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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
242/324

年長組の色沙汰

帝歴404年1月4日


 書類仕事をある程度終えた私は、少し遅い朝食を船内のレストランにて細々と食べているとクラウスの声が聞こえてきた。


 「シファさん、ここに居られましたか。

 先程、サリアからあなた宛に緊急連絡がありました」


 「緊急で私宛に?

 一体誰から?」


 「ティルナからの連絡です」


 「え、ティルちゃんから?

 あの子から来るなんて珍しいね、内容は?」


 「ええと、にわかに信じ難いのですが新たに契約者が現れたとの事でして……。

 能力は炎、シラフ君の持つ炎刻の腕輪と大変酷似した代物を所持した者だそうです」


 「シラフと同じ……、その人の生まれや名前は?」


 「それがその……、どうやら記憶喪失だそうで身元は愚か名前も分からないようで。

 一応仮の名前として、ヘリオスと名乗ってる模様です。

 こちらにその資料がありますので、ご確認を」


 クラウスは手に持った資料をそれぞれ私に手渡す。

 受け取ったそれ等を一枚一枚確認。

  

 渡されたのは写真が数枚と例の契約者に関する資料。

 名前が、ヘリオス・フレン。

 道端で倒れていたところを、アルヴィト地区に住むフレン家の者達に保護され事件当日まで仮住まいをしていた模様。

 彼女を身元を調べる為に、近くの自警団……確かゼリアスの管轄区域の場所。


 身元の調査を進める中、彼女は仕事を探していたので身元の調査も兼ねて自警団の元で働かせようとした際の魔力及び体力検査にて問題が発生した。


 クラウスが渡してくれた写真には、彼女が壊したと思われる魔力測定機及び修練場が確かに写っている。

 そして、彼女の神器と思われる赤みを帯びた腕輪。

 確かにソレは、シラフの持つ腕輪とよく似ている。

 そして、彼女の身元に関わるであろう認識票を映した写真。

 

 かなり錆びており、原型はあまり留めておらずかなりの年月が経過したように思える。

 しかし、僅かに見えた文字の形式に私は見覚えがあった。

 

 「これって、もしかして旧文明の……」


 「旧文明?」

 

 「えっと、サリア王国建国よりもずっと昔の時代で使われてた文字だよ。

 古代文字の一つで、大体5000年近く前のモノかな?」


 「5000年も昔……。

 にしては、割と綺麗な状態で保存されていますよね?」


 「元の造りが良かったのか、保存状態が良かったのか。

 あるいは古代文字に関して知識があったのか……。

 後者の可能性が高いとは思うけどね……」

 

 「何か問題でも?」


 「あり過ぎて困るくらい、

 新たな契約者の存在が確認されたのも問題だけど、一番大きな問題はサリアで見つかったてところだね。

 私が無理やり抑えてもいいけど、あんまり圧政すると他の子達が何するか分からない。

 軍備の拡張して戦争したいわけじゃないしね。

 まぁ、契約者が何人来ようと私が出れば済むだろうけどさ……」 


 「確かに、ここ数カ月で各国の力関係が大きく揺らいでいますからね……。

 シラフ君やシルビア様の成長には大変嬉しい限りですが、他国はそう甘くありませんから」


 「まぁ、力はあるに越したことはないんだけどね。

 正直戦力はまだ足りないくらい。

 他の十剣達がもう少し強いというか、全員が解放者に準じるくらいの実力が無いとなって思うところ」 


 「流石にソレは厳しいのでは……?」


 「まぁシラフやシルちゃんを除いて他のみんなって結構いい歳してるから、今から深層解放なんてやったら早死にすると思うけど」


 「あはは……」


 「とにかく、新たな契約者に関してはサリアに到着次第私の方から接触してみるよ。

 年明け早々、まだまだ問題は山積みだなぁ……」


 「確かに、今年も大変苦労しそうです。

 話は変わりますが、アストさんの件についてはどうしますか?」


 「本人から何か釘でも刺された?」


 「いえ、その……。

 ただの興味本位ですよ」


 「私としては現状は放置しとくかなぁ……。

 まぁでも、学院向かう時に海賊仕向けたツケについては私が直接手を下すよ。

 確か、スルトア家だったかなぁ……。

 誓剣時計クロノ・オルコスの管理下にあったところだし……。

 それもあって、これまでちょっと甘く見てた問題とか多々あったから流石に今回はキツく締めないと」

 

 「でしたら、代わりに私が出向きますよ。

 シファさん自ら手を下す必要は……」


 「うーんとね、私やシラフを狙っただけならまだしも、他の学生達に被害が及ぶところだったんだよ……。

 標的が未成年相手だった訳だし、流石に無視は出来ないところなんだよね……。

 どのみち法的に裁定が下るとは思うけど、下手な横槍入れられて逃されたら嫌だからさ……。

 だから他の時計持ちの家系に対しての牽制も兼ねて、私が直接手を下す。

 異論があるなら別に構わないけど、私に歯向かうって事の意味をあなたが分からない訳がないよね?」


 「………、恐ろしい人ですね相変わらず」


 「その内、アストに対しても相応の処置はする予定。

 そうなった際には、今のアストの地位をあなたが継ぐことになって、今のあなたの地位はシラフに継いでもらう形になるのかな……。

 早くてもシラフが学院を卒業してからになりそうだけどね。

 まぁ、それまでにアストの尻尾をちゃんと掴んでおきたいところだけど……、あの子が簡単に尻尾を出してくれる子では無いから一筋縄では行かないのが現実だけどさ……」


 「アストさんに対しては問答無用で裁く行為を避けたいところなのですか?」

 

 「現十剣の顔役みたいなものだからね。

 証拠不確定なところで、手を出したら色々と怪しまれて私の存在が大きく周知されるのは避けたいところ。

 今現在も、教会やサリア王国として代わりに顔役立てるなんて回りくどいやり方してるくらいだもん……」


 「つまり準備の時間も兼ねていると?」


 「そういうことになるかな。

 最悪の状況を考えるなら、私もすぐに手を出すけど現状は早急手を出す段階ではない。

 首謀者の一人にアストが居るのは確実、他に関与した別の人物等を芋づる的に捕えたいから今のところは泳がしておく。

 その間、勿論色々と警戒しないといけないけど」


 「私が裏切り者である可能性は考えていないのですか?」


 「あー、まぁその時はその時だと思うよ。

 私の個人的な判断としては、仮に裏切り者だとしても放置で良さそうとは思うけど。

 最低でも空いた枠の代役が見つかるまでは、放置するところだね」


 「代役が見つかるまで放置とは、そこはアストさんとあまり変わらないところなんですね」


 「身内だけど、基本的にはあなたもアストやシラフも平等に対応するからね。

 まぁでも、シラフには昔から私の方から甘やかし過ぎちゃったところあるけどさ……。

 そのせいでルーシャや他の子たちといざこざが絶えないっていうのは本当、血は争えないというなんというか……」


 「確かに、そうでしてたよね。

 シラフ君にはまだ、教えていないんですか?

 今更隠す必要も無いでしょうに」


 「あっ……そういや言ってなかったかも。

 まぁでも特に聞かれなかったし、今更言っても気まずくなりそうだよなぁ……。

 それに、今の状況考えると余計に……。

 その内、向こうからの本人に言ってくれるかもしれないけどね」

 

 「あはは……、きっと驚くと思いますよ。

 ただ、今の状況的には悪い方向かもしれませんがね」


 「だってシラフは、アストの孫だからね。

 彼が怪しい存在だっていうことはシラフには言ったけど、血縁関係だって知られたらちょっと面倒は事になりそうだとは思うけどさ……」


 

 護衛任務の話を進める為に、船内をアクリと共にうろついていると廊下で何かを話している二人の男性に目が入った。

 顔見知りというか、現十剣であるアスト・ラーニルとネプト・アレクシアの両名が揃っていたのである。

 俺達の姿に気付いたのか、二人が声を掛けて来た。


 「おや?

 シラフ君と隣に居るのは例のホムンクルスお嬢さんかい?

 随分と珍しい組み合わせだな」


 「アストさんに、ネプトさん。

 二人もこんなところで何を?」


 「ちょっととした昔話をしていたところだ。

 なあ、ネプト?」


 「ああ、お互い身内に苦労していた身なのでな。

 だが、アストに至っては自業自得だ」 


 「相変わらず堅いなお前は……。

 ところで、二人こそ何をしていたんだ?」


 「姉さんを探していたんですよ。

 この後の歌姫の護衛任務について、彼女も同行されたいと思っていまして。

 同性の護衛役が一人でもいた方が、より確実に護衛任務を遂行できると思ったので」


 「なるほど……、かの歌姫はかなり手を焼くからな」

 

 ネプトが苦笑いを浮かべながらそう答え、俺は疑問に思い聞き返す。


 「ネプトさん、彼女と以前何か?」


 「半年程前に別件でアンブロシアでの護衛任務を担当したんだ。

 しかし、逃げ足が早くてな……。

 予定時刻を一時間程ずらしてどうにか遂行出来たが、本当に手を焼いた娘だよ……。

 素行の悪さは、両親から聞いていたが……ここまで手を焼くものかと安易に引き受けて後悔したものだ。

 君も聖誕祭ノエルの一件、更には顔合わせで酷い目にあったのだろう?」


 「あはは……まぁ確かに……。

 あれ、でも確かアストさんは本来アンブロシアのカルフ家に出向いているはずですよね?

 姉さんから聞いたんですけど?」


 「マーズ卿に仕事を任せたんだ。

 あの家と親交が深いのは私よりも彼の方だからな。

 それで軽く口を割るような奴ではないが……幾分かはマシだろうよ」


 「なるほど、マーズさんが……」


 「ちょっと、シラフ先輩。

 さっきから私の事忘れてませんか?!」


 アクリがそう言って、俺の服の裾を引っ張ってくると目の前二人は笑っていた。

  

 「シラフ君も大変だなぁ、例の彼女とすぐに打ち解けているとは驚いたよ。

 しかし、君は随分とノワール家の御令嬢と似ている、アルクノヴァとノワール家の親交があったとは聞いていたが何か君はご存知かね?」


 アストの問いかけに対して、アクリは僅かに眉をひそめ表情が悪くなる。

 気が進まないところなのだろうが、俺も実際その辺りのところは気になってたので彼女の回答を待っているとアクリはゆっくりと口を開いた。


 「元マスター、アルクノヴァ・シグラスはノワール家の夫妻とは学生時代の教え子です。

 私を生み出した要因である第4世代ホムンクルスの研究の第一人者として、あの子の母親が研究に加担していました。

 その際に何らかの理由で、実の娘の遺伝子情報を素体に組み込んだ事で私は生まれた……。

 でも、私が目覚めた時には彼女は研究から抜けた後で、後任したマスターは私にそう教えてくれました。

 ノワール家の彼女と私が似ているのは、同じ遺伝子を持った存在だからですよ。

 まぁ、今となってはどうでもいいんですけど同じ顔の奴が目の前にいる今の状況はあまり好ましくはありませんけどね……」


 「なるほど、ホムンクルスには人間の情報が必要なのか」


 「当然ですよ、魂の情報構築を無から生み出すくらいなら元々ある人間や生物の情報を混ぜる事で生み出した方が遥かに容易な話なんですから。

 ただ、ソレは混ぜ物なので非常に不安定です。

 故に本来なら数年、しっかりと安定剤を投与しても20年そこらの寿命しか持ち得ない。

 まぁ、その欠点を無くす事に成功してるのが私のような第4世代ホムンクルスなんですけどね。

 ただその分、他のホムンクルスと比べて肉体強度はかなり下がってしまうんですけど」

  

 「非常に興味深い話だな」


 「それはどうも」

  

 「まぁあの人が君を放置しているなら、私の方からは特に君個人を害するつもりはない。

 あの人に逆らう方がこちらとしては命取りなのでね」


 「そうですか」


 「シラフ君や君もあの人の恐ろしさはよくわかるだろう?

 私とクラウスを二人相手取った時よりも、彼女一人を相手にしたときの方がより辛かったはずだろうからな」


 「それは……、確かにそうかもしれません。

 勿論、クラウスさんやアストさんが決して弱い訳ではないんですけど……。

 姉さんは規格外というか、なんというか……」

  

 「我等としては、そんな彼女に一矢報いた君は実に誇らしい存在だ。

 しかし、少々焦り過ぎとは思うところだが。

 話によれば、君は例外的に2つの神器と契約してるそうじゃないか?」

 

 「ええ、新しい神器も能力は炎なんですけどね」


 俺はそう言い、左腕に巻きつけた赤い石の首飾りのそれを見せる。

 首飾りなのに、腕に巻きつけているのは能力を扱う際に手足にある方が魔力を集中させやすいからという、安易な理由。

 しかし、見た目は我ながら少々不格好とは思う……。

  

 「それが例の天人族の秘宝か……。

 しかし、またも炎とは……」


 「かの英雄も今の君と同じく、2つの神器を扱えたと聞いている。

 やはり、かの英雄の名を継いでるだけはあるな」


 「英雄の名ですか……」


 「シファからの言伝で、君が本来の名前を思い出した事は聞いている。

 ハイドの名を持った君が、祖国と同じ英雄の力を受け継いだ事……。

 奇異な偶然、いや運命というべき何かがあるのかもしれないが……、おいアスト?

 今更、事実から目を逸らそうとするな」


 ネプトの話の途中で視線を僅かにそらしつつ、一歩引いたアストに対して彼は睨み付けるように言葉を詰めてくる。

 

 「いや、別にそういうわけじゃないんだがな……」

 

 「元は過去の己が犯した不貞が原因だろう?

 そんな事だから、娘に愛想尽かされるんだ。

 我も同じ立場なら、同じ対応しかねんよ」


 「今、ティルナの話は関係ないだろう……。

 まぁ確かに、娘には昔から嫌われてるが別に気にしてなんか……」


 「全く、昔から変わらないな……。

 シラフ、実はな……」

 

 「おいネプト、勝手に……」

 

 「君の実の母上である、フィルナ殿はアストの不倫相手の子供なのだよ……。

 つまり、君はアストの実の孫という事になる」


 「え……アストさんの孫?

 俺がですか?」


 「ちょっと待てくれ、ネプト!

 それを今言うな!」 

 

 「記憶が戻った彼に今も尚隠す必要はないだろ?」


 「いやしかしだ……物事には順序が……」


 「いい機会だろう?

 彼等が来る前にも、その事でお前から話を振ってきた癖によく言えるな?」


 「おい、その事は今言わなくても……!!!」 


 二人の会話を聞いて、空いた口が塞がらない。 

 いや、まぁ確かに昔のアストさんは女癖が悪くて浮気相手や不倫相手が数多いというのは姉さんから聞いた事があった……。

 まさかその相手の子の一人が、自身の母親であった事実に俺は驚きは隠せない……。


 「シラフ先輩、なんか色々大変ですね」 


 「あはは……、そうだな」


 俺自身に乾いた笑いが浮かびつつも、アクリは言葉を続けた。


 「シラフ先輩、あのアストって人凄く偉い人なんですよね?

 なんか色々問題あり過ぎじゃありませんか?」


 「いやまぁその……、若い頃はちょっとやんちゃな人だったんだよ。

 今は威厳ある十剣の長なんだが、姉さん曰く昔のアストさんはちょっと問題があったというかなんというか」


 「シラフ君、ちょっとその話は流石に……」


 「いいぞいいぞ、言ってやれシラフ君。

 君はもっとこいつに言ってやれ」


 「彼を煽るなネプト!!」


 「あー、そういう事ですか……。

 なるほどなるほど……、まぁ昔の事なんですしいいんじゃないですかね……。

 ほら、シラフ先輩そろそろ行きましょう?

 私達、シファさんに用があるんですから」


 俺達の反応を察したのか、アクリはこれまで見たことないくらいのジト目でアストさんの方を見やる。

 十剣の長として、本来敬意を払うべき相手なのだが先程の話を聞いて以降、信頼も威厳もあったものじゃないのだろう……。

 まぁ、俺としては別に昔の事だし今更感はあるのだが当人は年齢に見合わず子供のソレな大げさな反応を示していた事に、これまでの堅い印象から親近感が少しだけ湧いた。

 まぁ、そんなことを今の彼女に知られたら俺まで巻き沿いを食らいそうである。

  

 「ちょっと待ってくれ、まだ弁明の余地が……」


 「アスト、年貢の納め時だ……」


 「おいアクリ、そんな引っ張るなって……。

 それじゃあ俺達はここで失礼ますので、また後で色々聞かせて下さいね」


 アクリに無理やり引っ張られながら俺は二人の前を後にする。

 最後の方に若干涙声になっていたアストさんが若干可哀想に思えたが………。

 今はアクリに逆らう事の方が、俺としては怖いところである。

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