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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第三節 救済への抵抗者
182/327

悔いず、守り抜く為に

帝歴403年12月4日


 お互いの実力は全くの互角。

 繰り広げられる高速の剣技に、俺は必死に食い付く。

 互いの全力。

 いや、互いの意地の張り合いの方が的確だろうか。


 「それが、貴様の全力かハイドっ!!」 


 腕が壊れる程の凄まじい衝撃が全身を貫く。

 痛みは既に、限界を超えていたに等しい。

 だが、己の意志でそれを振り払い。

 負けじと、俺も力技のように剣を振るう。

 

 「負けられない!!

 ここで、俺は負ける訳にはいかないんだ!!」


 俺が扱うのは灼熱を巻き起こす炎の剣。

 目の前に立ち塞がる騎士の剣に目掛け振るう。

 凄まじい衝撃が、攻撃を放った自らにも降り掛かってくふ。


 そのあまりの威力に、互いの肉体が吹き飛ぶ。

 

 飛ばされた瞬間、意識が僅かにもうろうとする。

 だが、倒れる訳にはいかない。

 すぐに立ち上がり、俺は再び剣を構える。


 目の前の騎士も同様だった。

 光を通さないかのような黒の鎧に身を包んだ騎士。

 その表情は全く伺えない。

 しかし、兜の向こうから見据える眼光はこちらをしっかりと捉えていた。

 

 目の前の彼には俺に負けられない理由がある。


 それは、俺にも同じ事だ。

 俺にとって、それは家族。

 そして、自分の信念の為。

 そして、それは大切な存在を絶対に守ると誓った為だ。


 目の前の騎士、クラウスの理由は何なのだろう……。

 国の為か?

 それとも自分の為?

 亡くした恋人の為?

 いや、そんな事は俺に関係ない

 

 「っ………!」


 敵を見据え、剣を再び振るう。


 今は勝たなければ、意味が無い。

 己の誓いを守りたければ、目の前の騎士を倒す他ないのだ。

 全身の力を振り絞り、両者は再び踏み込んだ。

 互いの剣が再び衝突する。

 

 「…っ!」

  

 「これ以上、繰り返せば確実に死ぬだろうな……」


 「脅しのつもりですか?」


 「宣告だよ。

 残りの全てだ。

 これから君の命を奪い尽くしてでも私は君を止める。

 それが例え、君を殺す事になろうとな……」


 「俺はそれでも、今この場で貴方を超えなければ前に進めない!!

 大切な存在を守る為に!!

 もう家族は失わせないと誓ったんだ!」


 「そうか」


 目の前の剣を振り払い、俺は剣を構え直した。

 今の俺自身に出来る、全力で……。

 俺は目の前の騎士を超える!!


 それに応じるかのように目の前の騎士も武器を構えた。

 黒の甲冑が、一際強い威圧感を放つ。

 その手に構えた剣に莫大な魔力が込められているのは言わずとも理解が容易い。

 膨大なソレ故に、周りの空間が僅かに歪んでいるのだから………。

 

 「っ!!」


 「来い、ハイド!!」


 幾度も、剣を交えた。

 いつ終わるとも分からない戦いだ。

 お互いを突き動かすのは、もはや心のみ。

 どちらかが折れるまで続くのだろう……。




 どれだけ交えたのだろう。

 日は既に暮れていた。

 終わらぬ戦いに観客は次第に去っていき、気付けば数人がちらほらと見えるだけである。


 ただ自分達にはどうでも良かった事である。

 目の前の敵は倒れていないのだから。

 

 やるべき事は決まっている。


 目の前の敵を越えるのだと……。


 「まさか、君がここまで耐えるとは思わなかったよ」


 「俺もですよ。

 この戦いがここまで長引くとは思ってもみませんでしたから」


 お互いの体は既に満身創痍。

 限界など既に幾度も超え、体中は傷まみれの状態であった。

 

 黒い鎧兜に包まれていたクラウスさんであったが、既に深層解放の状態は解けていた。

 自分も既に同じ状態、学院の制服に身を包んでいるが剣を幾度も交えた影響でところどころが切れていたのだから。


 「お互いボロボロだな。

 全く、シファさんも困った人だよ」

 

 「どういう意味です?」


 クラウスさんのそんな言葉に俺は思わず尋ねた。

 何かを悟ったのだろうか、クラウスさんは隠すつもりも無かったようですぐに返事を返す。


 「単純な話だ、君と私は何処か似ている。

 お互いどうも負けじと意地を貼り続けるんだからな。

 同じ師を持った者、同じ存在を家族として過ごした事、君と私はいずれこうなるだろうとあの人は初めからわかっていたんだろうな」


 「……、そうですか」


 「ただ、これで踏ん切りが付いたよ。

 もう何も惜しむ事もない」


 そう言うとクラウスの持つ剣が再び強く発光する。

 全身が黒い霧のような物に包まれ、その霧は持ち主の剣へと集中し黒い光を放った。


 「お互い、あと一撃くらいは全力で行けるだろう?

 それで決着を付けよう、ハイド君」


 クラウスさんの提案に、俺は応じ彼と同じく剣を構え自らに残された全ての魔力を剣に込めた。


 凄まじい炎の塊から熱量が溢れる。

 剣を持つだけでもやっとだろうが、それでもここで全てを終わらせる為に目の前の存在を見据えた。


 「受けますよ、その提案。

 残りの全力を全てこの剣に込めます」


 あと一撃。


 そうは言ったものの、俺は既に限界だった。

 そして、残りの魔力の量もほんの僅かに等しい。

 向こうの余力に比べれば半分にも満たないかもしれない。

 しかし、長続きはしないのはお互い同じ。

 クラウスさんの提案に乗るのは、俺にとっても良い条件なのは事実なのだ。


 しかし、勝ち目は薄い。

 向こうの方が余力があるのに対して、こちらは既にその余力もほんの僅かなのだから。


 ふと誰かの声が聞こえた気がした。

 何処かで聞いた事のある人の声、いや……


 「それで終わりなの、サリアの騎士っていうのは?」


 思わず俺は声の方向に視線を向ける。

 声の主の手が俺の剣に触れられ、そしてその人物の姿が視界に入り驚愕した。


 「ルヴィラさん……?」


 声を聞いた刹那、辺りの時間が凍り付いたかのように止まった。


 

 辺りの時間が鮮明とゆっくりに流れる。

 こちらの声に気付き、かつての彼女が僅かに微笑むと呟いた。


 「しばらく振りだね、シラフ」


 「どうして、あなたが?」

 

 「そうだな、突然消えてしまって申し訳ないよ。

 でも、君はあの人に無事会えたようだ」


 「リンの事ですか?」


 「勿論、君の思う通りだよ。

 そして私はあの人に作られた幻影、この世界には本来存在してはならない存在だ」


 「あなたは、存在していけない人ではありませんよ」


 「相変わらず、君は甘いな本当に」


 彼女はそう言うと俺の手を強く握り、告げた。


 「あの人を救って欲しい、それが私の願いだ。

 君に託すよ、私に残されたもの全てをね」


 そう告げると彼女の体は光に染まり、徐々に姿が消えていく。


 「ルヴィラさん!!」


 「私は君の中に残り続けるよ。

 ハイド・カルフ、君は私が唯一認める可能性なのだから」

 

 彼女の存在が消えたと同時に、体が震えた。

 自分の体の中で何かの枷が解き放たれたかのように。


 意識は戦いへ戻される。

 一瞬に開幕見た、夢の光景。

 しかし、夢のようであって光景が事実であったのか自身の魔力が先程よりも遥かに増大していたのだ。

 

 それも試合開始前よりも遥かに高く。


 「そうか、夢じゃなかったんだな」


 思わずそんな事を呟き、俺は剣に再び力を込める。

 彼女が俺に託した力、つまり彼女も望んでいたのだ。


 リンを救って欲しい。


 俺と同じく、彼女もそれを望んでいた。


 「必ず救いますよ、あいつを……」


 魔力が昂ぶる。

 目の前の存在を必ず超えろと俺の本能が告げていた。


 剣から炎が溢れ、俺の体を再び包み込んだ。

 先程よりも遥かに熱く、俺の全てを燃やし尽くすかのように……。

 

 以前のような恐怖はない。

 そこにあるのはただ勝ちたいという想いだ。

 

 闘志は果てない、心は折れない。


 助けたい人が、守ると決めた人がいる。

 

 もう二度と目の前で失わせないと俺は誓った。

 

 全身を包み込んだ神器の炎は、再び俺に力を与えた。

 深層解放という形を経て、そして以前より俺により強い力くれる。


 何かの光景が脳裏を過ぎった。

 リンと再開したあの日、俺を守った謎の男の存在だ。


 声が聞こえた時既に、目の前にいたはずの妖精は真紅の光に吹き飛ばされていた。

 あまりの威力に、妖精はよろめくが空中ですぐに体制を取り直す。

 突如現れた第三者の介入、この場にいた三人の誰もがその存在をあの真紅の光が現れるまで知覚出来なかったのだから。


 「よく耐えたな。

 同じサリアの騎士だった者として、君を誇りに思うよ」


 「……あなたは一体?」


 俺のの目の前に現れた一人の男。

 手に握られているのは、身の丈程真紅の剣。

 そして、その背には悪魔を思わせる禍々しい片翼が生えており目の前から放たれる魔力が自分との実力差を言わずとも俺に痛感させる。

 

 「私か?

 そんな事はどうでもいいだろう

 話は後だ、今は戦いの途中だろう?」


 男は告げると、傷を負っている妖精が男の方を睨んでいた。


 「さっきのは効いたわ、あなた何者?」

 

 「そんな事はどうでもいい。

 君が危険因子である以上こちら側で排除させてもらう」


 「あなたに、私が殺せるとでも?」


 男は僅かに微笑むと、その姿が忽然と消える。

 その瞬間、妖精の持つ剣と男の剣が衝突した。

 互いの剣が衝突するも、その力の差は歴然だった。妖精の体が男の剣に力負けし更に上空に吹き飛ばされた。


 「っ!!」


 妖精が上空に吹き飛ばされるを少し眺めると、男はその身の丈程の剣を構えた。


 「ヘリオス開放……」


 男の言葉に反応し、剣が炎に包まれる。

 炎の元となっているのは、男の右腕にはめられている赤みを帯びた腕輪だ……。

 その炎の熱量は地上にいるハイド達にまで伝わっていた。仮に彼が地上に居れば、その大地ごと焦がしえるだろうか、灼熱をも遥かに超えた熱量に剣が包まれる。


 先程放たれた真紅の光とは桁違いな威力だろうと。

 男の放つ炎がもう一つの太陽だと錯覚させる程に遥かに膨大な力が込められていたのだから……。

 炎の光が最高点に達した瞬間、男はその剣を流れるかのように振るい、妖精の居る上空に向けた。


 ●


 目の前の存在は力を貯めていた。

 そして俺は、先程の光景で確信に至りゆっくりと剣を構える。


 膨大な魔力が剣に込めれていく。

 

 「まだ、足りない」


 俺は強く、あの日の事を思い出していた。


 自分の無力さを


 あの時対峙したリンに届かなかった事を


 最後に開幕見た、あの男の強く燃え盛る炎を……


 強く刻み込め、俺がもう繰り返さないと誓った事を。

 

 再開を果たし、俺を彼女は裏切った。

 

 理由が今も分からない。

 それでも俺は彼女を救いたい。


 彼女の存在が偽りであろうとも。

 

 あの炎が使えれば、あの日の炎が使えれば俺の力は彼女に届く。

 絶対にもう、失わせない。

 だから……、


 ●

 目の前に立つ一人の少年に私は驚いていた。

 数時間もの間、私と彼は剣を交えていたにも関わらず彼は折れず私に付いて来て見せたのだ。


 そして今、再び私に狂人のように何度も何度も立ち上がる彼の姿を見せられていた。


 本当に君は強い、サリアに居た頃のかつての彼の姿とは既に違っていた。

 誰にも認められず、評価されず、無能煽られ続けた彼の面影はない。


 覚悟を決め、守ると決めた存在を守る騎士としての姿を体現としていた。

 決して折れない、屈しないその姿。


 「全力で応えよう、ハイド!」


 いつの間にか超えられていた。

 かつての弱かった彼は、既に私に追い付きそして越えようとしている。

 私もそれに応えよう、私を越えようとする彼の覚悟に悔いぬ為に。


 彼の剣に込められた炎の魔力は更に増大していた。

 光はあまりにも強い、目の前にはもう一つの太陽があるかのように。


 今の彼を体現するかのようなモノ。

 世界を照らし、新たな時代の先頭に立つ存在だと私に示しているかのように。


 光が更に増大する。

 つまり、今までのアレは底では無いのだ。

 

 あの攻撃を私は何処かで知っている。

 あれな、かの英雄が使っていた、最奥の技だという事に気付いた。


 まさか彼は既に使えるというのか……。

 かの英雄の技、アインズ・クリュティーエを……


 彼から放たれる光は更に強く輝き続ける。

 そして、放たれた光の輝きが最高点に達した刹那……

 

 「アインズ・クリュティーエ!!」


 彼から発せられた技の名と同時に私も同じく剣を振るった。

 彼から放たれる無数の光の塊。

 私から放たれた黒い光を当然のようにかき消すが如く、莫大な光と熱量の塊がすぐそこに迫っていた。


 互いの光が衝突した瞬間、目の前の光景がパタリと暗転した。

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