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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二章 炎の覚醒編 序節
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第二十一話 出会うべくして出会う者

帝歴403年 7月19日


 今日から彼との学院生活が始まる。

 昨日、彼は私に会いに来てくれた。

 まあ、実際理由を聞けばかなり複雑だったが……。

 それでも、再び彼に会えた事を私は嬉しく思う。


 あの頃と違って、今の彼は以前よりも大人びていた。

 しかし、昔みたいに変わらず接してくれた事が何より嬉しかった。


 今日から、新しい生活が始まる

 私と彼との新しい生活が……。


 「おはよう、ルーシャ」


 「……おはよう……シラフ……。朝早いね……。」


 寝巻きを着た状態の私に対し、彼は既に学院の制服に着替えていた。

 軽く挨拶を交わしていたこの時の時刻は現在朝の6時を過ぎたくらい。


 1時間後にはここを出て学院に登校しなければ遅刻になりはしないがぎりぎりなのにはそう変わらない。


 「早く着替えて来いよ、ルーシャ。

 こっちで朝飯は用意しておくからさ」


 「うーん……、分かった」 


 そう言われ、私は顔を洗うと一度自室に戻った。

 クローゼットにしまってあるいつもの制服に着替える。

 制服は紺と黒を基調としたブレザー型の物、男女での違いはスカートかズボンくらいであろうか。 


 着替えを軽くすまし、軽く寝癖掛かった髪を直す。


 目の前の鏡には見知った金髪の女性がそこにいる。

 僅かとは言い難い酷い寝癖を手早く直すを

 彼にあの姿を見られたと思い顔が少し熱くなるがすぐに落ち着かせる。


 明日からは絶対気を付けよう……そう心に誓った。


 着替えを済ませ、部屋を出るとリビングには既に朝食が用意されていた。

 短時間で作られたとは思えない出来に少し驚く。


 「これ、シラフが作ったの?」


 「そうだけど?何かおかしい所があったか?

 口に合わなそうなら今すぐ作り直すよ。」


 「いや別に無いよ?!すごく良いよ、うん……!」


 「それなら良かった。ほら、早く座って。」


 おかしい所など無かった。

 いつもならパン一つか即席麺等で済ませて出て行くところである。

 そんな事を知られたら、お父様やお母様に怒られそうだが……。

 

 「ルーシャ、コーヒーと紅茶どっちにする?」


 「それじゃあ、紅茶で……」


 「了解」


 彼の対応は完璧だ……うん。

 はぁ……自分が情けない……。


 「ほら、淹れたから早く座れよ。

 時間あまり無いしさ」


 気付けば既に20分を過ぎていた。

 彼に言われた通り席に着くと頼んだ紅茶が出される。


 「冷めないうちにどうぞ、ルーシャ」


 「うん、……ありがとう」


 自分と向かい合わせに座っている茶髪の青年。

 彼の名はシラフ・ラーニル、私の幼なじみで専属の騎士でもある。

 そして想い伝えきれずにいる私の大切な人だ……。



 朝食を済ませると、私達は学院へと向かった。

 私は彼に学院までの通学路を案内していた。


 彼は私の右横を歩きながら、私の言葉に耳を傾けていた。

 学院へ向かう通学路では馬車や車両が通る為、右側に歩道、左側が車道で仕切られている。


 その為なのか彼は私の身を守る為に私のすぐ横、車道側の道を歩いていた。


 既に通学をしている他の生徒達も見られ、いつも通りの日々が始まりを告げている。


 「ルーシャ?

 そういや、端末にある電話帳の機能なんだが一体どう使うんだ?」


 「あー、少し貸してみて」


 彼にそう言い、私は彼から端末を受け取り私は自分の連絡先を彼の端末に入れた。


 「えっとほら?

 ここのとこ押せば私の端末につながるの。

 最大で百人くらいは登録出来るから、後でシファ様の連絡先も入れた方がいいかもね」


 「なるほど、便利な道具だな……。

 なんでこんな物がサリアや他の各国には無いんだ?」


 「それはまぁ………。

 上の人達曰く、情報が早く伝わるのはいいけど悪用された場合の影響が図りしれないからだそうよ。

 だから端末は学院でのみ使用可能。

 それでも、情報管理の体制はしっかりしてるとはいえそれなりの節度は持ってよね。

 この学院外に例え持ち出しても、一切使用が不可能な特殊な仕様らしいし」


 「なるほどな……」


 会話を続けていくと、学院の建物が見えてきた。

 話題を変え、私は彼を誘ってみる事にした。

 

 「ねえシラフ、今日の午後空いてる?」


 「午後は確か何も無かったはずだ。

 まぁ、出来れば姉さん達の試合を見たいって思ってるんだが」 


 「そう。

 私も生徒会の仕事もないし、予定はないんだ。

 良かったら私と行かない?

 私の護衛をする以上、今後関わるだろう学院での私の友人もシラフに紹介したいしさ」


 「了解。

 それじゃあ、その時はよろしく頼むよ」


 他愛ない会話を交わしながら通学路を二人並んで歩いていく。

 私は心からそれを楽しいと感じていた。

 学院にいる時だけはこうして王女の身分を忘れて一人の少女でいられる。

 私はこの学院生活がとても幸せだと感じていた。

 そして今は隣に彼がいる。


 それだけで、私は幸せで胸がいっぱいだった。



 俺はルーシャに通学路を案内されようやく学院に到着した。

 外観で既に巨大な城の域に達している建物。

 見掛け通り以上にその内部もそれ相当豪華な内装だった。


 「職員室は、そこを曲がって左。

 あとは、端末に学院の地図もあるだろうからそれを見れば行けるはずだよ」


 「了解、案内ありがとうな。

 それじゃあ試合のある午後にまた集合で」


 「あ……待って!

 昼食も良かったら学食で一緒に食べようよ。

 それじゃあ、後で連絡するから。

 またね、シラフ」


 ルーシャが手を振り俺もそれに応え手を振り返し彼女と一度別れる。

 それから彼女が示した方向にある職員室の方へと足を運んだ。


 確か端末を見る限り、あの先生のところだよな……。


 端末に表示されている顔写真、そして名前を確認する。

 確かに間違い無い、見た目は四十代辺りの男性。

 髭は短く見掛けから恐らく武術の心得がありそうにも見えた。

 そして、何処かで聞いた事のある名前の人物でもあった。


 「あの、あなたがアルス先生でしょうか?」


 俺がそう呼びかけると、


 「ああ、そうだよ。

 君が例のサリアからの編入生だね。」


 「はい。

 サリア王国から参りました、シラフ・ラーニルです」


 「そうか。

 私が君の組の担当の、アルス・ローラン。

 一応役職としては闘舞祭管理員をしている」


 「よろしくお願いします、アルス先生」


 「そろそろ、朝礼の時間みたいだな。

 教室に向かいながら少し話そうか」


 先生に学院の案内をされながら教室へと進んで行く。 

 「広いだろ、この建物は……」


 「ええ、気を抜けばすぐに迷子になりそうですね」


 「毎週誰かかしらは道に迷う奴が出るよ。

 俺も最初は迷ったものさ」


 「そうなんですか?」


 「これでも昔は結構な身分だったんだよ。

 でも色々あってここで教師をしていてね。

 私の娘もこの学院で生徒をしているが、これがまあ重度の引き込もりでね、困ったものだ……。

 周りからは天才だとか言われているが、それとこれとは別の話だ。

 娘の生活態度には私も妻も困り果てているよ」


 「大変ですね、色々と」 


 「まあ、そうかもな。

 あと、お前の腕にあるソレ。

 例の神器なんだろう?」

 

 「っ………?!」

 

 俺が教師の言葉から神器という単語が出た事に驚く。

 僅かに薄ら笑いを浮かべた彼は言葉を続けた。

  

 「神器とは、まあ昔から色々関わっていてね。

 別に所持や携帯していくのは構わんが、面倒な事にこちらでは色々と手続きが必要なんだよなぁ。

 済まないが朝礼が終わったらまた職員室に来いよ。

 色々と書き物があるんでね」


 「分かりました」


 担任が神器の事を認知したことに思わず驚いた。

 やはりこの人は、ラウが言ってた例の人物なのだろうか?


 教室に向かうまでの間、必死に思考を巡らせ続けたが今の俺に本人なのかどうかを聞く勇気が無かった。

 普通に考えて帝国の八英傑と言われた程の人物が、自分の担任な訳がないのだから。

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