表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
最終節 この先も幻想は君と共に
203/325

たとえ、君を乖き離れても

帝歴403年12月5日


 「リン、俺の願いの為に一緒に戦おう。

 お前の覚悟、想い、願い、全部俺に預けてくれ。

 絶対にお前との約束を果たすからさ」


 「信じてるよ、世界一誇れる私の大切な英雄さん」


 その時流した彼女の涙。

 無駄にはさせないと、俺は心に刻んだ。


 それから幾ばくかの時間が過ぎていく。

 時間が経つ中、不意に目の前の小さな妖精は俺に語り始める。


 「私ね、やっぱり怖いんだ。

 みんなに忘れられる事。

 シファ姉や他のみんなに忘れられるのがさ」


 「そりゃあ、そうだろうよ……。

 周りだけ忘れていく様を俺は見せつけられてとても心苦しかったからな……」


 「私の事、絶対に忘れないでよね」


 「当たり前だろ。

 お前は大切な家族なんだからさ」 


 俺がそう彼女に伝えると、リンは僅かに微笑むと口を開いた。


 「ハイド、私ね……。

 その、えっと……」


 何かを言いかける彼女の様子に俺は不思議に思ったが、彼女は僅かな咳払いをすると言葉を続ける。


 「私、信じてるからあなたの事を誰よりも信じてる。

 だから、必ずもう一人の私を救ってあげて。

 それが出来るのはハイドだけだから……」


 「わかってる、必ず救い出してみせる。

 全部終わったら、家族の墓参りに行くよ。

 もう一人のお前と一緒に、必ず行くよ」


 「うん……」


 目の前の小さな妖精は光に包まれる。

 涙を流しながらも、小さな体で俺に抱きつく。

 

 「信じてるからね。

 ハイド、私ずっとあなたが大好きだから」


 弾けるように光を纏った彼女は、そう言い残し跡形も残さず消え去った。

 残った唯一のモノ、かつてクレシアの屋敷に訪れた際に貰った衣服が残されていた。

 何もかもが消えた訳じゃない、彼女は今も俺の中で生きている。


 拳を握り締め、俺は再び心に誓った。


 必ず、この俺自身の手でリンを救い出すと……

 


帝歴403年12月14日


 目の前は炎に包まれていた。

 燃え続ける屋敷の中で2つの炎が交錯する。

 轟々と燃え盛る炎の中で舞うように俺と彼女の剣がぶつかりあう。


 10年前のあの日、子供だった自分。

 何も救えず、目の前で全てを失い、奪われた。


 それでも俺は、今この瞬間も目の前の炎の中で剣を振るい続ける。


 燃え盛る屋敷の中を、俺達二人は駆け抜ける。

 互いに目にも止まらぬ速度で、激しい熱量に互いの身体が包まれている最中、激しく熱く幾度も互いの剣がぶつかり続ける。


 そして、気付けばとある部屋の中に辿り着いていた。

 部屋の扉に向かって転がり込むように俺の身体が叩きつけられる。

 部屋の中に押し込められ、その刃が向かう中。

 俺は負けじと武器を構え目の前の妖精に向かって叫んだ。


 「もう誰も失わせない!!

 あの日から、俺はそう誓ったんだ!!」


 刹那、耳を貫くかのような甲高い音が響き渡る。

 お互いの刃がすれ違い、頬の薄皮が僅かに切れると血が僅かにこぼれた。


 「綺麗言ね。

 所詮は幻想でしかない」


 「それでも不可能ではない。

 ソレをこれから証明する!!」


 俺は剣を振り払い、目の前の彼女との間合いを取る。

 全身が熱く、燃えたぎる。


 魔力が更に高まり、己の姿が再び光と熱に包まれていく。

 包まれた光が弾け、俺は目の前の妖精と再び対峙する。

 体中から溢れる莫大な力と熱に、俺自身も驚く。

 構えた剣は更に激しく燃え盛り、俺の背には目の前の妖精と同じく羽が存在している。

 目の前の存在を真似るように、燃え盛る炎の羽とオレンジ色の長い髪が俺の姿に現れていたのだ。

 

 今の彼女と渡り合うのにはこの姿でなければ恐らく勝てない。

 全力を尽くさなければ、俺自身も殺される。


 彼女は本気だ、ならば俺もそれに応える為に


 「それが新しい力かしら?」


 「この姿は深層解放のその先の力だよ。

 でも、この姿にはまだ名前がない。

 だからこの力を与えてくれた存在達から取って、こう名付けるよ。

 幻影解放。

 今はもうこの世界から忘れられ失われた存在。

 彼等は今も俺に力を与えてくれる。

 今の彼女達は俺の中で生きている。

 俺に全てを託してくれたんだよ、お前を救って欲しいという願いの込められた力だ」


 「面白いわね。

 それじゃあ、見せて貰おうかしら。

 幻程度が、存在しない物があなたにどれ程の力を与えたのかをね?」


 再び、お互いが動くとほぼ同時に炎が衝突した。



 天を駆ける。

 

 縦横無尽に、燃え盛るこの空間を駆け続ける。

 

 2つの炎が互いに尾を引く

 空を、天を、この空間を焦がすように。


 交錯する、2つの炎。


 二人の妖精が剣に舞うかのように


 お互いの意思が熱を帯びるかのように延々とぶつかり合う様だった。


 「あなたには何も分からない!!

 だからこれからも知る必要はないの!!」


 「それでも、お前一人に全てを背負わせはしない。

 もう誰も俺の目の前では失わせない!!

 もう、誰か悲しむのは見たくない!!

 だから俺は、絶対に……」


 炎が天を駆ける。


 全てを焦がし、互いの意思がぶつかり合う。


 「俺は絶対に……!!」


 「私は……!!」


 黒き妖精、炎を纏いし彼女から赤く燃えたぎる炎の鎖が無数に放たれる。

 咄嗟に俺は剣に力を込め目の前の鎖に向かって斬りかかる。


 「「負ける訳にはいかない!!」」


 重く、金属が砕けるかのような音が辺りに響き渡る。

 剣の刃を、鎖が徐々に砕く様。

 しかし、剣の刃も鎖を断ち切る。


 「俺は絶対に!!」


 鎖の海を剣が抜け去ると同時に目の前に黒き妖精が視界に映り込んだ。

 

 「私の邪魔をしないでよ、ハイド!!」


 「絶対にお前を助ける!!」


 炎の剣がぶつかり合う。

 お互いの身を焦がし、全身に熱が溢れていく。

 辺りも構わず焦がし続ける。

 燃え続ける体が互いのあまりの攻撃の衝撃と余波で地へと突き落とされた。


 お互いに森の中へ突き落とされる。

 辺りの動物達が炎に戸惑い逃げ惑う中、俺と目の前の彼女は武器を構え、よろけながらも再び対峙する。


 「フフフ……アハハハ!!!」


 突如として高笑いを始める彼女。

 血にまみれた体ながらも、向ける殺意は以前として変わらないどころかその威圧感を増していた。


 「リン……」


 「最高ね!

 これだけ興奮するのはあの日以来だわ!

 ラウって奴だったかしらね、私といい勝負したけど私が結局倒したけど。

 殺したはずなのに、生きているとは思わなかったけど。

 それでも、あの日と同じ、いやそれ以上に今日は気分が凄く昂ぶるわ!!

 アハハハハ………!!!」


 刹那、彼女の羽から無数の鎖が俺の腕に纏わり付く。

 鎖があまりに重く、構えた剣が僅かに下がる。

 ただの鎖ではなく、魔力を込める事で通常の何倍もの重量を実現させているのだと俺は理解した。


 「リン、お前……」


 豹変した彼女に違和感を抱く。

 恐らく、このまま戦いが長引けば彼女は死ぬ。

 既にあまり長くはない命なのだ。

 なのに、目の前のリンは俺との戦いの為に残り少ない命を使い果たそうとしている。


 彼女の狙い。

 それは、俺自身の手によって殺される事だ。

 全ての罪を背負う、つまり自分が俺に対して行った行為のせめてもの償いの為なのだ。


 あの日、学院で再会した時から彼女は俺に殺される事を望んでいた。

 そして今、俺は現在の彼女を殺せるだけの力を得ているのだ。


 今の彼女の様子から、演技をしているとは思えない。

 既に精神の壊れる一歩手前……。

 

 残り少ない時間、一刻の猶予もない。


 そして、俺が今の状態を維持出来るのも残り僅かだろう。


 つまり残された選択肢は短期戦に持ち込むしかない。


 「来なさい、ハイド!!

 もっと、もっと私を楽しませて!!」


 鎖がまるで蜘蛛の巣のように俺を囲んでいく。


 高速で展開されていく鎖達に、足場は愚か攻撃の範囲を絞られていく。


 動きを抑えられると同時に、相手の攻撃の速度は更に速まる。


 短期戦で決着を付ける思惑は愚か、このまま行けば自分自身が容易く追い詰められていく。


 炎が足りない、熱が足りない。


 目の前の彼女の届く力が足りない。


 「もっと燃やせ」


 魔力を込める。

 目の前の鎖がなんだ?

 どれだけ堅かろうが、多くあろうが関係ない。

 俺の道を塞ぐのなら断ち切るのみ。


 鎖程度に阻まれる程、俺の炎は冷たくない……


 目の前に救いたい人がいるんだ。


 俺の目の前に、すぐ近くにいるんだ!


 だから……こんなところで


 「俺の炎は負けはしない!!」


 阻む鎖に向け、炎の剣を振るう。

 鎖が俺の剣に触れた刹那、蒸発するかのように消え去った。


 「行ける……!!」


 燃え盛る炎に身を任せ、目の前の鎖の海に飛び込む。


 「断ち切れるものならやってみなさい!」


 俺の攻撃に応えるように、燃えたぎる無数の鎖が俺に向けて襲い掛かる。

 

 全部を断ち切らずとも、目の前の鎖を、致命傷だけを防げばいい。


 ガラスのような音が辺りに響き渡る。

 燃え盛る、炎と鎖の海に向かって俺は剣を構え飛び込む。


 瞬間、目の前の鎖の海が全て鉄くずと化し飛び散った。


 「っ!!」


 「ヤマト流剣術、山茶花……」


 俺の言葉に呼応に、鉄くずと炎が入り混じり赤き鉄の華を形成していく。

 これまでの全て、俺が得てきた全てを以て俺は……


 「ヘリオス解放……」


 神器の銘を俺は唱える。

 俺の剣技により形成された炎と鉄の華が、彼女の追撃を阻む。

 その僅かな隙を逃さない。

 

 ここで決める。


 チャンスは一度、この機会を逃す訳にはいかない!


 鉄の華の中で、俺は剣を構える。

 莫大な魔力が込められ、その剣は激しい光を放つ。


 太陽がそこにあるかのように、鉄の華が更に開花していきその姿が彼女の前に露わになる。


 「アインズ・……」


 炎の鎖の海へと俺は再び飛び込む。

 鎖の海に向かって剣を振るうと、太陽の光を思わせる光と熱の塊を前に彼女の鎖が跡形も無く消え去った。


 妖精はすぐ目前、彼女が全力で俺に応えてくれたように、俺もそれに応えよう。


 俺のこれまでの全てを賭けて!!


 「クリュティーエ!!」


 技の名が告げられたと同時に、凄まじい光と爆発の中で互いの姿が消え去った。


 全てが熱と光の中に飲み込まていく中、僅かに笑う彼女の微笑みが見えた気がした。



 熱が体を蝕む。

 先程まで、自我が著しく狂っていたが彼の放つ炎の力で調整されていた。

 徐々に鮮明に映り込む意識の中、私は目の前の存在へと視線を向ける。

 

 体の限界が近い事を告げている中、辛うじてお互いが立っていた。

 そう思われた瞬間、目の前の彼がゆっくりと倒れていく。


 自分の体など気にせず、私は彼の元へと駆け寄りそのボロボロの体を抱き寄せた。


 「相変わらず無理が過ぎるわね、ハイド……」


 「……リン、お前……」


 「あなたのお陰よ、正気に戻れたわ。

 本当にありがとう」


 「そうか……、俺はお前を助けられたのか……」


 「ええ。

 どうやら、あなたの炎が私の歪んだ炎を荒療治してくれたみたいだわ

 あなたの狙いははじめからこれだったのかしら?」


 「いや、そんな器用な真似が俺に出来るのかよ。

 ただ俺は無我夢中で……お前を助けたい一心だった。

 それだけだ」


 「そう、あなたには感謝しないといけないわね。

 ありがとう、ハイド」


 そう言って、私は目の前の彼を強く抱き寄せる。

 何処か照れた様子を見せる彼。

 

 「リン、正気に戻ったのは良いんだが……。

 その、流石に……」


 ………。


 「リン?」


 「ハイド、ありがとう」


 「ああ……」


 「ずっと愛してる、これから先も、何があっても私はあなたを忘れないから」


 「リン、急に何言って……」


 「最後にこうして会えて良かったわ……」


 そして、私は彼の腹部に向けて魔力の塊をぶつけ吹き飛ばす。


 「っ!!」


 呆然と私を見る彼の姿、

 困惑し、私に向かって手を伸ばす彼に対して私は最後の言葉を告げる。


 「ありがとう

 そして、さようなら………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ