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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第四章 輪廻の騎士編 序節
209/324

同じ顔をした女

帝歴403年12月16日


 シファさん達の元を離れ、宛も無く病院内を彷徨っていた。

 気づけば、私はシファさんの弟の眠っている病室に足を運び眠っている茶髪の彼の横に座ってその寝顔を眺めていた。

 

 眠っている、と言うよりかは気絶している。

 先輩と戦ったあの日の出来事で、目の前のこの男の記憶は途切れているのである。


 先輩から何度聞いていたこの男の存在。

 誰に対しても特に興味を見せる事がないあの人が、唯一興味を示し私に対して楽しそうに話していた人。


 その当時こそ年端もいかない子供であろうが、先輩が惹かれる程であるからよっぽど格好いい人なのかと思えば実際そうでもない。

 ただ、この人からは何処か先輩と同じ何かを感じた。

 魔力の波長、そういう特有の何かが先輩ととても似ており、いつの間にか私はこの男から先輩の面影を追っていた。


 昨日もシファさんに連れられ、こうして顔を会わせたが特に何か進展があるわけではない。

 ラウと同じく、彼もそろそろ目を覚ますのだろうか?

 

 「あなたは、私を見捨てませんよね……」


 さっきラウから言われた言葉に、私はショックを隠せないでいた。

 先輩からも、いつの間にか見捨てられた。

 だからこそ、私はこの男に期待しているのかもしれない。

 私の事を、必要としてくれる事を。

 先輩のように、私を導いてくれる事を……。

 

 「私、何で生かされたんですかね?

 先輩も、ノーディアも、マスターもみんなもう死んでいるのに……」


 ただ目の前で眠り続ける、この男に向けて私は一方的に話掛け続けている。


 こんな戯れには何の意味などない、

 そんなことは分かり切っているのに……。


 

 「あの人、一体誰なの?

 誰かの知り合い?」


 ルーシャが私を含めてこの場にいる彼女達に尋ねるも皆が私を含めて首を振った。

 彼のお見舞いの為に、私はルーシャの誘いを受けて行く事になったのだが彼の居る病室の前に着いた時、既に誰かが入っている事に気付き扉の向こうからのぞき込むように謎の人物を見守っていた。


 彼のお見舞いの為に、私とルーシャ、その妹のシルビア様、そして更にはヤマトのお姫さまであるシグレさん、そしてお手洗いに行くと現在ここを離れていれテナの5人が来ているのだが……。


 「あんな人、私も初めて伺いましたが?

 後ろ姿しか見えなくて、顔がよく分かりませんね……」


 「確かに、後ろ姿では誰かは分かりませんね。

 服装は、私達と同じ学院の制服。

 つまりここの生徒であるのは確実です」


 シグレさんとシルビア様はそう言い、視線は再び彼の近くに居る謎の人物へと向かう。

 薄焦げ茶のポニーテール、座っているので背丈は分からないが多分私達とそう変わらない。

 制服からして、ほぼ確実に女性であろうか。


 「みんな揃ってそこで何してるの?

 さっさと入ったらどう?」 


 「「っ!!!」」

  

 突然横から聞こえたテナの声に私を含めた全員が一斉に体勢を崩し部屋になだれ込む。

 その拍子に扉が勢いよく開いたので、大きな音が辺りに響き渡っ他。

 彼の横に座っていた謎の人物がこちらの存在に気付き、僅かに驚いている様子だった。


 「っ痛ぁぁ……!

 もう、テナったらいきなり声を掛けないでよ……」


 「本当、もう少し状況を読んで欲しいですね……」 


 「皆さん、早く退いて……

 姉様達で身動きが……」


 「ああ、その…色々とごめんねぇ……

 アレ、君は……」


 テナが例の彼女を見て、僅かに驚いていた。

 反応の見る限り、知り合いなのだろう。

 

 私達も、そんな彼女に釣られ謎の人物に対して視線が向かう。

 その人物の顔を見て皆が、いや特に私は驚愕せざるを得なかった……。


 「私と、同じ顔……?」 


 謎の人物と私達との視線が合う。

 ポニーテールの髪型が特徴的だが、その薄焦げ茶色の髪色、そして顔までもが私とほとんど瓜二つと言える程似ているのである。

 

 「っ……。

 あなた達、一体何なの?」


 謎の人物も私達に驚いている様子。

 しかし、私の方を見てその表情が変わった。


 「何なの一体……。

 私と同じ顔をした奴が居るなんて、そんな話聞いてないんだけど?」


 怒りのような感情を帯び、私の見て彼女は睨みつけてきた。

 先程の静かな雰囲気とは一変して、向こうはかなり荒れている様子。

 私達が遠目から覗き見していのが彼女の気分を害したのだろうか?


 私を含め皆が呆然としていると、テナが口を開く。


 「ちょっとは落ち着いて、アクリ。

 彼女達は、君の敵じゃない。

 君と同じ、そこで寝ている彼のお見舞いに来ているだけなんだ」


 アクリと呼ばれた、例の彼女。

 テナの言葉に対して、僅かに反応し視線が彼女の方に向かった。


 「あなた、どうして私を知っているの?

 そこの女共は一体何?」


 かなり高圧的な態度で物申す彼女。

 そんな人物に対して、テナは冷静に言葉で対話を試みていた。


 「アクリ、君はもう少し口は慎んだ方がいい。

 彼女達のほとんどはそれぞれ名だたる王族だ。

 君がこれから従事するであろう彼女達に対して、仮にも敵意向けるというのなら、僕も容赦はしないよ?」


 そう言って、テナは腰に控えていた剣に指をかける。

 一触即発しかねない状況に、私達は未動きが取れないがシグレの方を見ると何処か楽しそうに笑っている。

 こんな状況を楽しんでいる様子を見る限り、正気の沙汰では無いと思うが……


 「っ、そういう事ですか。

 まぁ、いいです。

 あなた方は、お見舞いに来たんですよね。

 私はもう行くので、後はどうぞご自由に……」

 

 そう言って、倒れ込む私達には目もくれず去り際テナに対して一瞥を介すと扉を閉めて何処かへと消えていった。


 「ふぅ……。

 君達はいつまでそうやって密集しているつもり?」


 一息つき、剣に掛けた手を離すとルーシャに向けて手を伸ばし立ち上がられる。

 私やシルビア様、シグレは自力で立ち上がるとそれぞれ気になっていた事を彼女に尋ねた。


 「テナ、さっきの子知り合いなの?」

 

 「ああ、まぁね。

 後でシファ様から紹介があると思うよ……」


 テナは苦笑しながらそう言うと、皆が気になっているであろう事をシグレが尋ねた。


 「彼女、非常によくあなたに似ていますよね。

 髪型は違いますが、声質や顔が全くもってほとんど同じです。

 一瞬、双子か姉妹なのかと思いましたがどうやら他人同士でしかも初対面。

 普通では無い事は容易く見て取れますが……」


 「確かに、クレシアさんにとてもよく似ています。

 姉様もそう思いましたよね?」


 「うん、それは私も思ったよ。

 でもなんというか、ちょっと怖いというか色々と思い詰めていたというか……。

 ここに居るクレシアとはかなり違う印象だよね」


 「あの人を見た瞬間、私は怖かったな。

 自分と同じ顔が目の前に存在しているなんて、鏡でもないのに……。

 なんか、その、少し気味が悪かったかな……」


 同じ顔が目の前に存在しているなんて事は普通にまずあり得ない。

 私は一人っ子だし、姉や妹も居ない。

 両親にも兄弟は居ないから従姉妹という可能性もない。

 世の中には同じ顔の人間が3人は居るとか、都市伝説みたいな事で言われたりしているが幾ら何でも普通はあり得ない。


 髪の色は染められるにしろ、声や顔まで同じなんて……。


 「ああ、それは私も思ったなぁ。

 何で似てるかは分からないけど、やっぱりそっくりさんの一人は何処かしらに居るんだろうね」


 テナの返答に対して、彼女もよく知らないという事がわかった。

 単に、私に似ている人が彼のお見舞いに来ていた。

 つまり、ハイドと彼は何処かで知り合っているのだろうか?

 でも、知り合いで既に居たのなら何かしら似ている人が居た等の一言が私にあったと普通は思った。


 ルーシャやシルビア様も知らない人なのは確かである。

 私が学院で彼に会った時も、そんな素振りはまるで無かった。

  

 単なる偶然だと思っていいのか?

 でも、何かがおかしいのは直感的に理解した。

 とても嫌な感覚、アクリと呼ばれた彼女が私に対して向けた視線は純粋な敵意と嫌悪のそれであった。

  

 「あれ、みんな来ていたんだ?」


 私達がアクリという謎の少女に疑問を抱いているとき、横から聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の方を振り向いて銀髪の長い髪、あまりにも美しく整ったその容姿が目に入るとすぐにその人物の正体がわかった。


 「シファさん、あなたもここに来ていたんですね?

 丁度良かった、アクリの説明を頼みたいところで」 


 テナはそう言うと、僅かにシファは唖然とし、苦笑を浮かべた。


 「ああ、なるほどね……。

 なんかすごい機嫌悪そうだなぁとは思ってたけど、もうみんなは彼女に会ってたんだ。

 一応連れ戻しては来てるよ、その彼女には仕事を少し与えてるからさ。

 みんなには紹介しないといけないとは思ったし……」 


 髪を手でいじりながら、そう言う彼女。

 何か後ろめたそうな様子が見て取れるが。


 「ほら、そんなに遠慮しないでアクリも入っていいよ。

 その、とりあえずは挨拶くらいはしないとさ。

 これから彼女達とは色々と学校生活を送る上では関わる事も多いんだから」


 シファさんがそう言うと、渋々と嫌そうな顔で先程の彼女が現れた。

 やはり、髪型が違うだけでその髪色や顔は瓜二つ。

 背丈も、多分同じくらいだろうか?


 「ほら、みんなにちゃんと自己紹介して」

  

 シファさんに催促されると、渋々とアクリと呼ばれた彼女は軽くお辞儀をすると自己紹介を始めた。


 「私の名前はアクリ・ノワール。

 サリア王国から、シン・レクサスの後任役としてサリア王国王女であるルーシャ・ラグド・サリアの身の回りよお世話及び護衛役を担当する為、新たに私が派遣されました。

 オキデンスの第2学年、皆さんの後輩として共にこの学院で学ぶ身ですので、今後ともよろしくお願いします」


 淡々と自己紹介をこなす彼女。

 シンさんの代わりとして、彼女が新たにサリア王国から派遣された。

 彼女が言う限りでは、至って普通の成り行きである。

 しかし、彼女の言葉に私を含め、ルーシャも何処か違和感を感じていたようだ。


 「私のお世話と、護衛役……。

 なるほどね、まぁえっと細かい敬称は無しに名前でルーシャって呼んでいいから。

 これからよろしくね、アクリさん」


 ルーシャが彼女に向けて手を伸ばす。

 しかし向こうの彼女、アクリはというと伸ばした手の直前にまで手を伸ばすがすぐにその手を引いた。

 照れている、と言うよりかは何かに怯えているような、そんな素振りに感じた。


 「まだこの子、ここに来たばかりであまり慣れてないから戸惑ってるんだよ。

 彼女の元の実力もかなりあったから、学費の支払いも私が負担することを兼ねて今回急に空いたシンちゃんの枠を埋める事にしたから。

 やっぱり、王族であるルーシャ一人じゃ家事とか色々と大変だろうからね」


 「そうですか、えっとその……。

 まぁ、ゆっくり慣れていこうアクリ」


 ルーシャは相変わらず彼女に対して、好意的に接する事を続けるが相手の方は以前として距離を置いている。

 先程の事が原因、いやむしろ僅かに彼女の視線は私の方を見ている気がする。

 やはり、同じ顔の人間が目の前にいる事に対しては私と同様、警戒をさせているのかもしれない。

 

 「ねえ、そこのあなたは何て言うの?

 私と似た顔の、その人……」


 「私……?」


 「他に誰が居るって言うの?」


 「えっと、クレシア。

 クレシア・ノワール」 


 「なるほど……、あなたが例の……」 

  

 「私を知っているんですか?」


 「私があなたを一方的に知っているだけ。

 私と似た顔の奴が居るって事を事前に聞いていた。

 なるほど、それがあなたなら納得いくわ」


 そう言い、彼女はため息を吐くと彼女の態度に苛立ったのかシグレが問い詰めた。 

 

 「アクリさんでしたっけ?

 幾ら何でも、先程から横暴過ぎませんか?

 王族云々はこの際関係ありません、クレシアさんへの話し方も含め酷いと言いざるを得ません。

 あなたに、ルーシャ王女の護衛やお世話が出来るとは到底思えませんが?」


 「私に喧嘩を売るつもりです?」


 瞬間、全身に悪寒が貫いた。

 シグレさん、そして目の前のアクリが臨戦体勢に入った事を告げる感覚。

 シファさんは涼しい顔をしているが、私やルーシャはその気迫に押されてしまう。


 お互いに動くかに思えたが勝敗は一瞬でついてしまう。


 あのシグレさんが、容易くその右頬にアクリの左手が触れられていたのだ。


 「やっぱり、私より弱いじゃないですか?」


 「私が、見逃した……?」


 驚愕の表情を浮かべるシグレさんに対して、怪しい笑みを浮かべる彼女。

 すると、シファさんがそんな二人の肩に触れる。


 「そこまで。

 すぐそこに病人が寝ているんだから、殺気をバチバチとぶつけるのは控えてね。

 シグレさんにアクリちゃんも、そのくらいで抑えないと、ね?」


 シファさんがそんな事をいい静止を説く。

 特にアクリに対しては、何処か威圧的な物言いをしているかに思えた。

 彼女の声に、アクリはその手を離すと余程の事だったのかシグレさんが膝を崩しそのまま地についてしまう。


 「ありゃあ、やっぱりやり過ぎちゃったか……。

 もう少しは加減したらどうなの?」 


 「加減はしましたよ。

 それなり実力はありそうに思えましたが、そこまででは無いようですし」

  

 シグレさんをそう評価した彼女。

 屈辱的であるはずだが、シグレさんは何も言い返せずそのまま膝を崩した状態で拳を握り締めていた。


 「えっと、とりあえずこれからアクリちゃんの荷物がルーシャの方に届くと思うからルーシャも彼女の荷物を開けるの手伝って貰えると助かるよ。

 シンちゃんからの伝言で、残っている私物のそれぞれはアクリちゃんに一任するそうだからそこら辺の判断は本人に任せるから。

 それで、アクリの方はここにもう少し残りたい?」


 「いいえ、私はもう済んでいます。

 行きましょう、シファさん」


 「了解。

 それじゃあ、みんなまた後で会おうね」


 そう彼女は告げて、アクリと共に二人はこの場を後にした。

 すると、先程から黙っていたシルビア様が口を開く。


 「あの人、すごく強いですよ。

 多分、ラウさんやシラフさんと同等かそれ以上に……」


 シルビア様がそう言うと、続くようにシグレさんが口を開いた。

 「あんなの初めてです。

 彼女の手が頬に触れられた瞬間、私は死を錯覚しました。

 怖かった、あの時彼女が本気を出していないとしてももう一手が加われば私は本当に死んでいた。

 サリアにあんな化け物が居るなんて……」

 

 シグレさんの全身が震えていた。

 戦いに長けた彼女がこの様というのを見る限り、やはり彼女は相当危険な存在なのだろう。

 護衛役として来た、仮にもし彼女が私達の敵になってしまったら……。


 考えるまでも無い。


 今は味方の側である事に安堵している私達がそこにあった。

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