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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
254/324

共闘戦線

帝歴404年1月8日


 日付を跨いだ深夜、視界の先には一組の男女が存在していた。

 冬の寒空の下、一人の少年に膝枕して、寝かしている大人の女性の姿。

 少年の顔を懐かしむように、眠る彼の顔に優しく触れる女性の姿に終始警戒の眼差しをこちらは向けていた。

 

 すると、


 「いい加減出てきたらどう?

 そろそろ待つのも疲れてきたんだよね」


 女性はこちらの居る方向に対して、僅かながらに視線を向けながらそう告げた。

 既に気付かれていたとわかれば、隠れる意味も無くなり私は例の女性に対して姿を露わにした。


 「まぁ、これくらい見抜けて当然ですよね」


 「そういうこと。

 君の未来の可能性であるこの僕が、この程度の監視に対して気付かない訳が無いだろう?

 気配はしっかり消えているけど、いかんせん気配が消え過ぎてそこだけくっきりと虚空のような感覚を感じたからね。

 魔術の練度がいまいちなのに、そんなやり方を続けてたらその内バレるよ?」


 「つまり、お前はそんなヘマをしでかして彼等に自らの素性がバレてしまったとでも?」


 「さあ、それはどうだろうね?」


 女はそう言うと、自身の膝の上に横たわる彼に視線を向けて優しく頬を撫でて見せた。


 「僕が羨ましいかい?」


 「……、彼から離れろ。

 さもなくば……」


 「さもなくば?」


 こちらが続く言葉を言おうとする前に、目の前の女は彼の喉元に小さなナイフを突き立てていた。

 先程、ルーシャ等に抱き付いていた時に見せつけたソレを何の躊躇うこともなくやってのけた事に警戒を強め、私は思わず言葉を濁した。


 「ふーん、やっぱり君はつまらないなぁ……。

 まぁ、昔の僕自身な訳だし理由は容易く汲み取れるけど、やはりつまらないよテナ君はさ」


 「何が目的だよ、お前?」


 「僕なのに、何が目的なのか分からないかい?

 それとも、本気で何もわかってないのかい?」


 「従う組織も、主も、想う相手も居ないこの世界で今更何が出来ると思っている?

 仮にも僕自身の成りの果てであるお前が?」


 「まぁ僕等の計画は失敗したよ……。

 ある意味で君達の勝ち、実におめでたいじゃないか?」


 「おめでたいだと?

 自らの失敗の当てつけにタルタロスの封印を解いたお前等に何処からそんな言葉が出てくる」


 「それに関しては僕らも想定外だった事象だよ。

 本来取り出したいモノが、そこには無く代わりに結構ヤバ目な代物達が世に放たれてしまった。

 こちらも事後処理は手伝うつもり、まぁ犠牲は多少出るだろうが問題なく彼等全てを処理出来るだろうよ」


 「多少の犠牲が出る時点で何故止めなかった!!

 その身に幾度として刻まれたラグナロクとしての存在意義を忘れたとは言わせない!」


 「世界の秩序を守る為の大義名分の為なら、そもそも僕等は犠牲は問わない主義だろう?

 過去、自らの手で己の家族を殺した僕なんかが言えるような言葉かなあ?」


 「貴様っ!!」


 「おっと、そんなに荒ぶるなよ?

 彼の首がここで飛んでもいいのかい?」


 「………」


 「正義なんて在りはしない。

 大衆の主観、個人の主観……時代や時の流れで変遷とするそれ等の価値になんてない。

 弱ければ死に、強ければ生き残れる。

 英雄計画もまた、強き英雄を求めた淘汰故に果たせるモノだ。

 一人の英雄を生み出す為に、何百何千何万と人の犠牲の上で成り立たせる。

 ここに横たわる彼のようにね?

 君の付き従うラグナロクやマスターは何千年と行ってきた……。

 僕はね、正直色々と疲れたんだよ。

 正義も騎士道も友情も愛情も何もかもがさ……」

 

 「故にこの世界の全てを滅ぼしたいと?」


 「うーん、別に僕はそんな事に興味は無いかなぁ。

 こんな歪な世界の価値なんてないからね。

 手に入れたところで、僕の愛した彼は戻らない。

 ここに眠る彼は、僕の知る彼ではないみたいだし。

 可能性を探ってはみたけど、やはり違うみたいだったからね……」


 「じゃあ何が目的なの?」


 「当初の計画は失敗。

 災厄が種子の段階で存在しているなら、その種から潰そうってやり方をしたんだけど無理だった。

 だから僕等は別の手段を考えた。

 要は元が倒せないなら、倒す側を強くする必要があるって事だよ」


 「つまり、あなた達が強くなろうとしたと?」


 「いやいや、そんな事をしようならば僕等ラグナロクが必死になって止めるだろう?

 だからさ、こうしたんだ。

 今の時代、今の世界に生きる君たちを強くするとね」


 「………」


 「確か、今現存している神器の数が約84種。

 その内契約している者が君を含めて41人。

 更にその中から開放者は、彼とシルビア王女そして、シファ・ラーニル、例外としてアクリを含めた計四人が現状の戦力。

 この戦力を増加させる事を目的に僕等は動き始めたんだ、ただ闇雲に増やそうにも難しいところなんだけどね」


 「でしょうね……、それで具体的な方法は?」

  

 「現在の契約者等の現状は、平均年齢が40代を超えている。

 比較的若い十剣でも30後半くらいだったかな?

 で、開放者の君達は10代後半の若い子達だ。

 開放者を増やすにあたって、恐らく若年の頃から神器と契約させた場合、開放者の生まれる確率は高くなる。

 身体との親和性や成長過程で身体に馴染んでいくといったり様々な要因があるだろうけど」


 「若い契約者を増やそうと?

 でも、一体どうやって?

 神器が新たに別の誰かと契約を結ぶには、元の契約者の死後でなければ……」


 「そう、だから殺す計画を進める事にした。

 でも単に殺すだけじゃつまらない。

 それだけじゃ、現状の若い契約者を開放者にすることは出来ないからね?

 という訳で今回我々は、タルタロスの封印を解き放つ事にしたんだよ。

 タルタロスに封じられた者達で十剣の多くを殺し、そして現在の若い契約者等を開放者にしていくんだ。

 その過程で、ラグナロクの英雄計画をも同時に上手く進めていく。

 今眠っている彼、シラフ・ラーニルが真の意味でのサリアの英雄となる素晴らしい試練だと思わないかい?」


 「その為に、その為だけにあなた達は……」


 「うーん、いやいや封印を解くべきと勧めたのは僕一人だよ。

 ここに降り立った時点ですぐ、向こうの掌で踊らせていたのは察したからね。

 だから、別の手段として他の彼等を巻き込んででの僕の考えた最高の英雄計画を実現することにした。

 古の災厄から国を守った炎の英雄の誕生。

 実に素晴らしいと思わないかい?」


 「……そんな事の為に……あなたは彼を……。

 シラフを………ハイドを……私の………大切な人を!!」


 言葉を終える前に、私は目の前の女に斬り掛かった。

 間もなくして、視界が闇に染まり世界が変わる。

 

 いや、先程まてみの場所が変わっていた。


 「っ!!」


 「少しは落ち着きなよ、仮にも僕だろ?

 この程度の挑発に乗せられるようではさぁ?」


 声の後に間もなく空を切るような何かの感覚を知覚し、迫りくるそれを手に持った剣で受け止める。

 しかし、あまりの威力に身体の体勢が崩れ地面に叩きつけられてしまった。


 視界に捉えた女の影を見失う訳にはいかない。


 怒りの感情に身を委ねても尚、これまでの経験上から身体が勝手に動きすぐに体勢を戻すと、視界の先にいる女に刃の切っ先を向け剣を構え直していた。


 「ふーん、やるつもりなんだ?

 まぁいいよ、腹ごしらえには丁度いい」


 「殺してやる……!!

 お前だけは……お前だけはこの手で!!」


 全身に魔力が巡り、光を放つとその手に持った細身の剣はいつの間にか身の丈程の大槍に姿を変える。

 雷にも似た雷鳴を轟かせ、この身と刃は視界の先の奴に向けられていた。


 「神器開放……」


 女はそう告げると、その姿は闇の衣のようなモノに包まれ、私の攻撃が当たる瞬間に布がはためくように消え去った。


 「消えた、一体何処に?!」


 思わず辺りを見渡すと、空の上の月がある方角から人影があるのに気付いた。

 携えた、斧にも似たナニカ……いやあれは……弓……。

 つまり、あの力は………


 「……まさか、アルテミス……?」


 「正解、まぁ当然かな?」


 上空に浮かぶ、黒衣に身を包んだ白銀の乙女……。

 僅かに褐色がかった肌から見える、魔力が駆け巡る刻印のソレが幾何学的模様を浮かばせ夜の世界に幻想的な光のカーテンを浮かばせている。


 その手に携えられたのは、斧弓アルテミス……。

 力の名を関するソレは、斧としての破壊力と弓としての性能を合わせ持つ遠近両刀の武器……。

 最も注意するべきは、弓から放たれる遠距離からの狙撃であろう。


 固有能力は、絶対命中。


 己の観測範囲にある全てが対象となり、距離を問わず必ず攻撃が命中するというモノ。

 その威力を高めれば、小さな街をも軽く吹き飛ばせる災厄のソレでたる……。

 その余りに不相応な力故に今の私では到底扱うに難しいがソレを目の前の女は扱ってみせたのだ……。


 「………、使えるのねその力を……」


 「君のゼウスも威力は申し分ないんだけど、非常に燃費が悪くてね……。

 それに比べて、こっちはそこそこ燃費も良い上に隠密行動にも優れている。

 確か旧文明では、個人の扱える最小の大陸間弾道ミサイルって枠組みの能力だったかな?

 かつての使用者の記録での最大飛距離が5万7000キロメートル。

 この星一周と少し分くらいは全て僕の射程範囲内な訳さ。

 そして、君はこのアルテミスを使用した僕に今この瞬間、君は観測されてしまった訳だよ?」


 「………」


 「テナ、君はどこまで耐えれる?

 まぁ反撃してもいいけどさ、そしたら狙いはそこの彼でもいいし、この国の王都でもいいんだ?

 何人死ぬかな、君のせいで、これから更に何人死ぬと思う?

 それじゃあ始めようか。

 君の大好きな殺し合いを!!」



 破砕音が辺りに響き渡る。

 幾度となく降り注ぐ流星の如く、敵の攻撃の全てが私に向けられていた。

 一つ一つの攻撃が速く、そして重い。

 迎撃が一度でも失敗すれば、片腕くらいは跡形もなく吹き飛ぶだろう……。


 攻めに転じたいのは山々だが、仮にも人質を取られているのがこちら側としてはかなり不利である。

 

 「まぁ、この程度は凌げて当然か……。

 じゃあ、こういうのはどう?」


 そう言って視界の先に降り立つ女は、指を軽く鳴らすと地面から数多の魔法陣を出現させてみせた。

 そして、光を放つそれ等からは人の形をした金属の塊のようなもの……。

 いや、全身に甲冑を纏った兵士のソレを出現させてみせたのだ……。


 「キーリアス・ストラトス……。

 神器アレスの能力って言えば分かるかな?」


 「…………」


 「流石に狙撃兵一人じゃ、高速で動く君を仕留めるには足りないみたいでね?

 だから数を増やす事にしたよ」


 そういうと魔法陣から出現した数多の兵士の手元に、女の持つ斧弓と同じモノが握られている事に気付く。


 「さて、今度は50対1。

 人質を抱えながら、君は何分耐えれるかな?」


 怪しい笑みを浮かべ、甲冑の兵士達と共に弓をつがえ構え始める。


 これは避けられない。

 僕一人は多分助かる……でも、それをすれば後ろの彼は……街はどうなる?

 走馬灯のよつにゆっくりと流れる時間の中で私は極限の取捨選択を問われている。


 自分一人か?

 彼一人か?

 それとも、無関係な街の人々か?


 一体どうすれば………、!!


 「………アインズ・クリュティーエ!!」


 刹那、背後から聞こえた聞き覚えのある声と共に凄まじい炎の光が兵士達に目掛けて放たれ、大きな爆発を引き起こした。

 

 膝をつき、力が入らない中で声の方角を振り返るとそこには先程まで眠らさせていたはずの彼がそこに立っていたのだ。

 全身を炎の衣を身に纏い、真紅の剣を構えこちらに歩み寄りその手を伸ばしてくる。


 「シラフ………、一体どうして?」


 「説明は後だ、えっと……テナなんだよな?

 その姿……まさかお前神器使えたのか?」


 「っ………それは……」


 「まあいい、とにかく今は目の前の敵だ。

 アレは、何処の誰だ?」


 「それは………」


 「へー、もう目が醒めたんだ。

 まぁ、流石にあれ程暴れたら起きちゃうよね」


 「………、まさか未来のテナ……」


 「当たり、まぁ色々あったってところかな?

 正直、一番予想外だったなぁ。

 これでも、一晩は目を覚ますはずないんだけど」


 「寄って集って、一人を相手にしようとはかつての騎士としての誇りやその在り方は何処にやったんだ?」


 「人聞き悪いなぁ、僕は元から一人だよ。

 と言っても、彼は僕の生み出した人形だけどね?」


 そう言って女は再び指を鳴らすと、魔法陣を出現させ先程と同じく数多の兵士を出現させる。

 僕等二人を囲むように現れたそれ等に対して警戒するも、後ろの彼は僕の手を引きゆっくりと立たせる。


 「………、テナとにかく動けるよな?

 流石にこの数一人は厳しい」


 「うん……」


 「背中は任せる、今は目の前のアイツを倒すぞ」


 「っ………了解」


 背中を合わせ、目の前の敵陣に刃を向ける。

 互いに魔力を高め、呼吸を整え覚悟を決める……。


 「へぇ、こんなカタチがあるんだ………」


 女はそう告げると、軽く腕を振りかざすと私達を囲んでいた兵士達が一斉に攻め立ててくる。

 

 「行くぞ、テナ!!」


 「ああ、行くよシラフ!!」


 再び始まった戦い。

 劣勢は必然だろう、でも負ける気はしなかった。


 後ろに立つ彼の存在………。


 いつかは違う道を歩むとしても、今この瞬間は……。


 僕達なら絶対に負けない、そう確信出来る。

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