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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
エピローグ
204/324

幻想の先を君に託して 前編

 「ありがとう

 そして、さようなら………」


 唖然とした表情を吹き飛ばされた彼。

 私の攻撃を受け体が大きく吹き飛ばされる。

 攻撃により意識を無くした彼の体が地面に叩きつけられようとした瞬間、何者か視界の前に現れると宙に飛んだ彼の体を抱き止めた。


 「全く、手荒い真似をしてくれますね本当に。

 ここまでせずとも、私は逃げませんよ」


 僅かに長めの茶髪が特徴的な人物。

 服が僅かに破けているが、ほとんど無傷に近く不自然な微笑みを浮かべながら彼を抱き抱えている。

 

 あの時の面影を僅かに残し、奴は再び私の前に現れた。


 「待っていたわ、テナ」


 「10年ぶりの再会ですね、姉さん」


 焦げた地に飛び散る瓦礫。

 既に原型を無くしたかつての場所。

 ようやく私は、奴と巡り会えた……。


 「このままだと流石に彼が危ないか…」


 彼女はそう言うと、首元が発光すると同時に彼女の足元に黒い魔法陣が出現する。

 そしてその中へ彼を放り込むと、魔法陣を目の前から消し去った。


 「彼をどうする気?」


 「心配せずとも、少し安全な場所に送っただけだよ。

 私達が思う存分やり合うには邪魔になるからね」


 溢れ出る感情を押し込め、私は彼女に対してずっと気になっていた事を尋ねる。


 「どうしてあの時、私が邪魔だったの?

 彼の儀式が終われば、私はあの屋敷を出ていくはずだったのに?

 何故、私を殺す事に拘ったの?」


 「あの時の私はその理由がよく分からなかったんだよ。

 でも、今の私には分かる。

 姉さんへの嫉妬、彼の心を奪ったあなたへの嫉妬だよ」


 「そんな事の為に、わざわざ私を殺そうとしたの?」


 「それが理由です、聞きたい事はそれだけですか?」


 「それだけですって……。

 その行為で、どれだけ私や彼や苦しんだと思っているの!!

 彼の母親も殺して、屋敷の人達もみんな死んで……。

 挙げ句の果てに、その理由がただの嫉妬だなんてふざけるのも大概にしなさいよ!!」


 「殺したのはあなたですよね、姉さん?

 あなたの持つ神器の炎が、彼の家族や屋敷の皆さんを殺し、そして彼の心を苦しめた。

 あなたが諸悪の元凶ですよね?

 あなたが余計な事をしなければ、彼等は死ぬ事がなかったんです……。

 そして、彼も苦しむ事が無かったのに……。

 私と彼が離れる事も無かったのに、本当にあなたは私の過去もぐちゃぐちゃにした元凶ですよね……。

 私も憎かったんですよ、あなたの事がずっと……」


 不意に彼女は私に対して冷酷な笑みを浮かべる。

 同時に辺りの空気が冷たく張り詰めた。

 

 嫌な予感が過ぎった……。

 

 関わるべきではない、コイツには絶対に関わるなと私の本能的な何かがそう告げた瞬間だった。


 残された僅かな魔力を神器に込め、私は燃え盛る真紅の大剣を手に取る。

 

 「まぁいいですよ、少しくらいは楽しめそうですね。

 彼と渡り合った程なんですから、少しは楽しませて下さいね」


 瞬間、目の前の彼女の首元が淡い青の発光を放つ。

 

 「深層解放、アレス……」


 彼女がそう唱えた刹那、その周りを公転する無数の剣達が現れる。

 姿が変わり青い髪色、そして全身が甲冑のようなモノに包まれる。


 その右手に細身の剣を構え、私にその剣先を向けた。


 「まずは小手調べ程度に。

 この姿で相手をしましょう」


 剣の構えから交えずとも分かる。

 私と同等、あるいはそれ以上の力があるだろうと。


 「随分と舐められたものね……」


 瞬間、互いの身体が同時に動き出す。

 炎が目前の剣戟と衝突。

 そこから高速で織り成される剣技の嵐、私の攻撃に対して目の前の彼女余裕の表情で付いてくる。

 彼女の周りを公転する無数の剣に対して、最大限の警戒をしつつ鎖を用いて迎撃と反撃の機会を伺っていた。


 鎖を鞭のように扱い、私に向かう剣達の攻撃を阻んでいく。

 数は多くとも、威力はそこまで高くはない。

 扱う鎖の数を増やせば対処しようは幾らでもある。


 「深層解放無しでよくそこまでやれますね、姉さん」


 「簡単に殺される訳がないでしょう?」


 お互いの攻撃の速度が上がり、更に激しさを増していく。

 そしてその時は訪れた。

 彼女の手から剣が離れるという好機が生まれたのだ。


 絶対に逃さない。


 しかし、一瞬の隙に目掛け私は剣を振るうも目前にして彼女の姿が消え去った。


 「惜しかったですね、私もさっきは少し焦りました」


 「いつの間に……」


 私の背後の遠くから聞こえた声の主。

 先程まで目の前にいたはず、なのにどうして?


 私が見逃したのか?

 

 一体何処で?


 「やはり、アレスでは姉さん相手には火力不足ですかね。

 それじゃあ私も少しだけ本気を出しましょうか?」 

 

 そう言って、テナは深層解放を一度解いて一息入れると、突然閃光が引き起こされる。


 目の前がフラッシュバックし、そして音が鳴り響く。


 雷の音……、雷鳴が辺りに鳴り響き始めたのだ。


 そして、彼女から溢れる魔力に私は既視感を感じた。

 閃光に包まれた彼女に目を凝らす。


 「あの時はまだこの力を完全に扱い切れなかったので、この姿を見せるのは初めてになりますね」


 雷鳴が響き渡り、閃光が巻き起こる。

 災害にも等しいソレに私の身体が僅かに震えた。


 「まさか2つ目の神器を扱えるとはね……」


 「これで、完了ですね」


 そう言って、テナは武器を軽く振り回す。

 彼女の周りに溢れる魔力がその周りで雷を引き起こしている。

 そして、その姿もかなり変わっていた。


 長い金髪に変わり雷の影響で僅かに逆立っており、先程の深層解放とは違いかなり軽装である。

 上半身は胸にサラシを巻く程度、下半身はスボン状であるが、その裾に向かって広めに広がっている様子。

 

 その右手に構えた武器には見覚えがあった。

 10年前に、私の身体を貫いたあの槍である。

 そして反対に、その左手には巨大な鎌が存在し、どちらの武器からも膨大な魔力を有しているのは距離を取っていても容易く理解できた。

 

 「ゼウス、それがこの神器の名前ですよ。

 深層解放をする事で魔力の消費が激しくなりますけど、それに余るだけの力がありますから」


 「まさか、神器を2つも使えるとは思わなかったわ」


 「2つだけではありませんよ。

 私はあと10個余りの神器等を扱えますから」


 「10個余りって、そんな事絶対にあり得ないわ。

 ただの人間が、そんな数の神器を扱えきれる訳がないでしょう。

 嘘も大概にしなさい」


 「ええ、でしょうね。

 だから私、元々人間ではないんですよ。

 ホムンクルスでも、まして現存の他種族でもない。

 私は人造英雄と呼ばれるあの方によって生み出された一人です。

 ラグナロクの他の者達と違い、私自身にはその逸話が存在しません。

 あの方自らが、かの英雄達の遺伝子情報を元に構築された存在。

 それがこの私、テナ・ラグド・サリアの正体です」


 「逸話が存在しない、か……。

 なるほどね、私が学院で調べに調べ尽くしてもあなたが何処の誰なのか分からないのはその為という訳ね……。

 逸話が無ければ、どれだけあなたが強かろうと知らないのは無理がない。

 サリアの王族に、あなたの名前はない。

 じゃあ一体、あなたは誰を元に作られた存在なの?」


 「リースハイル・ラグド・サリア、そしてハイド・アルクス、私は二人の情報を元に私が生み出されました。

 何度か聞いた事があるでしょう?

 サリアに一時期滞在していたくらいだからその名前を何度か聞いているはずです」


 その名前を聞いて、私は驚愕した。

 リースハイルと言えば、歴代のサリアを収めた王の中でも特に活躍した存在。

 現在のサリアの礎を気付いた大物中の大物である。

 そして問題は、あのハイド・アルクス……。

 歴代十剣の中でも、最強と謳われた存在だ。

 彼の名前の元になった程の大英雄。

 つまり、彼女はサリアの中でも特に偉大な英雄二人との間に生まれた存在なのだ。

  

 でも、それだけでここまでの力があるのか?

 わざわざ英雄二人の間に子供を生み出したとしても、望んだその通りの強さが手に入るとは限らない。

 ホムンクルスの製造においても一体一体に大きな個体差が生まれるのだ。

 まして人間なら更に個体差が激しいはず……。

 

 まさか……


 「まさか、同じ人間を何体もわざわざ生み出していたの?

 私達の方で、強いホムンクルスを厳選するように?」


 「理解が早いですね、姉さんは。

 その通り、私達は元々沢山居ましたよ。

 5歳に至るまでに淘汰の過程は終えました。

 その間約3000体もの私のクローンが犠牲になりましたがね。

 10年前に私があなたを追い詰められたのは淘汰の過程があったからこそという訳です」


 「目的達成の為に手段は選ばない訳ね……」


 「ええ、仮に50億の人間を救えるのなら49億の人間を殺す事も私達は行いますよ。

 一人でも多くの者を生かす為に、最低減の犠牲で収めます。

 だからあの方と私達が存在する事で、人間達は平和に生きていられるんですよ。

 完全なる理想郷、その実現の為に英雄は存在不可欠なんです。

 年々、異時間同位体の一個体が徐々に力を得ているので、その対策の為により強い英雄が必要だった。

 その為の彼、ハイド・カルフという新たな英雄の存在です。

 既に彼は深層解放を習得した。

 そして更には、彼の影響を受けて他の者達の深層解放の兆候が見られるようになった。

 十剣のクラウス、そして目の前に居る姉さんも含めて彼の影響を受けて深層解放を習得している。

 やはり彼には、人を動かす何かが備わっているのでしょうね」


 「彼はあなた達の都合の良い道具なんかじゃないわ!!

 そんな事の為に彼を利用してきたあなた達を絶対に許さない!!」


 武器を構え、彼女に向かって飛び掛かるも容易く彼女の槍によって防がれる。


 「そんなに焦らずとも、すぐに殺しますから。

 まあ、わざわざ私自らの手でそんな事しなくても姉さんはすぐに死にますけどね」


 「その前に貴様を殺す!!」


 「殺せるといいですね、あなたが死ぬ前に」


● 

 鎖が容易く、切り裂かれる。

 彼女の振るう槍に触れた瞬間に、私の扱う鎖達がバターのように切られる様に驚愕せざるを得ない。


 ただ鎖をそのまま扱うのではなく、3つの鎖を編み込んだ上で魔力を通し補強している。

 ソレをいとも容易く切り裂かれる様は、こちらの実力を遥かに上回っている事を私自身に再認識させてきた。


 「ほら、この程度ですか?

 私、この程度はまだまだ序の口ですよ」


 「調子に乗るな!!」


 炎を纏った大剣が、雷槍と衝突する。

 辺りに雷鳴が響き渡り、剣を伝って私自身に雷の衝撃が貫いた。


 余りの衝撃に、身体の筋肉が意図しない方向に動き剣に込める力が抜けていく。


 「こんなところで……!」


 怪しい微笑を浮かべた彼女は、槍に更に力を込め私の身体を吹き飛ばす。

 遥か後方にまで身体が飛ばされる中、全く身動きが取れずそのまま身体に凄まじい衝撃が訪れる。


 この空間の壁と思われる場所。

 本来、ここまで飛ばされるなんて事はあり得ない。

 距離が近かったのか、あるいは相応の力が先程の攻撃に込められて……。


 意識が僅かに薄れる最中、視界に光が入り込む。

 天を貫くかのように、上に向かって伸びる光の柱。

  

 光の柱の根本に居るのは、テナ。

 槍を両手で構え、天に向かって槍を向けあの光の柱を形成していたのだ。


 魔力量が桁違い、あんなものをまともに受ければひとたまりもない……。


 「動け……、こんなところで朽ちる訳には……」


 満身創痍の身体を振り絞る。

 瓦礫に埋もれた身体を動かし、大剣を杖のように扱って敵に向けて構える。

 

 ようやく目の前に、彼の家族の仇がいるんだ。

 10年もの年月を費やして、私の何もかもを犠牲にしてようやくここまで来たんだ。


 世界が憎い、私達を否定した世界が憎い。

 それでも、私を受け入れてくれた彼の為に……。

 彼のこれからの為に、私が戦わないでどうする。


 彼が私の為に何度でも立ち上がった。

 ならば私も何度でも立ち上がる。


 この憎しみの連鎖に、復讐の連鎖に。

 狂った世界に……


 「私自身の手で決着を付ける!!」


 武器を構える。

 もう後には引けない、刺し違えても奴を絶対に殺す。

 殺せなくとも、腕の一本でも奪ってみせる。


 光の柱に向かって、私は地を蹴った。

 私に残された全ての魔力をこの一撃に込めて……。


 両手で剣を構え、纏われた炎は更に激しく燃え盛る。

 光の柱が更に輝きを増していく。

 

 私が捨て身に等しい特攻を仕掛ける様に、テナの表情が僅かに動いた。


 「本当に、姉さんは諦めが悪い……。

 楽に死ねるとは思えませんね」


 「その前に、あなたをここで殺す!!」


 私がそう叫んだ刹那、彼女は槍の先端を私に向けた。


 「エトナ・エヴロギメノ……」


 光の柱収束すると同時に槍の先端から膨大な光が放たれる。

 雷鳴を轟かせ、私に向かって放たれた雷撃の嵐……。

 辺りを消し去り、私の視界が光に覆われる。


 死を直感した。


 それでも私の歩みは駆ける事を止めない。

 私自身を炎が包み込み、目の前の存在を倒せと告げている。


 前に踏み込め……。


 アレが例え私では敵わぬとしても……。


 命を賭して、彼の為に私が繋ぐんだ……。


 私に居場所をくれた彼が、これ以上……


 彼がこれ以上傷付く事がないように……


 雷撃の嵐に身体が呑まれる。

 痛みと衝撃が全身を貫く、それでも身体はまだここにある。


 刹那、私の身体が雷撃の嵐を抜けた。


 「っ……、まさかアレを耐えたの……」


 「テナぁぁぁぁ!!」


 痛み感じない。

 目前に迫る、敵に目掛け残された全ての炎を剣に込める。

 あと少し、あと少しでようやく全てが終わる。


 力を寄越せ。

 私に残された全ての力は、今この瞬間の為にあるのだから……。


 焼き尽くせ、全てを……。


 私に残された全ての力を込めて振るわれた一撃。


 激しい熱量と爆発に私の視界が覆われる……。


 空間が激しく震える最中、私は意識の狭間で捉えていた。


 彼女の前に現れた巨大な盾の存在を………

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