隠蔽された史実 CODE b021
FAMが原因で生まれた奇形児の存在は、しばらくして原因の元が試作FAMの取り扱いの最に生じていた欠陥による原因で起こった事象である事が分かった。
新型FAMの試験場において、着用する保護スーツにコイン一枚程の僅かな穴が空いていた事。
更には実験室内の機密性を保持ズル為の換気設備に微量ながらも旧式及び新型FAMが検出され研究所内での欠陥が多く挙がってきた。
そして、根本的な原因にFAMが関わっており世界樹の建造は中止に至るかに思えたが、何者かの意図によって中止には至らずに計画はそのまま進行していく事になる。
例の事件についてをまとめた報告書は、研究所内部の何者かが内容の多くを改ざんし、虚偽の報告がメディアや開発者各位に伝わりFAMの開発は継続される事になったからだ。
一連の出来事には、FAMを応用した兵器産業や各国の軍等が絡んでおり奇形児が誕生した事で新たな可能性を見出したのである。
たった一つの事故から、世界はFAMを活用した次世代型兵器の開発という新時代が幕を開けようとしていたこと……。
世界中で様々な思惑が交錯する中、既に新たな可能性が動いていた。
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西暦2798年8月
14年前に奇形児として生まれた赤子は、チャールズと名付けられ施設内で一通りの教育を与えられながら生活していた。
自身の奇異的な外見故に、外に出る事は禁止されていたが研究所内では人気者となっていた。
FAMの影響で身体の構造が普通の人間とは大きく異なった影響で並の人間よりも遥かに高い身体能力を有し、更には非常に高い知能を持っており僅か2歳の頃には高校レベルの知能を持っていると噂されていた。
6歳の誕生日には、欲しがっていたタブレットPCが与えられソレを用いた簡単なプログラミングを自分で打ち込み動かす事を楽しんでいた。
しかし、それから僅か2年後の頃。
チャールズの両親は、交通事故に巻き込まれ共に亡くなってしまった。
残された彼は施設内でそのまま管理される事になるが、実の両親の死に対して悲しむ素振りを見せず親族のみで執り行われた葬儀でも泣くことは無かった。
知能の高さから死の概念を理解していない訳ではないようだが、まるで他人事のように葬儀の様子を無言で見送っていたのである。
それから月日が流れて、現在。
この日、チャールズは施設内の研究員達と共にFAMを用いた実験の見学をしていたのであった。
「……、とこのようにα(アルファ)型とγ(ガンマ)型は相性が悪い。
扱う最には最低限、数nm程の距離を取ると互いに干渉する事無く稼働することが出来る」
「なるほど、じゃあこのβ(ベータ)型とγ型を扱う場合もα型と似た構造のβ型はγ型とは距離を取った方が比較的安全って感じなの?」
「実用しているモノは現状、君の指摘したその通りの取り扱いをしているね。
今後のα、β型の改善次第でγ型との組み合わせが容易になるとは思うが……」
「なるほど……じゃあ今度は……」
そう言って目の前の研究員に目を輝かせながら話しかけている様子を見ると年相応の少年。
防護服の中からも、その異形を示す姿は見えるが根本的にあるのは我々人間と同じ人としての姿であると思う。
今も尚、一部地域では肌の色での差別は絶えない中ではあるが目の前に立つ少年の興味津々な姿を見ていると、新たな世代には残していけないモノなのだろうとつくづく思う。
元は我々の生み出したエゴで今も尚彼を閉じ込めているのだが……。
いつかは、彼が胸を張って歩ける世界を……
「ケビン様、ビーグリフ様から連絡が。
イージス社との会合がある為、君も来てほしいとの事です」
「了解した、至急向かおう」
秘書からの言葉を受けて、すぐさま俺はビーグリフの待つイージス社へと向かう事にする。
イージス社は25世紀初頭に新規参入した軍事産業系の一つであり今となっては世界シェアトップに位置するアメリカを代表する企業の一つでもある。
軍で使用される銃等の武装や、防弾ガラス等の護身用の商品を多く取り扱っているのは当然であったが、今から約6年程前にFAMを応用した新商品の開発との事で事業提携をしている。
更にはビーグリフの弟がイージス社に働いている事もあって、向こうの会社とは事業提携を結ぶ以前からも少なからず交流があった程。
しかし、近年のイージス社には何やら不穏なモノを私個人としては感じていたところだが……。
「実際に行けば何か分かるか……」
安易な期待かもしれないが、俺は不穏の影がはびこるかの場所と赴く事にする。
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アメリカニューヨークのマンハッタンの西部。
そこに、かのイージス社はオフィスを構えていた。
本社に辿り着き、丁重にもてなされ本日の集まりの為に50階の会議室へと案内された。
本日集められたのは、俺とビーグリフ。
そして、FAMの開発に携わっているスポンサーからの代表者数名。
軍の代表からは、陸軍元帥のハインズ氏と海軍中将のアリア中将が出向いていた。
そして、イージス社からはビーグリフの弟でありイージス社の副社長であるネクタリフ・ロゴスとその他代表者数名が出向いていた。
その他の来賓やら要人を含め計30人程が集められ、俺の登場よりかはビーグリフの登場にこの場の人間に大きなどよめきが生まれていた。
「一ヶ月ぶりくらいかな兄さん、そしてケビンさん」
「お前も元気そうで何よりだ」
「このご時世、商品が沢山売れるのはありがたいところなんだが、世間的には売れない方が良いんだろうけどね……。
やはり需要は尽きないってところだよ」
「まぁ何事も備えは必要な事だろ?
僕達を快く思わない敵対勢力、テロリストが未だに残っている世の中である以上、武装が必要なのはしょうがない。
しかし、我が社のFAMでネクタの事業の助けになれてるのはありがたいところだよ」
「とんでもない、いつも兄さんには昔から助けられてばかりさ。
兄さんの事業が軌道に乗っている中でこちらは随分と下積み時代が長かったからな……」
「でも、これがネクタのやりたかった事だろう?
僕の元で働く誘いも断って自分の力で頑張った結果、今はこうして対等な取引先としてのステージに立っている。
どんな形であれ兄として、本当に誇らしいよ」
「そうか、兄さんは相変わらずだな」
「それで、今回の呼び出しは何の用なんだ?」
「まぁ新製品の発表に伴って、本来は兄さんの会社だけで良かったんだけどね……。
まぁこの騒ぎに発展しちゃったからさ?
どこから嗅ぎ付けたか分からないけど、軍の人間がそこそこきてるし」
「新製品の発表……、なら大々的にテレビ局やら雑誌の編集者やら呼べば良かったんじゃないか?
わざわざこちらだけにする意図がないだろう?」
「いや、なんというか他国の情勢や今後の事業展開に関して色々とね……。
兄さん達も既に把握している事だろうけど、まぁ追々これから話すよ。
そろそろ会議が始まるから、兄さん達は適当に空いてる席に座りな」
ネクタリフにそう言われ、俺とビーグリフはそれぞれの席に着き会議の始まりを待つ。
開始の時間が迫る中で、隣に座るビーグリフは俺に聞こえるくらいの小さな声で呟いてきた。
「ネクタから以前聞いたんだが、世界樹の建造が終わってからというもの。
それ等を管理する国々の裏で不穏な動きがあった事を聞いていた。
チャールズと同様の件が比較的少数だが世界中で確認されてる中、これ等を兵器転用する流れが確実に起きている。
それはここアメリカも避けられないかもしれない」
「FAMを兵器転用?
既にある程度実用化されているが、それ以外に何をしようと?
それに、チャールズの件にFAMは一切関係無かった。
当時の報告書にもそれは明記され、世界樹が建造され終えても尚日々世界トップレベルの厳しい検査基準に基づいて運営されている。
それを、今更覆すなど一体何を言っているんだ?」
「僕も最初は耳を疑ったよ。
でも事実、チャールズの件はFAMが関与している。
アレは明らかに研究所の欠陥であり大きな過失で生まれた事故の1つだった。
しかし、それを悪用しようとした輩がどうやら研究所内に居たらしい。
更には研究所内の情報が他国に流れた事、それも世界樹の管理国家の幾つかで大きな金の動きがあった事は既に確認済み……。
FBIの知人からそんな話を聞いたんだ。
現在も調査を進めているが、多分ネクタがこれから話すのは我々も手段を選んでいる暇はないという事なのだろうよ」
「いやだが、あの子の件を参考に一体何を?」
「SF映画さながらのサイボーグ、強化兵士の実現をしようとしている。
例えば、熊と同等の体格を持った兵士の大群が自動車と同様にこちらに迫って来たらどうする?
単独でも銃火器で仕留めるには困難のソレ等が、我々と同等の知能を持って攻めて来るとするなら?」
「そんな事をせずとも、戦車やドローンを遠隔操作で動かした方が遥かに低コストだろう?」
「人間が入る必要がある場所は幾らでも存在する。
要人警護然り、警察だって同じことだ。
ソレが例え軍であろうと、優秀な兵士ら幾ら居ても困らない。
食糧には多少困るかもしれないが、今の技術ならその問題も関係ないだろうよ。
一番の問題は人間の欲そのもの、それに直結する金銭の動きだ……。
下手に兵士を国民から雇うよりも、兵士として生まれる従順な者を生み出した方が兵士一人一人の質は大きく変わって来るはずだ。
人権問題を掲げて来ようが、条約は所詮ハリボテもいいところ……。
従ってばかりでは、墓穴を掘るだけ。
核兵器と同じく、相手も握っているならこちらも握らなければやられるだけだからな」
「しかし……、そんな事を俺達は望んで……」
「飛行機を発明した彼等が、爆弾や銃を乗せて運用するとは考えてなかったはずだ。
利用する側の人間、尽きない程の欲望に任せた末路が生み出したモノ……。
僕達もそんな当事者の一人になってしまった訳だ」
ビーグリフの言葉に俺は何も返す言葉はなかった。
便利さを求めて、俺達はこの世界で確かに大きな技術革命を起こした。
表面上、確かに俺達はこの世界では名を連ねた偉人のような存在なのだろう。
しかし、人間の負の一面を全く考えてはいなかった。
だが、ビーグリフは始めからこの可能性を見据えた上でこの計画を進め完遂していた。
俺自身と彼との間にある決定的な先見の差。
世界を大きく変えた、その先を彼は見ている。
俺にはソレが見えていなかった……。
突きつけられる現実。
世界が大きく変わった先で、彼はこの先のどこまでを見通しているのだろうか?
そして、俺達を交えた会議が始まった。
そして会議の内容ではビーグリフの先見が的中し、FAMを応用した新型製品の説明……。
いや、人間の倫理観を極限まで無視したかのようなソレの映像が目の前に映されていた。
映されたのは鳥の羽を思わせる翼の生えた子供達の映像だった。
カプセル状の機械の中にソレは確かに存在しており、無数に並んでいるソレ等の存在に会議室内に大きなどよめきと戦慄が奔った。
人間が決して触れてはいけない禁忌を侵してしまった瞬間を俺はこの目で開幕見てしまった……。
コレが新たな製品?
そんな容易い言葉で形容していいモノじゃない……。
イージス社は、いや世界はこれからFAMによって人為的な改造された人間を新たな商品として扱い、兵士として、新たな兵器として人間の代わりに戦わせるつもりなのだ。
「映像に映されている彼等は、これからの時代において必要になるであろう我々を護る守護者達です。
FAMによって人為的な遺伝子操作を加え、通常の人間よりも遥かに高い知性と身体能力を保有。
更には、FAMの信号によって彼等の遠隔操作も可能。
現在、他国で同様の研究が行われている中、我々も彼等を利用せざるをえません」
壇上でそう熱弁するビーグリフの弟、ネクタリフの言葉に皆が注目していた。
次に映された映像が、先程の子供達の性能に関してを証明する動画であった。
動画の再生が始まる直前、こちらから離れて座っている軍の関係者二人の顔が僅かに険しい表情を浮かべている様子に、嫌な予感が過ぎる。
映された動画は10分前後の動画だった。
市街地を模した場所で人間の兵士と思われる者達が5人、そして先程の翼を生やした子供達が5人という状況である。
これからこの二組は模擬戦を行う。
先に敵陣営の全てを倒した方が勝利という単純なルールの下で行われるらしい。
扱う武器は一応本物に近い性能の銃ではあるが致死性の低いゴム弾や刃を潰したナイフ等、安全性に配慮したモノを使用する。
人間側は勿論、我が国の先鋭部隊の一角。
対して相手は年端もいかない子供達。
お互いがそれぞれの作戦を立てている様子が映されるが、人間側が細かい動きの確認をホワイトボードを用いて行う中、翼を持った例の子供達は楽しげに会話をしており年相応の仕草をしている様子を見せてくる。
とても、戦える者達とは思えない。
動画開始から2分後になると、それぞれがスタート位置に立ち開始の合図を待つ。
その様子に移り変わった瞬間、子供達の様子に大きな変化が起こっていた。
僅かに露出している肌から青い光の幾何学模様が浮かび、彼等の頭上に天使を思わせる光り輝く円環が浮かんでいたのだ。
先程までの可愛らしい様子から一変し、明らかに戦闘モードに入ったという印象。
開始のブザーが鳴り響き、お互いの陣営が動き始めた。
人間側の動きは、軍の中でも特に先鋭と言われている者達であり動きは統率され1つの個として一体化した動きを見せている。
360度、至るところに死角はほぼ存在していないかのように素人目の俺には写っていた。
対して、子供達の映像を見やると開始から2分経とうと一行に動いている様子が無かった。
これが彼等の作戦?
あるいは戦闘を放棄したのか、それとも別の意図が?
状況が動いたのは開始から三分が経過した頃。
五人の子供達の内の二人が動き始めた。
立ち並ぶ建物を縦横無尽に飛び回り、二人の先行を追うように控えていた三人も動き始めた。
息を呑むように、画面の向こう側での戦いの行方に注目が集まっていく。
明らかに人間側が有利だと思ったが、次の瞬間その偏見が覆される。
先に攻撃を仕掛けたのは、人間側。
彼等の物音に気付き、僅かに見えた人影に向けて一人の銃声が響いた。
銃声に反応したのか、例の子供達が人間側を囲むように集まっていく。
映像見ているこちらは現在の状況が見えているが、実際に交戦している彼等はこの身で見聞きしている情報のみでやり取りをしているはずなのだ。
動き方を見る限り、お互いの動きの練度は同程度に思えた。
大きな差があるとすれば、子供故の体格差。
物陰に身を隠しやすい利点はあるだろうが、構えた武器に対して身体が小さ過ぎる難点が見受けられる。
しかし、次の瞬間一人の子供が人間達の上空から急降下攻撃を仕掛けてきた。
爆撃を思わせる衝撃に、彼等が瞬時に反応し飛引き距離を取るが衝撃によって生まれた砂埃に視界が塞がる。
画面全体が砂埃に包まれている中、銃声と何かの衝撃音だけが聞こえてくる。
激しい攻防戦のソレ等の行方を見守る中、砂埃の切れ目に横たわる人間達の上に立つ翼の影が見えてきた。
子供達全員が彼等の頭の上に足を起き、頭に銃口を突き付けている光景。
最初に見えた無邪気な姿とは一変した、完全な狩る側の姿……。
これは許される行為なのか?
これから辿る世界の新たな姿なのか?
年端もいかない子供達に人を殺させる行為……。
幾ら自分達の保身の為とはいえ、こんなことが……。
こんな物が許されるのだろうか?
しかし、これを現に世界中で行われているのが事実。
我々がやらなければ、彼等が我々の命を脅かす存在になり得る……。
しかし、わざわざ子供に殺戮を?
子供同士で殺し合いをさせる事が、俺達が望んだ未来の形なのか?
こんな事があっていいのか?
俺を含めて大きなどよめきが会議室内にあふれる。
「これが新たな戦争の形です。
映像でご覧頂いた通り、ただの人間程度では先程の子供達の足元に及ばない非力な存在です。
近い将来、我々が何もしなければ彼等の大軍が我々の大陸を攻めてくるでしょう。
子供を殺し行わせる行為は非常に残酷な行為です。
しかし、それに付け入り敵はこの子達の力を用いて、我々の国を侵略してくるでしょう。
今こうしている間にも、彼等は数を増やしている。
我々は今、大きな選択を突き付けられています。
自分達を護る為に、彼等の力を利用するのか?
彼等の力に屈し、自国の子供達を犠牲にするのか?
今ここで、私は貴方達の決断に判断を委ねます」
壇上のネクタリフは俺達に決断を問いかける。
自分達を護る為に、自国の子供達に殺戮をさせるのか?
敵の子供達を護る為に、自分達が殺されるのか?
この場にいる皆が頭を抱え、苦渋の決断をすることになった。
後日、俺を含めてこの場にいた37名の内、賛成27名、反対10名の多数決により我々は、彼等の力を必要とする決断が下された。
この決断は後に人類の侵した最大の過ちとして、後世に残されるだろう……。
今後老いぼれる我々の保身の為に、これからの世界は子供達の殺戮行為によって守られるのだから……