集いし英傑
帝歴403年12月28日
灼熱に包まれ、鎖の森が辺りに広がる。
圧倒的な熱量の最中で、交錯する2つの剣戟。
両者は一歩も引かず、戦いは激しさを増していた。
「どうした?
所詮、その程度か?」
「力の扱い方がまだ分かってないんだよ!」
反射的に俺は言葉を返し、目の前の剣を振り払い間合いを取る。
身体は以前までよりも遥かに重い。
背中に存在している鎖の羽、更には全身を鎧の如く鎖が覆っている。
身体の不自由さが依然として辛いところだろうか。
ふと、辺りに広がる鎖の森に視線が向かう。
先程、自身が深層解放をした時に発生したそれ等であるが何の意味もなく存在しているのだろうか?
存在するソレ等の意味、この鎖を用いて何かが新たに可能になったはずなのだ。
この神器の能力は炎と、この鎖を用いる何かだ。
かつてのリンとの戦いを思い返し、この力の扱い方を探る。
鎖は、こちらの攻撃の範囲を狭めていた。
それは大蛇が獲物をゆっくりと追い詰めるように、こちらの動ける範囲を抑え込んでくる。
そして鎖は持ち主の足場としても機能していた。
攻撃を塞ぐ盾にもなり、追い詰める矛にもなり得る。
鎖の扱い方次第で様々な事を可能としていた。
つまり、持ち主の意図次第で様々な事が鎖を通して可能になるという事。
この背に存在している鎖の羽も、俺が念じる事で刃にでも足場にでもなり得るのだ。
これまで、炎の熱量そのものをそのまま力でぶつけるような戦い方だったが故に、その力に加えての新たな方向性としてのプロメテウスの力……。
確かに強い力だろう、炎の力のみであれ今まで通りと変わらない熱量を誇っている。
問題の鎖の要素を使いこなせれば、今後さらなる強敵が来ようとも対策が効くのかもしれない。
だが扱う難易度がかなり高いのもまた事実。
俺は剣を扱うのであって魔術そのものは元々不向きなのだ。
魔力量が多くとも、魔術の扱い方はかなり乏しい。
どちらかといえば、かつての神器の方が炎の一極化により力の扱い方は容易だった。
しかし、新たなこの力は確実に魔術士向きの力だ。
この神器の力は魔術に秀でている者が本来使うべきなのだろう。
剣を扱い、近接攻撃特化の自分には明らかに不相応な力だというのは、奴と僅かに刃を交えた時すぐに理解できた。
だが、だからといって諦める訳にはいかない。
ただ一つ分かった事があるとすれば、これは一極特化型の神器ではない事だ。
炎と鎖、両方の力の扱い方がままならないのでは、遅かれ早かれ目の前の悪魔に俺は敗北する。
いや、敗北は既に決まっている。
だが、せめて一太刀でも……。
その為に更なる力が必要なのだ……。
だから……
「俺に戦う力をくれ……、リン」
左腕に存在する赤い石が激しく輝く……。
己の身に纏う鎖を通し、身体に流れ込む強大な力の流れを……。
そして、何かの……、戦いの記憶が流れ込む。
溢れる力に任せ、俺は目の前の存在に向かって斬り掛かった。
●
幾度か刃を交えた事で、目の前の若き騎士の実力はおおよそ掴めてはきた。
前回の襲撃事件とは別人と思う程、この短期間で大きく成長している。
そして、今この瞬間も俺と刃を交える度に成長している。
若さ故の吸収力と、成長。
もしくは、元々彼に備わった天性の才なのか。
いや、あるいは単に負けず嫌いなだけなのかもしれないと思う。
かつての自分と同じく、目の前の相手に負けたくないという想いが今の彼を強く動かしているのだろう。
自分の名を継ぎし、新時代の英雄………。
あのカオスが特異点と評価し、シファさんが深く肩入れしている程の存在。
かつて自分が扱っていた神器に選ばれ、更には2つ目の神器までも目の前の彼の元に渡った。
全ては仕組まれたレールの上なのか?
「まぁ、今はこの戦いを楽しもうか」
携えた剣を振りかざし、目の前の騎士に向けてその刃を振るう。
騎士の背に存在する数多の鎖、更には辺りを彼の持つ鎖が樹海の如く取り囲んでいる。
妖精族との縁が生み出した、自然干渉能力が神器の力と合わさる事で独自の進化をしている。
恐らく当の本人は無自覚だろうが、こちらとしては相当やりづらい。
鎖の一本は無視出来る、こちらの持つ剣で容易く断ち切れるからだ。
しかし、何本も一度に断ち切るのは至難の技だ。
鎖の一本を切る毎に、刃を振るう勢いは押し殺され。幾度となく重なる事で、こちらの攻撃の威力は大幅に落ちてしまう。
故に、鎖はある程度避けた上で攻撃に向かわなければならない。
こちらの動きはかなり抑えられる、故に相当厄介な神器の力だろう。
更には炎の力を扱える事で、同系統のこちらの攻撃はあまり効果はない。
しかし、今は力の扱い方を覚えていないが故に、どうにか対処出来るが……。
コレがもし熟練された技として扱えてしまうならば、末恐ろしいものだろう。
全く、とんでもない存在をこの世に生み出してしまったようだ……。
「流石に面倒になってきたな」
幾度となく目の前の騎士から繰り出される剣技は凄まじい威力を誇り、腕を通じて全身に衝撃が響き続ける。
たった一撃で骨が軋み、悲鳴を上げそうな程。
鎖を用いた事で、物理的に一撃の威力が大きく上がりこちらが迎撃しようならば振るわれる鎖と剣により力負けは免れない。
最初の優勢が嘘のように、気付けばこちらが劣勢に向かいつつある。
今この瞬間も目の前の騎士は戦いを通じて成長しているという事実を肌に感じる。
彼自身の成長速度が既に観測型のソレに近い。
プロメテウス自体は能力型の神器だとは事前に聞いて居たが本人の成長速度が異常なほである。
その強さの根本には、自分の守りたい存在が深く関わっているのだろう。
更には、かつてのプロメテウスの契約者であったかの妖精との繋がり……。
「……面白い奴だ」
久々にたぎる感触を得た気がする。
かつての自分が、祖国を、リースハイルを守る為に振るった時を彷彿とさせる。
過去の自分を、今目の前の騎士は追っている。
いや違う、彼は過去の自分の栄光ではなく自らでその逸話を生み出している新時代の存在なのだ。
超えて当然、それが必然なのだ……
だが、今の彼に俺は負けられない。
そう簡単に、超えられる壁ではない事を彼に突きつけなければならない。
彼は、サリアの新時代に必要な存在なのだから。
●
幾度となく交わる刃、どちらも引かずただ膨大な熱量に包まれながらその力を振るい続けた。
片や、燃え盛る悪魔。
こちらは鎖の剣士……。
本来出会うはずのない存在が、今こうして巡り会い一戦を交えている。
不思議な感覚だった……。
夜の凍える大地が、自分達の戦いの影響により灼熱の地獄と化してる。
こちらの生み出した鎖が、まるで樹海の如く無数に囲んでおり燃え盛っているのだから。
そして、その時は訪れた。
「はぁぁっ!!!」
幾度となるぶつかり合い均衡していた両者の攻撃にようやく抜け穴が生まれた。
勝てるはずの無いと思われた、かの悪魔に、祖国の英雄から放たれる無数の剣技をこちらの攻撃が上回った瞬間である。
「こいつ……!!!」
こちらが優勢に向かった瞬間、目の前の悪魔の表情が一気に険しくなる。
焦りの感情、いやすぐにその表情が僅かな微笑に変化した瞬間を俺は捉えていた。
この悪魔、いや英雄はまだ何か力を隠しているのだ。
咄嗟の判断で俺は追撃には向かわず、間合いを取り直し剣を構え直した。
「なるほど、いい判断だ。
だが、あのまま攻めた方が正解だったかもしれないが」
「何を隠しているんだよ?
この期に及んで、まだ出し惜しみがあるのか?」
「君がまだまだ弱いからね、使うまでも無かっただけさ。だが、こうして戦いを続ける間に君は成長をし続けたから力を使う判断を決した訳だよ」
「で、何をするつもりだ?
更に悪魔の力を使うのか、それとも今度は天人族の力を扱えるとでも?」
「いや、どれも違うよ。
俺も君と同じくもう一つの神器の力を使うまで。
まぁ、見れば分かるさ」
そう言うと目の前の男は、悪魔の力と神器の力を解除し元の姿へと戻る。
そして、胸元の辺りが激しく光輝いた。
あまりの眩しさに、俺は目を塞ぐ。
しばらくして、俺は目を開け男の存在を確認。
するとそこには、変化した奴の姿がそこにはあった。
白銀の白く輝く白銀の翼、そして白く伸びた光輝く髪の毛とその頭上に浮かぶ円環らしきモノ。
そして白と金の装飾が施された衣を纏い、その手には白く発光する白銀の剣がそこに現れていた。
「深層解放、アイテール。
今は天輪の耳飾りという名も姿を変えて、現在のサリア王国のシルビア王女が契約している神器の力だが」
「まさか、お前も2つ目の神器を……」
「まぁそんなところだ。
と、ここまで見せて悪いんだが、時間のようだ。
君のお迎えの人が来ているみたいだからね」
「迎えだと?」
そう目の前の男は言い、深層解放を解き俺の後ろの方を指差した。
手に灯りを持った人物が、こちらを見ているのが視界に入り目を凝らすと確かに俺の知人が二人居るのが分かった。
「君も力を解くといい。
流石に君の炎は暑くて生身のこちらはキツイんだ。
迎えの人達も近づけなくて困っている様子だからね」
「……分かった、勝負はこのくらいにしよう」
俺も男と同じく深層解放を解くと、辺りを覆っていた鎖の森が光を放ち消え去った。
そして、お互いに戦意が無くなった事を把握したのか後ろに控えていた俺の知り合い二人がこちらに近付いてくる。
俺の姉ことシファ・ラーニル。
そして、その交際相手のラウ・クローリアであった。
「お迎えご苦労です、シファさん。
そして、君はラウ君だったかな?
君も来るのは想定外だったよ」
「ハイド、これは一体どういうつもり?」
「いや姉さん、これにはちょっと事情が……」
「シラフの方じゃなくて、あっちのハイドだよ全く。
まぁでも、あなたも似たようなモノか……」
「あはは……、色々と手厳しい事で……。
まぁ理由を簡潔に言うと、ちょっとした軽い手合わせですよ。
彼の力量に興味があったのでね?」
男はそう言うと、戦意はもう無いと伝えたいのか両手を上げて首を振っていた。
ソレを見かねたラウは彼に話しかける。
「手合わせ程度で、周辺を灼熱地獄と化すのか?」
「お互いの能力が同じだからしょうがないだろう?
まぁ、とにかくこれ以上はやらないから」
「敵の言葉が信用出来る訳無いだろう?
ソレに、ラグナロク自ら出向いてくれるなら好都合。
こちら3人でまとめて掛かれば、確実に勝てる。
捕縛した後に、そちらの情報を洗いざらい吐いてもらう」
「物騒な事を言うね、まぁ確かに俺も君達3人を同時に相手取るのは無理な話だ。
流石に分が悪い、だから事前にこちらも仲間を後ろに控えていたんだ。
まぁ本当の役目は、俺が誤って彼を殺してしまわないようにする為の監視役を兼ねてというのが役割なんだが……。
丁度いい機会だから会わせてやるよ、と言ってももう来てるか」
男はそう言った刹那、背筋凍る程の威圧感を感じた。
姉さんと相対した時のソレと同格、いやそれ以上の存在が近くに居る。
いや、今の今まで俺はその存在に気付かなった。
いつからこちらの様子を見ていた?
いや、違う存在が無かったんじゃない……。
存在を消し、ずっと俺達を監視していたんだ。
俺の感じた圧倒的な威圧感をラウも同じく感じたのか、表情こそ動いて居ないが僅かに汗をかいているのが分かる。
しかし、姉さんは至っていつも通り平然としている様子だがその存在が視界に入った瞬間姉さんの表情は驚きの表情を浮かべていた。
「任務ご苦労だな、ハイド。
この後、何か飯でもご馳走してやる。
で、あの3人が例の奴等か……。
お前と同じ名を持つハイドと、帝国の人造人間。
そして、随分と懐かしい顔が一人。
久しぶりだな、シファ。
あの時の子供がまさかここまで立派に成長しているとは、昔お前が言ってた強がりもあながち嘘じゃなかったな」
ボサボサとした長い黒髪を後ろに束ね、何処か古臭い格好をした青年の姿がそこにはあった。
圧倒的な存在感、先程刃を交えた英雄が小さく見える程の異質なナニカを感じる。
そして、言葉を聞く限りでは姉さんと知り合いでもある様子だった。
「姉さん、あの男は?
知り合いなんですよね?」
「彼の名は、オーディン。
異種族間戦争時代に、一緒に戦っていた仲間の一人よ」
「異種族間戦争時代って、アレは神話の話じゃ?」
「史実とは異なるけど、異種族間戦争は実際にあった出来事なの。
その時、彼は私達と共に戦っていた仲間であり、私達のリーダー的な存在だった人……」
「とまぁ、そんなところだ。
そちらがまだ戦いたいって言うならここからは俺が相手をする事になる。
最も、この大陸一つ消し飛ぶかもしれないがな」
「シファ、どうする?」
「………」
「シファ?」
「姉さん?」
ラウの言葉に姉さんは答えない。
再びラウが姉さんを呼ぶも応答はなく、違和感を察した俺は姉さんの方を見ながら声をかけた。
するとそこには、涙を流していた彼女の姿がそこにはあった。
「どうして……!!
どうしてあの時私達を置いて勝手に死んだの!!
なんでもっと早く、私達に言わなかったの!!
もっと早くに言っていれば、私がもっと戦ってあなたを失わずに済んだのに!!!」
「やはりな、お前には言われると思ったよ」
「分かってたなら、どうして!!!」
「まだ小さいお前を、戦場に幾度も向かわせたくなかったんだ。
それにだ、戦いが終わった未来に必要なのは俺ではなくシファ、お前だとな」
「っ……分からない……。
なんで、なんで私なの!!
なんであの時、私を助けたの!!
なんで……、なんでこんな化け物の私だけが生き残らなくちゃいけなかったの!!!」
今まで見たことのない姉さんの様子に、俺達は戸惑っていると彼女は突然オーディンという男に詰め寄り思い切りその頬を思いっきり殴った。
しかし魔力を一切込めて居ない一撃、だがそれなりの威力はあるらしく男の頬は僅かに切れ、血が垂れていた。
「……返す言葉もない。
色々と長い間迷惑をかけたみたいだな……」
そう言うと青年は姉さんを抱きしめ、頭を優しく撫でていた。
現在の交際相手であるラウの居る前でソレをするのかと思っていたがすぐにその思考は振り払う。
この男は恋愛感情というよりは、家族としての親愛の気持ちで接しているのだと分かったからだ……。
「本当大きくなったなよな、お前。
見違える程に綺麗になった。
少なくとも、それが俺が居なくても十分やってこれてる証拠だろ。
お前はよく頑張った、ありがとうシファ」
男は優しく姉さんを抱きしめながらそう告げた。
ソレに対して姉さんは大きく泣き喚いていた。
彼の告げた言葉の重みがどれほどなのかが図り知れなかった。
少なくとも、あの英雄が生きていた400年程前よりも遥かに昔からの関係だということ。
神話として語られる程に風化した、かつての異種族間戦争時代から彼やその仲間と出会い、そして最終的に姉さん一人だけが生き残って今に至るのだ。
背負い続けた膨大な時間、止まっていた過去が今ようやく動いた瞬間なのだと……。
目の前の英雄、そして俺までも二人の時間に割り込む余地は無かった。
ラウもソレを察したのか、終始無言の様子である。
一触即発もしかねない、しかし今この瞬間くらいは二人の為に使っても何ら問題はないだろうと、俺はそう思った。
●
しばらくして、落ち着いた頃を見計らうとオーディンという男の方から会話を切り出した。
「とりあえず、今日はお互いの為にこの辺で切り上げよう。で、今回こちらのハイドがそちらのハイド君に接触を図った理由については、恐らくシファも粗方検討はついてるだろう?
例のタルタロスの封印が解かれようとしている。
そして、封印を解こうとしている連中も居る。
これに関しては、まだ説明していないよなハイド?」
「ああ、まぁタルタロスが襲撃してくるのは確実だったからな。遅かれ早かれ、確実だったから説明をした。
封印を解こうとしてる奴等に関しては、俺達でどうにかなるだろう?」
「いやいや、俺は特別お前達より動きの制約が強いから関われないんだよ。
とにかく、そいつ等に関してはシファ達の方も十分警戒して欲しい。
最も、そいつ等とは既に接触済みのようだが……」
オーディンがそう言うと姉さんはやはりと言った顔を覗かせ口を開いた。
「未来の彼等、いや異時間同位体。
彼等が色々と世界中で動いている、目的は何かしら色々とあるんだろうけどこちらも知り得ない何者かの嘘を吹き込まれているのは確かね。
多分ソレは、いずれ私達もお互い無視は出来ない存在になるだろうという話なんでしょうけど……」
「……、協力は難しいか?」
「万が一必要なら、その協力に応じる。
でも基本的には私達でどうにかするわ。
異時間同位体に関しても、私はそれを見逃してる。
でも、あなた達にとっては無視は出来ない。
カオスの命令には従う、それがラグナロクの現在の在り方だから。
だからお互いにやるべき事は果たすのみ、協力も敵対もその時に応じて私達自らの意思で決める。
今回のタルタロスの一件に関しては、しょうがないから協力には応じる。
原状の戦力では足りないのは分かってるから……」
「じゃあひとまず一時的な協力関係は成立だ」
「ええ、そのようね」
「シファ、いいのか奴等と手を組む事に?」
「問題ない、タルタロスがお互いにとっての不利益な問題に直結する。
向こうからわざわざ協力が来た時点でこちらは応じるしかないの。
全体的な戦力に関して、こちらが圧倒的に少ないのが事実であり、タルタロスの襲撃が本当ならそれ等の勢力に対しての対抗策がこちらにはないからね」
「分かった……。
シファがそこまで言うんなら、私もソレに従おう」
ラウからも同意が得られると、オーディンは再び口を開いた
「納得してくれて何より。
それと、もう一つ。
これはどちらかと言うと、そっちのハイド君に関わる問題か……」
「俺に関わる?」
「今の限りある時間を大切に。
全ての真実は10年前、君が住んでいた屋敷にある。
幻影は未だ存在している、君達のずっと近くに」
「……どういう意味だよ?」
「その内分かるさ、とにかく今の学院生活を精一杯楽しむといい。
限りある時間の中で、想い出は多いに越した事はないのだからね」
「……忠告どうも、それで話は以上でいいんだよな?」
「ああ、ではこちらは先に失礼するよ。
君達の顔を見れて良かった、次会う時は味方かもしれないし敵かもしれないが、どちらもその時は宜しく頼むよ。
ちなみに、俺は今のラグナロクで一番上で今のこいつ等を率いて者だ。
で、このハイドは5番目。そして最後に、例の妖精を殺したのは最近序列を上げた3番だ」
「な……」
あまりの衝撃に俺は俺は驚きを隠せなかった。
今目の前にいるオーディンが、ラグナロクにおいて最強の存在。
更には、リンを殺した存在について3番と称したのだ。
先程まで全力で戦い、勝ち目が無かったあの英雄ハイド・アルクスですら5番……。
まだ上がいる、アイツよりも強い奴があと四人も……
「君達はまだまだ強くなれる。
その遥か先の頂きで、俺は君達を待ち受けよう。
じゃあな、シファ。
そして、新時代の英雄諸君」
オーディンはそう言い残すと、俺達の前から煙を撒くように忽然と跡形もなく消え去った。
彼等が消え、俺は姉さんに一つ尋ねた。
「姉さん、オーディンって奴と今の姉さんだとどっちが強い?」
「あの人に私は一度も勝てなかった。
それがオーディンという存在。
だから、彼がラグナロクで最も強いのは納得がいくの。
彼は、歴代最強の神器使いだから」
姉さんの告げたその言葉の重さ。
最初に奴と関わった時の威圧感は悪寒のソレであり、事実である事を受け止めせざるを得ない。
「途方もないな、その言葉通りならば……」
ラウが珍しく弱音を吐いていた。
俺と同じく、あの威圧感に触れたが今のラウまでも勝ち目が弱音を吐くほどの実力。
だが、それ以上に俺は……
「姉さん、それにラウ……。
俺、もっと強くならないといけないみたいだ」
両の拳を強く握り締めながら、雪の降り始めた空を見上げる。
英雄達が待ち受けるという、その頂きは遥か遠く。
今は届きそうにないその場所に、俺達は届くのだろうか……。
リン……、俺はお前の仇を取れるのだろうか?
その問いかけの答えは、今はまだ分からない。
凍てつく空は、途方もないソレを俺達に突き付けていた。