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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 予言の歌姫と十の剣
241/324

渦中の少女達


 薄暗い部屋。

 部屋のところどころで埃をかぶり、飲んだくれの父親が今日も朝から朝から酒を飲んでいる……。


 母親はいつも何処かに出掛けている。

 仕事なのか、新しい男なのか……。

 

 真相は分からない……。


 お金はいつもなくて……満足に食べ物が与えられた事はなかった……。


 ただ耐えて……耐えて……。


 日々の痛みから、飢えから、乗り越えて……。


 いつか、神様が私を助けてくれると信じていた。


 そんなある日、私の両親はとある大きなお屋敷に私を連れていった。


 屋敷の人達から渡された綺麗な楽器に手を触れた。


 それから私の新たな地獄が始まった……。



 帝歴404年1月4日


 揺れる部屋の中で、私は天井を見上げていた。

 辺りに散乱する書類やら衣服とかが目に付くが後で彼が来たときにでも片付けさせればいいと思い気にせず。

 ただ怠惰に時間を過ごしていた。


 「何やってるんだろうなぁ……私……」


 最近、同じ夢を見る……。

 昔の、本当の両親と暮らしていた頃の記憶だ。

 自分勝手で、娘を売って……本当に最低な家族。

 今の地獄の元凶とも言える存在だ……。


 なんで私を産んだのだろう……。

 何の為に……ただの道具の為に?

 育ったら、売女にでもするつもりだったのだろうか?


 身体には未だにかつての痣や傷が残っている。

 彼を含む一部の者達しか知らないモノ……。


 今の私はどうなのだろうか?

 もう普通の女の子にはなれない、いや私は人間としては扱われていないのだろう……。


 今の新しい両親にも、私を評価してくれる民達も私を道具としてしか見ていないのだから……。


 「……、暇だわ」


 こんなところで考えてもどうにもならない。

 曇った思考が己を鈍らす……。


 幸いにも、今の私はお金には何一つ困らない。

 辺りに散らばる衣類や部屋の広さがそれを物語っているのだから……。


 ただ、満たされないだけ……。


 心は常に乾いている……、豪華な食事も服も何もかもが飽き飽きしてきた……。

 

 ため息を吐きながら、私は部屋を出る。

 

 あと3日で、この船はサリアに着く。

 その更に5日後には、例の結婚式で歌を披露する。


 ソレが終わればしばらくは、自由の身なのだから。



 寒空の下の甲板で、俺は一人で海を眺めていた。

 思えば、俺が学院に来てからまだ半年程度しか経っていないんだと思い返す。


 この半年間で色々あった。

 ラウやシンとの出会い……。

 海賊との騒動。

 クレシアとの出会いや、シルビア様の神器の一件。

 闘武祭での戦い。

 シグレと出会って、そして神器を使えるようになったりして……。

 ラウとも戦って、未来の自分とも戦ったり……。


 ルヴィラさんとの出会いや別れ。

 舞踏会の一件とか、本物のリンとの再開。

 

 色々あったな、本当に……。

 

 「シラフったらこんなところに居たんだ?」


 声の方角を振り返ると、長い金髪を後ろにまとめ寒そうにしているルーシャがそこにいた。


 「悪い悪い、ちょっと一人になりたくてさ。

 てか、外寒いだろ?

 連絡してくれれば良かったのだろうに」


 「そりゃあ寒いよ……私寒いの少し苦手だし……。

 でもほら、ここじゃ端末使えないから連絡取れないからさ、ちょっと不便じゃない?」


 「あ……、そっか……。

 そうだったな、学院だけで使えた奴だもんな……」


 「そういうこと……。

 で、何一人で考えてたの?」

  

 「いや、まぁ学院来てから色々あったなぁて」


 「確かに、シラフからしたら色々あったもんね」


 「色々あり過ぎたくらいだよ」 

 

 「この前のお泊り会でも言ってたよね?

 やっぱり、色々と考えちゃうの?」


 「お気楽に居られたら苦労しないよ。

 それに、お泊り会の件ではシルビア様の成長に結構焦ってるんだよ」


 「あー、深層解放だっけ?

 戦い方教わって、半年経ってないよね確か……」 


 「俺が学院に来て以降だから、そうだな。

 見たろ、あの戦い方……。

 ちょっと先輩としての威厳が保てる気がしない……」 

 

 「自慢の妹ですからね……。

 流石、サリア王国の王女の一人って感じでしょう?

 まぁでも、成長の方向はちょっと物騒だけどね……」


 「そうかもしれないな……。

 次の闘武祭では確実に優勝候補。

 負けないように俺も頑張らないとなぁ……」


 「そうだね、私も応援してるよ二人の事」


 そう言ってルーシャは俺の右横に立つと、腕に抱きつきそして指先を絡めて手を繋いでくる。


 「寒いからいいでしょ?

 それに私達一応、恋人同士なんだから、このくらいは……ね?」


 「そう……だな」


 「うん……」


 僅かに俺は反応に困ったが、すぐ横の彼女も俺と同じく気恥ずかしい様子。

 生誕祭の一件で、俺とルーシャは交際関係に至ったのだが、いざそういう関係として接するのはどうにも俺は慣れない。

  

 主従の関係……、騎士として守るべき人。

 そして、古くからの幼馴染で主従であっても対等な関係で……。


 だからこそ、今の交際関係というのがどうにも落ち着かない。

 まぁ、これから馴れていけばいいのか……。


 「随分とお熱いのね、サリアの王女様は?」


 背後からの声に気付き、ルーシャが飛退くように離れれる。

 声の主はルーシャと同じ長い金髪の彼女。

 コートを羽織り不機嫌そうな表情を浮かべる予言の歌姫こと、ミルシア・カルフその人であった。

 

 「あなたは、この前の歌姫……」


 「噂には聞いてたけど、本当に付き合ってたんだ?

 なるほど、だからこんな奴のカタをあれほど……」

  

 「今更あなたには何の関係もないでしょう」


 「ええ、そうね?

 関係ないわよ?

 あなたが誰と交際しようが私には関係ないこと」


 「で、私達に何か用なの?」


 「用は無いわよ。

 ただ海を見たかっただけで、目に付いただけ。

 じゃなきゃこんな寒いところに出たりはしないわ」


 「そう」


 「はぁ……、全く鬱陶しい人達……。

 それで?まだ何かある?」


 「どうして、あなたはそんな態度をするの?

 そんなに、彼が……シラフが憎いの?」


 「……ええ、憎いわ。

 加えて、他に黒幕が居るだとかほざいて責任逃れも良いところよ。

 彼がどれだけ苦しんだのか、何も知らずにのうのうと今の今まで生きて……」


 「っ……あなただって知らないでしょう?

 シラフのことを……。

 彼がこれまでどれくらい苦労してきたのかを……」

  

 「罪人風情の癖に……」


 「シラフは……罪人なんかじゃないわ!

 それに……彼は……本当は……」


 「本当は何なの?」


 「ルーシャ……、ソレは言わなくていい」


 二人の口論に俺が割って入る。

 すると、タイミングが悪かったのかミルシアが言及してくる。


 「何?私に言ったらまずい事でもあるの?

 あー、そうよね?

 言えないような事があるでしょう、やましいことが沢山あるんじゃないの?

 だから言えないでしょう、ルーシャ王女も彼も?」


 「ルーシャ、ここは抑え……」

  

 ミルシアの挑発を見兼ね、俺はルーシャに手を伸ばし静止を呼び掛ける。

 しかし、触れたその手をルーシャは優しく振り払った。


 「シラフ……ごめん。

 私、やっぱり耐えられないから……」 

  

 俺にそう告げると、ミルシアの前に向かって歩み寄りゆっくりと話し始めた。


 「十年前の火災でカルフ家の人達は亡くなった。

 それは確かな事実です。

 でも、生き残ったのはただ一人。

 あなたに、この意味が分かりますか?」


 「何を言って……。

 生き残ったのは、ハイドとそこにいるシラフの二人のはずよ?

 生き残ったカルフ家の彼を私達の住むアンブロシアで引き取った……」


 「……そう、あなたにハイドさんが言ったんですか?」


 「あなた、私に何が言いたいの?」


 「十年前の火災で生き残った唯一の生存者。

 ソレがシラフでありハイドである。

 今、私の横にいる彼がそうなんですよ」


 「は?………何を言って?」


 「まだ分からないんですか?

 あなたの知る、シラフ・ラーニルは偽名なんですよ。

 彼の本当の名は、ハイド・カルフ……。

 十年前のあの日、生き残った唯一の存在が私の横に居る彼ただ一人であること」

  

 「戯言を……。

 あなた、奴に騙されてるんじゃないの?」


 「証拠ならありますよ。

 私の親友に、十年前にカルフ家と親交があった女の子が居ますから。

 勿論、今この船にも居ます。

 彼女はもちろん、幼いハイドの事を覚えていますよ。

 そして、私の横にいる彼も同じく……。

 では、あなたの側にいた彼は彼女を覚えていますか?」


 「……そう、じゃあ今すぐにでも確かめようじゃない?

 彼が本物である事を、あなたの親友にも示してあげる」


 「……、わかりました。

 では、案内しますよ。

 今すぐに」


 余裕の表情を浮かべるミルシアに対して、何処か罪の意識を覚え僅かに下を見るルーシャ。

 正直、ここまでする必要は無かったはず……。

 でもいずれはバレるだろうとは思ってたが……。

 

 まさか、この最悪のタイミングで……。


 「ルーシャ、その……本当にやるのかよ?」


 「この際、もう全部教えた方が彼女の為よ。

 隠すだけ、私達の気分が悪くなるから……」


 彼女は俺に視線を向ける事もなく淡々とそう告げると例の彼を呼びに向かったミルシアの後ろ姿を視線の先で追っていた。

 


 「うわっ……何あの空気……」


 思わず口からそんな台詞が滑ってしまった……。

 私の視線の先には、エントランスホールの隅にあるテーブルにはシラフ先輩やルーシャ様と私とよく似た顔の女ことクレシア。

 その向かいに腰掛けているのが、予言の歌姫とか言われているミルシア・カルフって人とその従者ですよね?

 従者の人の顔付きやら雰囲気がシラフ先輩と似ている茶髪の男性で名前は確か……うーん思い出せない。

 

 でも、なんともまぁ面白い組み合わせだろうか。

 しかし、楽しくおしゃべりしているようには到底思えず……、最後の晩餐というかそういう重苦しい雰囲気のソレである。


 「アレって姉様達ですよね?

 向かいに居るのは、歌姫さん?」


 「ええ、ですよねシルビア様……。

 見間違いとかじゃないですよね?」


 長い航路の中、私はシルビア様と遊ぶ約束をしていたのだが……道中で見かけたこの組み合わせ。

 何か面白い事が起きそうな予感がする。

 でも、得にシラフ先輩とあの従者の人の顔がめちゃくちゃ暗いのが気になる。

 ルーシャ様の表情は、なんというか覚悟決めたって感じの真剣さが漂う。

 彼女の向かいに座る歌姫に至っては、余裕そうな顔して腕まで組んでる様子。

 そして、クレシアに関しては状況が読めず困惑しているようだった。


 「アクリさん、アレってどういう状況なんでしょう?」


 「さぁ?

 例えばですけど、昨夜シラフ先輩が酒に酔った歌姫を介抱したら酔った歌姫がよく似た従者さんと間違って襲いかかりそのまま朝を迎えてしまったとか?

 歌姫さんとしては、シラフ先輩は割とアリだったみたいでしたけど、当然ルーシャ様は激おこって感じで……。

 あのクレシアって人は状況分からないけど偶然通り掛かって審判役をって感じになってる的な?」

 

 「いやいや……シラフさんに限ってそんな間違いは」

 

 「そりゃあ、シラフ先輩からはしないと思いますよ。

 ヘタレですし。

 でも、向こうからの攻めには絶対弱そうですよね?

 ルーシャ様がしっかりとそこは管理しなきゃならないでしょうから……」


 「あー、確かにシラフさんならそのパターンやりそうですよね……。

 でも、本当にそんな感じなのでしょうか?」


 「シラフ先輩のことですし痴情のもつれでしょうよ。

 もう十八番おはこですよ、私からしたら毎日のようにルーシャ様から色々聞いてますので」


 「あはは……」


 通りかかった私がそんな会話を交わしていると、向こうの彼等の様子が急変していた。

 先程まで余裕そうな表情を浮かべていた歌姫が意気消沈とした表情を浮かべプルプルと震えていたのだ。

 

 隣に座る従者の彼が彼女をなだめようとするも、触れた瞬間にその手を振り払い頭を抱えて項垂れ始める。

 突然や主の体調が急変したのを見かね、従者の彼が歌姫を抱えるとその場を早々と立ち去っていく。


 なんか状況がかなりヤバイ方面に進んでいた。

  

 「ルーシャ姉様、一体彼女達と何を?」


 「向かってみますか?」


 「はい、流石にちょっと気になりますし……」

 

 それから私はシルビア様と共にシラフ先輩の元へと向かうと、先輩達は先程と同じというかめちゃくちゃ暗い表情を浮かべいた。


 「あの、シラフ先輩?

 一体何を歌姫と話していたんですか?」


 「アクリに、シルビア様か……。

 ええとだな、どう言えばいいんだろうな……」 


 「シラフのことを話したの……。

 そしたら、ね……」


 「やはり、痴情のもつれで?

 シラフ先輩……、やっぱりこの前酔った歌姫に襲われてその責任を……?」


 「おい、待て。

 どうしてそんな話になっている?」


 「シラフ……、ソレどういう意味かな?」


 「いや、ルーシャ明らかに誤解だろ!

 てか、何だよその俺が襲われたって話は?

 誰が発端だ?」


 「私ですよ。

 ほら、シラフ先輩は押しに弱いですしね……?

 それに面倒味もいいから、酔った歌姫を介抱したら淫らな関係にと……」


 「んな訳ないだろ!!

 ……それに歌姫は未成年だよ。

 酒は飲めないというか、万が一隠れて飲むとしても、この船では酒の販売や持ち込みが禁止されているんだから酔っ払う前提が無理な話だろう!」


 「なるほど……、じゃあシラフ先輩か歌姫のどっちかから迫って……」


 「頼むから、その発想から離れてくれ……。

 話が進まない」


 「じゃあ何があったんです?」


 「だから、その……俺の疑いというか事実の説明をしたらなんというか……な?

 ちょっと俺も状況がうまく飲み込めてなくて」


 「でも、歌姫さんの体調おかしくなってましたよね?」


 「いや……ソレはなんというか……」

  

 「やはり、痴情のもつれですかシラフ先輩?」


 「頼むからアクリはその話題から離れてくれ!!」


 シラフ先輩は必死に訴える中で、隣に座るルーシャ様は考え更けながらも思わぬ返答を返す。


 「まぁでも近からずも遠からずだと思うよ。

 元はシラフの問題なんだし、なんか色々と問題ごちゃついてややこしくなってるみたいだけどさ……」


 「やっぱり、シラフ先輩が何かしたと?」


 「シラフからってわけじゃないと思うよ。

 なんとなくだけど、歌姫であるミルシアさん自身に何かあったんじゃないかな……。

 以前にシラフから何らかの強い影響を受けて今の状況に陥ったのは確実……。

 でも、余計に謎が深まるところなんだけどね」

  

 「俺は一応止めたんだけどな……。

 向こうに着いてから、彼女について色々と調査を進めないといけなかったんだが……」


 「シラフ先輩は原因が分かってたんですが?」


 私の問いかけにシラフ先輩は頷き言葉を返す。


 「その、まぁなんというか……。

 歌姫であるミルシアさんは、俺と同じ神器の契約者何だよ。

 そして、彼女はどういう訳か幼い時に出会った俺の存在を、幻影と呼ばれる存在としてさっき隣にいたハイドって人ととして生み出したんだ。

 前に顔合わせした時にも、本人から聞いてたんだがその時はあの人の意向で内密にしてたんだよ。

 でも、ついさっきまでルーシャと揉めてそれを明らかにしちゃってな……」


 「幻影……、つまりあの従者さんは幻の存在ってことですか?」


 「そういうことになる。

 幻影については、舞踏会の一件が起こる前にクレシアとルーシャには情報共有をしていたと思うんだが……」


 「うん……、確かルヴィラさんって人の事を探してた時だったよね……。

 私やルーシャ、他の人達は全く覚えてないんだけど」


 「と、まぁこの通り幻影の存在が消えるとどういう訳か幻影を生み出した事の無い人達からは彼等の消滅と同時に忘れ去られてしまうんだ」


 「じゃあつまり、歌姫さんの従者って……」

 

 「何らかの要因で消えてしまえば、二度と彼女の前に現れる事はない。

 その上、世界からその存在を消されてしまう。

 それが幻影という存在の定めなんだよ……」


 シラフ先輩の説明の説明に驚きを隠せないが今の説明だと、シラフ先輩は幻影という存在を生み出した事があるという話になる。

 そんな疑問が浮かんだ中、シラフ先輩は補足するようにその話をしてくれた。


 「俺にも確かに幻影が居たんだよ。

 ルーシャやクレシア、シルビア様は覚えてないかもしれないけどさ……。

 姉さんとの戦い向かう前に、俺は自身から生まれた幻影と別れたんだ……。

 手のひらくらい小さな妖精のリンって奴なんだけどさ。昔からずっと一緒で家族みたいな存在だったんだが、姉さんに勝つために、家族を取り戻す為の戦いに勝つために俺は彼女との別れを迫られた……。

 結果的に勝てなかったが、今も彼女との思い出は俺の中に確かに存在している……。

 でも、みんなはそれを一切覚えないだろ?

 だからつまり、彼等はそういう存在なんだよ……」

 

 シラフ先輩が私達に告げたその言葉。

 リンという名前を聞いて、私にはかつての先輩の姿の面影が過ぎった……。

 彼女とよく似た存在として、これまでシラフ先輩の側にいた存在。

 彼の言葉の通り確かに存在していた話が本当であるなら、私よりも長く彼と過ごした時間のあるルーシャ様達が全く覚えていないのはおかしい。

 視線を僅かにルーシャ様やシルビア様に向けるも、シラフ先輩の言うリンという小さな妖精の存在にら見覚えがないように見えた。


 幻影は、忘却の定めを受けた特異な存在なのだと。

 歌姫の隣にいたシラフ先輩とよく似た従者の彼がそうであるなら……。

 シラフ先輩が、その小さな妖精との別れをしたように、先程の従者の彼もいずれは……。


 「彼女本人がどういう事情や経緯であの人を生み出したのかは分からない。

 でも、俺自身の過去について、例の歌姫に関わる事で恐らく新たに何か分かる事があるかもしれない。

 それに、護衛任務を引き受けている身でもあるからな。

 だから、この件に関しては俺に任せてくれないか?

 ルーシャやシルビア様に関しては、レティア様の婚約で忙しくなるだろうからな……。

 クレシアやアクリに関しても学院からの客人な訳だから余計な手間をかけさせる訳にはいかないからな」


 「あー、確かに私や姉様はレティア姉様の件で色々忙しくなりますからね……。

 少々気になる話題ですけど、今回ばかりはシラフさんに任せるべきかもしれませんね」


 「うん、その方がいいかもね。

 私もちょっとやり過ぎたかもしれないけどさ……。

 本人がそこまで言うなら、ここはシラフに任せるよ。

 でも、無理はしないでよね?」


 シルビア様とルーシャ様は同じ意向を示した。

 そして問題は、私とあの女の方である。

 正直、サリアに着いてからの予定は特にない。

 街を散策して観光でもしてればいいだろうが、私の目的上としてはシラフ先輩の方に着いて行った方が良さそうというのが確かだとは思う。

 クレシアって女の方に関しては、学院からの客人という側面の方が強い……。

 ならば、今回のシラフ先輩の一件に深く関わる必要性は薄くなるだろう……。


 と、なれば……。


 「私としてはシラフ先輩の護衛任務に同行したいところですね。

 ほら、一応女性を護衛する訳なんですし同性が対応した方が良いところもある訳じゃないですか?

 それにほら、ルーシャ様やシルビア様もあの歌姫に関して色々と気になるところもある訳ですし。

 それも兼ねて、私も参加した方が良いと思うんですよ。

 あー、でもクレシアさんは来なくていいですよ。

 ほら、私やシラフ先輩みたいに戦える訳じゃありませんしいざって時に逆に人質に取られても迷惑ですから」


 「っ…うん、そうだね。

 アクリさんの言う通りかも……。

 今回私はお父様の代理として来てるから、歌姫さんの事は気になるけど今回はシラフ達に任せるよ。

 シラフもアクリさんが一緒の方がいいよね?」


 「ああ、そうだな……。

 後でミルシアさんや彼女の従者の方にもアクリの参加を頼んでみるよ。

 姉さんにもそこら辺は問題ないか確かめてみる。

 俺としても、アクリが護衛任務に協力してくれるなら心強いよ」


 「そうですそうです、ほらじゃあ早速行きましょう?

 シルビア様、すみませんが遊ぶ約束はまた今度という事にお願いしますね!」


 「あ、はい……。

 また今度ですね」

 

 「じゃあシラフ先輩、早速お話を進めに行きましょう!」

 

 「いや、待って勝手に話を進める訳には……、

 って話を聞いてくれよ!!」


 私はすぐに立ち上がり、彼の腕を掴み引っ張り出すとそのまま先程去っていった従者の向かった方へと進んでいく。

 後ろの方から聞こえるルーシャ様達の声をよそに私と彼はまだ見ぬ真実を求める為に歩き続けた。

 

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