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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第三節 救済への抵抗者
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求める者、拒む者へ

帝歴403年12月1日


傷でまだ痛む体を動かし、俺はある人物の元に向かっていた。俺が可能なら最も関わりたく無い人物、しかし奴以外に適任はいないだろう……。

 部屋の扉を開けると、清潔な空間が広がる。

 自分以上の傷を負い、そして手足が不完全な状態で修復されていた。その中、目的の人物は暇そうに外を見ている。

 俺の気配には既に気付いていたのか、こちらを振り向かずに言葉を告げる。


 「何の用だ、シラフ。お前がわざわざ私の見舞いに来る程の事では無いだろう。」


 「見舞いじゃない、話がある。」


 「リーン・サイリス。彼女の事か?」


 「それもある、だが聞きたい事は違う。」


 「………、」


 「お前は、姉さんの目的を知っているんだろう?一体何が目的だ?」


 「カオスの討伐、それが我々の目的だ。」


 「カオス……何者なんだ?」

 

 「……お前達、人類の種族神を司っていた創造主。異種族間戦争の発端を作った存在。オラシオン帝国創生に関わり、崩壊へ至らした存在。そして、シファ・ラーニルが生涯を賭して復讐しようとしている存在だと言えば分かりやすいだろう。」


 「っ………姉さんが復讐?」


 「そうだ。サリア王国、いや十剣という組織はその為に作られた存在。今回、私を襲撃したリーンは彼女の計画の一番の障害となり得る為に排除を決定した。それが、彼女を殺す理由だろう。」


 「どういう事だよ!何の為にそんなふざけた真似を……。姉さんが復讐の為にって……そんなことあるはずが無い!!」

  

 「しかし、事実奴が十剣を仕切っているのは事実だ。そして、現にこうしてお前に直接彼女を殺す任務参加させるか否かを選ばせたのだろう?」


 「っ……。」

 

 「……シラフ、お前はまさか本気で彼女を救うつもりなのか?」


 「当たり前だ、大切な家族だからに決まっている。」


 「やめておけ、彼女は絶対に救えない。」


 「やってみないと分からないだろう。」

 

 「物理的な問題の話だ。論理的問題では無い。」


 「どういう事だ?」


 「例えお前が仮に彼女を助けられたとしても彼女は長く生きられない。神器との無理な契約、そして1人の肉体には有り余る程の強力な力。それ故、既に彼女の身体は限界を超えていた。せいぜい保ったとして二週間程の命だろう。」


 「二週間………、そんなことあるはずが……。」


 「今更、私がお前に嘘をつく理由があるか?」


 「何か手は無いのか?」


 「無い。それは、お前が一番分かるだろう?」


 「っ………!」


 「どうするつもりだ?彼女が長く無い命と知った今、お前はどうする?」


 「関係ない、それでも俺は家族の為に戦う。」


 「それが、世界を敵に回す行為であろうと?」

 

 「当たり前だろう。」


 「そうなれば、お前はともかくその周りの者達がどう思う?サリアの王女、お前が仕えるべき主はどう思う?」


 「っ…わかってる、だが……。」 


 「それにお前一人が逆らったところで勝算はあるのか?相手は十剣、そしてサリア最強の騎士団ヴァルキュリア。更には、お前の姉であるシファ・ラーニルを敵に回すという事だ。どこに勝ち目が存在する?」


 「諦めろと言いたいのか。」


 「長い目で見ればそう判断するのが最適だ。」


 「………。」


 「何故、お前はそこまで彼女に拘る?」


 「……、……俺はもう誰も失わせない、そう決めたんだ。大切な誰かを失って後悔しない為に……、」


 「後悔しない為か……。」 


 沈黙が空間を支配していた。俺の言葉を受けて、奴は何かを考えていた。俺への侮辱か、あるいは軽蔑への言葉を言うつもりなのだろう……。

 だが、俺の予想を奴は裏切り、答えを出した。


 「シラフ、彼女を助事での大義名分は何だ?」

 

 「大義名分?」


 「彼女を救う事。その行為に対して世界にとって、サリアにとっての利益は何だ?」


 「利益だと……。」


 「その答えを考えてみろ、もしお前が相応の返答を出せたのなら再び私の前に来い。その時にはお前の反逆に手を貸してやる。」


 「ラウ……お前……。」


 「猶予は与えた、時間が惜しい。答えを得たいのなら先を急げ。」


 「……、そうだな。」


 俺はそう答え、部屋を出た。

 奴が、何を思ったのかそんなことは関係ない。

 今は、答えを探す事に目を向けろ。


●  


 ラウにそう言われたものの、俺はその答えに悩んでいた。

 奴の居た病院から出て既に3時間が過ぎており、辺りは既に暗くなっていた。

 

 「彼女を救う事。その行為に対して世界にとって、サリアにとっての利益は何だ?」


 奴が俺に出した条件、リンを救う事での世界において、サリアにおいて、十剣においての利点が何なのか……。

 奴の出した条件には意味がある事くらい俺自身も分かっている。家族だから、それでは絶対に国や組織を動かせない。個人の感情はそれ等において全くの別問題だからだ。

 もし、それを可能にしたいのならば組織を納得させる大義名分。つまり、彼女が生きる事でのサリアや十剣、そして姉さん達においての利点がある事が大前提でなければならないのだから。

 

 「難し過ぎる……家族同士の感情以外での理由僅かな日数で見つけろなんてな……。」


 俺はため息をつく、どうにもならない途方な目的。しかし、ようやく掴んだ手がかりだ……。

 奴が俺に対して与えた助言、何の意図があっての事かは分からないが奴の実力は一度戦った俺だからこそ、ある意味信頼出来る……。

 

 「……時間が無いのは確か……なんだよな。」


 リン、彼女にはあまり時間が残されていない。奴は俺にそう言った。例え救えたとしても、共に居られるのは僅か二週間程度……。

 神器との無理な契約……それが原因だとも奴は俺に言った。

 俺がリンと別れての期間、彼女は何らかの目的の為に神器との契約、そして戦う術を学んでいた。

 

 「俺を殺す為に……、どこで俺達は踏み間違えたんだ……。」


 「そんなところで何をぶつぶつ言っているの?」


 声を掛けられ振り向くとそこには、小さな羽をぱたぱたとさせこちらに近づいて来る妖精の姿だった。


 「リン……。」


 「もしかして、私の事とか考えてた?」


 「その通りだよ、悪いか?」


 「……別に、でもごめん……。こんな事にまでなるとは思わなかった……。」


 「………違うな、分かっていたんだろ。こうなるって、お前は……本物のお前は俺を殺しに来る事も……。」


 「………。」


 「俺の過去、何があったかは聞かないけどさ……。でも、分かるんだよ……それだけは何故かな……。」


 「そっか……。」


 「リン……。もし、俺が力を取り戻せたなら姉さんにも、本物のお前にも勝てると思うか?」


 「……それだけでは勝てないよ……。特にシファ姉にはね……。」


 「やっぱりか……俺もそう思う。姉さんは明らかに他の人達とは別次元の存在だ……。解放者となったにしても、姉さんに勝てる想像が全く湧かないんだ……。」


 「………彼女は、特異点……。世界が産んだ、神にも等しい力を持っている。だから、解放者となったとしても、神の一端に触れた程度では決して勝て無い。」


 「でも、勝てる方法はあるんだろ?」


 「………あまり勧めないけどね……。それは……」


 「未来から来た俺自身の戦闘経験を今の俺に引き継がせる。そう言いたいんだろ?多分、そういう経験とかもリン、お前が持っている。」

 

 「……そっか、分かってたんだ。」


 「そうだな。だから、それ込みでお前から力を引き継げば俺は姉さんに勝てる可能性を得られる。」


 「………未来のハイド。あなたが何を見ていたのか分かる?」


 「………さあな、特に興味は無い。いずれ俺自身が知る事なんだろう?」


 「そうだね……それを少し早く知るだけの事。でもきっと後悔する……だから……。」


 「今は控えろと言いたいのか?本物のお前を見捨ててでも。」

 

 「それは……違う、でも……。私はあなたに悲しんで欲しくない。」


 「………そうか、でも大丈夫だよ。俺に悲しみは無い、ただ大切な存在を悲しませない為に戦うんだからさ……。」


 俺がそう言うと、リンは俺に飛び掛かる胸に体を埋める。小さな体で非力ながらも、俺に話掛ける……。


 「そうじゃない、そうじゃないの……。」


 「リン……?」


 「私はあなたに苦しんで欲しく無い。これ以上あなたが傷付くのは見たく無いの……。」


 「………。」  


 「これから先、あなたは多くの物を失う。本物の私だけじゃない、それ以外のあなたにとって大切だった存在の多くを失うの……。私はそれを知って欲しく無い、例え先延ばしするだけだとしても知って欲しく無いの!!」


 「そうさせない為に、未来の俺は今の俺に託したんだろ……だったら、」


 「もう遅いの……もう既に起こっていたの……。今となってはもう絶対に覆る事は無いの……!」


 「………。」


 「だから……お願いだから……もう戦うのは辞めて……。お願い……あなたが壊れるのを私はもう見たくないの!!」


 「俺はそれでも前に進むよ……大切な存在を一人でも失わせずに済むのなら、尚更な……。」


 「………。」


 沈黙が支配した、奴の時とはまた違う沈黙……。

 数分……、そして1時間と過ぎた頃に再びリンは口を開いた。


 「ハイド……本物の私が何を成そうとしているのか、その目的が何なのか分かる?」 


 目の前の小さな妖精の問いに対して俺はゆっくりと答える。


 「………今までのお前を見れば何となく……いや、もし自分があいつの立場ならどうするかを考えれば何となくわかってきた……。」


 「そう……。」


 「リン……あいつは俺に殺される為に生きて来た……そうなんだろう?」


 俺の出した1つの答え、それに少しの間を開け妖精は答えた。


 「私は……本物の私の望みはあなたに殺される為だけに今日まで生きて来た……。」


 そして、目の前の妖精は残酷な言葉を俺に告げた。


 「彼女は……あなたの生み出したもう一つの幻影……。あなたは私と彼女、二人の幻影を生み出していたの、共に居られる存在と共に居られぬ存在を……あなたは生み出していたの……。」


 それは、俺が最も考えたく無かった最悪のシナリオを告げる言葉だった。

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