第二十二話 編入
担任であるアルスに教室まで案内されると、彼は一足先に教室の前に立った。
「時間になったら呼ぶ。
それまで、ここで少し待ってろ」
先生が先に入り、俺はとりあえず呼ばれるのを待っていた。
少しばかりの時間、自分が呼ばれるのを待っているとその時はわりとすぐに訪れる。
「今日は新たな編入生を紹介する、入って来い」
自分が呼ばれ俺は教室内へと足を踏み入れる。
教室内は階段状に4列で席が広がっており、目の前の人物の身長程度では視界には困らないと感じた。
男女の比率は三対二の比率、俺の席は恐らく後ろから三番目の窓側にある丁度空いている席だろうと思われた。
「彼の名はシラフ・ラーニル。
サリア王国から来て、まあ皆も知っているだろうが、この若さで昨年には十剣の1人にも選ばれている。
まあ、細かい自己紹介は彼本人にしてもらう。
それじゃあシラフ君、あとは頼むよ」
そう言われ、軽く背中を押されると俺は簡潔に自己紹介をした。
「はい。
先程紹介された通り私の名前はシラフ・ラーニル。
サリア王国から、本日より急遽編入する事になりました。
僭越ながら、皆さんよろしくお願いします」
とりあえず、自己紹介を終え軽く礼をする。
目の前にいる生徒達からは様々な声が聞こえた。
サリア側での俺の扱いがあまりよく無かった自分として、学院でどう見られているのか僅かに不安であったが……。
今のところ奇異的なのか好意的な視線なのかは分からないが皆の視線が俺に集まっている様子である………。
そして、片や姉さんの方ではどうなっているのだろうか……。
いや、あまり考えないようにしよう……。
「それじゃあシラフ君。
君の席はあの空いている席だ。
隣の彼女はクレシア君だったか、分からない事があれば彼女や他のクラスメイトに聞くといい」
そして俺は示された席に着く。
クレシアと呼ばれた隣の席の彼女はというと、薄い焦げ茶色の髪が特徴的な女性。
なんとなく、彼女は物静かで内気な印象を受けた。
俺の方をみて、僅かに会釈をしこちらの顔をじっと見つめる彼女。
整った顔立ちを覗かせ、なのに何故か軽い既視感を覚えた。
「これからよろしく頼むよ」
「よろしくね……。
私はクレシア、クレシア・ノワール」
「よろしく、クレシアさん」
彼女と小声で挨拶を交わす俺であったが
その頃姉さん達の教室では、今頃どうしているだろうか。
●
「それじゃあ、自己紹介頼むよお二人さん」
女性教師が私と隣の彼に話掛ける。
隣の彼は、そう言われても自己紹介をする素振りが見られないので私からとりあえず流れを作る事にした。
「それじゃあ私から、で。
ええと、サリア王国から参りました、シファ・ラーニルです。
皆様、これからよろしくお願いします」
私が自己紹介の挨拶を終えると目の前の男子生徒数人が失神し机に倒れ伏した。
何人かの女生徒も私を見て呆然としている者が見られる。
女性教師も突然の事態に少し呆れた様子だった。
私が自己紹介を終えても無言の彼に小さな声で、「挨拶しなよ」と軽く横腹を突き催促すると渋々とラウは応じた。
「同じく、サリア王国出身ラウ・クローリア。
よろしく頼む」
ラウは必要最低限で自己紹介を終える。
彼のその様子に対し、女生徒数人が彼に見とれていた。
彼の顔立ちは整ってはいるだろうが、彼の何が良いのかはイマイチ分からない。
さっきから無愛想な感じで突っ立ってるだけだし。
そうこう思っていると、教師は話を戻す為にこちらに声を掛ける。
「えっとそれじゃあ、二人は後ろの空いてる席に座って……。
えっと倒れた生徒については近くの者で対処して欲しいな、うん……。
それとシファ君は午後の試合について、他の先生方から説明等があるから後で私の方に来てくれ」
「分かりました。
行こうか、ラウ」
彼は何も言わず、私と共に用意された席に着く。
最後尾の右から2列目の席だ。
しかし私と彼が並んで座っている為か周りの視線は二人に集まる。
何かおかしい事したのかな?
周りの視線が気になり思わず照れる。
「えっと……そんなに見られるのは……。
その……ちょっとだけ困るなぁ……あははは」
私が周りの視線に戸惑っている様子に対し、今度は2名の男子生徒が倒れた。
「くだらない……」
ラウがそんな事を言うと、女性教師が普段通りを装い朝礼を進行させたのだった。
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朝礼を終えた俺は先生に言われた通りに神器の申請を行う為、再び職員室へと訪れていた。
そして俺は、山とまではいかないが大量の書類に目を通して一通りのサインをしている。
「まあ、ここに大体の神器の能力を記入してと……。
後持ち主、というか契約者の名前をここにサインする事、後は闘武祭についてだな……」
「闘武祭が神器と何の関係が?」
「神器の所有者は可能な限り闘武祭に出場して欲しいんだよね。
私個人の意見ではなく、ここ最近の学院の動きがそういう流れだからさ」
「………、どうゆう事です?」
「そうだな、ここでは闘舞祭という祭り事で国同士が競い合っているんだ。
この学院は、言わば世界の縮図。
その中で闘舞祭というのは国同士の代理戦争と言える物なんだよ」
そう言うと彼はは端末の画面を俺に見せてくる。
内容は闘武祭において高位序列者の出身国の内訳である。
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学位序列1位 ローゼン・ブライト
学位序列2位 リノエラ・シュヴル
学位序列3位 ルークス・ヤマト
学位序列4位 シグレ・ヤマト
学位序列5位 ラノワ・ブルーム
学位序列6位 メルサ・ハーヴィー
学位序列7位 シトラ・ローラン
学位序列8位 カイル・テルード
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「彼等の出身国、上からラーク、エデルタニア、ヤマト、ヤマト、アンブロシア、フリクア、ラーク、南方のジルナザ、その下は列強の極東三国やらで大まかに占められている。
君の祖国であるサリアはそこまで低くはないが、現在の名だたる列強諸国と比べれば見劣りしてしまうだろう。
国別の別のランキングだと、12番目とまぁまぁな位置にあるのかな……」
「12位……」
「君の国としては高位序列者が増えてくれれば自国においても何らかの利点があると思うよ。
君の将来的な活躍を考えるなら、検討は前向きに進めるべきだと思う。
だから、少しは参加を考えてはくれないかな?
闘武祭を運営している身としても強者が増えてもらった方が盛り上がるからね。
それに、この学院には君以外の神器使いも何人か在席しているんだ。
特に、学位序列3位のルークス君は別格だよ」
「なるほど………。
まあ、前向きに多少は考えておきます」
「そうかい、いい返答を待っているよ」
俺は渡された書類を書き終え、先生に手渡す。
彼が軽く内容を確認すると席を立った。
「それじゃあ後は私が上に報告しておくよ。
君は授業に戻りたまえ」
「はい、失礼します」
俺は礼をすると職員室を後にした。
「ラーニルの名か……。
今年から色々と面白くなりそうだな……」
そんな声が部屋の中から聞こえた。