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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
最終節 この先も幻想は君と共に
197/325

最強無敵のアクリちゃん☆

帝歴403年12月14日


 敵施設の更に奥へと俺達4人は進んでいた。

 仲間を上に残し、永遠と続くような長い通路を進んでいく。


 「二人は大丈夫でしょうか?」


 「大丈夫だよ、あの二人なら絶対に」


 リノエラがそんな心配をするも、俺は二人を信じそう答えた。

 すると、ラウが会話を挟んで来る。


 「むしろ、ここからが問題だろう?

 リノエラ、シン。

 お前達がこれから相手をするもう一人のホムンクルス、奴の方が先程の奴よりよっぽど面倒だ。

 私がアルクノヴァとの話を終え次第、お前達の救援に向かう。

 それまでの間、決して攻めようとは考えるな。

 生き延びる事だけを考えろ」

  

 珍しく二人を心配するラウ。

 疑問に思った俺は、彼にその理由を訊ねた。


 「お前が他人の心配とは珍しいな。

 以前お前が決勝で戦ったローゼンとかいう奴より、あのホムンクルスの方が強いとでも言うのか?」


 「無論だ。

 単純な戦闘能力であれば私よりもローゼンの方が上だ。私はそれを己の策とグリモワールで上回ったに過ぎない。

 正面から戦えば、あのホムンクルスも同様。

 私では恐らく敵わないだろうからな」 


 「お前がそこまで言うなら事実なんだな。

 二人に任せて大丈夫なのか?」


 「今更何を言うんです、今の私があの時と同じだとは思わないで下さい。

 それに、ラウ。

 私の実力を過小評価されるのは納得いきません。

 天人族の中でも、特に優れた力を有しているこの私がホムンクルス程度に遅れを取るわけが無いのです!」


 リノエラは声高らかにそう言うも、ラウが言い返す。


 「そのホムンクルスの一人がかつてこの学院最強と謳われたローゼンだった。

 奴の実力を何も分からなかったお前ではあるまい」


 「少し油断していただけです。

 たかが人間だと思っていましたが、あなたと似たようなあの嫌な感覚。

 忘れはしませんよ、昨年の屈辱は……」


 何処か険しい表情を浮かべる彼女をよそに俺達は更に奥へと進んでいく。

 そして、例の扉の前に俺達は到着した。


 「ここで、それぞれ別れるようですね」


 「そう、みたいだな」


 リノエラの言葉に俺は何処か不安気な返事をする。

 見かねた彼女は、俺の両肩を掴みこちらの目を真っ直ぐ見つめ話し掛けた。


 「私達の事を信じてください。

 今、貴方にはやるべき事がある。

 その為に、数々の試練を乗り越えたのかを、己の胸に一度尋ねて下さい。

 今更後悔するなんて言わせません。

 必ず、彼女を救い出すんでしょう?」


 「当たり前だ」


 彼女の言葉に対して俺はそうはっきりと答えると、両肩から手を放し俺に向かって膝をつき両手重ね祈りを捧げた。


 「貴方に我等が主の守護があらんことを。

 その命に幸あれ、その道に栄光あれ」


 彼女の背に存在する白き純白の羽が光を放つ。

 十数秒程の祈りを捧げると立ち上がり、例の扉の前に立った。

 彼女のそれを合図にシンも彼女の隣に立つも、一度俺の右隣に立つラウの方へと向かい何かを伝えようとしていた。

 しかし、これまでの彼女にしては珍しく何処かよそよそしい様子であった。


 「シン、どうかしたのか?」


 それから少し間を空けて、彼女は彼に訊ねる。


 「ラウ様からは、何か私に対して御言葉はありますでしょうか?」


 「言葉か……」


 僅かにラウが思考をする素振りを見せた。

 そして少しすると、一言彼女に対して言葉を告げる。


 「シン、君の望みは一体何だ?」


 「私の望みですか?」

  

 「そうだ。

 私はそれが知りたい、そしてそれを叶えたい。

 これが私から君に伝える言葉だ」


 僅かに驚きの表情を浮かべる彼女。

 俺とリノエラもその言葉に対してかなり驚いた。

 やり取りの行方を見守る中、彼女は返答する。


 「っ……、分かりました。

 私の望みが知り、叶えたい。

 それが貴方の御命令とあらばお答えします」


 「聞かせてくれ」


 「ラウ様、あなた様を慕う権利を。

 この先も貴方様の側に居られる権利を私に下さい。

 今のこの関係の全てが変わっても私は貴方様の一番側に居たい。

 それが私の願いです」


 彼女の告げた言葉に俺とリノエラは驚くも、ラウは一切表情の変化を見せない。

 そしてしばらくしてようやく言葉を飲み込んだのか、ラウはただ一言彼女に告げる。


 「その願い必ず応えよう」


 表情を一切乱さぬ彼の返答に対し、シンは珍しく僅かに微笑むといつもの引き締まった表情へとすぐに戻す。

 そして俺とラウに向けていつもの彼女の様子で淡々と言葉を告げた。


 「お言葉、ありがとうございます。

 では、ラウ様のご健闘を深くお祈り致します。

 シラフ様も、悔いの無いように」 


 そう言って彼女はリノエラの方へと向かう。

 部屋に入っていく様子を俺とラウは見届ける。

 そして残された俺達は更に奥へと進んだ。



 扉の向こうの通路に私はシンと名乗る謎の女性と歩いていた。

 先程の彼女が彼に告げた言葉は、一種の愛の告白だ。

 現在の状況で言うべき事なのかと私は一瞬思ったが、彼女の主であるあの忌まわしいラウも同様である。


 君の願いを叶えたい。


 彼が彼女に告げた言葉はそれであった。

 一体何の意図があってのことだろう?

 彼が彼女がお互いに対して抱いてる感情は主従関係のソレを遥かに超えている。

 ましてあの男はこともあろうに、あのシファ様にまで手を出しているそうではないか。

 実に憎たらしい奴である。

 

 シファ様という存在が居りながらも、他の女に手を出すとは盗っ人猛々しいとはこの事だ。


 「先程から、何処か落ち着きがありませんね。

 リノエラ様」

 

 「誰のせいだと思っているんです?」


 「先程の事が勘に触ったのであれば謝罪致します」


 「いえ、別に貴方を咎めようとは思いませんよ。

 問題は貴方の主であるあの男ですから」

 

 「そうですね。

 ラウ様も最初の頃からは大きくお変わりになりましたから。

 私も少し驚きましたよ、あのような言葉を私が聞けるとは思ってもみませんでしたから」


 「貴方が彼に告げた言葉、あれは貴方の本心ですか?」


 「はい、私自身の心からの言葉です。

 心という概念かは解りかねますが」


 「どういう意味です?」


 「この先の事もありますし貴方様にはお伝えします。

 私はここの彼等と同じホムンクルスの一人です。

 だから人間と同じような心という概念を持っているのかは定かではない。

 造られた存在、私自身もそれを理解していますから」


 彼女の言葉を聞き、思わず足が止める。


 「何を言って……。

 貴方がホムンクルスなんて私はそんな事聞いていません!

 シラフや他の方々だって、何一つそんな事は……」


 「シラフ様とラウ様は知っておられます。

 敢えて言わないようにと、二人には事前に伝えてありますので」


 「分かりました。

 では、貴方もこの先のアレと同じという事は分かりましたが他に何があるというんです?

 他にもまだ何か隠している事があるんでしょう?」


 「……否定は出来ません。

 いずれお話する機会はあるかと思いますが、今は控えて頂きたい。

 そして、これから言う事はラウ様方にも言っていない事です」


 「何が言いたいんです?」


 「これから私のする事に対して、決して彼等を責めないで貰いたい。

 それが私からの貴方へのお願いです」


 「それが一体何になると言うんですか。

 一体これから何をするつもりです?」

 

 「聞き入れてくれますか?」


 彼女はこれまでに無い程の圧を掛けてこちらへ訴え掛けてくる。

 この先で一体何をしようというのか?

 分からない、何か嫌な予感が過ぎる。

 しかし、これを通さなければそれそこきっと後悔するだろう。

 何処かでそれを私自身が深く察していた。


 「分かりました。

 貴方の言葉に従います。

 それで、一体貴方は何をするおつもりなんですか?」


 「見ればわかります。

 先に進みましょう」


 そう言って私達は足を動かす。

 そして、再び私達の前に現れた扉。

 ノーディアから渡されたカードを使い、扉の鍵を解除。

 巨大な音をあげ、扉はゆっくりと開き内部の構造が己の視界へと鮮明に映り込んでいく。


 「これは……、闘舞祭の試合会場……」


 視界に入り込んだのは、かつてこの学院で行われた戦いの祭典、闘舞祭の決勝トーナメントが行われたこのラークの首都に位置する第一闘技場であった。

 あの会場特有の石床が敷き詰められるも、観客は誰一人は愚か人の気配すら感じずにいた。

 

 「まさか、たかがあの祭典程度の演習に使う為に、わざわざ施設ごとこの施設内に建てたというの?」


 私がそう呟き驚愕していると、何処からか声が聞こえて来た。


 「ようやく来たみたいだね☆

 待っていたよ!!」


 上空から会場の中央に降り立つ一人の存在。

 ひらひらとした白く輝く衣装を纏い、薄焦げ茶色のポニーテールが特徴的な少女。

 輝くような笑顔を浮かべ、私達に話しかけてくる。


 「さぁて、皆様お待ちかねの最強無敵のアクリちゃんここに登場だよ☆!!」


 その声と同時に会場全体に黒い影の塊のような物が出現。

 光る棒のようなモノを持って、人間のような大きな歓声が巻き起こる。


 「登場完璧です☆

 さてと、気を取り直して君達が私の相手ですか。

 対して強くなさそうですがねぇ……。

 なるほどなるほど……。

 貴方が例のノエルが作った旧式ホムンクルスですかね?

 うーん、聞いてた情報よりはずっと弱そう。

 例のデコイの回収任務、少しは楽しめそうだと思ったのにこれじゃあ拍子抜けですよぉ……」


 かなり派手な登場し、そして私達が警戒するも向こうは自分のペースでこちらの状況を把握している模様。

 敵にとって、私達の存在はさして問題はないかのように。

 

 そして彼女の告げた旧式のホムンクルス。

 恐らくそれは、隣の彼女を指す言葉。

 何かの理由や目的あって、彼女を敵は待ち構えていたというのか?


 「まあ任務ですし、しょうがないですよね☆

 それじゃあ、さっさと終わらして先輩方の援護に向かうとしますか☆」

 

 「さっきからこちらの事は無視ですか。

 あまりに勝手が過ぎますよね?」

 

 私が彼女にそう言うとそれが納得行かないのか、むしろ逆恨みのように一方的に話しかけてくる。


 「そっちが何も話さないからでしょう?!

 私ずっとここで待ってて待ちくたびれたんですからね?!

 皆さん来る間、私ずっっと暇してて。

 今日に限って先輩方が私と絡んでくれないからずっと一人で無駄な時間をずっっと過ごしてたんですよ!!

 そして来て見れば、お二人のような雑魚ばっかり。

 私の貴重な青春の時間を返して下さいよぉ!!」


 私達が雑魚だと馬鹿にした彼女の言葉が勘に触り、私は彼女に言い返す。

 「私達が雑魚ですか、随分舐めらてくれすね。

 貴方もその格好といい、むしろ道化のように貴方の方が清々しい程笑えてきますよ」 


 「この衣装に文句あるって言うんですか?!

 この衣装の良さが分からないなんて今時流行遅れなんですね、天人族の皆さんは。

 私、この日の為にせっかく首都から取り寄せた私専用の一品なんですよ!!

 それを馬鹿にするなんて絶対に許しませんからね!

 あとから許してって言っても許しませんからね!!」


 まるで子供のような駄々をこねる様子の彼女。

 彼女が本当に彼等が警戒する程の相手なのか、想像もつかない。


 あの瞬間を垣間見るまでは、私も隣の彼女もそう思っていた。


 一瞬の閃光が視界に入ると同時に、敵の姿が消え去った。

 何が起こったのか分からない、瞬間何か違和感に体が気付いた瞬間、左の翼の方から激しい痛みが引き起こった。


 「レピーダ・グリゴロス」

 

 先程の彼女の声が背後から聞こえ振り向くと、先程まで私の背にあったはずの白き翼が彼女の左手に握られていた。

 瞬間、観客席を埋める黒い影の集団が再び歓声をあげた。

 彼女はそれ等に向かって明るく元気な素振りで手を振り返している。

 彼女のその右手には先程まで何処にも存在しなかった漆黒の細身の鋭い剣。

 剣から僅かに垂れる鮮血を彼女は振り払うと同時に剣を煙のように消失。

 そして彼女の白く輝く独特な衣装が、僅かに私の血に浴び赤く煌めき別の輝きを放っていく。


 手に持った翼をしばらく眺めると、興味を失ったのか彼女は何事も無かったかのように後ろへと放り投げる。


 「翼片方で済んで良かったですね☆

 それにやっぱり間違いじゃないでしょう?

 私、すごく強いですから☆」


 そう告げる彼女に対し、私は翼の片方を奪われる事で彼女に対しての己の認識の甘さを酷く痛感した。

 あれの全てが彼女の演技だと、私はそれに全く気づけ無かったのだから。

 

 こちらの反応に対しては興味のない様子の彼女は、相変わらず自分のペースで言葉を続けていく。


 「さてと、それじゃあ気を取り直して始めましょうか!

 シンさん、貴方のグリモワールはこれから私がしっかりと引き継ぎますのでさっさと死んで楽になって下さいね☆」


 声と同時に再び彼女が消え去る。

 しかし、先程の一撃で次の攻撃を予測し私は武器を構え彼女の首へと直撃寸前で受け止める。


 「片翼だろうと、我等が天人族を舐めるな造物!!」


 「じゃあ、今度はもう片方奪います☆」


 初めに会った敵と同じ満面の笑みを浮かべる彼女。

 敵は狂気的、快楽の為には手段を選ばぬ存在だ。


 「そう容易く奪われると思うな!!」


 再び彼女の右手に現れる先程より幅の広い片手剣、それを自分の武器で迎撃し衝撃で互いが吹き飛ばされる。


 「ほらほら、もっと全力で来てくださいよぉ☆

 モタモタしてると、本当に殺しちゃいますよ☆」


 笑顔は絶えず余裕の模様。

 私は最初の一撃で既に理解していた。

 

 彼女には勝てない。


 昨年戦ったあのローゼンが可愛く思える程の実力が目の前の彼女にはある。

 あの一撃で私は全てをこの時察した。

 

 ここで殺される。


 これまでに無い程の明確な死のイメージが頭から離れないまま、私達の戦いが始まった。

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