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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
265/324

せめてもの悪あがき

帝歴404年1月9日


 いつも通りの朝。

 いや、いつもと少し違うのは朝起きたら朝食を用意してくれる人物がいる事。

 大した物を寝るだけのこの部屋に用意していた訳では無かったのだが、有り合わせで作られた温かい朝食にオレは関心した……。


 「初日から流石ですね……。

 あまり食材置いてなかったのによくここまで……」


 「おはようございます、アルフレッド様。

 足りなかったのは近所の方々からのご厚意で色々と貰ったんです。

 王都というだけあって、早朝からでも人々の活気が凄いのですね……」


 屋敷から持ってきた、自前の侍女服姿でご機嫌な様子の彼女に俺は驚く。

 昔は早起きが苦手で、寝坊を繰り返しては侍女長に叱られていたのが懐かしく思う。


 「いや……別にそんな事は……。

 まぁいい、早速いただくよ」


 「アルフレッド様、食べる前にまず顔を洗って来てください。 

 それに着替えだってまだしていませんよね?」


 「いや、食べたらやるから後でいいよ……」


 「いいえ、駄目です!!

 支度を終えるまで、食べてはいけませんよ!」


 「うっ……」


 目の前の侍女に対し、寝起きのオレは幼い子供さながらに叱られる。

 昨夜はめちゃくちゃ落ち込んでたのに、立ち直りの速さというか、仕事モードのスイッチが入っている模様。

 

 元々顔も整っていて、綺麗な人だから貰ったというこの朝食の食材達に関しても彼女に魅入られた者達の貢ぎ物なのだろう……。

 店で買ったとしても、多分少し多めかオマケも貰っているはずだろうな……うん。


 「アルフレッド様、聞いてます?

 今日もお仕事なのでしょう?

 ロダリス様から、貴方様が遅刻をしないようにという事を強く頼まれていますので、早く支度終えてきて下さい。

 せっかくの朝食が冷めてしまいますからね?」


 「分かった分かったから………子供扱いしないでくれ」


 なんだろう、あの口うるさい委員長気質のフィリメルが家に増えた気分だ。

 いや、正確に言うなら実家でのやり取りがここにまで侵食されたようなもの………。


 とにかくオレは、これ以上彼女の機嫌を損ねるとまずい為着替えに向かうことにした。


 「アルフレッド様、一人でお着替え出来ますか?

 宜しければお手伝いを………」


 「宜しくないから、やめて!!

 一人で出来ますから!!」


 マジな心配の眼差しを向けられ困惑する。

 この人は昔から変に世話焼きな気質あるからなぁ。

 実家を離れた直後、家周りで彼女が甲斐甲斐しく世話を焼き過ぎた影響か、オレはとにかくはずかしい思いを多々経験した。


 王都で出来た最初の彼女に自身の私生活の事でドン引きされて別れたのがとても懐かしいぜ……。


 とにかく、再び甲斐甲斐しく世話を焼かれる前に朝の支度を終えた後に、ようやく朝食を取る。


 実家でよく食べていたあの味に、思わず懐かしさを感じるが少し違うのは、目の前で彼女と同じ食卓を囲んでいる事。

 

 実家では侍女と同じ食卓を囲むという事はまず無かった訳で、ましては同じモノを同じ卓で食す事はなかったから新鮮な経験だった。


 「どうかなさいましたか?

 もしかして朝食が口に合いませんでした?

 でしたら、急いで作り直しを………」


 「いや、そこまでしなくていい。

 てか、そのちゃんとそのすごく美味しいよ……うん。

 なんというか、新鮮だと思ったんだよ。

 アイネさんとはいえ、侍女服姿の女性と同じ食卓を囲むのはさ………」


 「あー、確かに普段は絶対ありませんからね……。

 私服の方がよかったのですか?」


 「いや、まぁ……そうだな………」


 「そうでしたか、私服が好みでしたら次回からは私服で対応致します」


 「いや、好みとかじゃなくてだな……。

 ここは実家の屋敷じゃないなら別に侍女服を着なくて良いんじゃないのか?」


 「ですが私……私服はあまり持ってなくて……」


 「あー、じゃあ今度の休みに服とか色々買いますか?

 王都の案内とか、諸々の調べ物も兼ねて。

 恐らく、今後侍女服ばかりで外をうろつくと変に目立って危ない可能性があるだろうからさ。

 一応、実家の仕送りはあまり手を付けてなくてたんまりあるし……。

 アイネさん一人分くらいなら問題ないだろうよ」 

 

 「無駄遣いはいけませんよ。

 でも確かに、侍女服姿は街中ではかなり目立ってしまいますからね………。

 私服が必要なのは確かかもしれません」


 「だろ?

 だから、今度の休みに買いに行きましょうよ。

 ちょうど確か、明日が休みなんで……。

 以降が王女の結婚式で色々と忙しくなるんだが」


 「確かにそうでした。

 第一王女のレティア様が、異国の王子との結婚式が開かれる予定でしたね。

 諸外国から多くの来賓が訪れる事で、アルフレッド様の仕事も忙しくなるのも当然です……」


 「ああ、何事無ければいいんだがな………」


 

 朝から慌ただしくもアイネさんに色々と世話を焼かれてオレは騎士団の本部へと出勤する。

 右手には、彼女が用意した昼食の弁当を持たされており、なんというか気恥ずかしい感覚を覚える。


 普段は食堂とか外で食べてばかりなので新鮮に感じていた。


 「アルフがお弁当作るなんて珍しいね?」


 後ろから声を掛けられ振り向くと、騎士団の制服に身を包んだフィリメルの姿がそこにあった。

 

 「ああ、フィリメルか?

 まぁ、ちょっと色々とあってな……」


 「ふ~ん、どういう風の吹き回し?」


 「別に、単に作ってくれた人がいたってだけだよ」


 「何それ、まさかまた新しい彼女でも出来たの?」


 「彼女っていうか、実家のお手伝いさんとうか侍女が家に来て色々と世話してくれているんだよ。

 オレ、そこまで信用されてないみたいなんでね」


 「なるほど、まぁそういう事だろうと思った。

 昼食作ってくれたその人って、どういう人?」


 「どういうって……普通の人だよ」


 「アルフの普通って、明らかに普通じゃないでしょ?

 特に私達みたいな一般庶民からしたらさ?」


 「そうは言ってもなぁ、彼女も俺の実家で務めていたとはいえ元は一般庶民だよ。

 昔からの付き合いだからな、色々と頭が上がらない人だよほんとに………。

 ついさっきも、朝の支度終えるまで飯抜きにされてたくらいだし……」


 「ふーん、随分と仲良さそうね?

 アルフの扱い方にも馴れてるみたいだし」


 「確かにな……、まぁしばらくはこんな感じで彼女から色々と世話を焼かれる事になるよ」


 「嫌そうなら、多少無理にでも実家の方に送り返すとかしてそうなのに?

 アルフ、そういう風に縛られるのが嫌いだからこっち来たんでしょ?」


 「いや、まぁそうなんだが……。

 まぁ、その内……。

 色々とあるんだよこっちにも」


 「怪しい、本当に従者の人と住んでるの?

 そもそも従者なのか、その関係性が………。

 やっぱり、私達と別れた後に女を部屋に連れ込んだんでしょ?」


 「いやだから、居るのは実家の従者なんだよ。

 ロダリスさんにも、あの後家まで付いて行かれて、ちゃんと面識もあるし。

 なんなら明日、いや今日の帰りにでも証拠を見せてやるよ。

 丁度お前も休みだろ?」

 

 「そこまで言うなら、見てやろうじゃないの?

 アルフの毒牙に掛かる前に、私がその人を助けてあげなくちゃ」


 「酷え言い草だな」


 「貴方の素行の問題でしょう?

 アルフがもう少しマトモだったら、私も毎日ここまで言わなくてもいいのに………。

 貴方のせいで、私は貴方の保護者扱いよ!!」


 「ハハハ!

 そりゃあオレはお前を助けてくれたシラフのお坊っちゃんとは違うからな?」


 「っ……!!何よ、アルフの癖に!!

 私の何が分かるのよ!」


 「いや、何も分からない」


 「何よソレ!!」


 「まぁまぁ落ち着けって、フィリメルちゃん?」

 

 「ちゃんは付けないでよ!!

 私と3つしか変わらないでしょう!!」


 「3つも離れてるなら、まだまだ子供だろ?」


 「なら、3つも離れるんだからアルフはもう少し大人になりなさいよ!!」


 「えー、オレこれでも結構大人な感じのつもりなんだがなぁ………?

 ほら、この男前な感じとか?」


 「何処が!

 よくそんなふざけた事を朝から言えるわね?

 まだ目が覚めてないんでしょう?

 そうなんでしょう?」


 「お目々ぱっちり、ちゃんと目が覚めてるよ?」


 「ふざけないでよ!!

 そういうところが、子供なのよ貴方は!!」


 「心はいつも若々しいので」


 「アルフ、貴方ねぇ!!」


 「二人とも、朝から元気だな。

 だが、その制服姿で騒がしいのはどうかと思うが?」


 騒がしいのを見兼ねたのか、俺達の間に強面のロダリスが割り込む。

 先程まで機嫌が悪かった彼女が、渋々引き下がりようやくオレは彼女の罵声から開放された。


 「ロダリスさん、おはようございます……」


 「おはようございます、ロダリス殿」


 「ああ、おはよう二人共。

 全く、元気が良いのは良いんだがなぁ……。

 アルフレッド、アイネスト殿の方は元気かね?」

 

 「ええ、昨日のソレが嘘みたいに。

 ロダリス殿からも任せれたとかで、凄い張り切ってますよ………。

 そのせいで、朝から少し疲れますが……」


 「ははは、まぁそう言うなって……。

 コレを機に少しはマトモになれって事だよ」


 「ロダリスさん、アルフの従者と会っていたんですか?」


 「ああ、まぁな。

 アイネスト・フレーシカさんっていうとても綺麗な女性の方で、アルフには勿体無いくらいの素晴らしい方だよ。

 彼女は昔から色々と苦労を重ねていていたみたいだが、アルフレッドの実家の方では彼の専属として付いていたみたいだ」


 「専属で、とても綺麗な女性ぃ…………?

 アルフの話本当の事なの?」


 「だからそう言ってるって」


 「アルフの日頃の行いが悪いから信用出来ないのよ。

 でも、ロダリスさんがとても綺麗な女性って言うくらいだから、よっぽどなのよね……」


 「まぁ、オレも綺麗な人だとは思うけど……。

 なんというか、フィリメルが二人居る気分……」


 「あー、確かにソレは私も納得だな」


 「ロダリス殿も思った?

 だよな、やっぱりなんかフィリメルぽいよな?」


 「えっ?

 アルフの従者さんって、私に似てるの?

 例えば何処が?」 


 「私から見た限りでは、アルフの扱い方に馴れてるところとか、真面目なところとか?」


 「少し口うるさくて、委員長気質で、たまに少し抜けてるところとか?」


 「アルフのソレはなんのつもり?!!

 明らかに私のこと馬鹿にしてるよね、ね?!」


 「いやそういう訳じゃ………」


 「全く、お前等は本当に仲悪いよな……」



 騎士団の本部に付くと、朝から騒がしい様子だった。

 盛り上がっているのは、ラークに出向いていた十剣等と、ここサリア王国の第一から第三までの王女が帰国したというものであった。

 昨日には、ラークからの船がサウノーリの港に到着していたようだが、昼頃には王都への帰還が予測される為に警備の導入や人員の確保に忙しい様子である。


 オレ達3人も例外なく、駆り出される事になったのだが……。

 特例として、オレ一人だけは別室に呼び出しを受ける事になったのだが………。

  

 別室へと案内されたオレを待っていたのは、威厳のある風格を漂わせる一人の男。

 言うまでもなく、騎士団の者ならその名を知らぬ者はいない人物………。


 サリア王国の十剣が一人、クラウス・ラーニル。


 その人だった。


 「こうして向かい合って話すのは初めてだね。

 アルフレッド君」


 「十剣が直々に騎士団の末端であるオレを呼び出すなんてどういうつもりです?」


 「威勢がいいね、こういう場では本来緊張で言葉に悩む部分ではあるんだが?」


 「生憎、親父の影響でそこまで緊張はしないもので」


 「そうか………、まぁいい。

 とにかく座るといい、話は少し長くなるからね」


 目の前の男にそう言われ、オレは向かい合うようにソファーへと腰掛ける。

 クラウスという男がわざわざオレに茶を淹れ、カップを差し出し、彼もまた自分の分を淹れると軽く一口喉に流し込んだ。

 

 漂う僅かに張り詰めた空気に、目の前の人物の様子をオレは伺っていると、男は静かにオレに対して頭を下げた。


 「本当に済まなかった……。

 私の不甲斐なさ故に、君の父を……君の屋敷の住人を見殺しにしてしまった」


 「親父は確かに死んだのか、遺体はどこに?」


 「………遺体はない。

 シファさんが、跡形も残らず潰した………」


 「潰した、一体どういう?」

 

 「父親の知らせに付いては、君の従者である彼女から既にある程度聞いていたようだね………。

 潰したのは、そのままの意味だ。

 君の父親と従者等の遺体は跡形もなく、潰されて血肉ほとんどが応接室の壁にこびり付く程に散乱している。

 原型は私の確認した限り、残っていない」


 「………、本当にシファさんがやったのか?」


 「ああ……、私はその場に行くことすら出来なかった」


 「親父のしたことは本当なのか?

 クラウス殿が知る限りでは、どうなんだ?」


 「裏に大きな組織があることは踏んでいたが……。

 でも、先の海賊騒動の責任者として、君の父親の名前が挙がっていた。

 組織の規模や目的は分からない、でもシファさんはそこに一部の時計持ちや教会の勢力、十剣の何人かが関与している可能性があるとみて、その見せしめの為に君の父親等を皆殺しにした……。

 今回こうして、私が君を呼び出したのは私の独断での判断だ……。

 君に危害が及ばないように、何かしらの手は打とうと思ってね……」


 「仮にオレが、シファさんに復讐をしようとすればどうするおつもりで?」


 「君の好きにするといい、でも確実に殺される。

 私でも、ましては……他の十剣が束になろうと勝てない存在だ……」


 「例え十剣の貴方でも、あの人には勝てないと?」


 「私ですら屋敷の前で、立ち尽くしたんだ……。

 彼女はとても恐ろしい人だからね……」


 「…………」


 「君は復讐を遂げたいのか?」


 「そう簡単に済む問題じゃない。

 根本はシファさんに取り巻く、上の腐敗と勢力争いにあると、オレは親父の遺した手記から汲み取りました」


 「手記とは?」


 「貴方が見た、従者は親父からソレを託されてオレの元を尋ねました。

 在り方やその細かい内容に対しては諸事情あって言えませんがね」


 「君の父であるシクサド殿は、組織の全容を知っていたのか?」


 「そこそこ、幹部とは親しい間柄だったと………。

 時期的には、十年程前の流行り病の時に親父やその仲間の商会で一部領主の独占していた物品類を民衆に渡るようにしたことをきっかけにだそうですが………」


 「流行り病の際の領主の独占………」


 「クラウス殿は勿論ご存知ですよね?

 サリアを取り巻く、五大名家の存在も。

 その中で動いていた、旧派と改派の派閥争いも……。

 一部旧派の独占によって、国内の多くに医療品や食料品、他国からの支援物資が届かなった。

 この際に、親父を含む改派の一派が動き他国の商会と連携して、この問題の解決に動いたこと。

 コレによって、王都を含めて流行り病の対応は迅速に解決へと動き出せた……。

 代わりに、親父達を含めて改派は旧派の連中に目を付けられるようになりましたが……」


 「勿論知っている、私の知り合いも当時の流行り病の解決の為に、ラークから有数の医療機関を呼び出していたからね。

 シクサド殿が動いてくれたことは、当時とても助かったと聞いている」


 「ええ、まぁソレに関しても恐らく先程クラウス殿が言っていた組織の存在と関わるモノだと思います。

 組織は恐らく、改派の一部の者達で成り立っている。

 そして、対抗しているのは旧派の何らかの存在、そしてシファさんにある。

 これが原状のオレの見解としてですが、根本の問題の解決には旧派の邪魔な奴等をどうにかするか、あるいはシファさんをどうにかするか。

 あの人が居る限り、恐らく組織は再び先程の海賊事件に似たモノを起こすかも知れません」


 「君はその組織とやらには加入していないのか?」


 「親父達が得体の知れない何かと関わっているのは知っていたが、息子のオレは何も接点はない。

 これからどうするか、正直色々と悩んでるところです………」


 「組織に入る可能性もあると?」


 「どうでしょうね?

 現状の騎士団や自警団、商会、貴族、民衆の在り方は様々で、今オレ達が居るこの騎士団も恐らく組織に関わっている可能性が高い。

 クラウス殿が組織を敵として見るなら、貴方の味方なもその組織は紛れ混んでいると考えた方がいいでしょうね?」


 「なるほど、これは随分と根深そうだ……。

 解決は難しいというか、不可能に近そうだな」


 「シファさんは、この問題に無関心なんですよね?」


 「そうだな、我々に一任しているが特に時計持ちの者達に関しての処罰は特例として軽くなっている。

 この事が影響し、時計持ちの腐敗はこの国の社会問題の禍根に関わっているとは思うが………」


 「オレの親父は、その時計持ちの奴等の勝手な行動で殺された……。

 だから、オレが憎むのは腐敗した時計持ちの家系に対してだ。

 ただ、動こうにもシファさんが立ちはだかるならオレには何も出来ないに等しい」


 「君はこれからどうするつもりなのかね?」


 「親父の意思を今更継ごうとかそんなことは考えてませんよ。

 ただせめて、親父の守りたかった者達くらいはどうにかしてやりたい。

 それがスルトア家の一人息子、アルフレッド・スルトアとしての最低限の役目ですから」

 

 「………」


 「だから、俺から取引を持ちかけます。

 親父の遺した手記の情報を貴方に与える代わりに、オレの一族が管理している領地の住民の身の安全を保証して貰いたい。

 これが満たされるなら、あとはオレ一人でなんとかします」


 「………、その若さで大した覚悟だ。

 良かろう、ただ私からも条件を出す。

 私の部下になって欲しい、その為に君には一度ラークへと編入し、そこで自分を磨くといい。

 正直、君をおめおめとこのまま失う訳にはいかないからね、故に国内の情勢と離れる事が出来るラークで己を鍛え直すといいだろうね。

 君の力は、父親のシクサド殿と同じかそれ以上に未来のサリア王国に必要不可欠な存在なのだから」


 「ラークにオレが?

 騎士団はどうなる?

 それに……その、今オレの部屋にいる従者の方はどうなる……?」


 「君の従者に関しても、私から色々と援助しよう。

 君が必要というなら、同じくラークへの編入及び世話係としての同居が出来るように配慮しよう。

 そういう特例も向こうでは珍しくないからね」


 「何故オレにそこまで?」


 「私の知り合いが、君の父親に助けられたと言ったただろう?

 組織と関わりがあったのかはともかく、君の父親に助けられた者は非常に多く居る。

 それに……、君を助けるのはせめてものあの人に対する悪あがきだ。

 十剣という肩書きしかない私にとってはな……。

 ともかくだ、この取引に関して君はどうする?」


 「引き受けますよ、勿論。

 無駄死になんて、オレは絶対にしませんから」

 

 「そうか、感謝する。

 この取引お互いにとって必ず良いものになるだろう。

 編入に関しては、早くて王女の結婚式の後になるだろうが………」


 「いや、充分過ぎるくらい対応が早いですよ。

 まぁ、これから頼みますよクラウスさん」


 差し出された彼の手とオレは堅い握手を交わした。

 今は僅かな光だが、それでもオレはやれる限りを尽くしたい……

 

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