第十七話 強者を求めて
帝歴403年7月18日
「ええと、その………。
それでは今度は、これに手をかざして貰えますか?」
向かい合って座る眼鏡を掛けた女性が、かなり緊張しながらも右手に持った黒い板に表示されている手順通りに私達へ手続きの説明をしていた。
彼女の不慣れな様子を見るに自分で確認した方が手っ取り早いだろうが、急ぐ宛もないので彼女の言葉に従うことにする。
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氏名 ラウ・クローリア 性別 男性
種族 EEE
年齢 EEE 出身地 サリア王国
編入日 403年7月18日 4年5期生
魔力等級 一等級
学位序列 申請無し
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氏名 シン・レクサス 性別 女性
種族 EEE
年齢 EEE 出身地 サリア王国
編入日 403年7月18日 3年5期生
魔力等級 ニ等級
学位序列 申請無し
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端末と呼ばれるモノに表示された我々の情報に女性視線を向け一通り確認すると、こちらへ一つの問いかけをしてくる。
「その……闘舞祭には申請されますか?」
「闘舞祭?
何だ、それは?」
「はい……ええとですね」
女性は闘舞祭及び学位序列についての説明を一通りする。
大体ようやくすると、この国で最も強い生徒を決める祭典だということ。
上の方に立てれば、こちらでの私生活の面で色々と援助や待遇が得られるらしい。
「ですから、腕に覚えがあれば是非ともご申請を」
「シン、お前はどうする?」
「ラウ様が参加したいのであれば……。
私としても、あなた様のご意思に任せますせ。
私の方はラウ様に合わせて、検討しますので」
「なるほど、了解した。
では、闘舞祭とやらに私は参加しよう。
それで、参加するとなればどうすればいい?」
「畏まりました、それではこちらの誓約書をご確認の上で氏名をお書き下さい」
ラウは手渡された端末に表示されている項目を見通す。
主な内容は命の絶対的な保障は出来ない事。
そして、闘武祭期間中の申請取り消しは不可能な事などといった注意書きである。
一通りの資料を確認すると、私は何よ臆することなく書類にサインをした。
「はい、確認しました。
ええと、従者の方はどうですか?」
「ラウ様が登録したのであれば私も登録します」
「了解しました。
それでは……こちらの誓約書をご確認の上で氏名をお書き下さい。」
そして、私が確認したのを見届けたのを知ってるので、彼女は注意書きを一通り確認する間もなく書類にサインをした。
「はい……確認しました。
申請は完了ですね……
それではもう少しで学生寮に到着します。
こちらも情報を確認をしますので少々お待ち下さい」
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ラノワさんに案内された俺達は中央特区と呼ばれるこの学院の心臓部、王都に当たる場所に訪れ、この学院の学院長への挨拶に訪れていた。
この学院の校舎は巨大な城のようであり、黒い外壁と青い屋根が特徴的なサリアとよく似た建築技術を用いられた建造物に見えた。
「失礼します。
ラーニル家の者達をお連れ致しました」
「ラーニル家の……。
そうか、入って構わん」
ラノワがその巨大な扉を開ける。
校長室と言われるそのまま部屋は豪華な装飾品が目につくが至って普通の部屋だった。
「案内ご苦労、ラノワ君」
「恐縮です」
学院長と呼ばれるその人が俺達に優しく話し掛ける。
外見からして七十代後半辺りの男性と思われる。
やはりこの学院の長と呼ばれるだけあってかなりの貫禄があり緊張感が張り詰める。
「これはお久しいですな、シファ殿。
本日は学院への編入を希望して頂き誠にありがとう御座います。
弟のシラフ君も、先の十剣の就任おめでとう。
この学院で様々な経験を経て君の今後の活躍に役立って貰えればこちらとしては嬉しい限りだ」
「いえ、とんでもないですよ。
今回の急な編入を受け入れてくれた学院には感謝し切れません」
「それはもったいないお言葉。
サリア王国からは我々も多大な支援を受けている身ですので。
まして、十剣を受け入れられるますので、今後の彼の多大な活躍も期待しております」
「学院長、シファ様を知っているのですか?」
「勿論だとも!
彼女はサリアでも随一の剣の使い手だ。
それも、かの十剣よりも遥かに強いと噂される偉大なお方だ。
彼女以上の実力者がこの世に居るとは思えない程に」
「あの十剣よりもですか?」
「そうだな、そして彼。
シラフ殿は、昨年で十剣となったお方だ。
実力も相当、この学院で更に強く磨きかかる原石のような存在だよ」
「まさか、そんな方達だとは知らずに」
「シファ殿。
よろしければ今度、このラノワ君と後日試合をしてくれないかね?」
「試合をですか?」
「今回、案内役をしてくれた彼への褒美としてですよ。
彼も貴女様と同じく剣を使う身ですので、よろしければどうか彼に一試合をと思っておりますがどうでしょう?」
「なるほど、そうですか……。
ラノワさんはどうしますか?」
「こちらからも是非お相手を頼みたいです」
姉さんは少し考え込む。
まぁ仕方のない事だろう。
姉さんの実力は色々と危険過ぎる。
生半可な覚悟でやるような事ではないと思うが……。
「分かりました。
その試合、お引き受けします」
姉さんは引き受ける返答を返した。
何の意図があってこの答えに至ったのかが、気になるが向こうはその回答に喜びの様子を見せ、ラノワさんは僅かに拳を握りしめ、喜びを隠し切れずにいる模様である。
「そうですか。
では明日にでも!
明日の昼過ぎ、第六闘技場にて行いましょう。
いや、あなた様の剣を再び見る事が出来るとは私も若い時の血がみなぎるようなものですな!
ハハハ!!」
学院長は盛大に笑っていた。
よほど姉さんの試合に感激しているのだろう。
「シラフ……シファ姉の試合どう思う?」
「いいんじゃないのか
大きな騒ぎにならなければさ……。
それに………」
「それに?」
俺はラノワさんに視線を向け、リンに話掛ける。
「彼の実力は俺も少し気になっていたんだ。
学院最強の一席に入る程の彼の実力。
しっかりとこの目で見ておきたい……」
「ふーん。
相変わらず戦うのが好きだよね、男の子ってほんとそうじゃん……」
リンに呆れられながらも、会話はどんどん明日の試合の件に動いていく。
同じく俺も明日の試合に気分を昂らせていた。