世界の 私達の 敵の敵
帝歴404年1月9日
自身の故郷であるクリアロッドへと戻った私とシトラは、馴染みの店で食事を取っていた。
しかし、この店の店主に預けていた家の鍵は現在他の誰かに貸しているようであり……。
その本人と思われる人物もこの店で食事を取っていたようだ。
それから間もなくして、例の人物は私達の向かいの席に座り話しかけてきた。
「済まないねラウ君。
君の家を仮屋として使わせて貰っていた」
「それくらいは別に構わん。
それで、お前は一体何者なんだ?
私の事も知っているようだが?」
「…………」
「まぁ、それなりに……。
話すのは構わないが、少し場所を変えたい。
君の家の方で、ゆっくりと話そうじゃないか?
先に向かっててくれ、支払いをしてくる」
謎の人物はそう言うと、店主を呼び出し支払いを済ませると私達と共に、かつての家へと共に歩き始めた。
●
暗い場所で、わざわざ全身黒ずくめのこの人物。
カラスのような面で頭全体を覆い隠しており、ただ静かに例の家まで無言で歩き続ける。
私から見る限りで少なからず何かの違和感を感じたというのが率直な感想。
声の調子や骨格から推定するに、この人物は恐らく女性である事が確実だろう。
そして己の持つグリモワールの観測結果からは、相当な実力を踏まえた魔術師である事が手に取るように分かる。
しかし、右足と両腕が義手のような状態であり歩き方も僅かにふらついているのが気になるところだが……。
同時に何かの既視感を私は感じていた。
「なぁ、ラウ……この人は……」
「……。
さぁな、とにかく付いていくしかない。
どの道、彼女とはいずれ会う定めのようだからな……」
「………そうだな」
「わざわざコソコソ話さなくても結構だよ。
かえって気が悪くなる。
こんな身なりをしている自分が悪いんだが、まぁ……向こうに着けばすぐに分かるはずさ?」
「私としては、さっさと己の素性を言って貰った方が対応しやすいのだが?」
「………、まぁそれが普通の反応だろうね」
「己の素性をこちらへ明かせない理由があるのか?
仮にも、そちらが借りている家の家主でもあるのだが?」
「異時間同位体と言えば伝わるかな?
で、私の正体はそこに居るシトラ・ローランだよ。
これで私が誰か理解出来たかい?」
「異時間同位体で、私自身だと?
一体お前は何をふざけた事を言っている?」
「なるほど、そういうことか……」
「ラウ……今の言葉の意味が分かったのか?」
「後で説明する。
なるほど、確かに場所を変えた方が手っ取り早い」
「理解が早くて助かるよ、ラウ。
さて、昔の私の方が混乱するのも無理は無いがまぁすぐに理解出来る。
そうだなぁ、一つ証拠の代わりとして言うなら今回、今の私がわざわざサリアへと赴いた理由についてだと。
両親に家の手伝いをするように口うるさく言われ続けたのに耐えかねて、家を飛び出し適当な理由を付けて今回の結婚式への見物の為に船のチケットを取ってここにきたって辺りかな?
我ながら、実にくだらない理由だと思うがね」
「なっ………なんでお前がその事を………!!」
「だから言ってるだろう、私は私自身だって?
他にも言おうか、例えばそうだな……。
聖誕祭の夜、ラウが出掛けていた時に………」
「おい待て、何を言う気だ貴様?!」
「その日の朝、……」
「分かった………。
お前の言葉を信じよう。
だからその件はここで言うな!」
「分かって貰えて何よりだよ。
それじゃあ、帰ってからゆっくりと話をしようじゃないか?」
シトラの動揺ぶりに僅かながら興味を抱いた。
確かその日は、私も別な仕事で夜遅くに帰宅し彼女一人を早朝から家に残していたはずだ。
「シトラ、何をそこまで慌てている?」
「君には関係のないことだよ。
こちらの個人的な事情であり、君にも言えない事の一つや二つくらいの秘密が私にもあるという事だ」
「なるほど、了解した」
「アハハハ……!
やっぱりこの頃の私自身は実に初々しくて懐かしい」
仮面の彼女の方は大きな笑い声を上げる。
私の横を歩く彼女と本当に同一人物なのかと疑いたくなるが、当人の反応から恐らく本人である可能性が非常に高い。
しかし、彼女の身体にある違和感の正体が何なのか?
それが一番気になるところだろうが………。
●
それから間もなくして、かつて住んでいた家に到着してそれぞれがくつろぎ始める。
しかし、流石シトラというだけあるのか先客として来ていた影響で、部屋は少し散らかっている。
ただ、学生時代よりは少し成長したのか多少の自炊を試みるようになっており、多少の変化を感じさせていた。
「そんなにジロジロ見なくても、君の家なんだ。
堂々としているのが普通なんじゃないか?」
「部屋の散らかりように、呆れているだけだ。
多少は成長しているように思えたが」
「誰かさんに口うるさく言われたからね。
少しくらいは、矯正されたようなものだよ」
すると彼女は、被っていたカラスのような面を外しその素顔を露わにした。
部屋の暖炉と小さな灯りで照らされた彼女の素顔は、顔の半分近くを包帯で多い、長い特徴的な髪の幾らかが剥げ落ち、お世辞にも綺麗とは言い難い容姿となっていた。
「君は驚かないんだな、この姿を見ても」
「敵にやられたのか?」
「いや、こっちに来た当初は帝都オラシオンの方に滞在していてね、コレはその時に受けた魔力中毒の症状だよ。
全く、いかに私といえどたかが一人の人間というお蔭でこの様だからな……。
あの場所へと再び人が踏み入れる為には長い時間が掛かりそうだ………」
「それで、未来の私はかつての帝都で何をしていたんだ?
面白半分で観光しに行ったとでも言わないだろう?」
「帝都の中心の地下深くにある秘匿区域をラウは知っているだろう?
そこに存在しているとされる世界樹の調査。
かの内部には、これまでに内包していた世界の情報の他にも、世界の全知全能に等しいソレが存在しているとされてる。
と、こんな空想めいた話はどうでもいい。
あそこに実際にあったモノ、ソレはとある人間を触媒として動く巨大な機械であったことだ」
「とある人間と巨大な機械?」
「ああ、ミリサという名の少女のクローンを媒体として、帝都オラシオンの地下にある世界樹は稼働していたようなんだ。
人間が魔術やそれ等技術を効率的に扱えるように、人間をろ過装置のように扱い、その時代に適応するように動かされていた。
我々が魔術を扱う為に使う魔力の根源、その源に我々人間が使われていたらしいんだよ」
「らしいと表現したのは、そこにどういう意味が?」
「彼女達、世界樹を動かす為の贄として利用されている者達は、どうやら我々とは身体の構造が少し違うらしいんだ。
私のような普通の人間、魔術師よりかは今は異種族と呼称される人外に近い血統を持った人間が、どうやら必要みたいなんだ」
「異種族の血統を持った人間が必要……。
純粋な人間、あるいは異種族では世界樹を動かす為の贄としての効力がないと?」
「ああ、細かい原理は体内にある20種類以上に渡る魔力の型が関係しているみたいでね。
それが鍵として作用し、世界樹を動かす為の動力として使えるみたいなんだ。
一つの贄で、せいぜい30年程度は世界樹を問題なく稼働させる事が出来るらしい」
「贄から供給される動力が無くなるとどうなる?」
「その世界樹が管理している魔力の型や、世界の観測が行われなくなり、世界中でノイズのような現象が起こるだろうと、私は推測している。
例えば、機械を動かす為の部品があるだろう?
部品から突然、それ等を繋ぐネジの類いが消失した場合どうなるのか?
人間で言うなら、突然血液の流れが止まるみたいな現象が起こると言えばいいか……」
「そんな事が起これば、世界中が混乱に陥り帝国崩壊以上の大変な惨事が起こるだろう?!」
「いや、確実にそうなるとも限らない。
世界樹は世界全土に11本存在している、その内の一本が動かなくなったとしても、いや過去に数年単位で動かなくなった時があったんだ。
約10年周期の単位で、世界各地の世界樹の活動が抑制されその都度、何処からか世界樹に贄が補給されていた事が既にわかっている。
この十年周期、コレに関して察しのいい君達にはある程度身に覚えがあるんじゃないのか?
それ等を直接目にする事はなくてもね」
「20年前に帝国が滅んだ事と、かの10年前の流行り病に世界樹が関係しているとでも言うのか?」
私のその言葉に包帯を纏った彼女は僅かに頷くと、ゆっくりと立ち上がり右手をこちらに向けて、手のひらから小さな石板、いや学院で使用していた端末の画面を開きとある写真を見せてくる。
樹木を象った、青白い光が内部から溢れてくる巨大な建造物の写真。
「コレは極東三国に存在する、かつては八号機と称された世界樹の写真だ。
木の幹の方を見てよく見て欲しい」
そう言って彼女は写真のその部分を拡大し、その様子を見せてくる。
一見、他と変わらない青白い光を放つソレに見えたのだが……。
「僅かに赤い光の筋が見えるな……」
私の横に座るシトラはその部分を指差す。
確かに、一箇所……いやよく見ると他にも何点か赤い光のようなモノが存在していたのだ。
「僕らはまぁ、どうやらこの世界樹が内包している世界から来たらしいんだ。
で、この世界樹の様子はかなり異常だと言えるんだよ。
本来ならば、世界各地で神聖なモノとして扱われているモノ。
コレは世界共通の認識であり、例えソレがどんな悪人であろうとコレには手を出さなかった。
乱世の時代も、どんなに激しい戦いに飲まれた時代であっても世界樹の領域は不可侵であり絶対的な象徴であった。
だが、この赤い光というのが異常を知らせる印でもある」
「赤い光の現象が過去にもあったのか?」
「ああ、勿論だ。
約四百年も前に、旧オラシオン王国を含めた大陸の四国が疫病に苦しんだという逸話が残っていた。
この当時の記録に、秘匿区域に存在していた世界樹から赤く禍々しい輝きが放たれていたという記述が残っている。
何らかの異常が世界各地で起こり、必然的にソレは世界に取って大きな争いの火種となる事を示唆していると、文献には残っている。
結果として、当時弱小国であったオラシオン王国を筆頭に戦争の時代が幕開けすることになる。
それは、かのオラシオン帝国の原形が生み。
我々人間の歴史にとって、世界樹の異変とは大きな歴史の動きを事前に伝えてくれるモノとも言える。
でだ、具体的に世界樹に例の異常が起こった際に当時世界で何が起こったと思う?」
包帯の彼女の質問に、私とシトラは頭を悩ませる。
世界樹の存在は認知していたが、それ等の異常で世界に何らかの現象が起こっていたのは初耳に等しい。
幾らかの妥当なモノの候補としては、
・動植物の生態系に異変が起こった。
・地球環境が著しく変わり異常気象が多発した。
・魔力に関する異常の為に、魔力を原因とする奇病が流行した。
これ等3つの要素は、どれも世界樹の異常が起こったとされる同時期に起こった出来事。
生態系への異変については、以下の理由と同じく魔力に由来され動植物の生産性が変わってしまった事が大きな異変と捉える事が出来る。
ただ、この現象程度は数百年単位どころか数年単位で魔力が無くとも起こり得る変遷的な事象としても考えられる。
異常気象も同じこと、この地球そのものが数十万年の単位で氷河期を繰り返しているという学説が出ており、環境の変化も恐らく自然の変遷的な事象と捉えられるのだ。
となると、残されたのは魔力由来の奇病の流行という説。
コレに関しては、十年程前に流行った黒炭病が魔力由来の可能性があったはずである。
つまり、彼女が言いたいのはソレなのか?
「その答えは、異時間同位体と呼ばれる君達自身の存在じゃないのかい?
その根拠は、世界樹の異常によって先程未来の私はノイズのような現象が起こると言った。
そして君はこうとも言った、世界樹が内包している世界から来たのだと。
つまりだ、この2点を踏まえて君達がこの世界に降り立つ為には世界樹から生まれるノイズの現象が必要だと、そういう可能性が私の中で浮上した。
異時間同位体と呼ばれる存在が、様々な形でこの世界に介入することが、この世界にとっての不利益になってしまう。
君達が、我々の辿る未来を知るが故に………、君達が見てしまった最悪の可能性を変える為の抵抗がこの世界にとっては不利益な存在になってしまう。
ソレが過去に幾度なく繰り返されて結果が、十年間隔の世界樹由来の災厄に繋がってしまった。
違わないかい、シトラ・ローラン?」
私の予測を裏切るような衝撃的な仮説を隣の彼女は語った。
思わずあっけにとられ、反応に狼狽えてしまったが目の前の包帯の人物は確かな声でこう答えた。
「その通り、我々のような存在がこの世界に生まれる度に災厄が起こるんだ。
全く、こんな事を知る為に我々がわざわざ犠牲を払ってまで、この世界に降り立ってしまった。
他の仲間達も知らないだろうよ……、自分達のやろうとした行為そのものが世界を滅ぼした原因であるのだからな………」
そう告げた彼女は僅かにため息をつくと、静かに語り始めた。
「私達は、とある存在を倒す為にここに来たんだ。
敵はあまりに強大で、我々の為す術もなく多くの国が、人々が死に絶えた地獄のような世界だった。
ここサリアも、故郷のラークも……全てが滅んだ世界だったよ」
「君達の前にどんな敵が来たんだ?
単独か、複数か?
今の我々が知りうる存在なのか?」
「セフィロトと名乗る集団だった。
規模は確認した限りで、10数名の少数精鋭の組織。
奴等は突然我々の前に現れ、そして数多の国や人々を滅ぼし始めた。
我々を含め、彼等に抗った者達も少なからず存在した。
しかし、最終的には我々は彼等に敗北した。
その結果を変える為に、我々はかつての世界を犠牲にしてまでこの世界に降り立ったんだ。
奴等を倒す為の力を、戦力を………今のこの時代に、この世界に築く為に……。
私は彼等の中で、魔術や魔導工学の側面から彼等の補助に回っていた。
世界樹の調査も、セフィロトに勝つ為の方法を探す為の行為であり、結果としてこれだけの傷を負ったが見返りとしては充分過ぎる成果を得られたがね」
「私の追っていた、ラグナロクは?」
「………、彼等は近い内に滅ぶ定めだ」
「何?」
「近い将来、サリアを含めた四国と極東三国が全面戦争を行う。
その戦いの末に、ラグナロクの重要戦力のほとんどとシファ・ラーニルが戦死する。
結果的に戦争の勝利者となったサリア王国側は、シファという柱を失い国が2つに割れ、革命運動の末に現在の両陛下が処刑されることになる。
力を大きく失った、シファの弟君とサリアの王女様は学院卒業後と同時に、ヤマト王国の王子であるルークス殿が新生オラシオン王国の建国に動く為に協力することになるのだが………。
セフィロトはその際に我々に襲い掛かってきたんだ」
「ラグナロクが滅ぶだと?
それに、シファやこの国の両陛下が殺されサリアの王政までもが滅ぶのか?」
「ああ、私の見てきたのはそういう世界だった。
他にも、色々とあったがな……」
「………。」
「ヴァリス王国から、現在レティア王女の結婚式への来賓として国王であるヒルダリク陛下やその家臣達が来る手筈になっているだろう。
そのヒルダリク陛下は既に死んでいる、彼を裏で操る家臣の数人、特に……タンタロスとモーゼノイス。
そしてサリア王国からヴァルキュリアの騎士団長であるシルフィード・アークスという人物が近い内に、いやここ数日の間に何らかの大事件を引き起こす。
コレは、絶対に避けては通れないモノだ
我々も裏からこの事件の収束に手を貸すが、あくまで貸すだけだ。
ただ、この事件が本当に起こった後に一つ頼みたい事がある」
「頼みだと?」
「ああ、君を含めた何人かを例の戦争に巻き込ませない為、可能な限りでいい。
ラークへと隔離して欲しいんだ。
状況が状況故に、帰国が困難になるだろうが……どうにかして彼等を戦争から引き離して欲しい」
「別にそれくらいは構わないが、その理由は?」
「例の弟君等を保護する為だ。
これから起きる事件で、彼を含めた何人かが大きな負傷をする。
その傷が完全に癒える間もなく、世界は混迷の時代へと入る。
その状況から逃れる為に、彼等を保護する名目で世界情勢から守られるラークに送るのが得策だと判断したんだ。
その後の動きは君達自身で任せる、我々も知らない状況の世界だろうからな……。
同時に、我々も恐らくその時はこの世界に存在してないだろう」
「…………」
「頼まれてくれるかい、ラウ?
ソレに、この世界の私も」
「………これから先何が起こるか全てを話せ。
その上で、私が必要か否かを判断する」
「ああ、分かった………ただ、他言はするな。
特に、あの弟君の周りにはね」
「あの弟が、まだ厄介事を背負っているのか?」
「我々にとって、彼はリーダーのような役目の存在だからね。
色々と厄介事を近くで見てきたものだよ。
私が直接関わった訳ではないがね」
「他の仲間とはどうなんだ?」
「何人かは既に死んだらしいよ。
例の彼も、この時代の当人に倒されたらしいじゃないか?
実に、彼らしいと思うよ。
私は直接彼と話をした機会はそう多くなかったが、人を惹きつける何かが彼にはあったんだと思う。
良い方向ばかりとは限らなかったみたいだがね。
私は極力彼の意向に沿うように努めた、こちらの仲間の一人が少々問題があったんだが、ほとんど彼の独断で仲間に引き入れる事を決めたんだ。
私の方からは、戦力は多いに越した事は無かった故に彼の意向に賛同したが……、普通ならあり得ない決断だろうね」
「問題のある奴だと?」
「君も既に彼女には目を付けていたんじゃないのかいのかな?
例の裏切り者、テナ・アークス君の事をさ?」
「彼女はやはりそうだったか………。
確証は無かったが、当時の状況から察するに一番怪しい容疑者として警戒はしていたが………」
「正直君より強いよ、テナ君はね。
ただ経緯が経緯なだけに、彼女を責められるのは例の弟君の特権だ。
彼の命令なら、基本的にいう事を聞くからね」
「彼女が何をしたと?」
我々のやり取りに疑問を抱いた、現在のシトラ。
簡易的に、私はその理由を説明した。
「先にあったアルクノヴァの一件の際に私の追う敵組織のスパイが仲間に混ざっている可能性があった。
その容疑者の一人として、私や例の弟をよく知る人物の中で一番怪しかったのが、彼の親友らしいテナ・アークスという人物があった。
主な理由として、他の者ではアリバイある上に実力が私よりも格下であった場合がほとんど。
加えて、私は彼女の実力を知らなかったのも理由を後押ししている。
そして、彼女は先程そちらが言った、ヴァルキュリアの騎士団長のシルフィードの一人娘でもあるらしいが、裏切り者であると確定するなら、その真偽が疑わしくなるようだな………」
「なるほど………。
それで彼女が仲間内で嫌われている理由は?
現在はむしろ、好意的な方なんじゃないのか?
彼からは親友とまで言われてたんだろ?」
「その彼女は、彼の家族を一度も二度も殺したんだよ。
とてもじゃないが正気とは思えない………。
一応、本人から理由は少しだけ聞けた……。
にわかには信じ難い上に、これに関しての判断は彼しか出来ないだろうと思う。
第三者が勝手に決めるのは、両者の決断に対しての侮辱になるからな………」
「テナが、アレの家族を殺しただと?」
「ああ、色々と訳アリみたいだがね。
お互い、かつては片腕を切り落とすまでの大喧嘩をしたくらいだが、今は同じ目的の為に協力している。
しかし、彼亡き今となって彼女が何をしようとしているのやら」
「両者の間に何があった?」
「その内分かる、君も当事者になる訳だからな」
「言えない事か?」
「コレに関しては、私も勝手に口を滑らせる訳にはいかないのでね。
例の彼女に、私までも殺されかねないからな」
「私の知る彼女より、随分と性格が違うみたいだな」
「そりゃあ猫をかぶってるからね、正直これまでの彼女は、彼等と関わる上で都合が良かったんだろうよ。
ただ、根っこの性格は良いみたいでね基本的には優秀で非の打ち所がない人物だ。
まぁ、仲良くしてやってくれ」
「裏切り者であるにも関わらずか?」
「敵の敵は味方って奴さ。
彼女もまた、我々と同じくセフィロトとは相対する者同士になる。
それに言っただろう?、彼女は君より強いとね」
「………了解した、上手く立ち回ろう。
それでも、私がわざわざ直接関わるような事はないだろうがな」
●
彼女が私にした要望の意味。
その真意を知るのはかなり後の事だが………。
今も尚思う、本当にこれが正しかったのかと?
何が正しいのか、正義なのか………。
本当にこれで良かったのだろうか?