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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第三節 救済への抵抗者
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揺れ動く者

帝歴403年11月28日


 シファ達の介入により、追い出されたルーシャとクレシアは最寄りの喫茶店で時間を潰していた。


 「……、これからどうなるんだろうね……。」


 「分からない。私やルーシャが何か出来るような事は無い事は確かだよ。むしろ、私やルーシャの存在がこれからの障害になるかもしれないし。」


 「そうだよね……。」


 二人に沈黙が続く。二人が考えていたのは、例の事件の様子だった。

 ぶつかり合う二つの炎、圧倒的な実力差で追い詰められた彼の姿。こちらを逃がす為に、必死に叫んだ当時の彼の姿だった……。


 先に沈黙を破ったのはルーシャだった……。


 「クレシアはさ……彼に告白した事を悔いてるんでしょう?」


 「っ……。」


 「見てれば分かるよ、彼に告白したから……。そして、その場から逃げ出した事を後悔してる……。」


 「そうかもしれない……。」

 

 「私はその機会を取り逃がしたからさ……、事件の事は仕方無い……。それに今は、そんな事をしてる状況では無いから……。」

 

 「…………。」


 「私は、クレシアは凄いと思うよ。自分の気持ちをしっかり伝えられるんだからさ。闘武祭の時だって、私よりも真っ先に彼の為に動けた。」


 「それは、あの状況で彼を放っておくなんて出来なかった……。幼馴染と知る前だって、何故か彼を放っておくのが危ない気がしてたから…。」


 「そっか……でもそれは簡単には出来ないよ。私だって彼の元に向かいたい、でもさ王女の身分が邪魔をして彼と向き合える機会が無かった……。」


 「そんな事……あり得ないよ。だって、ルーシャは一番の彼の理解者でしょう。」


 クレシアのその言葉に、ルーシャは首を振る。


 「一番の理解者はシファ様やリンちゃんとかだよ。一番近くで彼と過ごしているんだからさ……。」


 「それは、家族だから仕方無いよ……。」

 

 「確かにそうだけどさ……。私の知らないところでいつの間にか彼が傷付くのを見たく無いんだ。あの事件の時だって、あの場で彼を見捨てる事をしたく無かった……。」


 「ルーシャ……。」


 「あの場で逃げれば、確実に彼が死ぬ事くらい無知の私でも理解出来た……。でも、彼が私達を守ろうとしている意志を投げ出すような真似はしたく無かった……。」


 「………。」


 「今の私達が、彼の為に出来る事は何なんだろうね………クレシア……。」


 姉さん達が出て行ってしばらく経った。

 1時間が過ぎ、姉さんから与えられた選択が脳裏に過ぎる。


 「私達の任務に参加するか、しないかの選択だよ。家族を殺める任務、あなたはあの事件の当事者だからどちらか好きな方を選びなさい。」 


 姉さんの言葉が、とても冷たく刺さる。

 あれは本気だ。

 身内だから、分かる。一番近くにいたから、冗談なのか本気なのかくらいある程度図れる。

 そして、今回は紛れもない本気だ。

 姉さんは……シファ・ラーニルは確実にあのリンを殺そうとしている。

 

 「失礼します。」


 俺の思考を破るように入って来たのは、天人族の彼女リノエラだった。

 純白の羽、そして姉さん程には無いにしろ溢れんばかりの美貌に俺は多少驚く。

 リノエラはそういう俺を気にする事なく、ベッドの横に置いている椅子に腰掛け話し掛けた。


 「プロメテウスの契約者に会えたんですよね、シラフ………。」


 「恐らく……はい。」


 「妖精族……、あなたの知り合いなのでしょうか?」


 「昔、家族として暮らしていた存在です。けど……今は…。」


 「………。」


 「今日、姉さんから言われたのは彼女を殺す任務に俺が参加するか否かでした。」


 「あなたはどうしたいのですか、シラフ?」 


 「どうしたいんでしょうね……。家族だと思って……そして死んでいたと思って……そしたら今度は俺を殺す為に現れた……。もう何がなんだか分からないんですよ……。」

    

 「……私はシラフの意に従います。天人族としてではなくリノエラ・シュヴルの意志として。それが復讐であれ救済であれ私はあなたの剣となり盾となります。あなたの目指す物の為なら命を賭す覚悟ですから」


 「………俺が開放者であるからですか?」


 「それもあります。ですが、開放者があなたであるからなのかもしれません。」


 「俺だから?」 


 「……あなたの強さには、神器の力や素質以外の強さがある。だから、私はあなたの為に力を尽くしたいんです。その強さの先に何があるのか、それを私に見せて欲しい。」

  

 「………強さ。でも、俺は強く無い。現時点でこの様ですから。」


 「強くなる方法が無い訳ではありません……。」


 「どういう言葉です?」


 「幻影と呼ばれる存在を、以前からあなたは創っているのでしょう?シファ様と共にいたあの小妖精……彼女があなたの幻影だと魔力から分かりました。」

  

 「そうかもしれません、あいつは俺の意志が生み出した存在だと自身がそう言っていましたから。それと強さに何の関係が?」


 「神器使いには、ごく稀に幻影を持つ存在がいるそうです。神器使いの生み出した幻影には意志がありそして、神器使いの力を分ける事で維持する事が出来る。」


 「その一人が俺ですか……。」


 「はい……。幻影の持つ力を契約者に返す事が出来れば神器使いは本来の力を取り戻せる。あの小妖精の彼女がどれほどなのかは存じませんが、あなたの本来の力の半分以上を彼女が背負っているのは確かです……。」

 

 「っ……!じゃあ、力を取り戻せば俺は強くなれるって事ですか?」


 「はい……。開放者であるあなたなら、更に強くなれるでしょう……。ですが……」


 「……ですが?……あの…一体何があるんですか?」


 「力を取り戻せたとして、成功失敗問わず、その幻影は世界から存在そのものを消されます。」


 「世界から……存在を消される?そんな……あり得ないですよ、誰かが消えるなんて……あり得るはずが………」


 そこで俺の思考が、行き着いたのはある人物だった……。

 今月の始めから、ルームメイトととして暮らした天才、ルヴィラ・フリクの存在が……。

 舞踏会の10日程前に、その行方……いや存在が学院中から消えたのだ……。

 覚えているのは……自分だけ……。

 彼女存在が浮かび、現実的であると俺は受け入れていた……。


 「思い当たる節がありましたか……。」


 「消えた存在は元に戻せないんですか?」

 

 「はい、そう伝えられています。ですが、短期間で強さを得るにはこれが最善だと判断します。幻影の素は契約者自身の辛い過去の現実逃避から生まれるそうです……。自身のそれを受け止め、幻影との決別を遂げる時、更なる力が得られる……と。」


 「っ……。あいつは家族だ、家族同然の存在だ!家族をまた失うような生活なんて認める事は出来ない!」

 

 「………本物の家族が目の前に現れた今としてでも言える事ですか?」

 

 「っ!」


 「本物が目の前に現れた……例えどんな形であれ彼女はあなたの前に現れた。だったら今度はあなたが彼女の元に向かうべきです。」


 「リノエラ……。」


 「家族をまた失いたく無いんでしょう……。それなら、本物を失う前にあなたが動かないでどういうつもりですか!」


 リノエラのその言葉に何も答えられ無かった。

 自分の迷い……それが何なのか……。


 大切な存在を失う事への恐怖だと……。


 だが、彼女の言葉で俺の意志が決まった。

 それが何を意味するのか、これから待ち受ける困難がどれ程なのか想像したくもない。

 ただ……。


 「そうだな……、あなたの言うとおりだよリノエラ…。」


 俺は決めたんだ、もう誰も失わせないと……。

 大切な存在を必ず守ってみせる……。

 だから……、


 「俺は彼女を救って見せる!世界を敵に回そうとも彼女が俺を殺そうとも、俺は俺の大切な家族を……存在を守りたい!!だから、リノエラ俺に力を貸してくれ。」

 

 俺の言葉を聞き、それを待っていたのか立ち上がり椅子を退けると膝を付き俺に向け頭を下げた。


 「あなたの大義に、我が命を預けます。救いに行きましょう、あなたの大切な家族を……。」


 

 覚悟は決めた……。

 大切な物の為に、俺達は前に進む……。


 帝歴403年12月2日


 この日、学院に大きなニュースが出回っていた。

 その内容は、あの十剣がラークに現れたというもの。

 学院に、現役十剣であるシラフ・ラーニルが居る事は知れ渡っていたが、今回こちらに訪れたのは彼以外の八人……。

 現役の十剣、その全員がこの学院国家に勢揃いした事に学院全体がその話題で持ち切りとなっていた。


 「シラフ君は元気かなぁ……、もう私達より強いって噂だけど……。」


 船の甲板から、学院の方を眺める八人の人物。

 その全員の魔力が桁違いなのか、彼等から船の乗組員は威圧感により距離を取っている。


 「……開放者だと言っていたな、シファさんからの連絡だと……。既に俺達よりは強いらしいがだったら何故俺達が直接出向かなきゃ行かない。」


 「彼女の命だからだろう、それ以外にアスト卿を動かせる物があるか?」


 「彼女が我々に協力を求めた以上、それだけの事態だろう。今回に限っては、彼女も直接動くらしい……。例の物をこちらが手配しているのだからな。」


 「例の物?まさか、あの白い鎧か?」


 「その通りだ、つまり今回は白騎士が動く……。過去の例を見れば分かるはずだ。」 


 「……そうだな。で、あの二人は何を話しているんだ?ラーニルのご兄弟さん達は………」


 固まっている6人に対して、そこから距離を取り二人で何か話している人影に彼等の視線が向かう。

 視線の先にいる二人の実力が優れているのは、一目瞭然と言えていた。


 「………、クラウス。今回の目的が何なのかわかっているな?」


 「分かっています、私事は挟むなという事でしょう?」


 「まあ、そうだな……。だが、そう簡単な事では無いだろう……お前に至っては……。」


 「…………そうかもしれませんね。」


 「…………。」


 「奴はこの手で必ず殺します、どれだけ自分を犠牲にしてでも。」


 「復讐か……、この任務を志願したのは?」


 「それ以外にも、色々とありますが一番の理由はそうですよ。あなたもそれをわかった上で、私をこの任務に参加させたのでしょう?」


 「無論だ。だが、今回の任務は、十剣全員の出席が彼女の要請だったが……。」


 「………全員ですか…。」


 「噂は既に聞いているだろう、シルビア王女が最後の一人に選ばれたと。あれはどうやら本当らしい。そして既に実力もかなりの物だそうだ……。」


 「俺達が抑えられない相手では無いはずです。問題は当事者である彼です。」


 「ハイド君の事か?」


 「ええ。彼は既に開放者に至った、そうなると彼を抑えられるのは……必然的にあの人です。」


 「なるほど、何が言いたいのかは分かった。」


 「それに関して、あなたの判断はどうなんですか……アスト卿?」


 「彼女の決める事だ、私にはその判断をする資格は無い。とにかくだ、任務の遂行を第一にしろ。犠牲者を最小限にする為に、身勝手な行動は慎めよクラウス。」


 「………分かっています。」

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