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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
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猫は気分屋です

帝歴404年1月8日


 「う~さむいさむい………。

 全く、こんな寒空の下を歩くのはやっぱ身体に堪えるなぁ………。

 騎士団の訓練もそうだけど、冬場の訓練はもうちょい暖かいところでやりたいと思いません?

 ほら、いい感じに暖房効いた室内ホールとか、ジムとかで身体を鍛えた方が効率的だと思うんですよ?」


 「そんな腑抜けた訓練が何処にある?

 いつ如何なる時にも動ける為のモノを、寒いから無理ですなんて、甘ったれた言葉が何処の口から出てくるんだ?」


 「そうよ、私達だって寒いんだからコレくらい我慢しなさい!!」


 「へいへい、そうですねー。

 オレが悪うございましたよ……」


 仲間の言葉が痛い。

 雪も降ってるし、寒いのも事実……。

 ささやかな願望を抱いて何が悪いと思うんだか……。

 ロダリスもフィリメルも、揃って頭が固い連中の一人。

 何でオレの交友関係とは合わないであろう人選をされているのだろうか、全く………。

 

 ほら、オレと親しい先輩や同期だって他には沢山いるのにさ……。

 寄りにもよって何で騎士団連中の中でも特に固いこの二人を俺に組ませるんだか……。

 いや、もしかしてオレが二人を任されているのではないのだろうか?

 上の連中は優秀なこのオレに、二人の教育係的なモノをさせる為に敢えてこの組み合わせを………?


 そんな事を思っているとオレの視線の先には、とある建物の入口前で猫を抱えて立ち尽くしている小柄な女の子が目に入った。


 おっ、結構かわいい子だよな?

 あれ?、でも……あの建物って………


 「なぁ、二人共。

 あの子の立ってるのって例の自警団の所じゃないのか?」


 「ああ、確かにそうだが……。

 お前、またナンパする気か?

 俺の目の前で、事前に宣言してくるとはいい度胸だな?」


 「アルフレッド……貴方いい加減に………」


 「いやそうじゃないって、本当に!!

 確かに、オレの好みのかわいい子なんだけどさ!

 いやでもほら、なんか建物の前で突っ立ってるから何かあったのかなって?!

 困っている人を放っておくのは駄目だろう?

 な、だからそういう感じで………。

 声を掛けてみないかって事なんだが………どうだ?」


 「まぁ、確かにその通りかもな。

 フィリメル、ちゃんと見張っておけよ?」


 「了解です」


 「ちょ……何でそんな信用されてないのオレ!?」


 二人は俺の言葉に耳を貸さない。

 くっ……優秀故にコイツ等の世話には全く手を焼くものだよぁ……。


 「あの、すみません。

 私達はサリア王国のヴァルキュリアという騎士団の者です。

 先程からこの建物の前に立っていますけど、何かありましたか?」


 俺のそんな考えも知らずに、二人は例の猫を抱えた少女の元へと向かい、フィリメルが例の彼女へと声を掛けていた。

 一瞬彼女は驚きの表情を浮かべたのだが、何かの意を決して口を開く。


 「っ……ヴァルキュリア?

 あの、そのえっと……。

 私、この地区に住むネルティス・フレンっていう者です。

 えっと、その……私はここで隔離されている友人が心配で来ているんですけど……ここ数日間ずっと面会が出来ない状態で心配で、無事だといいんですけど……」


 「面会ができない?

 そのご友人は、一体何をしてこの自警団へと?」


 「あの、元々は街で倒れていた人なんです。

 身元が分からないから調査の一環として一時的な収入も必要ということで自警団内で就職する予定だったんですけど……。

 その、自分の名前も生まれも分からないらしくて私達の家族が彼女を居候として招き入れ共に住んでいたんです……。

 でも、自警団に入るにあたっての適正検査で色々と問題があって……。

 でも素行が悪かったとかそういうのじゃないんです、本当に!!

 でもその、検査で使う魔力測定器が突然壊れたり、その後の実戦試験でティルナさんって人と試合をすることになったんです………。

 そしたら突然、我を忘れたように施設が崩壊するくらい暴走してしまって……それきり私達家族は彼女に面会出来ていない状態なんです」


 「身元不明のご友人ですか……。

 彼女の仮の名前や特徴は?」


 「えっと、私達はヘリオスって仮に呼んでいました。

 長い赤髪の綺麗な女性の方で、私より少し背も高くてちょっと年上くらいの人です。

 性格はとても優しくて、私達にとってはもう家族みたいな大切な方で………。

 その私の抱えているこの子はシアンっていうんですけど、シアンも彼女にはとても懐いてたので………。

 この子、家を抜けてはここに来てたみたいで……」


 「ニャ~」


 ネルティスと名乗った彼女、そう言って再び自警団の建物の方に視線を向ける。

 シアンという黒猫もまた、例の建物の方を見上げ例の彼女を心配していそうに見えた。


 「ティルナ殿が動いた程の人物………。

 その上、施設を破壊する程に我を忘れたという割には、貴方の話を聞く限り野蛮な人物という訳でもないようですね………。

 しかし、この時期に身元の分からぬ人物となると……」


 「そうは言っても、帝国の一件で今もそういう人達は街に溢れていますよ………。

 でも、貴方と同年代近い女性となると帝国関連とは違う可能性もありますよね………。

 色々と深い事情があるとは思いますけど、深入りするのはちょっと危ない気がします………」


 「ふーん、なるほどね……。

 赤髪の綺麗な女の子か………。

 ねぇ、ネルティスちゃんって言ったっけ?

 その、ヘリオスって子は今も多分この建物内に居るんだよね?」


 「あっ……はい、多分ですけど……。

 私、そのヘリオスが心配なんです!!

 何かあったら、本当に気が気でなくて……だから!!」


 「よーし、そういう事ならここは俺達も一肌脱いで彼女の為に協力しましょうよ?

 ロダリス殿もフィリメルもそれでいいよな?

 目の前で困ってるかわ……じゃなくて民を見捨ててはおけないだろ?」


 「まぁそれはそうだが……。

 協力してあげたいのも山々なんだが、ティルナ殿が出た時点で我々の手に負える範疇(はんちゅう)を超えている可能性が非常に高い」


 「ティルナさんって、確か十剣の長であるアスト様の娘さんですよね?

 噂ではすごく強い御方みたいですけど、私達は見たことありません」


 「私も数度顔を見た程度、自由奔放で自分の気分次第で仕事引き受けるらしいが……。

 昔馴染みのクラウス殿や、シファ殿の命令に対しては忠実らしく、その実力も並ぶ程らしいからな。

 彼女が動く場合、大抵がかなりの厄介事である事が多いから我々のような下の者が安易に手を出すべきではない案件の可能性が非常に高い」


 「いやでもほら、現に目の前で困ってる人がいる訳じゃないですか?

 ダメ元でも、やるだけやって見ましょうよ?

 ほら、ネルティスさんからもさ?」


 俺はそう言って、ネルティスちゃんの方へと手を伸ばすと彼女が抱えている黒猫のシアンが俺のその手を弾いた。

  

 「シャーーー!!!!」


 「うわっ………アルフったら猫にまで嫌われてやんの」


 「下心が丸見えだったようだな」


 「ちょ、酷くね!?

 なぁシアン様?、俺の事がそんなに嫌いだったりしますかね?!

 ほら、丁度俺のポケットに君の好きそうな魚の干物が………」


 俺は黒猫に餌をチラつかせると、猫はそのまま餌を口にし元気に食べ始める。

 ふ……、猫好きの女の子の為に用意したコレが役に立つ日がようやく来るとは………。


 「ほーら、シアン様や?

 俺は結構いい奴だろ?

 だから、ほら?

 そこの主様とも俺はそれなりに親密になれると思うんだが、どうかなぁ……?」


 今度はシアンの頭を撫でに向かう。

 しかし、餌を食べ終えたこの猫は再び俺のその手を跳ね除ける。


 そして………


 「シャーーー!!!」


 この通り本気の威嚇を向けて来た……。

 というか、さっきより殺意増してない?


 とうとう初対面の猫にまで嫌われたよ、終わりだよ。

 

 飼い主のネルティスちゃんも若干ドン引きされてるよ。

 もう駄目……完全に脈ナシ……クソ……なんでなんで……いつもこうなるんだよ………!!


 「あー………なんでかなぁ……?

 オレそんなに駄目なのかなぁ?

 ほら、餌は他にもあるよーー、ねぇシアン殿ぉ?」

  

 再び餌を与えてみる、そして餌はしっかりと食べる。

 そして、再び頭を撫でようとする。


 「シャーーーー!!!!!」


 返事は殺意マシマシの威嚇だった。


 「うわ………本当に嫌われてるじゃんアルフ……。

 流石にそこまでされるものなのかなぁ?

 試しに私も……」


 そう言って、フィリメルも猫を撫でに手を伸ばす。

 よし、シアン。

 こいつにも威嚇をするんだ。

 いいな、俺にしたよりももっと強い奴を御見舞いしてやれ!!


 しかし、フィリメルが撫でると黒猫の先程の俺とは正反対に甘えた声を出してそのまま幸せそうに彼女に撫でられ続けられていた。

 

 「差別だ!!

 今ここで俺は差別を受けてるよ!!」

  

 俺の言葉に少し同情したのか、横のロダリスが俺の肩を優しく叩き諭してくる。


 「諦めろ、猫や女は気分屋なところが魅力なんだ」


 「いやいや、流石におかしいですって!!

 じゃあロダリス殿も撫でてみて下さいよ!!

 そして威嚇されてください。

 貴方のその強面なら、猫どころかそこらの猛獣も全力で襲い掛かって来るに決まってるからな!!」


 「何を言うかと思えば……全く……」


 「ロダリスさんも触ってみてくださいよ〜。

 この子すごく柔らかくて、人懐っこいですよ!」


 気づけばシアンは、フィリメルに抱かれていた。

 しかも気持ち良さそうにして、思いっきり懐いているではないか。

 悪魔め……きっと俺と同じく人間のかわいい女の子が好きなだけの奴に決まってる。

 

 「ほう、では私も少しばかり失礼して………」


 そして強面のこの男も、例の黒猫に手を伸ばす。

 よし、威嚇しろ!!

 あわよくば思いっきり噛んでくれ!!

 頼むぜ、シアン!!

 お前の力の見せどころだからな?


 しかし、ロダリス殿に撫でられてもフィリメルと同じく思いっきり懐いていた………。


 「どゔしでだよぉぉぉ!!!」


 「ほう、確かに柔らかく人懐っこいな……。

 フッ………」


 俺の方を見て、ロダリスは嘲笑った。

 クソ……なんで………なんで俺だけが………。


 いやまだだ、三度目の正直って言葉もある。

 さっきまで機嫌が悪かっただけに違いない……。

 

 「ほーら、シアンさん……。

 ここは俺にもいいところ見せて貰えると………」


 俺の伸ばしたその手を振り払い、更には突然飛びかかってくると黒猫は思いっきり俺の顔面に向けて襲い掛かってきたではないか………。


 「シャーーー!!!!!!」


 あ、やべえ………。


 「ギャアァァァ………!!!」


 俺は大きな奇声を上げ思わず顔を覆った。

 やりやがった………コイツ……マジで殺しに来やがった。


 その後、路上で思わずのたうち回り落ち着いた頃俺はシアンの飼い主であるネルティスちゃんに手当をされていた。


 「あのえっと………すみません騎士さん……。

 この子いつもなら人懐っこい子なんです………本当に本当で……だから……シアンを嫌いにならないで下さいね」


 先程から必死に俺を慰めてくるネルティスちゃんの言葉に俺の心が折れかける………。

 傷の手当までしてくれて、なんて優しい子なんだろなぁ………。


 優しい言葉が余計に心に突き刺さる……。


 はぁ………ソレにしてもなんで人助けしようとしたら猫に殺されかけなきゃならないんだよ………。


 それも俺以外に懐くとかさ………。


 「良かったわね、ネルティスさんに手当されて」


 「そうだな、ある意味役得だろうよ」


 「酷え仲間だなぁ。

 ……まぁコレくらいの傷で済んで良かったよ。

 正直死ぬかと思った、どうやら野生の本性は失っていないようだね……うん、きっと将来シアンはいい忠猫になると思うよ」 


 「忠猫……?」


 「忠猫って……犬じゃあるまいし……」


 「全くだ、これに凝りて日頃の行動を改めろよ」


 「アハハ………、どうしてこうなるだろオレ………。

 っ………痛って………」

 

 「あ……すみません……。

 本当にうちのシアンがすみません………………」


 「ニャ~〜♪」


 「ひっ……!!」


 シアンの鳴き声にオレは恐怖を覚えた。

 将来、絶対に猫は飼わないと。

 オレは、心に誓った………。

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