いが魔力量は種族由来で少なめ。

 本来ならば、今も尚地下で眠らされているはずなのだが、勝手にそちらが起こした挙げ句に色々と変な事を教え込んでいたようだが……」


 「という感じです、はい……。

 ラウ様やシン様、創造主であるノエル様の事は事前知識として存じておりました。

 でも、私いつの間にか二人から置き去りにされてたみたいで………」


 「君と彼女が、その子を連れて来なかった理由は?」


 「事前知識が不足し、彼女が信用出来るのかという不安要素が大きかった。

 が、勝手に起こされ妙な事をこれ以上吹き込まれるのもどうかというのが現状だろう。

 彼女が信用出来る存在なのかは、今後の経過を見つつ判断する」


 「ふーん、つまりその子はとりあえず連れてく訳か」


 「そうなる。

 再び眠らせておくべきではあるのだろうが……。

 諸事情あって、彼女の力もいずれ必要になる」


 「いずれ必要になるというのは、貴重な戦力としてかい?

 それとも、他に何かが?」


 「手短に説明するなら、我々の敵に対抗出来る力を彼女は有しているらしい。

 詳細については、後で説明する」


 「なるほど………。

 にしても、まぁなんというか………」


 シトラはそう言うと、リリィの方を見て何かを察したのか突然静かに頷いた。


 「何に納得している?」


 「いや、まぁ……相変わらずの趣味だと。

 君、やはりこういうのが好みなのかい?」


 「さぁな、恐らくはノエルの趣味だろうよ。

 ただ、獣人は愚か異種族を用いてのホムンクルスを作るのはかなり至難であったはずだ」


 「そうなのかい?」


 「当の本人にその自覚はないだろうが、異種族でホムンクルスを生み出す場合、その力が強過ぎて最悪数年で身体が保てず自然崩壊する。

 第2世代のシンでさえ、寿命は僅か二十年。

 それを、元々身体能力が非常に高い獣人族を用いたなら尚更の事だろう」


 私がそう言うと、皆の視線が朝食を口に詰め込みリスのような状態のリリィに向かう。

 気恥ずかしくなったのか、すぐに飲み込むも喉に詰まらせ急いで飲み物を口に入れた。

  

 「少しは落ち着いて食べるといい。

 食事は逃げない、多少は遅れても構わん」


 「っ……、あ……すみませんこんなに美味しいのは初めてで………。

 えっと……あと、その……、確かに私はその獣人族を元にしたホムンクルスです。

 元の動物はこの見た目の通り犬で、勿論尻尾だってありますよ。

 でも私、シンという方の第2世代のホムンクルスの性質に少し改良を加えた第3世代のホムンクルスなんです。

 私のこの身体が異種族としての力に体が耐えられるような特殊な技術だったり、元々の獣人族と比較してもかなり高い魔力を保有出来るようにしたりと……。

 例えば、寿命の点についてのところは、多分あと40年程度はあるはずです」


 「第3世代のホムンクルスか…………」

 

 リリィの言葉から告げられたその単語に、昨年一戦を交えたローゼンの姿が脳裏に過ぎる。

 アレがつまるところのアルクノヴァが生み出した、第3世代のホムンクルスであり、その力は私を凌駕している点は数多くあった。

 グリモワールが無ければ私は敗北していただろう。

 先の任務で、既に例の妖精族に殺された事実が衝撃的ではあったが………。


 アルクノヴァの生み出した第3世代の時点で、人工的に生み出した神器を扱えるという特性がある。

 この点だけで、既に高い評価があり私はソレに苦戦を強いられた。


 しかし、目の前の彼女もまた第3世代のホムンクルスであり、ノエルがアルクノヴァとは別の方向性で生み出した存在であるということ。

 

 「異種族の力を有したホムンクルスか……」


 「はい。

 前任の彼女は、元々戦闘タイプのホムンクルスではありませんので、最低限自衛の出来る程度且つラウ様の助手として充分に活用出来るように生み出したはずです。

 私は初めから戦闘タイプのホムンクルスとして生み出されたので、その性能差はかなりあるかと……」


 「それだけの事前知識をどうやって手に入れた?」


 「創造主であるノエル様が、与えたモノです。

 その、少しは事前知識が無いと二人のお世話は大変だろうからと言う理由らしいですが……。

 その分私はこうやってすぐに動けたから良かったんですけど、そのことをお二人は知らなかったみたいですよね………」


 彼女はそう言うと、マグカップに淹れられた砂糖の多めのカフェラテに口を付けゆっくりと飲み干した。

 

 「おかわりは必要か?」


 「あ……はい、えっとお願いしますラウ様……」


 彼女はそう恥ずかしそうに私に言いうと空のマグカップを手渡してきた。

 

 「私もおかわりを貰おう」


 「なら、私も貰おうか」 


 「了解した、少し待っていろ」


 シトラ二人も私に空のマグカップを差し出し、私はソレを受け取る。

 彼女の言った、二人分のお世話という部分。

 確かに、私が生まれた当初はシンが常に私の側に居たお蔭でなんとかなった。

 しかし、加えて彼女の世話もすることになるのはいかに家事が得意だった彼女でも苦労は容易い。

 本来の使い道としは、私の世話を二人掛かりでさせるべきだったのだろうが………。

 その点をノエルは彼女に伝えなかった、あるいはシン自身が彼女の命令に逆らった事になる……。

 

 彼女亡き今となっては、その意図は不明。

 いや、彼女の記憶を継承したアクリならば知っている可能性があるだろうか……。


 どちらにせよ、目覚めてしまったのは事実。

 加えて、今後迫る脅威の対策として人手は多いに越した事はない。

 

 今後、倒すべき敵のラグナロクが勝手に滅ぼうが、私にとってさして問題ない。

 更なる脅威が迫っている事を異時間同位体のシトラは語ったが、それが真実なのかをこの目で確かめる必要があるからだ。

 それが嘘であれ、事実であれ、私の目的の障害となり得るのなら対策する必要がある、それだけの事。


 異時間同位体は危険な存在。

 ラグナロクはソレを我々よりも遥かに昔から理解していた……。

 シファも恐らくは、彼女達を警戒している。


 用が済めば、恐らくは………。


 「…………」


 思考を巡らせながらも、彼女達のお代わりのコーヒーを淹れ終え、それぞれを本人達に届ける。

 シトラ二人は、いつものように眠そうというか退屈そうな顔をしつつ、コーヒーを口に含め嗜んでいる。


 ソレに反して、リリィの方はマグカップに息を吹き掛け僅かに冷ますとソレを一口含み、幸せそうな表情を浮かべていた。

 私と僅かに視線が合うと、すぐに反らし気恥ずかしそうに視線を下に向ける。

 そういえば、彼女は尻尾が生えていると言っていた事を思い出し、ソレのあるべき部位を見やると犬科特有の尻尾が激しく動いていた。


 少なくとも機嫌は良いという事だろう。

 

 「その……、あんまり見られると恥ずかしいです。

 何か可笑しいですか、私………」


 「いや、そうではない。

 ソレが気に入って貰えて何よりだ。

 それでだ、今後の予定として……。

 三人共、朝食を終えたら地下の研究室へ向かう。

 粗方の資料を持ち帰るのに加えて、多少の調べ物をしたいところだが………。

 リリィ、君の実力を把握したい。

 研究室に併設されている修練場にて、私の軽く試合の相手をして欲しいのだが頼めるか?」


 「あっ………はい、勿論!

 私からも是非お願いします、ラウ様!!

 私、絶対に貴方様のお役に立ちますっ……て、うわっぁぁぁ!!」


 威勢の勢いがあまり、持っていたマグカップから手から離れ服に中身がこぼれた。

 テーブルの上にも中身がまき散らされ、彼女の声に驚きシトラ達が僅かに驚いた様子である。


 「すみません、すぐに片付けますから!!」


 「全く、まずは火傷の処置が優先だ。

 片付けはそのすぐ後でいい、他に怪我は?」


 「えっと、熱には強いので火傷は大丈夫です。

 ですがその、コーヒーが身体に染みてきて………。

 あの………その、えっと………」


 「………シトラ、済まないが彼女の処置を頼む。

 こちらで掃除は済ませておく」


 「「どっちの私だい?」」


 「この状況でふざけるな、どっちでも構わない。

 二人の昼食を抜くぞ?」


 「はーい、それじゃあ昔の私に任せるよ。

 私は先に地下室の方に行って、少しばかり準備をしてくる。

 ソレが何かは見てからのお楽しみって事で」


 そう言って、包帯巻きの彼女はそそくさとこの場から立ち去った。

 

 「はぁ、全く………。

 えっと、リリィちゃんだっけ?

 火傷とか、怪我はないんだよね?

 とりあえず、軽く身体を洗って着替えようか」


 「はい……その、すみません……」 


 さっきまでの元気が無くなり、尻尾と耳の垂れた感じから彼女の感情が容易く読み取れる。

 そのまま彼女は、もう一人のシトラと共にこの部屋を抜けていく。

 

 残された私は、僅かに残された食べ掛けの朝食と騒動で散らかったテーブルの片付けに追われた。


 

 一通りの片付けを終えた私は、シトラそして着換えを終えたリリィと共に地下の研究室へと足を運んだ。

 研究室へは、一階の客間の隅に置かれた棚をどかし、その床を剥がすと入口がそこにある。

 既に一人先客が居るので、入口は丸見えの状態なのだが………。


 「ここにあの人の研究室が……」

  

 「大した事はない、ここを作る際の費用は帝国時代に稼いだ八英傑時代の貯金らしいが……」 

  

 「八英傑……、しかしノエルさんは他の彼等のような神器は持っていなかったはずだが……」

  

 「埋め合わせの枠だ。

 彼女の枠は元々、君の父親であるアルス・ローランが役割を担っていた。

 当時八英傑の長を務めていたレギクアーラ・オラシオンの怪しい動きを見た彼は、その際に帝国反逆の冤罪を掛けられ帝国各地を逃亡していた。

 彼の抜けた穴を埋める為に、元々優れた魔術師としても活躍していたノエルは渋々八英傑の座に立つ事を決めたらしい………」


 「ソレ、初耳なんだが?

 そもそも、そのレギクアーラ・オラシオンって……」


 「彼は皇帝の隠し子として、秘匿された存在だ。

 しかし、彼が神器に選ばれた事で、その後は八英傑の一人として、ノエルの婚約者であったハンク専属の護衛役も兼ねて八英傑の右腕として活躍していたようだがな………。

 一説には、彼がハンクを殺したという噂も流れた程だが、その真相は違うらしい……。

 彼は彼なりに、何かの目的を秘め帝国を変える為に動いていたようだが、冤罪の首謀者として、帝国を陥れようとした大罪人として当時の八英傑等によって討伐された。

 その戦いの後に、自身を戦死という事にしレギクアーラの残党が動きを抑える為に、お前の父親は八英傑の座を正式に降りラークへと移住した」


 「………、君に言われて初めて知ったよ。

 自分の父親が元八英傑なのは知ってたが、なんで異国のラークに流れて教師をしているのかの繋がりがさっぱりだったからな………。

 私自身、今更さして気にも止めなかったが………」


 「ノエルと君の両親は古い昔馴染みらしい。

 特に、君の母親とノエルはプライベートでも仲が良かった友人らしいが………」 


 「ソレは知ってたよ、私があの人に出会えたのは母親の縁があっての事だからな………。

 昔から飲み過ぎた彼女を抑えたりと、苦労が多かったらしいが………」


 「なるほど……」


 「帝国の八英傑…………。

 ノエルさんからの印象が特に強かった人達が、

 歴代最強のレギクアーラ。

 自身の交際相手だったハンク・オラシオン。

 その次に、かのラウ・レクサス………。

 軍神として恐れられた、ダルフール・ザルフィア。

 盲目の騎士、リーグ・アリステッド。

 帝国の女傑とも謳われたカレン・ミルフィオ。

 私の父親、アルス・ローラン。

 自惚れ屋のオルグ・ハリス。

 ラウの恋人であった、ルキアナ・クローリア。

 ノエルさんの弟である、ノイル・クリフト。

 帝国の地下街の解放を目指した、カロン・リノアス。

 彼女の生きた時代は、他にも八英傑が居たらしいけど様々な騒動の果てに若くして亡くなっている。

 ダルフール、リーグ、オルグ、して勿論帝国に反逆したカロンやノイルも勿論亡くなった。

 英雄とまで言われた、あのラウも……その恋人もみんなあの魔水晶を期にほとんどがね………。

 当時の八英傑で生き残っていたのは、私の父親とノエルさんだけだった………。

 それも今となっては、私の父親だけだが………」


 「………」


 「全く、私と君には一体どういう因果関係があって出会えたのだろうね。

 分からない事が多過ぎるよ。

 本当に偶然、君がノエルさんに生み出され、ラークへと編入した結果の末に私の元に来たのか?

 元々こうなるように、仕組まれたモノなのか……」


 「考えるだけで無駄な事だ。

 偶然だろうと、運命だろうと……今私達の目の前にあるのが現実だ。

 既に終わったモノを考える暇があるなら、目の前に迫る問題の解決に時間を使うべきだろう。

 もっとも、ソレはシトラ自身がよく分かっている事のはずだ」


 「己の存在理由に縛られている君にそんな事を言われるとはね………。

 全く、私がコレは君に教鞭をとるには既に潮時なのだろうな……。

 我ながら情けないよ、本当に……」


 地下へと続く階段を降りていくと、しばらくして人影が見えてくる。

 魔法陣の光浮かぶ扉の前に立つ先客の姿に、私達の視線が向かった。


 「待っていたよ、三人共。

 こちらの準備は整っている。

 心の準備は良いかい?」


 彼女の問いかけの答えは、既に決まっている。


 「生まれた場所に戻っただけだ。

 覚悟など当に出来ている」


 私がそのまま扉の前に立ち、魔法陣に手を掛け扉にかけられた魔術の鍵を解いていく。

 その様子を横で見守る、包帯の彼女はこちらに聞こえる程の小さな声で呟いた。


 「君を信じよう、ラウ」


 彼女の声の刹那に、扉の鍵は開かれその中が露わになる。

 己の生まれた地に、私は新たな仲間と共に踏み入れたのだった。

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