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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
246/324

今世に問う、正義とは

帝歴404年1月4日


 「以降、FAMもとい現在の魔力と呼ばれる概念によって改造された人間が世界の国防を担う戦力として扱われるようになった。

 地球上に住む生物の特徴が強く出ている彼等は、後の異種族として今もこの世界に名残りを残している存在となっている」


 長々と私は目の前のシトラに対して、帝国の資料で知り得たかつての人類が築いた文明の話を続けた。

 話続けた話題に対し、ようやくある程度の区切りがついたところで私は目の前の冷めてしまった茶をゆっくりと流し込んだ。

 すると、先程まで黙っていた彼女が僅かに呆れたような様子でゆっくりと閉ざされた口を開き始めた。


 「わざわざ幼い子供達にそんな真似をさせた人類の意図は一体何だ?

 何故誰も当時の決断に対して止める事をしなかった?

 明らかに一般的な人間の倫理観では間違った行為だろうとと、誰もが明らかに分かるはずだろう?」 

 

 「その点に関しては、恐らくこちらのホムンクルスと同性質の存在であったことが大きな理由だろう。

 寿命の短い彼等であれば、子供の姿しか存在しないという理由に対して説明がつく。

 そして、当時の人間が自身等の保身と見ず知らずの子供の命を天秤にかけた際に下された決断がそうであったという事だ。

 根本にあった思想が、己の私利私欲にまみれたモノであった事は、結果として見てそう判断せざるを得ないだろう……。

 遥か昔からどれだけ文明が発達しようと人間達の根本に根付く欲望のソレ等は底知れなかっただけのこと。

 こちらの歴史を見た限りでも、帝国が世界を支配したソレと全く同一のソレなのだからな」

  

 「フッ……初めてだよ。

 こんなにも心の底から同族に対して虫唾が奔りそうなほどに憤った感覚は……」

 

 「まだ、聞くつもりか?」


 「君の知る限りの全てが聞きたいところだ。

 何、サリアに着くまではまだまだ長い道のりだろう?」

 

 「分かった。

 とは言っても、以降の歴史に関してはかなり大雑把な記録しか残っていない。

 歴史の影に消えたのか、何者かの意図によって消されたのか……。

 おそらくは後者の方、余程まずい情報が隠されているのかもしれないがな……」


 「次世代の兵器として、FAMによって改造された子供達が利用されるようになってから一体何が起こった?

 少なくともソレが、彼等の文明が消えた一端に繋がるのは確かなのだろう?」


 「私も確証は無いが、その可能性は非常に高いと思っている。

 あの決断が下されて以降、イージス社は次世代兵器の開発を大きく進めたのが事実……。

 ただイージス社はこうなる事を始めから予測していたかのように、新兵器を開発していた時期があまりにも手際良く僅か一年程で正式に軍への配備を完了させた。

 当時の奇形児事件の情報が流れたのが、かの企業である事は間違いない」

 

 「そうなると例のイージス社が、旧文明を滅ぼした最大の要因に繋がっていたのか?」

 

 「いや、イージス社に全ての原因があったとは一概に言える事はないだろう。

 いずれにしろ、奇形児が生まれるという事は避けられない事象であったことは後の記録には残っていた。

 つまり、遅かれ早かれ彼等が兵器転用される可能性はあった事になる。

 一番の問題は、その兵器を利用した人間側だ。

 私利私欲の為に利用された彼等が、後に反旗を翻し世界に戦いを挑んだ。

 その結末が、異種族間戦争当時の環境に繋がっている」


 「異種族間戦争……、こちらの記録に残っている最も古い記録の戦争だったな……」


 「異種族間戦争当時、人類は彼等の支配下にあった。

 旧文明の歴史とは真逆の立場に人類は追い詰められたが、神器を人類に与えた神の存在との共闘の末に再び人類の時代が訪れ、異種族は再び人類の支配下に置かれるようになった。

 彼等の末路に関しては、歴史上の資料に幾分にも残っているだろうよ」

 

 「それで、君の敵であるカオスが目指した世界は何であると言いたい?」


 「先程まで話した情報がカオスが何を成そうとしたのかを物語っているだろう。

 アレの根本にあるのは、世界の維持。

 自身を生み出した多くの人間が平和、かつ幸せに暮らせるような世界の為に世界樹を運営し続ける事……。

 今の文明に生きる我々の歴史の全ては、旧文明の歴史や神話を元に、アレが上手く再現されている事象である事に過ぎない。

 人間は過ちを幾度も繰り返す、故に多くの人間が平穏に生きられる平和な世界を生み出す為には少数の犠牲を見せしめにする事で戒めと教訓を与え続ける必要があったと奴は学習したのだろう。

 この世界の全ての厄災、疫病、戦争の全てを奴は世界の維持の為に意思的に管理して行ったものだ。

 今に生きる我々の意思は問わず、全て世界の維持の為に奴はこの世界に存在する全てを管理している。

 カオスにとっての理想郷として今のこの世界が管理、運営されたものであったが為にな……。

 正に神に近い存在だろうよ、己の思うがままに世界を支配しているのだからな」


 「人間によって作られたカオス……。

 故に人間の為に、世界を維持し管理している。

 しかし、帝国側やシファ・ラーニル傘下の組織等はカオスの方針に反対の意を示していた。

 だが、彼女に関しては元々カオスの下に属していたのだろう?

 少なくとも、世界を管理するというやり方には賛同していた訳だ……。

 それも、かつての異種族間戦争時代の人類も同じように賛同したからこそ人類は神器の力と恩恵を得る事が出来、最終的に戦争にも勝てた。

 それを突然、手の平を返し抗う理由は何にあると?」


 「それこそ、カオスが世界を管理し続けたい本当の目的に繋がる……。

 異種族間世相時代の人間は弱く、シファも同じく弱かった一人に過ぎなかった。

 異種族の圧倒的な力によって、いつ滅んでもおかしくない中でカオス等が人類に与えた神器の力。

 戦争が終わっても尚、人類は一丸となって平和な世界を目指していた……。

 しかし、時代の流れの中で人類はかつての想いを忘れてしまった……。

 シファはそれを直接垣間見た事で、一時はカオスの下で彼等の先導に立ったこともあった……。

 しかし、人類は裏切り続けた……。

 シファもそれを見るに耐えなかった程に、かつて人類に救われた彼女が人を憎む程にな……。

 だがカオスは、それでも人類の味方であろうとした。

 人類に作れたカオスは、人類の為に世界を運営し続ける義務がある……。

 かつての想いを忘れられ、恨まれようと奴の在り方は何ら変わらない……。

 その結果、カオスは何をしたのか……」


 「人々がかつての想いを忘れたが故に、カオスは己の手で災厄を起こしたと?」


 「ソレがカオスにとっての最善手であった。

 己が神であると錯覚したのか、そうでなくともカオスは人類の為の道筋を自らの手を侵した。

 だが、その歴史を知った帝国はカオスの支配から脱する事を決意しカオスとの敵対に至った。

 シファもまた、異なる目的でカオスの在り方を否定し教会や十剣を組織。

 今もカオスの根本は生みの親である人類の為という在り方が歪んだモノ。

 我々はそんなカオスの支配から逃れる為に抗っているという事だ」


 「つまりは、君と似たようなモノじゃないのかい?」


 「どういう意味だ?」


 「カオスは自身を生み出した人間の為に動いているのだろう?

 そして君は、生みの親でもあるノエルの願いの為に動いている。

 根本にあるのは、己の存在理由の為だ。

 カオスが人類の為に動くことと、君が自身が生み出された理由の為に動くというのは目的の先は違えど根本は同じモノ。

 自身が何の為に作られたのか、その目的を果たす為だけに生きている存在だ。

 違わないかい?」


 「数日前の私なら同じようなものだったかもしれない」


 「今は違うと?」


 「カオスは倒すべき存在なのは変わりない。

 ただ、私自身が何を為したいのかが分からない。

 敵は途方もない存在、ここ数ヶ月で尖兵をお誘き出せたまでは良かったが、以降も確実に動く保証もない。

 まして、本体が何処にいるのかどうやって倒すのかも分からない……。

 正直に端的に言うなら、私は迷っている。

 このまま進むのが正しいのか、あるいは今の内に引くべきではないのかと……」


 「放棄したいのかい、己の存在理由を?」


 「私が何をしようが、帝国は既に滅んだ国。

 今もかつての妄執に浸る者は少なからず存在しているが、それでもせいぜい半世紀も絶たずに終わるモノだ。

 そんなモノの為に、彼女の意思によって生み出された私が今更何が出来ると?

 ノエルの生前の後悔というのが、かつてのカオスを倒せなかったことなのか?

 もしくは、別の意図があったのではないのかと……」

  

 「つまり、今回君がサリアに向かうのは……」


 「かつてノエルが私を生み出し、シンと共に旅立った始まりの場所に帰る為。

 あの時、分からなかったモノが今の私なら何か分かるかもしれない……。

 ただ、シファから厄介事が舞い込まなければの話になるが……」


 「確かに、今の君はシファ・ラーニルの指揮下にある立場だからしょうがないさ。

 だが、なるほど……あの人が己の最期に選んだ場所。

 それが、一体どういう所なのか、私としても非常に興味があるよ」


 「墓は王都サリアに存在している。

 彼女の生家となった場所は、王都から南に抜けたクアロッドという小さな村の隅に存在している。

 表向きには辺りの民家と変わらないが、地下にそれなりの規模の研究施設が存在しているくらいだ。」


 「なるほど、面白そうだ。

 なら、私もそこに出向くとしよう。

 それくらいは別に構わないだろう?」


 「好きにするといい。

 それで、話の続きの方はいいのか?」


 「あー、まぁ知りたい事は色々分かったからまたの機会でもいいかな……。

 あっ、でももう一つだけ聞きたいんだが?」


 「何が聞きたいんだ?」


 「神器の出処だよ。

 魔導工学で似たようなのは作れたりするけど、あれほどのモノは早々お目にかかる事はないからね。

 かつての人類がアレをどうやって生み出したのか、非常に興味があるところだ。

 もしかして、君なら何かその辺りの経緯も知っていると思ったんだが、どうだろうか?」


 「神器は異種族の中でも特異な存在だった者の力を他の者にも使えるように転用したモノ。

 つまりは、過去の人物が扱っていた者を自分も扱えるようにした物になる」


 「異種族の中でも特異な存在とは、一体どういう?」


 「例えば、獣人族の中に一際身体能力が高い存在が居たとする。

 そいつと同等の身体能力を別の人物、他複数に転用し複製する事で戦力増加を試みようとした。

 その一つが神器であり、元々は量産品の代物。

 今でいう魔術書のような感覚で手軽に購入出来た代物であり、神器という名前ではなく権能器……。

 いや、gadget of deviceのそれぞれの頭文字を取りGOD、神話の神の名前を付けられた事から人々が神器と呼称するようになったモノだ」


 「一国の行方を左右する程の神器が量産品とは、末恐ろしい文明を築いていたようだな」


 「良い事ばかりじゃない、神器の元になる異種族を作る為に多くの彼等が犠牲になったのも事実。

 更には、実際に人間が使用する為に人体実験も数多く行われた……。

 結果的に、素となった異種族と同じ魔力の型を持つ人間が扱えるように調整されたがその数はたかが知れている……。

 今の時代で、彼等と同じ魔力の型を持つ人間がどの程度存在するかが分からない現状では、神器がどれだけあろうと何ら問題は……」


 ふと、私の脳裏に何かが過ぎった。

 神器に選ばれるのは、素にされた異種族と同じ型を持った人間……。

 今も尚、神器と契約している彼等は選ばれた人間の子孫あるいは、交わった血統により当時の型が偶然再現された存在になる。


 仮に、これを意図的に行えるとしたら?


 シファは以前、あの弟に懐中時計を贈ったらしい。

 十剣に選ばれた家系に贈られるという特別な代物らしく、この時計を持つ者には貴族と同等の特権階級として扱われている。

 仮に、これが神器の契約者を意図的に生み出せるようにする為のモノだとしたら?

 

 「先程から説明が止まっているが……。

 何かに気付いたのかい、ラウ?」


 「十剣という組織が常に契約者がある程度確保出来ている要因が妙だとは思ったが……。

 自分で説明していて、ようやく相違が合致した」


 「というと?」

  

 「十剣が生まれた家系には、誓剣時計と呼ばれる懐中時計が十剣側から贈られる。

 時計を持つ彼等は皆、先祖に歴代十剣が存在……、つまり神器の契約者が存在していた。

 これにより、神器に適正のあった家系同士を政略結婚等で結ばせる事で意図的に神器に契約しやすい子供が生まれる事が可能になる。

 あくまで可能性の一つに過ぎないが、それを幾度と繰り返せば理論上は神器に適合した者が必ず生まれる。

 問題となるのは、家系内で行われ続けるが故に血縁が近くなる事だろうが」


 「確かに君の説明した神器の性質を理解した上で家系を時計を用いて把握するやり方は、神器対して適正の高い子供が生まれる可能性を高めることは出来るだろう。

 しかし、血縁が近いとなるとその過程で身体の構造に欠陥が生じやすくなる。

 髪の色が薄くなったり、病気への免疫も弱くなりやすく契約者になったとしても身体が弱ければ求める人材の能力が割に合わないだろうに……。

 が、例のシラフ君もその時計の家系の一人になったのだから、後の契約者に繋げる為の布石なのだろうね」


 「いや、あの弟は元々時計持ちの家系として生まれていたはずだ。

 生まれはカルフ家と呼ばれる教会所属のサリアの一族だ。

 本家がアンブロシアに存在し、サリアへと流れた一族であったらしいが一族の片割れが十剣の一人になったらしい。

 確か、その当時契約した神器というのが今の彼が持つ腕輪であったはずだ……。

 故に、あの腕輪に選ばれることは必然であったと言えるだろう……。

 しかし、アンブロシアのカルフ家の時点で既に予言の竪琴と呼ばれる神器の契約者が存在していた。

 後の歌姫に繋がる存在であるが故に、向こうの家系は教会の中でもかなりの地位に立っていた程。

 本来ならば多くの者達にその将来を約束されていたに違いないだろうが……」

 

 「サリアに暮らしてた時期にその辺りの情報は仕入れたのかい?」


 「学院で得た情報の方が多い。

 学院に来る以前までは、見られる書籍に制限があったからな……。

 歴史の一部、主に教会関連の過去についての多くが謎に包まれていたところだったが、学院に来てからその真相に至った事で色々と合点した」


 「つまり例の歌姫も、その真相に関わっていると?」


 「無論だ、教会の信仰をより強固にする為の存在が予言の歌姫と呼ばれる存在。

 教会で行われる多くの祭事において、あの神器の存在はかなり重要なモノになる。

 わざわざ十剣とは別の組織で管理させたい程のナニカが、アレの周りに蔓延っているのが確実とも言えるだろう、それも帝国を滅ぼした要因に関わっていた可能性も拭えない。

 今の歌姫本人が帝国と関わっていた可能性はかなり薄いところではあるがな……」


 「歌姫個人はあくまで教会の末端に過ぎないと?」


 「その可能性は非常に高い。

 が、教会関係者は今回のサリア王国第一王女とヤマト王国王子との結婚式に参列するのは確実。

 その間、恐らくだがシファを含め十剣等と教会が一同に会合する事になる。

 他にも、他国の代表者として多くの重鎮が訪れるだろう……。

 帝国崩壊以降、今回の結婚式が世界で最も注目している祭事に違いない」


 「帝国崩壊ね……。

 で、帝国関連として君は面白い噂を知っているか?」


 「噂だと?」


 「情報提供に関して、私からも一つ。

 王女の婚約者であるヤマトのルークス王子についての非常に興味深い噂だよ」


 「彼がオラシオン帝国の前皇帝の息子であった事か?」


 「それもある、でももっと踏み込んだ話さ。

 オラシオン帝国の更に前のオラシオン王国が建国された最の出自については知っているだろう?」


 「オラシオン王国が元々教会の流刑地から生まれた国であった事か?」


 「そそ、その当時の教会の教皇陛下メリアード・ラグド・ティアノスには隠し子が存在したんだ。

 それは彼に仕えていた侍女の子供。

 後に教皇への不貞として罪に掛けられ現在のオラシオン王国へと島流しに遭う。

 その子孫が後にオラシオン帝国の初代皇帝の妃になった事、この意味が分かるかい?」


 「ヤマトの王子の本来の名が、ルークス・ラクド・オラシオンであるとでも?」


 「それを踏まえて、彼の闘舞祭での奇異的な戦い方から推測されるに、彼は持っている可能性があるんだ。

 教会のごく一部。

 それも、かの教皇一族のみに扱う事を許された、神の力をね……。

 ラプラスの眼、未来を見透す異能の力を……」


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