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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 喪失、再起
218/324

あなたの側に

帝歴403年12月23日


 「私は、ルーシャ・ラグド・サリアは……

 ずっと前から……。

 あなたに騎士であって欲しいと願った時も、私は心の底からあなたを、シラフを愛しています」


 この日、私は己の想いを彼に伝えた。

 目の前の彼に、相応しい存在になろうと決めて私はこの学院で多くの事に取り組んで己を磨いてきた。


 サリア王国の王女として、彼に仕える主として相応しい存在である為に。


 彼に振り向いて貰えるように……。

 彼がこの学院に来た時に、私を見てくれるように……。


 「………」


 目の前の彼は何も答えない。

 お互いに足を止め、暗い夜道で静寂がこの場を支配する。

 彼の表情は僅かに視線を下に向けていた。

 私の顔を見ているようで、見ていない。

 まるで、目の前の光景を現実とは思いたくないようなそんな感じに思えた。


 この告白は無意味だったのだろうか?

 

 想いを諦め、僅かに涙ぐみそうになった瞬間。

 彼は口を開いた。


 「気持ちは嬉しいよ、ルーシャ。

 ただ、分かってるだろう?

 俺は、貴方に仕える存在で……

 そして今、君の友人であるクレシアからも想いを告げられて返答を返せずにいるんだ、だから……」


 「……私はそれでも構わない。

 そんな事にもう構っていられないの!!」


 彼の言葉に、私は思わず声を荒げた。

 いつもの私らしくない。

 でも事実、私にはもう躊躇う余地などないのだ……。


 「私は、あなたに振り向いて欲しくて今まで頑張ってこれたの!!

 あなたの為に理想の王女を演じて、振る舞ってきて、あなたに褒めて欲しくて、隣にいて欲しかったから頑張って来れたの!!

 クレシアに先を越されて、私はずっと後悔してた。

 舞踏会のあの日、私は貴方に想いを伝えるはずだった……。

 でも私は、出来なかった……。

 それどころか、足手まといであなたを余計に傷つけて心配を掛けてばかりだった……。

 あなたがこの学院に来てから、どんどん遠く居るように感じてた。

 近くに居るはずなのに、遠くて、私から離れていく気がしているの……」


 今も目の前の彼は何処か遠くに居る存在だと、そう思ってる自分があった。


 彼は目の前に居る。


 なのに、最近のあなたはいつも遠くに居る。

 私なんかじゃ届かないくらい、遠くに……


 だから、もう後悔はしたくない。


 私が私である為に、彼に振り向いて欲しくて積み重ねた全てを投げ打ってでも……。


 私は……


 「聖誕祭(ノエル)当日、私は聖堂前に。

 クレシアは例の喫茶店の方であなたを待ってる。

 あなたの選んだ答えを、私は受け入れるから」


 「待ってくれ、そんな事を急に言われても……。

 俺は……っ!」


 「私は、もう待つのは嫌なの!!」


 気づけば、私は泣いていた。

 涙を流す私の様子に、目の前の彼は言葉を失う。

 彼に対しての怒りもあった。

 それと同時に私自身の存在に対しての不満が出さずにはいられなかったのだから。


 「シラフはいつも優しくて、私にも、みんなにも優し過ぎて、だから答えを出せないんでしょう。

 いつも私の事を、クレシアの事も考えてくれてる。

 でもそればっかりで、私もクレシアも一度として個人として見てくれてなかったじゃない!!

 あなたの中では、私はいつもサリア王国の王女。

 クレシアだってそう、私の友人ってだけでそして過去に出会っていた幼馴染で……。

 シラフにとって私達はそういうありきたりな存在でしかなくて、私達はあなたにとっての特別じゃない事が嫌なの……」


 「、っそれでも……」


 彼の言葉を聞く前に、私は咄嗟に彼の左腕を掴む。

 多少の気恥ずかしさも気にならなかった。

 そして彼のその手を私自身の右の頬に触れさせ言葉を続ける。


 「ねぇ、シラフ?

 私は、あなたの側に居られるのなら王女でなくなってもいいよ……。

 私が、あなたを騎士に命じてしまって余計な重責を背負わせ苦しめてしまっているのなら、そんな役割なんてもう要らない。

 私が王女でなくなってもいい。

 それであなたの側に居られるのなら構わないの。

 あなたの側に居られるのなら……

 その為なら私、なんだってする!!」

  

 触れる彼のその手に、僅かな熱が伝わってくる。

 僅かに冷たい手。

 私の顔の熱が徐々に移り、少しずつ温かみを帯びていくのを感じた。

 

 いつも隣で私を守ってくれた人の手がそこにあった。


 「でもね、今のままじゃ駄目だと思うの。

 あなたはサリア王国の王女であるルーシャ・ラグド・サリアでのみでしか私を見てくれないでしょう?

 だからね、私のこの気持ちが本気だって事をこれから証明するから……」

 

 「本気って、一体何を……?」


 「……すぐに、終わるから」


 そう告げた私は彼の掴んだその手を強く引く。

 咄嗟の私の行為に対して、日々の鍛錬で鍛えてるはずの彼の身体がいとも容易く私の方へと迫り来る。

 

 こんなやり方は、とても卑怯だと思う。


 彼が私を選んでくれるかも分からないのに。


 でも、私自身が彼から一人の女性として意識してもらう為に、私にはこの手段しか思いつかなかった。


 私の覚悟、そしてこれまでの関係を変えたいと願うとして私が取るべき最善手。


 そして私は、よろめく彼の後ろに己の両の手を回す。

 既に私よりも大きく成長した彼の背丈に合わせて僅かな背伸びをすると驚きの表情をした彼の顔を捉えた。


 その間もなく、お互いの唇が十秒にも満たぬ間重なった。


 すると彼は、自身が私に何をされたのかにようやく理解すると私の身体をすぐさま引き離す。

 そして、行為を受けた自らの唇に右手で触れると、私の方を彼は見て彼は口を開いた。

 

 「こんな形ですることじゃないだろ……」


 彼に遅れて、私も自分の唇に手を触れる。

 恥ずかしさで感極まる中、私は彼に言葉を返した。

 

 「効いたでしょう?

 あなたにしたのが私の初めてだから」


 「っ……」


 「それじゃあ行こっか、シラフ。

 もう部屋でアクリがあなたの為に色々と準備をして待ってくれてるからね。

 長く待たせちゃうと、お互いあの子に色々と言われるだろうからさ」


 そうやって私は瞬時に話題を切り替えると、戸惑う彼に対していつものように接して再び彼のその手を取る。

 彼は僅かに俯いたままで、一向にこちらへと視線を合わせてはくれない。

 私の手に触れられた事で、彼の少し無骨な手が震えていた。


 「ルーシャ、どうして急にこんな真似を……」


 「私がそれくらい本気なの。

 だから私、その為なら何だってするよ」


 戸惑いの表情を浮かべる彼。

 でも、私は決めたんだ……。

 

 「聖誕祭の日、あなたには私を選んで欲しい。

 私ね、ずっと悩んで、そして何度も踏み出す一歩をためらってた。

 そして、私はこうするしか自分の気持ちを伝えられないって気付いたの。

 でもね、今日の私からはここまで……」


 私の想いの丈は全て伝えた。

 だから……

 

 「だからね……私はその日、向こうで待ってる。

 私はあなたの選んだ答えを受け入れるから」



 帝歴403年12月25日


 聖誕祭、それはこの学院で年内に行われる最後にして最大の祭事である。

 その起源は帝国が生まれるよりも遥か昔、旧サリア王国が存在するよりも遥かに以前から存在しており。

 単純に言うなれば聖教が信仰する神の誕生を祝うモノである。

 一年において最も太陽が登り落ちる時間が早い時期に行われる。

 今年の神の恵みに感謝し、来年の神の祝福を約束する為、聖教会に属する聖歌隊が讃歌の合唱を行うのである。

 

 世界中で行われるこの祭事は、聖教会に属さぬ者も含めて家族や恋人との日々を過ごしたり、各々が特別な休日を謳歌する日でもある。


 そういう日であるはずなのだが、俺は来たるべき瞬間に対して未だに心が晴れずにいた。


 学院の授業も今日に限っては全て休み。

 この聖誕祭の為に、その運営や休日を謳歌する為に教師と生徒を含めて皆がそれぞれの予定で埋まっているが為である。

 授業を受けている間なら、この晴れずにいる気持ちを誤魔化せたのかもしれなかったのだが。

 

 「珍しい。

 今日はヤマトのお姫様も、例の後輩も連れていないんだ?」


 声を掛けられ振り向くと、そこには珍しく長髪のまま私服を着ていてるテナがそこにいた。

 普段は短いままのはずなのだが、今日に限っては長くしている様子で何処か新鮮だった。

 普段は男ぽいんだが、少し着飾る程度でコイツは女性なんだと再認識させてくる。


 「何だ、テナか」


 「いつになく、僕に対しては酷い言いようだね。

 別に構わないけど、シラフこそ誰も居ない食堂で何をしているの?

 暇してるのは確かだよね?」


 「まぁ、確かに暇だよ。

 今日に限って休みをもらえたんだよ。

 いや、正確に言えば無理矢理与えられたというのが正しいが」

  

 「ああ、そういや今日なんだよね。

 二人に君の答えを示すっていう日は」


 「そういう事だ、だからちょっと気分がな……」


 「へえ、モテる男は違いますねぇ」


 「他人事じゃないだろう?

 お前だって、本当はルーシャの気持ちにはとっくに気付いていたはずだ。

 それも、俺なんかよりもっと以前にな」


 俺がそう彼女に対して訊ねると、僅かなため息を吐き俺の右隣に座ると突然耳を引っ張ってくる。


 「君が鈍感過ぎるんだよ、全く……」


 「痛い痛い!、もう少し加減しろよ!

 しかもソレ、この前に似たことをシグレにやられてるんだからな!」


 「ふーんだ。

 そりゃシグレ王女もご立腹になると思うよ。

 君のだらしなさに落胆されないだけマシだと思うね」


 「それで、実際どう思ってるんんだよ?

 そこのところ」


 「勿論、僕は君なんかよりも以前から知ってたよ。

 その内、君から気付くかなぁとか?

 内心少しだけ期待はしてたんだけどね……。

 蓋を開ければまさか、こんな事態になるとはね」


 本題を訊ねると、やはりテナはルーシャの件については既に認知していたらしい。

 同性同士だから、俺なんかよりも彼女の繊細なところに気が付いていたのだろう。


 「でも俺からすれば全てがあまりに想定外だ。

 女性から好意を向けられるなんて、サリアに居た頃なんて一度たりともも無かったんだ。

 女心なんて、俺には一向に縁遠く分からないモノだよ」


 「……、そう?

 気になる子とか本当に昔から居なかった?

 ああでもそりゃそうだよね、君にはとても綺麗で魅力的なお姉さんが居たんだからさ。

 他の子に目移りする暇なんてしなかったんでしょうけど」


 皮肉混じりに、そんな事を言うテナ。

 

 「あんまりからかうなよ。

 姉さんはそりゃあ、美人でかなり魅力的だけどそれこそ家族間でも親愛でのみだよ。

 恋愛感情なんて一切無い。

 剣の師としても、家族としてもただその誰よりも尊敬し感謝はしているくらいだが……他意はないよ」


 俺が姉さんについてをそう述べると、テナがなんとも言えない信用を全く持てないような視線を俺に向ける。


 「へぇー、流石シスコン。

 それくらい言うなら、充分じゃない?

 小さい頃に、「おおきくなったらシファおねえさんとけっこんするだ」とか言って無かったけ?」


 「言ってない!!

 勝手に記憶を捏造するな!

 それに一言余計だろ。

 てか今は、姉さんよりもクレシアとルーシャの二人の問題が重要だろ」


 「ほー、それじゃあ君の意向に合わせて話題を戻すけどさ?

 今日までに二人から何かしらのアプローチみたいな事はされたりとかはあったの?

 例えば、デートの一つや後はハグとか?

 もしや、キスとかも既にしてたり、んな訳無いよね君にそんな度胸がある訳無いしさ」


 テナが冗談混じりに口を抑えて笑いをこらえつつ訊ねてくる。

 しかし俺は一昨日のルーシャの一件が脳裏を過ぎりテナからの視線に思わず反らして回答を渋らせた。


 「ああー、いや……」


 「え、マジでキスしちゃったの!?

 どっちとしたんだよ、シラフ!?

 僕の予想だと意外と大胆な事をしそうなクレシアさんの方だと思うけど」


 「いや、それは違…っ!」


 思わず口を滑らせ口を両手で閉じる。

 いや、時既に遅く何かを察したテナは驚きの表情を浮かべて俺に詰め寄り更に詳しく聞き出そうとしてくる。


 「え、それじゃつまり君、まさかルーシャと?!

 自分の主と口付けするって……えっ…」


 そして勝手に寄ってきた挙げ句に、テナは俺から身を引き距離を取る。

 妙にコイツ、失礼な態度をしてくる。

 

 「君、見かけによらずかなり大胆な事をしたんだなぁ。

 いつ何処でキスしたんだい、気になるなぁ」


 テナは言葉続け俺にその詳細について詳しく訊ねようとしてくる。

 細かいやり取り云々は俺自身あまり答えたくなかったので軽くその時の事について触れて話す。

 そして話題も変えていく事にした。


 「そんなに面白い事じゃないだろう。

 それに俺からじゃなくて、向こうからほんといきなりだったんだよ。

 それで、その……とにかく、俺はまぁ色々あって悩んでるんだ」


 「ふーん。

 で、君はどちらを選ぶつもりなの?

 僕には誰なのか教えてくれないのかい?」


 「いや、それはその……」


 「えー、それじゃあまさか?

 今日になっても未だにどちらか選べなくて未だにウジウジと悩んでるって言うのかい、君?!」


 「そうじゃないんだよ!!

 俺の中では既に答えはもう出してる!!

 悩んでるのはそれとは別の事なんだよ!!」


 テナの誤解に対して俺は必死に弁明する。

 彼女の方はソレを疑うように、僅かに目を細めて俺を睨んでくる。

 それから俺は少し間を開けて、その内容について触れた。


 「俺の過去だよ、それが原因で踏み出せないんだ」


 「過去ってつまり例の十年前?」


 「いや、それとは別の記憶だよ。

 ほら前に舞踏会の時に少しだけ言ってなかったっけ?

 俺がその、クレシアの方からの好意にすぐさま答えられない理由の一つとして、自身に以前から意中の相手がいたかもしれない的な事を……」


 「っ、ああ、アレね!

 確かにそんな事を言ってた気がするよ。

 つまり、昔の女に対して今も未練タラタラって事?

 それじゃあ、つまり君は白昼堂々二股を?!」


 「いや、違う!

 それとは絶対違うんだよ!多分な……。

 俺が言いたいのは、その相手が誰なのか未だに分からないんだ。

 これまでの神器の過度な使用や鍛錬の影響で記憶に関しては未だに齟齬があってさ。

 姉さんが前に封じた記憶云々以外の記憶もかなりあやふやなんだ。

 いや、だいたいの事は覚えてるし自分と深く関わってるテナや他の人達に関してはちゃんと覚えてるんだ!

 そこは誤解しないで欲しい!」


 「ふーん、てかソレさ結局同じじゃない?

 で、僕に何が言いたいんだよ?」


 「その記憶の齟齬が未だに影響してて、過去に居たかもしれない俺の意中の相手があの二人を含めての誰かしらの可能性があるんだよ。

 それが未だにはっきりしない中で、今の曖昧な気持ちのまま答えを出すのは流石に二人に対して失礼なんじゃないかなって思ってるんだよ。

 俺の中ではな、うん」


 「シラフさぁ、それってやっぱり二股じゃん」


 「いや違うって」


 「いやだから、僕から見ればそれは明らかな二股だって。

 これから二人のどちらかと向き合うって時に、今もそれでウジウジしてるくらい悩ましいくらいなら二股も同然だよ。

 で、シラフはさ……結局どうしたいの?」


 「そりゃ、二人に対しての答えが最優先だろ」


 「分かってるなら、そうしなって……。

 君に覚悟を決めて想いを告げた二人に対して、明らかにソレは失礼だろう?」


 「……、それは俺も分かってるよ」


 「なら、すぐさま実行するのみ。

 こんなの二人に見られたら、本当何を言われるのか……。

 聞いたのが僕で良かったね?

 今回の事は今度昼飯を奢る事で内密にしてあげる」


 「そういうところちゃっかりしてるよな、お前……。

 まぁ、いいよ。

 色々とこっちも多少参考にはなった。

 また何かあったらお前を頼らせてもらうよ」


 「そしたらまた僕の食費が浮くね」


 「そりゃ食い意地の張り過ぎだ」


 「ふーん、だったら武具辺りを……。

 ほら、この前の出た帝国の復刻版あるじゃん。

 31式12型の獅子盾、アレが欲しくてね……」


 「やめろやめろ、俺の財産が軽く吹っ飛ぶから」


 「えー、ケチ!」


 「ケチじゃない。

 俺の給与の何ヶ月分だと思ってるんだ」


 「ふーんだ。

 まぁ、とにかく今度必ず僕に昼飯を奢ってよね。

 もし君が約束破ったら、付き合った方の目の前で白昼堂々と言ってやるんだから!」


 「怖い事を言うよ、お前」


 流石にこれ以上ここに居るとテナに更に昼食を奢るハメになりそうなので俺は席を立った。


 「アレ、もう行くの?」


 「少しだけ祭り当日の街を現物するつもりだ。

 テナも来るか?」


 「うーんと、僕はいいや。

 さっき街は幾らか見たから、夜のイルミネーションまで適当にここで時間を潰してるよ」


 「そうか。 

 じゃあ、俺は行くよ」


 「じゃあね、シラフ。

 奢ってくれるの楽しみにしてるよ」


 そんな彼女の声を聞いて、俺は決断のその時を迎えるまで街で時間を潰す事にした。



 「あーあ、全く君にはいつも困らせられる」


 徐々に灯りが増えていく外の景色を一人で眺めながら、私はそんな事を呟いた。


 「曖昧な記憶か、やっぱり流石特異点……。

 僕の能力に対して若干の耐性を得つつある。

 でも、そうだとしても悲しいなぁ……。

 分かってたんだけど……」


 目を閉じて過去の思い出が過ぎる。

 彼と共に過ごした日々、彼から奪った私との日々。

 10年前も、3年程前の記憶も……。


 「ルーシャも大胆な事をするなぁ。

 あの時と違って、まさか自分の方から動くとは……。

 ソレに比べてクレシア、あの時と変わらず内向的で……」


 そんな事を一人ぶつぶつとつぶやく。

 幾ばくかの時間、そんな事を繰り返して。


 何度か私はため息を吐いた。


 あー、本当に気に食わない。


 本当に、本当に気に食わないなぁ。


 そんな言葉が幾度となく脳裏に過ぎる。


 「でも、これでいいんだよね。

 これで全ては上手くいく、全ては計画通りなんだ」


 そう、こうなるように全て仕組んだ。


 君と僕と、彼女達との出会いは仕組まれていた

 

 今日、君は必ず■■■を選ぶんだよ。

 あの方に、そう定められている。

 それが、君の物語だ。


 「でもさ、嘘でもいいから僕を選んでほしかったなぁ」


 さっき彼の耳を引っ張る時に、ルーシャのように突然口付けをしても良かったのかもしれない。

 いや、流石にソレは干渉が過ぎるか。


 やはり辛い、本来は振り向いてくれるはずなのに。


 彼は二度と私をその対象としては見てはくれないのだと。


 そう、絶対に彼は私を見てはくれないのだ。


 「ねぇ、シラフ。

 僕は君の味方でいる。

 そして、僕は君の守りたいモノの敵になりそうだ。

 でもね、あの日の約束だけは守るよ。

 その結果、君を苦しめるかもしれないけどさ」


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