歌姫と王女とお菓子な夜
今度は大きなお屋敷に連れ出されていた。
この前は大きな黒いお城。
大きな船に乗せられて、新しい両親の意思の元遠い場所を転々と訪れていた。
「今日は私の兄が住む場所に訪れる。
君と同い年くらいの男の子が居るそうだ、これも何かしらの縁なのだろう。
粗相のないように、その子とは今後も仲良くしてくれよ、ミルシア」
新しいお父さんは、私にそう言い無骨なその手で私の頭を撫でてくれた。
私の向かいに座る新しい母は、笑顔でこちらを見て微笑ましくしている。
新しい家族が嫌いな訳ではない……。
元の暮らしとは比べ物にならない程に、温かく大きなお家で温かいご飯を毎日食べられる。
幸せではないはずはなかった……。
でも、多分安易に信じてはいけない優しさだと思う。
新しい暮らしを得る前に、触れた綺麗な楽器……。
それに触れて、光を放ったその時に見えた彼等の姿。
心の何処かで私は彼等に恐怖を感じていたから……。
●
帝歴404年1月5日
「っ……、今……何時?」
気怠い身体を無理矢理動かし、ベッドに横たわりながら部屋の時計を確認する。
時計の円盤は1時半過ぎくらいを示しており、外から差し込む月明かりから現在は夜中だと頭が理解する。
「昔の夢……あの頃の……っ!!」
ベッドの枕を思い切り壁に投げつけ、嫌な記憶を振り払う。
あの子と、あの男で出会った頃の記憶なんて……。
私には、もう何も……。
奥底から溢れる憤りに苛立ちを覚える中、身体の空腹に身体が反応し、力が僅かに抜けていく……。
「こんな時にも、お腹が減るのはどうして辛いのよ!!」
溢れる感情を噛み締め、船内の売店に向かう為に私は部屋を出ていった。
僅かに揺れる薄暗い船内、壁に架けられた灯火の光な照らす廊下を一人で歩き続ける。
(あんな言い方をしておいて、今更ハイドに合わせる顔なんて……)
考えたくもない事を、思わず何度も考え込みながら一人で夜中の船内を歩いている。
船内の売店から除く明るい光が見えると、深夜に店番をしている眠そうな男性店員以外にもう一人の姿が見えた。
長い金髪の女性。
丸眼鏡を掛け、絹製の寝巻を羽織っているとても大人びた風格を感じさせる美しい人。
思わずそんな彼女に見惚れてしまい視線が合うと、何処か慌ててそのまま尻餅をついてしまった。
「待って、誤解なの!!
えっとその、ちょっとお腹空いてただけで……
その、えっと……この前みたいに徹夜してたわけじゃないから、ね……?。
食べたらホントにすぐに寝るから、何卒お見逃しを!」
「………えっと、誰かと勘違いしてません?」
「え……?あ……ほんとだ」
なんだろう、先程の風格からの落差に思わず可愛らしいとさえ感じてしまった。
計算してというより、多分この人の素の姿なんだとは思うが……。
「あれ、もしかしてあなたは例の歌姫さん?」
「だとしたら、どうなんです?
私だったら何か問題でも……」
「問題っていうか、その……えっと。
私の結婚式で歌を披露してくれるんだよね?
この前の聖誕祭の中継で見た子に凄く似てたから」
「私の結婚式……もしかして、あなたがサリア王国の第一王女である、レティア・ラグド・サリア?」
「うん、その……ごめんね?
こんなだらしないところ見せちゃってさ……。
妹達に見られたら、お姉さんとしての威厳が無くなるところだったよ……あはは……。
その、口止めというか何というかこの場は私に奢らせてくれない?
あと、良かったら一緒に来てくれないかな?
あなたとは一度お話したいと思ってたんだよね……。
嫌じゃなかったらで構わないんだけど、どうかな?」
「私があなたと同席を?」
「うん……駄目?」
「あ、いえその、そういう訳じゃ……」
上目遣いで私に問いかける彼女の姿に、何か締め付けられる感情に襲われる。
高貴な風格が漂う中で見せつけられる、魔性……いや天然の子供っぽいおねだりを突きつけられ、私は安易に断る事が出来なかった……。
●
目の前の彼女に流されるまま、私はレティア王女の部屋に案内されると、ご丁寧にも王女自ら温かいお茶を淹れて貰っていた。
「えへへ、一人じゃ寂しかったから一緒に夜を過ごしてくれる子が居ると嬉しいなぁ……」
「………」
年上ですよね、この人?
素でこんな感じの振る舞いをしてくれるのは、本来なら流石に恐怖を感じてくるが……。
何故かこの人を見ていると、子供を愛でるようなそんな感覚を錯覚させてくる。
「この間の中継でも見たけど、やっぱりミルシアさん凄く可愛いよね?
今の姿って、もしかしてお化粧とかしてないんでしょ?」
「ソレは……まぁする予定も無かったですし……。
というか、噂で聞いてた雰囲気とだいぶ違いませんか?」
「あー、やっぱりミルシアさんもそう思っちゃうよね?
ちなみになんだけど、私についてはどういう人だって聞いてたの?」
「アマゾネスというか、女傑というか……。
そういう文武に優れた超人って感じで、睨まれたら石化何処か立ってられないくらい怖い人だって……。
そんな人の結婚式の依頼だから、私の両親は断れず引き受けたくらいですし……」
「文武に優れた超人かぁ……。
そりゃみんなから怖がられちゃう訳だね……」
「自覚はないんですか?」
「ええと、まぁ立場上舐められないように常に威厳ある感じの振る舞いとかは心がけてはいるけどね……。
今の私、そんな風には全然見えないでしょう?
さっきだって、寝巻きで辺りをふらついてだらしないところ見られちゃったしさ……」
「あっ……えっと、それはその……」
「いいのいいの、ほんとのことだから!
そんなに怯えないで、ね、ね!?」
言葉の返答に悩む中、目の前の彼女は怯える私を心配しながらあたふたと手をパタパタとして焦燥とした表情を覗かせていた。
「ほら、私元々こんなだから……。
結婚式の件についても、先月始めくらいに両親にお願いして私のわがままで急遽行ってるようなものだから」
「先月の始め?」
「……うん、その私が勝手にまぁ結婚したいってルークスに……あっルークスは私の婚約者のヤマトの人の名前ね。
その彼に言い出したら、(学生の内に焦らなくてもいいだろう、それに俺はまだその結婚とかいうのはわからないし、早すぎだろう)って返されてさ……。
思わず私がムキになって、勝手にサリア王家……その私の両親に手紙で結婚式やりたいから、年始に開けるように準備お願い!!って感じで手紙出したの。
それでまぁ、今回の結婚式だからさ……。
その、ほんとに急な事で周りにも色々迷惑かけちゃってさ……。
まさかその、本当に結婚式やる方向に話が進むとは思わなくてね……あはは……」
相手方のモノマネを混ぜながら、目の前の王女様は今回の結婚式の次第を説明した。
あまりの突拍子の無さと、謎の行動力に驚きを隠せず開いた口が塞がらなかった。
「ええと、相手のルークスさんには何か言われなかったんですか?」
「そりゃあ、もう激おこって感じだったね……。
まぁでも根負けして改めて私にプロポーズしてくれたんだよ。
私との婚約を受けてくれたから、結果だけ見れば万々歳だね、えへへ……」
「それは良かったですね、仮に結婚破棄でもされたら……」
「そりゃあもう、お嫁に行けなくなったぁぁ!って一週間くらい大泣きしてただろうね……。
お母様からのお説教も怖いし……。
あ、でもお説教はサリアに戻ったらあるだろうなぁ……。
私、色々やらかしがあり過ぎて何言われるんだろうか考えるとビクビクしちゃうよ……。
あはは……アー、オカシオイシイ……」
目の前のお菓子に口を付け、僅かに虚ろな顔でハムスターのように口に詰めていく。
会話の勢いというか、表情がコロコロと変わり過ぎており、私は変化についていけずにいた。
「大変なんですね、王女様って……」
ありきたりな返事を返し、私は目の前の王女様に淹れて貰った温かい茶に口を付ける。
暖房を入れているにしろ、少しばかり冷え込む部屋の中で、この茶の温かさは身体の芯に届いている。
「ミルシアさん。やっと少しは笑ってくれたね?」
「とても美味しいです、このお茶……、本当に……」
「……、何か悩み事でもあるの?」
「まぁ、色々と……。
私……こんな立場ですし、色々と嫌な付き合いとか沢山ありました……。
でも、それでも唯一側にいてくれた私の家族がいたんです……でも、その人は私が知っていたその人とはどうやら全く違う人で……。
上手く言えないです、私素直になれなくて周りに迷惑掛けてばかりで……。
だから……」
目の前の彼女に、私はそんな事を口にしていた。
私自身、どうしていいかわからない。
何を言ってるのかよくわからない、なのに……。
出会ったばかりのこの人に、話続けていた。
すると、目の前の王女は静かに手に持っていたカップを戻すと目の前のお菓子の一つを手に取って私の口に放り込んできた。
「ッ……、レティア王女?」
「素直じゃないっていうのは、私の妹によく似てる。
あの子も、あなたと同じように自分の気持ちを上手く伝えられず、色々と苦労してきたからさ……。
学院に入学してから、あまりは側にいれなかったんだけどね……あの子はあの子なりに沢山沢山頑張ってた」
「妹さんというのは、ルーシャ王女の事ですか?」
「うん、私の自慢の可愛い妹だよ。
勉強が大の苦手で、わがままで幼なじみの男の子に厳しく当たってて……」
「………」
「あの子が勉強を苦手な理由、なんでだと思う?
同じくらいの時の私よりは全然頭は良かったんだけど、あの子は勉強が大嫌いだったの……。
習い事も全部放り投げてしまうくらいにね。
どうしてか分かるかな?
ヒントは……コレ」
そう言って彼女は、先程までとは違って左手でカップを持ち上げ、カップの中身を飲むことなくそのまま置いた。
「ルーシャ王女は左利きだったから?
たったそれだけで?」
「うん。
王女という身分の立場上、左利きは矯正しないといけなかった。
国の代表たるもの、国の手本として相応しい姿として美しく見える姿というのは右利きだからね。
教会との関係もあって、早い段階から利き手の矯正はあるんだけど、あの子はそれを嫌がってね。
だから、勉強や習い事は嫌いでいっつも幼なじみの男の子の元に行って一緒に過ごしてたんだ」
「………」
「でもね、王女としての立場って自覚はちゃんとあったんだ……。
私や兄さんの方に来て、勉強を教えて貰ったり教えたりしてたからさ。
学院に入学してから、本当に沢山努力と苦労を重ねたんだと思うよ……。
私はただ陰ながら応援してただけだけど、あの子は自分で大きな壁を乗り越えて見せた。
未だに親しい友人達の前じゃ利き手の件は隠せてないのが今もかわいいところなんだけどね」
「それと、私に何の関係が?」
「何の為に、あの子が自分を変えようって思えたのか。
その理由について……」
「自分を変えようとしたきっかけ?
義務だからじゃないんですか、自分が王女である以上自分の責務や立場からは決して逃れられない。
レティア王女もそれは重々に理解しているでしょう?
それ以外に理由なんて……」
「少なくともルーシャは王族としての立場だけで、自分を変えようとはしてないよ。
そこは私も同じ……理由はそれぞれ違うと思うけどそれぞれ自分にとって大切な人達の為に変えようと努力した結果だと思う。
私は妹達がそうなのかな……そして、ルーシャは多分幼なじみの男の子だと思うけどね」
「あなたが家族である妹達の為なのはまだ理解できます。
ですが、あの王女たかが幼なじみの他人の為に自分を変えようとしたというのですか?」
「根本的には同じ想いの元だと思うけどね。
自分にとっての大切な人、そして自分を必要としてくれた人の為に……。
自分にとって大切な彼等が、彼女達が私自身を必要としてくれたなら、くれるのなら応えたい……。
だから、私やルーシャもここまで頑張れたんだと思うよ、他にも色々な理由はあるだろうけどね」
「自分を必要としてくれた人の為……」
彼女の告げたその言葉に、これまで数度交わした程度のルーシャ王女との会話が過ぎった。
あれ程までに、あの男に肩入れした理由。
自分を変えられたきっかけ、自身が王女という立場に挟まれても尚、自身を必要としてくれたのが……あの男だったと?
(彼は、確かに自身の力で多くの人を殺したかもしれない。
でも彼は、その当時かなり幼い上に更には多くの者達から侮蔑の目が向けられていました。
同時に、神器に選ばれた者として彼に取り入ろうとする輩も多数存在しました。
そんな中で彼は、自分の存在を認めてもらう為に誰よりも人一倍努力を重ねた。
それが実って、今の彼は十剣の一人として認められているんです。
だから、彼は最低な男なんかじゃありません。
サリア王国第二王女であるルーシャ・ラグド・サリアが断言します。
シラフ・ラーニルはサリアが誇れる立派な騎士の一人です!!
誰であろうと彼を侮辱する行為は決して許しません)
聖誕祭のあの日、あの王女は私を前にして堂々とそう宣言してみせた。
ただの好意だけで、従者だからと、ただの幼なじみだからと……友だからとここまで強く堂々と客人であった私に強く言えるのだろうか?
己の在り方の根本に在り、自身の王女としての活躍を側で見ていて欲しいから……。
あの王女は、彼が居たから今の自分がある……。
そして、恐らく彼女が居たから彼もまた……。
お互いに補完するように高めあう主従関係の上にある愛情……。
故に、あの王女はあれ程強く私の言葉に対して強く否定の意を唱えたのだとするなら。
「お互いに必要としてくれるから生まれる信頼……。
私なんかに、そんな綺麗な絆なんて……」
「本当にそうなの?
さっき自分で言ってたじゃない?
唯一側にいてくれた家族が居るってね。
その人はずっと長い間、あなたを必要としてくれた人なんでしょう?」
「……私は歌姫としての役割の為に必要としてくれる人達は沢山居たから……。
ミルシアとしての私を必要としてくれる人は誰も居ない……。
あなたもそうでしょう、レティア王女?
歌姫としての力を持つが故に、私を必要として今回の結婚式に呼び出した……。
これまで、同じように沢山の式典や催事で歌を披露してきたからわかるもの。
今回も、その次もその内の一つでしかない……。
あなたの言うとおり、その人は私を必要としてくれてずっと側にいてくれた……。
でも……多分その人も他の人達と同じ歌姫としての私を必要としてくれる人達の一人にすぎないんだと思います」
「それがあなたの背負ってきたものなんだね……。
でも、きっといつかは……」
「もういいんです、これが歌姫としての私ですから。
これでも、昔よりはずっと豊かな生活を送れてんですよ?
小さい頃は、ボロボロの家で3日に一度食事が出来れば良かったくらいでしたから……。
飢えを凌ぐ為に、その辺の虫とか草とか食べてましたからね……。
案外、草とか虫も美味しいんですよ。
でも、今はもうそんな貧しい生活しなくていいんです。
温かいお家で、飢えで苦しむこともなく過ごせているんですから……。
欲しい物だって、歌姫の特権として大体すぐに手に入るんですよ?
だから、何一つ辛いなんて事はないんです……。
誰にどう思われようと、今の私はきっと幸せなんだと思いますから……」
「本当にそれでいいの?
歌姫としてのあなたではなく、ミルシアとしてのあなた自身の本音はそれで幸せなの?」
彼女の問いかけに対して、思わず手が震えながら握りしめられるのを感じた。
反射的に、これまで私がずっと耐えてきたモノが溢れそうになるのを堪えながら……。
私は思いの丈を吐露していた、己の感情を押し殺しつつも次第にそれは抑えきれずに……。
「無理ですよ、歌姫の役目が終わらない限り私は歌姫から逃れる事は出来ません。
私が死ぬまで、誰かが私の歌を必要とするまで私は歌い続けるだけです。
そして、いずれは私も破滅を歌うんですよ。
あの帝国を滅ぼした彼女のように、私もいつかは何処かの国を、世界の破滅を歌うんです。
国や世界を滅ぼして、沢山の人達に石を投げられて、火にかけられて、沢山の人に恨まれて殺される……。
あなた方の国でかつて行われた魔女狩りのように、私もいずれは同じ末路を辿る……。
幼い時に、この力に選ばれたその日から私の運命はそう決まったんです……。
だから、無理なんですよ……今更……。
私が歌姫としての役割から逃げる事は、私が死ぬまで不可能なんですから!!」
「帝国を滅ぼしたってでも………あなたは違うんじゃ」
「ああ……そうですよね……。
何も知らずに私に依頼をしたのはしょうがないことですよ……。
先代の歌姫が帝都で破滅を歌ったことで滅びたのは恐らく紛れもない事実です。
その後の彼女……フェーゼシカ・カルフはその後、屋敷に火を放たれ、石を投げられ、人々からは多くの非難を一身に浴びていました。
最終的には帝国崩壊の全責任を彼女に問われた末に教会に捕縛され処刑されました……。
歌姫の力はとても強大ですから、彼女に限らずその先代も、その前も……歴代の歌姫は国の滅亡、王家の滅びを最後に歌い、例外なく全てが教会や民衆の手によって殺さる末路を辿っています……。
歴史の影に沈められ、ただ世界に祝福を与え続ける聖女としての姿を表舞台に残す為に……。
そして今度は私の番……。
私がいずれ破滅を歌うまで、私は世界に祝福と安寧を約束させる為に歌い続けなければならない。
自分は決して報われないのに、私の命が奪われるまで歌い続けなければならない……。
呪われているんですよ、私の持つこの力は……」
「教会があなた達歌姫にずっとそんな仕打ちをしていたの?
歌姫の存在は歴代数えるだけでも百人は軽く超えている名誉ある存在なのに……。
どうして……」
「私の方が知りたいですよ……。
この力のせいで……、いつ殺されてもおかしくない運命に晒されているんですから。
死にたくても、誰も死なせてくれません。
次の歌姫に選ばれる事が怖いんですよ……。
この力で、今度は自分が殺されるかもしれない……。
でも、教会の立場はとても強大です……。
組織の信仰の大きな柱でもある、私達の存在を今更手放す訳がありませんよ……」
「……わかりました、だったら私が可能な限りでミルシアさんの立場をなんとかしてみます」
「なんとかって……そんなの出来る訳がないです。
もしかしたら、私あなたの結婚式で破滅を歌うかもしれないんですよ。
自国が滅びるかもしれないのに、それでも私に構う必要なんて……」
「あなたの歌はとても素晴らしかった。
それが例え、あなた自身ではなく歌姫としての力故のモノだとしても、あんなに素晴らしい歌を披露してくれる歌姫の彼女達にこんな仕打ちをさせるのは絶対に間違ってる。
だから、私がなんとかするの。
私一人じゃ無理だとしても、私の両親やルークス、私の頼れるみんなの力を借りてでもあなたの背負い続ける破滅の運命から助けだしてみせるから」
「そんなの、あなたには何の関係も……」
「私達、もうお友達でしょう?
私は、目の前で辛い目に遭ってる友達を絶対に見捨てはしないよ」
「友達って、まだ出会って間もないのに?」
「私はもう友達だって思ってたけど、違うの?」
「それは……、叶うなら私だって……」
「なら、別にいいでしょう?
私とあなたが友達同士なんだから、それを誰かに勝手に決めつけられる筋合いはないんだからね?
それに、私はこれでもサリア王国の第1王女。
王女である私だから持つコネは幾らだってあるもの、絶対にあなたを助けられるわ。
他の誰かに見捨てられても、私は絶対に目の前で困っているあなたを見捨てない。
だから、一緒に乗り越えましょう?
あなた自身の背負う運命から抜け出す為に」
そう告げた彼女は、私に向かって手を差し伸べる。
明らかに無謀にも等しい行為なのに、目の前の彼女には絶対の自信があるように見えた。
絶対に出来る確証もないのに、この人はどうして?
本当に馬鹿みたいに思える行為、それでも……。
真っ直ぐに私自信を見てくれた、この人の意思を、言葉を、ほんの少しだけでも信じたいと。
「あなたの言葉、ほんの少しだけ信じてみますよ」
差し伸べられたその手を取ると、彼女は微笑み返し握られたその手に熱がこもった。