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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
256/324

国と主と己の在り方

帝歴404年1月8日


 俺の目の前には、敵であるラグナロクの一人がサリアの歴史を語っていた。


 リースハイル・ラクド・サリア。


 サリア王国の歴代屈指の女王と謳われる存在。

 帝国の軍事的な武力支配に唯一屈せず、対等な立場で対話の場を設けた存在だ。

 この国の礎を築き上げ、今も尚大きな支持を持つ伝説の存在。


 そんな彼女が、どういう訳かラグナロクという組織の一員として目の前に立っている。

 

 「私を含めたサリア王家、そして教会の顔でもある教皇一族は少なからずシファ・ラーニルとの血縁関係をもっている者達。

 過去に魔女として、幾度となく拷問を受けた彼女から生まれた双子の子孫。

 それが私達の一族なのだから………」


 「血縁関係………?

 つまり、姉さんと血のつながった兄妹がこのサリア王家と教会に居ると?」


 「兄妹とかじゃないの。

 私とあの人には少ないながらも血は繋がっている。

 彼女から生まれた子供の子孫って話かな。

 あの人が君に言いたくない程に、忘れたいくらい辛い過去が故なのかもだけど……」


 「つまりは、姉さんが過去に誰かと結婚し子供を?

 いやでも、姉さんにそんな相手が居たとかそういう話は………。

 いや、でもさっきの話………まさか……」


 脳裏に過ぎる、最悪の光景………。

 とてもじゃないが、そんな酷い行為を身に受けていたなんて考えられない………。

 

 「私の口からは深くは言えないかな。

 でも、その後どのような事になったか分かる?」


 「教会とサリアの歴史上の話ですか?」


 「表向きには、魔女狩りの解放運動が各地で起こり教会の力が大きく弱体化し、各国それぞれの力が強くなった。

 国の力が強くなった事により、当時弱小国の一つにあったサリア王国と炎の英雄の力によりその力をより強固なものとし、現在の西大陸四国間の勢力図が生まれた。

 炎の英雄、それは貴方の持つ神器と同じモノを使っていたスレッド・アルクスという者。

 当時魔女狩りの最中で虐げられていた魔族の少年が彼女の養護の元で英雄となるに至った。

 それは後に、私のよく知るハイド・アルクスの養父となる。

 シファさんは、その当時を私にこう言っていた」


 

 『私は己の目的の為なら何でもするよ。

 村や街、国だって何が相手だろうと関係ない。

 己の為なら、家族だろうと、友だろうと、愛する者でも私は全てこの手で全部殺すから。

 貴方が、この国がどうなろうとも私に不必要だと判断されればどうなるか、分かっているよね?』


 「………姉さんが、本当にそんな事を?」


 「彼の死後、帝国の進攻が近づいてきた時、あの人は私にそう言ったわ。

 今まで見たことないくらい怖かった……。

 でも、私は彼が命を掛けて守ってくれたこの国を、民達の事を考えるなら、戦争は避けたかった。

 だから、出来る限りを尽くしたの。

 あの人を説得することを、やめなかった。

 当時の十剣のみんなも私の言葉に耳を掛けてくれて……力を失った教会も私に力を貸してくれた………。

 私一人じゃ何も出来なかった事………。

 彼が繋いでくれた沢山の縁があって、私はサリア王国の女王としてこの国を帝国の脅威から守る事が出来た」


 「………」


 「前線はシファさんに任せてしまったけど。

 それ以外は私達人間の手で解決出来た。

 あの人の力は必要だったかもしれない、でもあの人だけじゃきっとサリア王国は滅びの道を辿っていた。

 帝国との戦いでより多くの戦火が巻き起こっていた。

 そして今、そんな帝国が崩壊し20年が過ぎ新たな時代を迎えようとしている。

 あの人を止めて欲しい、これ以上苦しませないように憎しみと復讐の為に、多くの民を巻き込むような真似をさせない為に、今の世代である貴方達にお願いするしかない……。

 私やハイドが、みんなが繋いで守ってくれたこのサリアを失わせたくはないから。

 今を生きる貴方達に、お願いするしかない」


 「姉さんの憎しみ……。

 ラグナロクをカオスを憎んでる事は勿論知ってますよ。

 でも、俺だって………俺だって家族を殺したあんた達がどうしようもなく憎いんだよ!!

 サリア王国が、世界が窮地だから協力する……。

 頭では分かってるんだ、この憎しみ連鎖は止めなきゃいけないってことくらい………。

 守るべき人達が居るから、俺はその憎みをいつまでも抱えてはいけないって………。

 でも、でも……!!

 俺が今抱いてるこの気持ちを……死んだ家族が、リンが抱いていた無念は……どうすればいいんだ!!

 かつての女王陛下であるリースハイル様なら、俺達のこの気持ちを、この憎みをどこにぶつければいいのか分かるのかよ!!

 相手が居る限り、終わらないんだ!!

 敵が居る限り、俺の戦いは……俺達の憎みは終わらないんだ!!」


 俺は目の前の自身の事情も何も知らぬ存在にそう叫んでいた。

 今まで、今の今まで抱えていた憤りの全て……。

 納得いかない不条理、矛盾……。

 

 俺はその全てを、目の前の何も知らぬ女に叫んでいた。


 俺のそんな姿を見て、隣に立つテナは困惑していた。

 無理もない、こんな姿、今の今だって俺は見せたくなかったのだ……。


 騎士だから、ルーシャを守る為の存在だから……。


 十剣だから……国の為に世界の為に相応しい存在になのだから………。


 憎みに駆られたこの姿を……。

 親友であり、同じ騎士としての道を歩むテナやルーシャ達には見せたくはなかったのだから。

   

 「何が正しいのかは私にはわかりません。

 その判断は貴方が己の歩む道の中で見つけるべき答えです。

 でも、人は道を踏み外すことがあります。

 その時、貴方の大切な人達の存在を決して忘れてはいけません。

 その人達が貴方に伸ばしてくれた手を、貴方が守ろうとしたその手を無駄にしたくないのなら、彼等の存在を貴方は決して忘れてはいけません」


 「………忘れるか……。

 何度も何度も……思い出してばかりのこの俺に今更忘れるななんて言葉を掛けるのか……あんたは?」


 「本当に忘れてしまったのなら思い出せるはずもありませんよ。

 貴方が思い出せたのは、貴方が忘れなかったから。

 故に大切なモノを、忘れることは決してありません。

 私達は、生きる者達全ては己の核となる大切なソレ等を必ず忘れません。

 どんなに辛い記憶でも、楽しい記憶でも、自分にとって大切なモノは絶対に忘れることなんてできないんです……。

 手遅れかもしれない、それでも貴方が生きている限り貴方がソレを望む限り何度だってやり直せるはずです。

 今は分からなくても……必ず分かる時が来るとそう信じていますよ」


 彼女はそう言うと、俺に一歩近づきその目をじっと見て語りかけてきた。


 「ねぇ、ハイド?

 貴方はこの国をどう思ってる?

 貴方の家族を奪ったこの国を、貴方の大切な人達が生きるこの国をどう思ってる?」


 「………俺はサリア王国第2王女、ルーシャ・ラグド・サリアに仕える騎士の一人です。

 俺がどう思われても、ルーシャがこの国を守りたいと願うなら、俺もこの国を守りたいとそう思っています」


 「なら、ルーシャ王女がこの国を嫌って滅ぼそうとしたら彼女に仕える貴方はどうするの?」


 「王女としての彼女の責務を立場を守る為に、俺は彼女のその行為を咎め止めるべきであると」


 「貴方は、この国がサリア王国が嫌い?」


 「………よく分かりません」


 「そっか………うん。

 じゃあ私と一つ賭けをしましょうか?」


 「賭けですか?」


 「そ、私と一つ勝負をするの。

 貴方が学院に通っている間、もしルーシャ王女の身に万が一が起こり守り切る事が出来なかったら………」


 「出来なかったら……」 


 「私が貴方をこの手で殺すわ、必ずね」


 「…………、守り切れた場合は?」


 「そうだなぁ………、私が知り得るラグナロク及び帝国に関連する情報の全てを教えてあげる。

 貴方の望む復讐の相手の情報もね?

 報酬が報酬だから、こちらからはもう一つ条件を追加するけど」


 「何の条件です?」


 「復讐の相手について。

 もし仮に、貴方が卒業以前にそいつの情報を得て交戦した場合、相手が生存していれば契約は継続。

 相手が死亡した場合、この契約は破棄とするっていう条件をね」


 「そいつと貴方に何の関係があると?」

 

 「うーん、それは今は秘密……。

 加えて、私も知らないところが多いからもう少し調査したいところなのが本音かな。

 ラグナロク自体の動ける人達が少ないからね、貴重な人員を減らされると私達の負担が増えるからさ」


 「それをあくまで、卒業までの間だと?」


 「そういうこと。

 でも当然貴方なら出来るよね?

 サリア王国の第2王女であるルーシャ王女の身を守る為騎士として仕えているんだからさ?」


 「敢えて卒業までの期間にする理由は?」


 「君の判断を測る為だよ。

 まだまだ未熟な若い子だからね。

 学院で様々な経験を重ねた果てて、君が何を決断するのかを私に示して見せてよ。

 今は分からなくても、それくらい経てば何か一つは掴めるはずだからね?」

 

 「………帝国やラグナロクの情報が俺に何の利益があると思って提示したんです?」


 「今は関係なくても、いつかきっと必要になるから。

 私、人を見る目はあるからね?

 それで君の返答は?」


 「…………」


 俺は大きく悩んでいた。

 目の前の敵の言葉を仮にもサリア王国の王族の姿で取引を持ちかけてきた事に……。

 受けるべきか、取り下げるべきか………。


 受ける義理はない、歴史上の彼女は既にずっと昔に亡くなっている存在。

 故に、目の前の彼女は明らかに偽物。

 どれだけ精巧に創られていても、目の前の存在は偽物なのだ………。


 でも…………。


 「その言葉を信じていいんだな、リースハイル殿」


 「ええ、カオスやラグナロクの意に反してでも私は貴方との約束を守ると誓います。

 ですから私に証明してみせて下さいね、貴方の進む道を、その在り方を」


 目の前の女王はそう言うと、更に近付いて俺の右の頬に優しく手を伸ばし触れてきた。


 「やっぱり、最初に出会った頃の彼に似てるかも……。

 でも、今の貴方の方が辛い顔をしているかな……」


 「辛い顔?」


 「でも大丈夫………。

 きっと、貴方を救ってくれる人がいるはず。

 貴方に救われた人達がきっと……今度は貴方を助けてくれるはずだから………」


 瞬間、再び身体が重くなる。

 意識が遠退く中、最後に見えたのは………。

 

 目の前で涙を流す、ただ一人の少女の姿だった……。



 目の前で横たわる彼を見ていた。

 そして、かの女王の名乗った人物は私の方をみて口を開く。


 「これから向こうに転送するけど、記憶処理は出来るんだよね?

 処理の範囲に関しては任せるけど、さっき彼と交わした約束については忘れさせないように」


 「僕にそんな命令をするんですか?」


 「一応、貴方の建前や立場を守ったつもりだよ?

 これでも一応貴方の母親なんだし」


 「今更、親子ぶるつもりです?

 他の子達の行方を知った上で?」


 「まぁそう思われてもしょうがないか………。

 後で幾らでも責めて構わないよ。

 私も彼も、貴方に何を言われてもしょうがないんだからさ」 


 「そうですか、わかりました。

 その命令、引き受けますよ。

 一応、怪我を治してもらった建前があるので」


 「治したとしても無理は禁物、あんまり強い魔力を使って身体を動かせば死んでも本当におかしくはないんだからさ」


 「了解しました……」


 「それじゃあ、他に何か言いたいことは?」


 「僕の事、ラグナロクは何か隠してますよね?

 ここ数日、カオス様との連絡がつかないので」


 「その点については、僕が知ってるよ」


 そう言って、異時間同位体である未来の僕自身が口を開いた。

 

 「僕は、内通者。

 彼等の味方でもあり、ラグナロクとしても一応動いている。

 脱退はしたけど、それでも任務を遂行する必要があったから協力してるんだけどね?

 今回、リースハイルの元に転移させたのは彼女への連絡事項があったから。

 今回の任務完了まで、当部隊の指揮権の全権をリースハイル殿に移行する。

 その間、こちらは8号機の異常調査の為追々合流するとのことだ」


 「なるほど、この前言ってた向こうの内通者って貴方の事だったんだ?

 まぁ了解、人遣いが荒いのはしょうがないけど……。

 あ、さっきの事カオス様には内緒ね?」


 「言うかもしれないよ?」


 「君が今ここで言われたくないこと、私言っちゃうかもよ?」


 「………」

 

 王女の言葉に、女は珍しく口を閉ざした。

 先程までの明るい表情から余裕が無くなり、僅かながらに怒りのようなモノを感じ取れた。

 

 「言われたくないことってなんだよ?」


 「君には関係ないとは言えないけど………」 


 「何を隠してるんだ?」

 

 「嫌でもその内知るさ」


 「何?」


 「はいはい、そこまでしなさい。

 お互い一応同一人物なんだからさ、少しは仲良くできないの?」


 「仲良くか、無理な話だ」


 「そういう訳。

 まぁ言わないならそれでいい。

 自分でひたすら調べるだけだ」


 「はぁ……そういう意地の悪いところは私によく似てるかもなぁ………。

 それで、貴方も向こうに戻るの?」


 「わざわざ送ってくれるのかい?」


 「そういう話で私は呼ばれてるの。

 それで、どうするの?」


 「じゃあ僕も一度向こうに戻る。

 やることはそれなりに残ってるからね……」

 

 「了解、じゃあ小さい方のテナは彼を支えててくれる?

 後の事はお願い、これから飛ばすから……」


 そう言って、王女は軽く手を振りかざすと数本の真紅の杖が光を放つと共に彼女を囲いながら出現した。

 

 そして杖等は、僕等の周りを囲うように地面へと突き刺さると地面に赤い魔法陣が出現。


 「それじゃあ、またね娘達……。

 そして、彼の名を継いだ新たなサリアの英雄君」


 その言葉を最後に僕等の身体は光と共に消え去った。


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