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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
最終節 この先も幻想は君と共に
196/325

救われたいと、救いたいと

 「ようやくここに来てくれたようだね。

 君達がここに来るのを待っていたよ」


 向かった先に居たのは、一人の男。

 こちらの姿を見ても警戒する素振りを見せず、むしろ何処か楽しんでいるかのように不敵な笑みを浮かべる様子。

 こちらを覗く常人を逸したような蒼の眼光。

 それはまるで爬虫類のような鋭い目付き。


 加えて、逆立つように短くまとまった黒い髪と黒い軍服のような衣服で全身を身を包んでいる。

 褐色の肌を僅かにのぞかせ、規則的な魔術特有の黒い印が指先から顔にまで深く刻まれている様子。


 明らかに普通の人間とは遥かに逸した存在。

 まるで神話の代表とも言えるドラゴン、そういう存在が目の前に居るだと錯覚させた。



 帝歴403年12月14日


 地下研究施設の第1階層。

 そこに位置する実験室入口前には、まるでこちらを待っていたかのように入口の前に立つ褐色肌の男が居た。

 事前にこちらが得ている情報から、例のホムンクルスの一人であるノーディアで間違い無いだろう。

 彼と対峙し俺達は警戒するも、向こうから強い敵意等は感じず何処か不気味ささえ感じた。

 強い違和感は拭えないが、俺は彼に対し一つの疑問を投げ掛けた。


 「俺達がここに来る事を分かっていたのか?」


 質問に対して、彼は答える。


 「勿論だとも、シラフ君。

 いや、ハイド君と言った方が正しかったか……。

 君の事は以前から少し知っていたんだよ。

 まさか君が例の男の子だとはね」


 「リンから聞いたんですか?」


 「半分程はね。

 そして、ノエルから生まれた君達2人の事も聞いているよ。

 ラウ君にシン君、我々と同じような仲間が今に至るまで生き残っていたのは驚きだよ。

 ノエルは帝国崩壊から研究を諦めたものと思われていたからね」


 「無駄話はそれくらいにしろ。

 お前の目的は何だ?」


 ラウが単刀直入にそれを訊ねると。

 しばらく間を開け、彼は服のポケットから3枚のカードを取り出しラウに向かって放り投げた。

 受け取ったカードにはそれぞれ、0、3、5と書かれている。

 

 「君達の探している代物だ。

 数字はそれぞれの階層を示している。

 0には我等の創造主であるアルクノヴァ及びその他の実験室全ての鍵。

 3にはもう一人のホムンクルスであるアクリ。

 そして最後の5には、ハイド君の探している例の妖精が君を待っている。

 本来であれば全員で君達への奇襲を仕掛けさっさと済ませる予定であったが彼女達からの希望があってね今回一人か二人程で我々と勝負をしてもらう。

 ルールは単純にどちらかが死亡、あるいは戦闘不能になるまで。闘舞祭経験者であればすぐに理解が出来る単純な規則だ。

 理解して貰えたかな?」


 ノーディアの告げた言葉に対して、リノエラは質問をする。


 「我々が貴方達との戦闘を放棄した場合は?」


 「我々が君達を排除する。

 ここに踏み込んだ時点で初めから逃すつもりはない。

 逃げようとしても、既に罠は発動している。

 こちら周囲に魔術を用い空間を歪めた。

 出ようとすればたちまち逆の方向から戻される。

 それを解除する方法が我々に勝つ事のみ、だから戦闘をしないという選択肢を取るのなら君達はここにしばらく閉じ込められる。

 生かしておけば我々からすると、連合軍に対しての人質として扱えるだろうからね?

 特にハイド君とラウ君の存在は向こうにとっては何より損失し難い存在だ。

 例え、シファ・ラーニルだろうと迂闊には手を出せはしないよ」


 ノーディアの言葉に俺達は警戒を強める。

 つまり、彼等との戦闘は避けられないのだと。

 こちらに勝てる計画が初めからあった上での、今回のルールなのだろう。

 容易く逃されることはまずない。

 

 「誰と戦うのかについては君達に選ばせるよ。

 まあ、ハイド君とラウ君は既にどうするか決まっているんだろう。

 私としては女性に手を上げるのは多少堪えるがこれも一応命令だからね、仕方ない。

 さて、誰が私と戦うつもりのかな?」


 ノーディアの言葉に対して、後ろに控えていた二人が俺達の前に立つ。

 彼の前に立ったのは、テナとナドレ。

 そして彼を挑発するように、テナが彼に話掛けた。


 「私達が相手になるよ。

 シラフ達は先に奥に向かってて、さっさと倒して追いつくからさ。

 そもそも私達が彼と戦う計画だったでしょう?」


 「無理はするなよ」


 「大丈夫だよ。

 信じて、必ず追いつくから。

 それと名前の件もだけど例の妖精さんについてもさ、全部終わったら根掘り葉掘り説明してよ」


 「分かった。

 ラウ、シンさん、リノエラさん。

 ここは二人に任せよう」


 彼等をここで置き去り、俺達は更に奥へと向かう。

 彼が只者ではない事、見た瞬間にそれを察した。

 だが今は二人を信じるしかない。

 それぞれの目的を果たす為に……。


 

 彼等の姿を見送り、私と例の彼女等二人が残される。

 私を警戒している素振りは見せたが、恐らく私の方が彼女達を最も警戒しているはずだ。

  

 「ここで時間を要するのもアレだ中で話そう。

 その方が君達に取っても良い条件なはずだからな」


 「そうだね、貴方は既に知っているんでしょう。

 私達の事をさ?」


 「……そうだな」


 彼女達を実験室の内部へと案内。

 白く特に障害物の無い広い空間。

 外部から見える立方体よりも少し小さい程の空間が広がっている。

 ここでなら、彼女達と本気で戦っても問題ない。

 恐らくこれまでで最も苦労する戦いだろう。

 例の敵がどれ程なのか、我々の力が通用するのか。


 拳を軽く握りしめ、彼女達の方へと振り返る。

 見た目は普通の人間。

 片方は義手や義足を身に着けているのか、多少骨格に違和感を感じた。

 そして、こちらを見ているだけで先程から一言も言葉を発していない。

 もう一人の方は一見すると背の高さや髪型から女性よりかは男に見えたが声の高さと骨格から女性。

 そして、彼女が例の敵である事に間違いない。

 それを恐らく隣の義手の女は理解している。

 その上で彼等と行動を共に行動している可能性は高いとマスターと私は事前に判断していた。

 ノワール家がシファ・ラーニルからの命を受けて匿っている存在。

 ある意味、開放者とグリモワールの所持者よりも危険視するべき存在が彼女達二人だ。


 「先程の余裕振りはどうしたんです?

 彼等にはそう言う態度を見せませんでしたよね?」


 「いや、ある意味安心したよ。

 君達をアクリ君が相手するとなると、流石に分が悪いからね。

 こちらへ向かう時、私は君達を一番危険視していたんだよ。

 ヴァルキュリアのテナ・アークス君。

 いや、ラグナロクのテナと呼べばいいかな?」


 「やっぱり知ってたんだ、僕の事。

 まあ予想はしてたんだけどさぁ。

 アルクノヴァが僕等の正体に勘付いているって事。

 今回の連合軍だって、こっちで色々と手を回して君達を処理する為に用意したんだ。

 こちらの考えたシナリオを壊されては困るからね?

 でも、それじゃあ何で彼等の前で黙っていてくれたのかな?」


 「妖精族の彼女、リーンを救う為だよ。

 私なりに考えた彼女に対しての一番の償いだからな。

 彼女を傷付けた君の存在、これ以上彼女が傷付かぬ為にここで全てを終わらせる」


 「償いね、人間もどきが人間の真似事をするのかい?」


 「そうだな、私達は君達の言うとおり偽物だ。

 だが、それを否定してくれた存在が居てくれた。

 だから本物だよ、私が今抱いてる全てがね」


 「本物か……。

 じゃあ証明してよ、私達に貴方の本物を」


 敵の魔力の高まりを肌で感じる。

 想像以上の手練である事は確かだった。

 以前として、テナの隣の人物は何ら反応に変化がない。

 ただ、魔力の揺らぎのようなものを感じる。

 警戒、あるいは何かを躊躇っているのか?

 どちらにしろ、二人を相手にする上で警戒するに越した事はない。

 

 「これより対象の殲滅を開始する」


 全身刻まれた刻印が蒼い光を放ち、全身を染め上げる。

 強大な力がたぎる。

 圧倒的な力の渦に身を任せ敵の存在を視界に捉える。


 私の最後の使命。

 これ以上彼女達が傷つかぬ為に。

 未来が奪われぬ為に。

 これまでの因縁の断ち切る為に。


 目の前の存在を倒せ。


 アレは敵だ。 


 我等がマスターの敵。


 世界の敵。


 私の敵だ。


 「さあ来い、侵略者。

 お前達が奪った物、今度は私が奪ってくれる!!」

 

 蒼き光を放つ漆黒の剣を手に、目の前の敵へ斬りかかった。

 


 戦闘開始から数分程が経過。

 初めはこちらが優先であった。

 しかし互いの攻撃は互角程度、一撃の威力はこちらが数段上に対して速度やその精度は向こうが僅かに上であった。

 女二人に対して油断していた訳ではない。

 万全のはずだった、しかし徐々に戦況は変化していた……


 「っ!!」


 私の渾身の攻撃が空を切った。

 攻撃の余波が辺りに広がるも、そこに敵の姿はない。

 瞬間背後から攻撃が迫るも、寸前のところで受け止め敵の攻撃がいなされる。

 いなした攻撃によって生まれた僅かな隙を狙い反撃に移るも遠距離からの狙撃が左肩を穿つ。

 僅かに私が怯んだ瞬間に、間合いを取られ反撃の機会を私は失った。


 敵の攻撃の練度は非常に高い。

 テナは前線からレイピア状の鋭い剣から連撃を繰り出し、後方から例の謎の女が援護射撃を放って来る。

 私に対しての立ち回りとしては完璧だろう。

 遠距離からの射撃と近距離からの凄まじい連撃がこちらへの反撃の機会を奪っていく。

 こちらの戦力を十二分に把握している、そのつもりなのだろう。

 こちらを向かい撃てる状況を敵も想定していた。

 

 「いや、君達が彼等よりも何枚か上手か……」


 狙撃によって貫通された左肩は今は既に完治。

 普通の人間であれば痛みで動けないはずだろう。

 敵の実力は想像以上、己の警戒意識の足りなさを痛感した。


 「降参でもするつもりかな?」


 テナの言葉に否定は出来ない


 残りの体力、魔力を踏まえてこちらは圧倒的に不利。

 向こうが更に戦力を隠している可能性も否めない。

 奥の彼女が使っている武器は恐らく神器。

 テナ自身も神器を隠している可能性がある。


 計算を誤っていた。

 神を相手に勝てるだろうと、英雄面をしていた自分。

 何処かで自分は初めから間違っていた。


 ふと浮かんだ先日交わした彼女との通話。

 

 再び会いたいと私は何処かで望んでいた。

 生きて再び会いたいと、覚悟が甘かったのだ。

 

 「やはり生きて帰りたいというのは甘えだな。

 お前達は強いよ、今の私よりもな」


 覚悟が足りない。

 力が足りない。

 

 脳裏に浮かんだクレシアの影。

 私を変えてくれた存在。

 今の私をくれた存在。

 一人の人間として認めてくれた存在。

 また会いたいと何処かで願っている自分が居た。


 「私よりも強い存在か……。

 こんな形であの時の約束が果たされるとはな……」


 「何を言ってるの?」


 「だだの戯言だ」


 命尽きるまで戦え。

 それで彼女達の立つ場所まで届きうるか?。


 この力にはまだ先があるはずだ。

 

 その代わり、後戻りは出来ない。


 使えば最後、必ず死ぬ。


 所詮は諸刃の剣だ。


 私自身も失う。

 

 だが、私の守りたいモノを失うよりは遥かにマシだ。


 だから……


 「済まないな、私はもう後には引けない。

 君との約束を果たせない事、どうか許して欲しい」 


 この場に居ない存在に対して私は呟いた。

 再び武器を構える。

 全身魔力が更に上昇し、蒼い光が更に激しく発光する。

 やがて強い光は形を成していく。



 マスターが私に授けた神をも屠る可能性の力。


 我等の敵は神らしい。

 神話等で語り継がれる神々という存在。

 神殺しの研究をマスター達は行っていた。


 その過程として私が生まれた。

 これまでのホムンクルスの素体に、とある種族の力が植え付けられた。


 古の時代、世界で最も恐れられていた最強の種族。

 天人族、まして既に滅んだ魔族や妖精族等からも畏怖の対象とされ恐れられていた種族が存在した。

 

 龍神族。


 それが、この世界で最も恐れられていた種族の名だ。


 古の文献でのみ、その存在は記述されており帝国が支配していた時代も長らく空想の種として扱われていた。

 しかし結果は実在していた。


 マスターが何処からか入手した龍神族の亡骸の破片から、その遺伝子を採取し既存のホムンクルスに組み込み生まれた存在が私である。

  

 全身に刻まれた魔術の刻印は、龍神族の力を抑える為の代物。

 あまりに強大な力故に、マスター自らが封じたのである。

 使えば最後、素体はその形を保てない。

 素体はヒトの形を保てず、その自我も徐々に崩壊していく定めなのだ。


 己を龍に近づけ、ヒトの理を超える力を得る事。


 それが私に出来る力の全てだった。


 

 意識が薄れる。

 莫大な力の渦に飲み込まれていく。

 これまでに感じたこと無い強大な力だった。


 化け物でも構わない。

 

 私の定め、そして覚悟の証だ。


 鱗のような蒼き光の塊が全身を埋め尽くす。

 自身の背から生える蒼き光の巨大な翼。

 その姿はもうヒトでは無かった。

 ヒトでは無い存在。


 世界に畏れを与えた龍そのものと化していた。


 「来い、ヒトの子よ。

 このノーディアが、我が道を阻むであろう全ての存在全て喰らい尽くしてくれよう!!」


 例えもうヒトに戻れなくとも。

 ワタシは己の救いたいモノの為に戦うだけだ。

 

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