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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
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確執

帝歴404年1月8日


 さて、先程オレはこの街に住むネルティスちゃんの飼い猫に襲われてしまった。

 その後、彼女の言う身元不明の女性ことヘリオスという人物との面会の為に、当初の予定通り自警団の建物に入る事になったのだが………。


 「あの子かな?」


 「多分………?」


 「…………」


 入って早々、視界には例の赤髪の女性が視界に入ってきたのだが………。

 例の人物はというと受付の女性達に囲まれて、何やら餌付けされお菓子を口に入れられており、まるでリスのような状態である。


 なんというか小動物みたいでかわいい子だな………


 「思ったより馴染めてね、あの子?」


 「そうみたいですね………」


 「ニャ~」


 ネルティスさん、そして彼女に抱かれている黒猫のシアンも心なしか俺達と動揺の反応をしていた。

 俺達の存在に気付いたのか、受付の女性達そしてヘリオスと思われる彼女はバタバタと慌てると、すぐに身だしなみを整えて俺達を出迎えた。


 「ヘリオスお姉さん、心配したんですよ!!」


 「うん……、ごめんなさい。

 色々と心配かけちゃったみたいだね………」


 「早々問題解決してるみたいだね………。

 私達要らなくない?」


 「みたいだな………」


 「まぁうん、こちらから何かせずとも無事に済んで良かったな、うん。

 ネルティスさんがヘリオスさんと再会出来て何よりだな。

 受付の君等に尋ねるが、ゼリアス殿は現在こちらに居りますかな?

 私達は王国騎士団のヴァルキュリアの者。

 その中で私は以前、ぜリアス殿が副団長の時代に色々とお世話になったもので、是非この度挨拶をしたく」


 「ゼリアス様は現在、お客様をお迎えして談話室にて会話中です。

 その後でしたら、面会は可能であると……」


 「そうかそうか、なら少しばかり待たせてもらおう」


 ロダリスの強面に受付の女性陣は気圧され気味のご様子。

 そりゃ、あんな強面に視線を向けられたらな……。

 にしても……、


 「シアンも相変わらず元気そうね……」


 「ニャ~」


 ヘリオスという赤髪の女性に、先程オレを襲った黒猫は随分と懐いている様子。

 彼女から撫でられご満悦みたいだ。

 多少の羨ましさを感じたが……。


 この人……、何かおかしくないか?


 先程、外でネルティスさんから聞いた通り優しそうな印象を受ける人物。

 しかし、なんというか………彼女からは生気を感じないというのが第一印象。

 モノというか、無機質な鉱物やそれ等から漂う冷たく硬い雰囲気のモノというか………。


 彼女からは生き物から感じ取れる魔力の波長に似た気配のソレを全く感じないのだ。


 「………」


 単にかわいい子に見えるのも事実なんだが、面倒事の一端であるというのを、肌で直に感じる。

 かと言って、向こうに敵意があるようには見えない。

 むしろ、こうして見る分には街で見かける普通のかわいい女の子のソレなのだ………。

 

 「……ルフ!アルフったらちょっと聞いてる?!」


 「なんだよ、フィリメルか?

 俺は今何もしてないだろ?!

 受付の子だって口説いてないぞ、うん!!」


 「そうじゃなくてさ……、これから私達ここに居るゼリアスさんに挨拶行くんでしょ?

 そこで突っ立てないで、ほら歩く!!」


 「わかったわかった!

 だからそんなに引っ張るなって……!!」


 フィリメルに身体を引っ張られオレは建物の奥へと連れ込まれる。

 その去り際、一瞬だけヘリオスがこちらに視線を向けてきた。


 その表情は何処か悲しいような、そんな風に見えた。



 「………なるほどなぁ、あのヘタレだったジルのところにも来月には子供が生まれるのか……。

 時が経つのも早いものだ」


 「ええ、しかしゼリアス殿もお変わりなくお元気そうで良かったです。

 こちらは相変わらず常に賑やかで、心労は耐えませんがね」


 「なるほど、騎士団連中も相変わらずか……。

 確か、近日シファ殿が帰国するそうだがソレに向けて騎士団の方では何かあるのかい?」


 「何かと言われても、特別何かする訳ではありませんからね……。

 日々の訓練は欠かさずしては居りますが、あの人からすれば騎士団全ての者が未熟者という認識ですので。

 どれほどしごかれるや否や………」

  

 「確かに、あの人ならやりかねんよ……。

 自警団の管理を任せれてからは、気楽に出来るが書類の仕事ばかりで身体は鈍っていくばかりさ。

 現役に比べ、最近は腹が出てきてな……この姿を騎士団の連中に見られるのは実に恥ずかしいばかりだよ」


 談話室にて、ロダリスと元副団長であるゼリアス殿が会話をしている。

 フィリメルからすらば名前を少し聞いたくらいで、初対面の人物なのだが………。

 俺はクソ親父の人脈故に多少の顔見知りではある。

 見た目は、温厚なそこらに居るおっさんという印象。

 しかし、副団長時代の風格というか名残りはあり、自然とこちらの緊張感は拭えないでいた。


 正直、前線から引退し数年が過ぎたとは思えない。

 親父が時折見せる、その界隈の風格が目の前のおっさんにはあったのだ……。


 「二人は君の教え子、いや同じ班と言ったところかな?

 一人はスルトア家、私の前任であるシクサド殿の息子のアルフレッド君だろう?

 もう一人の君は……始めて見る顔だな」

 

 「はい、私は昨年入隊したフィリメル・ミカイラと申します、です!

 3年前に現十剣のシラフ様に助けられた影響で王国騎士団の道を志すようになり、現在ロダリス殿の指導の元で日々努力を努めています、です!」


 「フィリメル、緊張し過ぎだろ?」


 「アルフは緊張感なさ過ぎなのよ」


 「ハハハ!

 随分と元気そうじゃないか君の教え子達は」


 「ええ、苦労は耐えませんがね……」


 「だよなぁ、二人にはいつも苦労するよ」


 「特にお前の事だ、アルフレッド」


 「そうね、主にアルフレッドが原因ね」


 「ひでぇ……、オレが何をしたっていうんだよ」


 「アルフレッド君も相変わらずみたいだな。

 お父様は元気にしているかい?」


 「心配も無用なくらいには。

 毎月の恒例みたく、手紙を何回を寄越して来ますよ。

 内容は常に、近状だったり堅苦しい社交辞令だったり、現役時代とお変わりなく元気過ぎるくらいに」


 「なるほど、シクサド殿も元気そうでなにより。

 最近は東国との小競り合いも増えてるからなぁ、極東三国が戦争準備をしているとかで、こちらの陸路を伝って向こうに武器や兵器、食料も多く通っている。

 シクサド殿も、国境沿いの辺境で上手くやっているのは、現役時代の経験の賜物とも言えよう。

 何代にも渡って騎士団の高い地位に経ち続けたスルトア家の誇りと名誉、今後の君の活躍に関してこちらも応援しているよ、アルフレッド君」


 「ご厚意どうも。

 まぁオレもその内、騎士団長くらいにはなるはずなんで」


 「大口を叩くのもいいところだな。

 流石、入隊初日でシファ殿を口説き、打ちのめされただけはあるよ」


 「その件、ゼリアス殿もご存知で………」


 「そりゃあ勿論だとも、人の言伝を辿って聞いた時は正気を疑ったさ。

 まぁ気持ちは分からなくもないが、命知らずというかなんというか………若さの素晴らしさを感慨深く感じたよ」


 「アハハ………、はぁ……こりゃ騎士団長になっても話のネタにされそうだ。

 というか、一生ネタだよなコレ………」


 世間話や、騎士団の近状等色々とオレ達は前副団長であるゼリアス殿と話し込んでいた。

 ある程度、話のネタも尽きた頃俺は例の彼女についての話題を投じて見ることにした。


 「一つ尋ねたいんだが、あのヘリオスって赤髪の子について聞きたいんだが……。

 話して貰えないかな、ゼリアス殿?」


 「確かに、ソレについては私も少し気になって居りました。

 ティルナ殿が出てきた程となると、ヴァルキュリアとしても無視はできない問題。

 上層部のみで管理されている機密情報の一貫に関わるのであればあまり深い言及は避けますが……」


 「………彼女とは既に顔を合わせたのかい?」


 「ええ、まぁ……。

 同居していたっていう、フィリメルさんと出くわして………。

 丁度さっき、その子の飼い猫にオレは襲われたので。

 で、本人に関してはここに入ってすぐに顔を合わせましたよ。

 多少訳アリなのは、彼女の話から薄々とこちらは察しましたがね……」


 「なるほど、タイミングが少々悪かった訳か……。

 先程、ロダリス殿の言う通り彼女は機密情報の一貫としてティルナ殿の命令の元口外を禁止されているが、ネルティス殿がそこまで話していたのなら、今更隠す必要もないだろう。

 近い内にシファ殿もこちらに訪れ、事件の原因究明を手伝う手筈になっている。

 細かい事情に関しては、私も分からない事が多く機密情報以前の問題なのだがな………。

 本件に関してはティルナ殿とシファ殿に一任している。

 その間、なるべく彼女を刺激しないようには心掛けてはいるのだがね………」


 「こちらから見たところ、非常に友好的な人物であふと思われましたね。

 気になる点としては、珍しい赤毛という所と話によれば訓練施設を破壊する程に暴れまくったとか……」

  

 「確かに、あの様子を見るとそんな事をするような人には見えなかったですよね。

 ネルティスさんの言うとおり、ヘリオスさんはとても心優しい女性みたいなので」


 「国籍も記憶も忘れて、素性の得体が知れない段階ならば早々に手を打つべきなのが、本来の話。

 しかし、安易な判断が命とりになる可能性がある。

 仮に彼女を敵と考えた場合、彼女に他の仲間の存在がないとは考えにくい話ですからね………」


 「そうなのだよ。

 しかし、記憶を無くしているのは確実。

 彼女の所持品から元の国籍や素性の調査は進めているのだが、現状存在しているどの国とも一致していない。

 この時点で明らかに不自然ではあるとは思うのだが」

  

 「身元が分からない以上、何とも難しいところですね……。

 ティルナ殿が出た時点で、何やら大事過ぎるとは思いますが………」


 「彼女も事件以降、何度かこちらに顔を出してはヘリオス殿と会話をしつつ取り調べをしている。

 彼女曰く、あの人は私よりも強いとの事で……下手をすればシファ殿や他の十剣をも遥かに超えているとのことでして」

 

 「そうなると、彼女に他の仲間がいた状況が余計にまずいかもしれませんね。

 ティルナ殿が手に負えない程の人物が、数人あるいは数十人以上の規模で存在しているとなると………」

 

 「近日には、レティア王女の結婚式が控えている。

 帝国の崩壊から治安は徐々に安定しつつあるが、下手な荒事は避けたい。

 ましては、自分の管轄区域内では起きては欲しくないというのが本音に近いが………」


 「外の人間を極力受け入れたい王国上層部側の思惑と現場の我々が思う外部の人間はなるべく避けるべきという思想……。

 上層部としては、他国との関係性も含めて安易に手を出せないところに加えて、更に慢性的な労働人口の減少故の労働人口問題の解決に利用しようとしている。

 そもそも、自国に対しての支援が現状足りないのだが、現場での判断に一任し続けているのが一番問題ではあるのだが………。

 この動きの裏には、一部貴族……特に時計持ちと呼ばれる存在や教会旧派の一部の影響が大きい……。

 彼らの搾取の多さが故に、一部地域では学校に通えない幼い子供者達が相当数が居ると聞く。

 加えて、その一部勢力に対し大きな力が集約している現状だ。

 サリア五大名家の内の二つ、クローバリサとスタルチアの権力が全体の3割近くに及んでいるが、彼等からは黒い噂が常に絶えないからな………」


 「他の五大名家に関しては、帝国崩壊を境に権力が低迷化しているのも事実ですからね。

 ローゼスティア家とマリオーク家、そして十年前の事件を境にカルフ家と入れ代わりで空席を埋めたシュヴァル家………。

 彼等の力もまた先の二家系に並びますが、3つ合わせて並べられる程度……、3つの家系の意思が一つとなり下々である我々の言葉に耳を傾けてくれていればの話ですが………」


 「近いところではクローバリサの支配下にある南のフリクア共和国との国境沿いでは一部暴動も起きましたな……。

 その反動からか、近隣の街は荒れ果て職や家を失った者達が多くたむろっているとかですな……。

 ここも時期にそうならないように、我々も水面下で動いてはみるがどこまで耐えられるのやら………」


 「うーん……、私にはちょっと難しい話ですね……。

 貴族階級というか、五大名家の名前は少し聞いた事があるくらいで……」

  

 「オレは小さい頃からそういうのには馴れてるが、最近噂で聞くのはあまり良い話ではないよな……。

 あの家系等に関しては、一般市民が触れるような話題じゃない。

 分かりやすく言うなら新聞や雑誌関連の会社に広告を出している会社等の更に後ろにある組織ってところで、記事のネタにも上がらないというか、記事にはならない、させない連中だ。

 フィリメルや他の団員連中が分からないのも至極当然で、普通に生きてくだけではまず関われない世界だろうよ……」

  

 「あー、じゃあ私達とかだと護衛とかですれ違うとかなら、可能性としては高いのかな?」

 

 「近衛兵辺り………少なくとも君達のような末端だと見かけられたら運がいいくらいじゃないか?

 とは言っても、変な事はするなよ……。

 首が飛ばされても文句は言えないくらい人達なんだからな……」


 ロダリスの言葉通り、正直オレとしても深入りはしたくない界隈だろう。

 クソ親父が実際に何度か関わる機会があったが故に、オレも多少はその顔ぶれは知っているが………。

 

 堅苦しい上に、常に腹の探り合いをしているというか長くは相手にしたくない人達というのが主な印象だからだ。


 貴族階級の大半がそういう輩で占められてるのはしょうがないにしろ、五大名家ともなれば他と同一視は出来ない存在だろう。


 「まぁとにかくだ、必然的に彼等に対して近い存在となるのが君達ヴァルキュリアだ。

 彼等もまた守るべき民の一人でもある、その在り方を身に刻み必ず守り抜くように……。

 ロダリス、アルフレッド、そしてフィリメル君。

 今後の活躍を、陰ながら応援しているよ」


 目の前男はそう言って、ロダリス、フィリメル、そしてオレへと順に手を伸ばし固い握手を交わしていく。

 親父とよく似た、古傷とタコが多く残っている無骨なその手。


 幾度となく鍛錬を重ね、この国を守り続けた証とも言える傷だらけのその手………。

 

 クソ真面目に見ず知らずの人間の為だけに振るい続けたであろう、その姿の成れの果てだ………。

 

 幼い頃、確かに憧れていた存在でもあったが故に……。


 余計に今のオレには分からないモノだった。

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