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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二章 炎の覚醒編 序節
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第ニ十六話 全力を賭して

 帝歴403年7月18日


 既に日も暮れ、就寝の時刻に入ろうとしていた頃、私の端末から着信音が鳴り響く。

 その相手はまさかの学院長であった。

 突然の電話に緊急を要するのかもしれないと緊張感を高めつつ、私は冷静に通話に対応した。


 「こちら、ラノワ。

 夜分にどうかなさいましたか?

 急用とあれば、私が可能な限り即時対応を……」


 「ああ、夜分遅くに済まないねラノワ君。

 いや、急用という程じゃないさ。

 明日の試合について、私から少し助言をと思ってね」


 「助言ですか……」


 「彼女、シファ殿との試合だが……」


 「はい」


 「君の全力を尽くしなさい。

 それが助言だよ……」


 「全力ですか?

 しかし、私の実力はご存知でしょう?

 学院一では無いにしろ八席に立つ私です。

 彼女がいかに強かろうが流石に私程には……」


 「ははは、言うようになったねラノワ君。

 でも、正直に言うと君程度の実力では彼女に勝てるどころか、一撃掠めるかすら怪しいだろうな。

 君の実力は私も非常に高く評価しているが、彼女の力はそれに及ぶとは思えない。

 1位の彼ですら、彼女にはきっと触れる事すら叶わない程に彼女は脅威的な存在だからね」


 「っ……!」


 私はその言葉に絶句するが、電話越しの彼の言葉が嘘を付いているとは思えない。


 「分かりました、全力を尽くし試合に望みます」


 「それでいい、君の健闘を祈っているよ」


 通信が切れると、僅かに一息つき精神を落ち着かせる。


 「君では彼女に勝てないか……」


 そんな言葉が漏れ、私は天井を見上げた。


 「今度の戦いから引くつもりか、ラノワ?」


 身体の中に潜めるナニカの言葉に、私は言葉を返す。


 「形はどうあれ私から仕掛けた勝負だ。

 今更引くことはあり得ない」


 「強いぞ、あの女は……」


 「お前程の奴がそれを言うのか?

 確かに、強者の風格はあったが高く評価して上の二人と並ぶかどうかと思った。

 昨年は惜しいところまで行ったが、今年の優勝の為にいい景気付けになってくれるだろうよ」


 「あの女、出会ったとき既に私を視ていた」


 「…………、本当か?」


 「ああ、恐らく我々と同じ悪魔憑きと呼ばれる存在の可能性が高い。

 私と同格程度はあるだろうな……」


 「お前と同格か………」

 

 手に持った端末を見つめ、明日の対戦相手の写真を見る。


 「シファ・ラーニル………」


 この世の者とは思えない程の美しい容姿に恵まれた彼女。

 実際にこの目で見て、思わず私も見惚れた程。

 状況が状況であれば、一目惚れもあり得たのかもしれない。


 「ラーニル……いや、まさかな………」


 「ラーニルの名と何かの因縁があるのか?」


 「遥か昔のことだ、お前には関係のない」


 「そうかい………。

 あの人の言葉通り全力を尽くす。

 必ず勝とう、ヴェル」


 「そうだな、我が主。

 お前の生が果てるまで、私はお前に尽くすまで……」


 最早腐れ縁とも言えるそいつに向け、私は勝利を誓った。

 必ず勝つ、いや勝たなければならない。


 私が、私のような者達が迫害されて理不尽な悪意によって苦しまない世界の為に……。

 私は最強でなければいけないのだから……。




 帝歴403年7月19日


 盛大な歓声が巻き起こっている。そして…… 


 「我がオキデンス最強!

 学位序列第五位、ラノワ・ブルーム!」


 「「ーーーーーー!!!」」


 自分の名が呼ばれた。

 いつもの黒い甲冑を纏うと自然と緊張感が無い。

 しかし何故か、自分に流れる時間がゆっくりと流れているように感じた。

 恐らく調子がいいのだろう、これ程優れている時は生涯に数回あるか無いかだろうと……。

 闘技場に私が姿を表すと、更に歓声が上がる。

 歓声が上がる方向に手を振る、彼等は私達の試合を見る為に来てくれた。

 それに応える為に……。

 そして、例の対戦相手の名が呼ばれた。


 「学院に突如として現れた美し過ぎる剣姫!

 シファ・ラーニル!!」


 「「ーーーーーー!!!」」


 盛大な歓声が再び巻き起こり、向こうから例の彼女は現れた。

 銀髪の髪を揺らす女性、これ程までの美貌を持つ存在がこの世にいるのかと私はいまだ信じられないでいる。

 あまりに完成され過ぎた美しさ、そして彼女が私より遥かに強い存在だということを未だに信じられないでいる……。 


 そんな彼女の腰には剣を帯びている。

 私の持つ剣と比べればかなり細身の華奢な一振り。

 しかし、それがかなりの業物である事に私はすぐに察した……。

 世で言う魔剣と呼ばれる物に近い存在。

 彼女の鞘から刃を抜かずとも威圧感を感じさせている。


 剣は持ち主を選ぶ。

 それが魔剣という域でなら尚更の事。


 彼女の実力は昨日の言葉通り、いやそれ以上であると知覚せざるを得なかった。


 「今日はよろしくお願いね、ラノワさん」


 「あなたの実力に恥じぬよう……。

 全力を尽くしますよ」


 「期待してるよ、君の実力をね」


 そして、戦いの場を囲うように教師たちが堅牢な結界を構成していく。

 

 「それでは、お待たせしました。

 細かい紹介は抜きでさっさと始めましょう!!!

 試合開始!!」


 合図と共に私の彼女は剣を引き抜き構えると私は先手に打って剣を引き抜いた。

 


 「すごい……!

 ラノワと互角なんて……」


 ルーシャは横で思わずそんな声を漏らしていた。

 観客達も騒然と試合を観戦している。

 目の前で繰り広げられているのは、高速で織りなされる剣技の嵐……。

 ラノワさんは甲冑を纏っているにも関わらず、凄まじい速さで剣を振るっていた。

 見事としか言いようの無い、実質剛健を感じさせる勢いに俺は思わず息を飲む。

 対する姉さんは剣を完全に引き抜かず、鞘から少し出した刃でラノワの高速の剣技を防いでいる。


 普通の人間なら剣を抜ききれずに押されている状況だと思うだろう……。


 しかし、俺には分かっていた。

 押されているのでは無い。

 あれは彼女にとって、まだ様子見の段階なのだ……。


 姉さんの動きには全く無駄が無い。

 相手の剣を見切った上で最低限の動きで防ぎ次の攻撃を予測している余裕があるのである。

 彼女が放つ美貌さながら末恐ろしい程の実力に、俺はいつも驚愕させられる。


 この試合、恐らく姉さんの一方的なモノになる。

 それを確信した


 「何故、剣を抜かないんです?

 私の実力が、まだ剣を抜くに値しないと?」


 鍔迫り合いの中で、私は目の前の彼女に問う。

 中途半端に抜かれた半身の刃でこちらの攻撃を防ぎ続ける彼女に対して、渡ったは僅かながらの苛立ちを覚えつつあった。

 

 「うーん、そうだなぁ。

 だってあなた、まだ本気出してないでしょう?

 目を見れば……いや、あなたを見れば隠している力が何なのかある程度予想は付いているけどね」

 

 「既に何かの予想がついてると?」


 「あなたの身体の中に潜む、何らかの存在。

 多分、それなりの序列にいる悪魔の類いとかかな?」


 「………なるほど、流石ですね。

 やはり、見破られていたとは………、

 どうやら、失礼をしていたのは私の方でしたか。

 アレは私にとっての奥の手なので、安易に使いたくは無かったんですが………」

 

 私の言葉に、目の前の彼女は僅かに微笑むと左手をこちらに向けて挑発してくる。


 「………あなたの力、見せてよ」 


 言葉と共にゆっくりと鞘から華奢な一振りの剣を引き抜かれ、その隠された剣の全容が露わになる。

 ただ剣を引き抜いただけにも関わらず辺りの空気が凍ったような感覚を覚え、何かの影を錯覚した。


 抜かれた刃を視界に捉えただけで、身体が竦むと思わず本能的に私の足は一歩下がっていたのだ。


 怯えることはない。

 軽くひと呼吸を置き、再度己の集中力を高める。

 僅かに興奮しつつある精神を抑え、己の携えた剣を再び構え直す。


 「出し惜しむ理由は最早ない……」


 己に宿るソレに語りかけるように、全身に巡る魔力を大きく高める。

 すると全身から黒い瘴気と化した魔力がある種の禍々しさを漂わせ溢れていく。


 「魔王と呼ばれる我が力、とくとご覧あれ!!」


 私の叫びに呼応。

 全身を瘴気と化した黒い魔力が包み込み、

 そして弾ける。


 元の姿とはかけ離れた灰色の肌。

 黒い悪魔的な羽が生えた異型と化した己の姿……。

 更に、その黒き鎧はその姿を変え、禍禍しさを漂わせるかのように生き物のような黒い泥のような魔力のソレが這いずり回っていた。


 観客席から盛大な歓声が私に向けて巻き起こる。

 魔王が降臨したなどとの声が後を絶たない中、私は被っていた兜を脱ぎ捨てる。


 右側に生えた山羊のような湾曲した角の存在が、露わとなり目の前の彼女は何処か関心を覚えている様子である。


 「ふーん、やっぱり君って悪魔憑き?

 なるほど、なるほどね……」。

 

 「だが、私に憑いているのはそこらの低位とは格が違いますよ。

 魔族の中でも上位の一握りの魔族、こちらで使役するにもひと苦労してるが。

 いや、使役というよりお互いの利の為の共謀か………」


 「へぇ、意識は保てるんだ……?

 そこまではわからなかった。

 てっきり、よくある暴走しちゃう例なのかなって思っててね?

 力の扱い方を教えてくれる師が居ない中、独学でその力を引き出せるのは私もあまり見ない例だからね

 それじゃあ、私も君が見せてくれた本来の力に対して多少は応えないといけないね?」


 その言葉の刹那、辺りの空気が張り詰めた。

 彼女の放つ魔力の混ざった威圧故だろう。

 そして、彼女の余裕見えた目付きがガラリと変わり殺意の込めれたソレと化したのだ。


 「来なさい……ラノワ」


 優しい雰囲気から真逆とも言える冷淡な口調。

 アレから放たれる威圧に押されそうになる。

 そして、何かを合図に互いの体が動く。

 瞬きの瞬間すら許さぬ高速故の剣が交錯し凄まじい衝撃がこの空間に響き渡った。

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