第二十五話 行き違い
ルーシャとの待ち合わせの為に試合会場へと到着した俺とクレシアは会場で本人を探していた。
そして、ルーシャ本人の現在の居場所を尋ねようと端末を介した通話越しに確認するも彼女の探していたという友人の名前は、
丁度行動を共にしていたクレシア本人であった。
「ん?、ええと……クレシア……?
今ここにいる彼女もクレシアっていうんだが……。
薄い茶髪の小柄な女性で……」
「えっ……嘘?!
どうしてシラフがその子と一緒にいるの?」
「いや、言ったろ?
一緒に昼食を取った人が居るって。
その人がクレシア・ノワールっていう女生徒で……。
あーでも、名前までは言わなかったよな……」
「確かにそうだね……」
「今から本人を出して確認するか?」
「うん、お願い」
俺はクレシアの元に向かうと自分の端末を手渡す。
「クレシア、ちょっと通話に出てもらえ無いか?」
「うん……?
分かったけど、急にどうして?」
「出れば多分分かると思う。
向こうは君を知ってる人物だよ」
「そうなの?」
●
私は彼から緊張しながらも端末を受け取り通話に出る。
私の事を知っている人なのはシラフの対応から分かったが、それでも私はかなり緊張していた。
「変わりました……クレシアです」
「クレシア、本物だよね?」
その声は私のよく知る声だった。
間違いない、私の親友であるルーシャ本人である。
「うん……。
その声、やっぱりルーシャだよね?」
「そうだよ。
その、えっとさ?
今、誰といるの?!」
ルーシャの質問に対し正直に答える。
「今日編入して来た人だよ。
シラフ・ラーニルって人でサリアからの編入生。
ちょっと色々とあってね」
「どうしてクレシアがシラフと一緒に?」
彼女の問いにどう答えればいいかわからない。
今日は色々とあり過ぎてどれから伝えればわからない。
「それは……その?
なんというか成り行きで色々あって……」
とりあえず答える。
何か引っ掛かるところがあるが……。
「昨日紹介したい人がいるって、伝えたのは覚えてるよね?」
昨夜、電話で言われた事だろう。
会わせたい人がいるって言っていた。
「うん、勿論覚えてるよ」
「それが彼だよ」
「えっ!本当に?」
「間違いないよ。
私の電話に出たのが証拠だし」
しばらく無言の会話が続いた。
それが本当なら彼は……ルーシャの……。
「ねえ、クレシア」
「何かな……」
「私の事、彼には言って無いよね……」
「うん……。
私は何も言って無いけど……」
「彼は私の事何か言ってた?」
「えっと……。
ある人に仕えている騎士ってくらい。
もしかして、その主がルーシャなの?」
私は恐る恐る、彼女に聞いた。
数秒の沈黙と共に返事が返ってくる。
「うん……。
彼が例の私の幼なじみで私の専属の騎士だよ」
「そう、なんだね」
私は何を言えばいいのか分からなかった。
今日出会ったその人が親友が片思いをしている相手なのだから……。
「私は受付の方にいるから連れて来てもらえる?」
「分かった。すぐに向かうね……。」
そしてルーシャからの電話を切れた。
●
電話を終えたクレシアは少し悲しげな様子。
何かあったのだろうか?
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないよ。
シラフ、ルーシャが待っているから行こう?」
「そうか、ならいいが。
やっぱり、知り合いだったんだな」
「うん……。
ルーシャにも一応伝えておけば良かったね。
色々と紛らわしい事になってたみたいだしさ……。
あはは……」
俺はクレシアの様子が少し気掛かりだったが、そこは何となく詮索しない方がいいと感じた。
クレシアに案内され、ルーシャの元に辿り着く。
清楚な印象を受ける彼女は少し複雑そうな表情をしている様子。
まあ本来、会わせるはずが既に知り合っていたのだから戸惑いを感じたのも無理はないだろう。
「全く、探したんだよ二人共!」
ルーシャが少し不機嫌そうに俺達に話し掛ける。
「ごめん、ルーシャ」
「同じく色々と済まない」
「全く、でも一応時間内に集まれたからいいか……。
二人共、許す!
それじゃあ全員揃った事だし行こうよ。
入場券は既に3人分も取ってあるからね」
俺達に入場券を見せると、ルーシャと共に俺達は闘技場へと足を踏み入れた。
席は比較的自由なのか、ルーシャと共に最前列の席に座る。
「ルーシャ、こんな近くだと危ないと思うよ」
「大丈夫、試合中は先生達が障壁を張ってくれるから問題ないはずだし」
「いや、でも相手は姉さんだから……」
「分かったよ……。
シラフは心配症だなぁ。
せっかくの特等席だったのに……」
ルーシャは少し不機嫌になるが俺は気にせずに後ろの席に座る。
俺の横にクレシア、そしてルーシャと並んで座っている。
既に観客席では飲み物などが売られている様子が見られていた。
ラノワという人物がよほど有名なのか、あっという間に観客席は埋め尽くされていく。
そして現在時刻は試合開始まで残り五分を切っていた。
観客達が今か今かと待ちわびる中、闘技場の中央に一人の女性が現れた。
ドレスなのかと疑わしい程短いスカートを身につけたその女性は手に持ったマイクで観客達に向かい話し掛ける。
「みんなー!!盛り上がってるかぁぁ!!」
「「ーーーーーー!!!」」
凄まじい歓声が巻き起こる。
彼女の言葉に観客達の熱気が溢れ出る様は圧巻といえよう。
隣にいるクレシアもだが、特にルーシャは盛り上がっていた。
「みんなの声援すごく良いよ!!
ではでは、今回の主役達に早速ご登場していただきましょう!!
まずは上の映像をご覧下さい!!」
「「ーーーーーー!!!」」
再び歓声が巻き起こると、闘技場の頭上に巨大な四面の画面が表示される。
昨日会った彼の映像が流れる、前回の試合なのだろうか彼の戦いぶりが流れる様に観客達から盛大な歓声と共にその名前が鼓舞されていた。
「我がオキデンス最強!
学位序列第五位、ラノワ・ブルームゥゥーー!!!」
入場門から現れた、黒い甲冑を纏った男。
歓声を上げる観客達に対し手を振って応える。
最強と呼ばれるにふさわしいその存在を俺は感じていた。
「漆黒の鎧を纏いし我らが魔王の登場!!
そして、我らが魔王に挑まんとするサリア王国から訪れた挑戦者の紹介だァァーー!!」
表示されている画面が大きく変わった。
見覚えのある銀髪の女性の映像が4画面に流れる。
白と青を基調とした軽装の鎧を身に纏い、彼女の映像が流れていく。
この短期間で用意したのか、このラークの最新鋭の技術によって表現された映像に、会場の熱気が最高潮へと盛り上がってく。
「…………」
思わず言葉を失った
派手な登場するんだよな……うん……。
「学院に突如として現れた美し過ぎる剣姫!!
シファァー・ラーニルゥゥーー!!」
「「ーーーーーー!!!」」
盛大な歓声と共に、彼とは向かいの入場門から登場した。
よく見知った、身内の人物。
白と青の鎧とは言いがたい軽装のそれを身に纏った存在。
俺のよく知る姉さんこと、シファの姿がそこにはあった。
「さあ盛り上がって参りました!!
魔王と剣姫の戦いが今ここで始まろうとしています!!」
司会の女性が告げると、彼女は飛び上がり実況席と思われる所に着席する。
女性が手を上げると、影で隠れていた先生達が詠唱を始め障壁が構成されていく……。
「それでは、お待たせしました。
細かい紹介は抜きでさっさと始めましょう!!!
試合開始ィィ!!」
女性の一言で戦いの火蓋が切られたのだった。




