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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 穢れし聖火の契約者
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向こうの狙い

帝歴403年11月23日


 オーケストラが奏でる音楽に合わせ、ホール内では舞踏会が開かれている。 


 「…………。」


 完璧、そうと言わさぜざるを得ない。俺と組んで踊っているのはヤマトの王女であるシグレだ。

 昨日今日しか練習をしていないにも関わらず彼女は完璧な踊りを披露していた。

 俺が僅かに動きが震えているにも関わらず、彼女はそれに気付いているのか俺に次の動きがしやすいよう目線で誘導をしてくる。

 

 「お上手です……。」


 「光栄なお言葉ね。でも、騎士にはこういうのは少しやりづらい?」


 「まあ……。文武は多少出来ても、こういう場は慣れなくて。シグレは随分と馴染めているように見えているが……。」


 「ヤマトで少し、似たような踊りの稽古があっただけよ。動きは全く違うと言えるけど、その応用でどうにか付いて行けるくらいかな……。」


 「天才肌ですね……。」


 「そうかもね……。」

   

 そして1曲目を終えると、俺達はホールの端に向かうと軽く休憩を取り始める。


 「とりあえず、1曲目はギリギリか……。」


 「よく頑張りましたね、シラフ。褒めてあげますよ。」


 「それはどうも……。何処か悪意を感じますが……。」


 「そう。ねえ、テナさんは何処にいるの?今日は私とテナさんの相手をあなたはする予定でしたよね?」


 「ええ。でもあいつの事ですし、ドレス姿が恥ずかしいから出たく無いんじゃないですかね……。確か、2年前のあれ以外女性らしい服装とか避けていたくらいですから。」


 「確かに、テナさんは男子生徒の制服を着ていましたね。」 


 「サリアの頃は、騎士団の制服……あるいは甲冑……それ以外の私服と言えば男物といった感じでしたから。」


 「両親からは何も言われなかったのですか?」


 「言われてましたよ、でも続ける内に次第に受け入れられた……。いや、呆れられて言われなくなったと言った方が正しいかもしれません。あなたが剣の稽古を無理強いに続けた事と似たような理由です。」


 「なるほど……。」 


 「流石にそろそろ来るか……。開始して、1時間は過ぎているし……。」


 俺は辺りを見回し、テナの姿を探す。

 テナは他の女性達よりも一際背が高い、だから背の高い女性を探せばすぐに見つかるはずだが………。


 「見当たらない……。目立つからすぐに分かると思ったんだが……。」


 「まだ来ていないのでは?」


 「一応、連絡入れてみますよ。」


 俺は端末をポケットから取り出し、テナに連絡を入れてみる。

 すると、俺の後ろの方から着信を知らせる音が鳴り響いた。

 突然の音に俺とシグレは驚きつつも、後ろを振り向くがそこにあるのは舞踏会に出されている軽食のテーブルだけだった。

 テーブルクロスは床に届きそうな程大きいが、テーブルの下からその音は聞こえていたようだ……。

 

 「…………、シラフ。まさかね…………。」  


 「……。」


 俺はテーブルの方を近づき、テーブルクロスを躊躇いも無くめくる。

 すると……。


 「やあ、シラフ。よくここが分かったね……。」

 「端末の着信音が丸聞こえだ……。」

 

 暗いテーブルの下には、ドレス姿のテナがいた。

 見たところ、真紅のドレスだろうか……。

 恐らく、彼女は慣れない服装故に、出るのが恥ずかしいという挙げ句の果てに彼女はテーブルの下に潜り込んでいたのだろう……。


 「何をしているんだよ?」


 「ちょっと、隠れんぼだよ。」


 「誰と?」


 「それは……。」


 「そもそも、その年で普通隠れんぼとかしないだろ?」


 「………。」 


 テナは目線を逸らし、僅かにテーブルの更に奥へと動く。


 「まあいい……。とにかく、そこを出ろ。」 


 俺はテナの手を引き、テーブルの下から引きずり出す。

 テナは抵抗してくるが、構いはしないで俺は彼女を出した……

 だが、テーブルの下から現れたのはいつもの彼女とは全く違う存在だった。


 「…………。」

  

 俺はあまりに突然の事だったので思わず声も出なかった。

 それは、俺達の様子を遠目で見ていたシグレも同じだ。

 俺の目の前にいたのは、途方も無い程の美女であったのだから……。


 「やっぱり……おかしいよね……。私、こういう肌とか露出する服装苦手だからさ……。」


 「………いや、そんな事は無いよ……。似合ってる……。」 


 「そっか……なら、良かった。」

 

 俺より背が高いのは分かっていたが、彼女のそれは次元が違う……。

 同年代よりも、明らかに背が高い……そして、日々の鍛錬で鍛えた肉体故に無駄な物の一切を削いだも同然なのだ。

 テナの顔付きこそ中性的と言えるが、髪は長い為男子生徒の制服を着ていたとしても女性だというのはすぐに分かる。

 だが、この状況下でここまで変わるのは余りに予想外だった。

 

 「仕方ないか、見つかったのは仕方がないし……。」


 「ああ……。」

  

 俺の知る普段の彼女とは勝手が違う為、反応に困る。中身は完全にいつものテナだ……それは分かるが、外見の余りの変化故に上手く反応出来ない。

 

 「どうしたのシラフ?」


 「いや……別に……。」


 「似合い過ぎて、あなたに魅入られているんですよテナさん。」

   

 俺達の様子を見かねて、遠目から眺めていたシグレ彼会話を挟んでくる。

 

 「シグレ王女……。似合い過ぎてって……えっ……!」

 

 当の本人は無自覚故に、シグレの言葉で驚きを隠せない様子だ。

 やはり、中身は相変わらずだと思う。 


 「私とテナさんとの反応じゃあ大違いだもの……。私に対してはそういう動揺した素振りは見せなかった癖に……。」


 「そうなの……シラフ?」 


 「それは………。」       

 

 俺が反応に困っていると、シグレはいつものように悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 からかって楽しんでいるというのは、これまでの生活で分かっているがよりによってこの状況でふっかけてくるとは……。


 「そっか……それなら無理して着た甲斐はあったのかな……。」

 

 オーケストラが2曲目の演奏を始めると、突然テナは俺の手を引きホールの中央へと向かって行く。

 俺は突然のテナの行動に戸惑っていると、テナは俺の様子に構わず話し掛けてきた。


 「私、全く踊れないからさ。シラフ、エスコートはお願いね。」  


 「って……待てよ……俺だって上手く踊れる保障は……」


 「大丈夫だって、私よりは上手いでしょう?」


 「いやいや……だからといって……俺に全部丸投げって……。」


 「頼りにしてるよ、シラフ。」


 「……。どうなっても知らないからな……。」

 

 オーケストラの曲に合わせて、テナと俺との踊りが始まった。



 「今のところは問題ないかな……。あの子達は楽しんでいるみたいだし。」


 「そのようだな……。」


 シラフ達がホールの中央で舞踏会を楽しんでいる中、その様子を遠目からシファとラウは観察していた。


 「奴に会わなくていいのか?」


 「目立つから、辞めておくよ。だからこうして、人混みを避けているの……。」

 

 シファはそう言うと、先程取った軽食に口を付ける。

 黙々と、それを食べるシファに対してラウは言葉を続ける。


 「シルビアから未だに連絡は無い。襲撃があったとしても、こちらから僅かでも神器の力を観測出来ない以上は向こうもまだ動いていない証拠だろう。」


 「………。」


 「あちらでは、彼女の存在は知らされていない。不意を突く程度なら可能だとは思うが……。」


 「何か納得がいかないの?」


 「ああ……。上手く行き過ぎていると思ってる……。計画的に動いているが故だとしても、未だに何も問題が起こらないのは不自然だと思ってな……。」


 「……確かにそうかもね……。向こうも神器使いが護衛に回っているのは想定しているはず、その上で襲撃を考えているのは改めて考えるとおかしいかもね……。」


 「向こうの狙いは掴めていないのか?」


 「サリアの関係者を狙っているくらいしか掴めていないかな……。だから狙いは、ルーシャかシルちゃんあるいはラウの誰かと私は推測している。」


 「何故、私を狙ったものだと予測した?」


 「ノエルに造られた貴方だからかな。向こうは帝国時代にノエルと敵対していた、そして闘武祭の決勝において向こうの一人であるローゼンを倒した貴方なら狙われてもおかしく無いと思う。」


 「なるほど……帝国からの因縁故か……。」 


 「ルーシャとシルちゃんに関しては単純にサリアの王族だからと言う理由。彼女達を手に掛ける事でサリアの経済を混乱させようとしている、あるいは愉快犯目的の依頼を受けた可能性で予測はしているよ。」


 「無くは無いか……。お前は、どちらもあり得ると?」


 「うん……。一応、あっちのシルちゃんにも聞いては見たけど誰を狙ったかは知らないみたいだからさ。」 


 「当時の様子は?」


 「その時、私は近くには居なかったらしい。襲撃の現場近くに居たのは貴方とハイド、そしてルーシャとクレシアだったそうよ……。」


 「……シンは何処にいた?」


 「私と共に別行動を取っていたそうよ、何者かによる同時に行われた襲撃だって……。」


 「そうか……。」


 「何か気になる?」 


 「何がだ?」


 「多分、私と同じ事を考えているでしょう?」


 「敵の狙いについてだ……。向こうの目的がどうも腑に落ちない、私を狙うのであれば直接向かわせれば良い話だ。来年に行われる闘武祭において、事故に見せかけ殺そうとすればそれで済む話だろう。王女を狙うという目的についてもだ、王女であれば護衛は必ず付くのは向こうも承知しているはずだ。まして、その護衛には私やお前の弟が付いている。余程頭がおかしいのか狂っていなければ、まず勝算があるとは普通思わないだろう。」


 「つまり、私の立てた仮説を否定するって事?」


 「そう言いたいのだが、そうなると向こうの狙いがわからない。契約者が護衛に付くと分かって上で刺客を送り込もうとするのなら、以前シファが言ったラグナロクと呼ばれる者達くらいだろう。」


 「神器使いに対抗出来るのは、原則神器使いだけだからね。」


 「向こうの狙いが定まらない、それがどうも腑に落ちないんだよ……。」


 「やっぱり、そこまでは私と同じ考えみたいだね……。私もラウと同じく、向こうの狙いが何なのかよく分からなくてね……。」


 「そうか……。」


 「強いて向こうの戦力が分かるとすれば、その刺客って言う存在は神器無しの私と同格の実力がある可能性があるという事くらいだね。」


 「神器使いと同格、いやそれ以上の力か……。」


 「でも、敵はこちらを狙っているのは確か……。神器使いを向かわせるにしても、一人やそこらで貴方と私の包囲網を掻い潜れるほどの実力、あるいはそれに類する程の切り札を向かわせようとしている。そうなると、王女や貴方を狙う以外に学院を支配した方が早いと私は思うかな……。」


 「………支配する方が手っ取り早いか……。」 


 「向こうの組織的犯行、更に神器の研究を継続する為にかなりの資金は必要。早々成果を投げ捨てるような真似は普通はしないだろうから。」


 「向こうの狙いは恐らく別にあると?」


 「そういうこと。シルちゃん達王女や、ノエルに造られた貴方ではない何者かが例のプロメテウスに狙われている。私はそう感じているけど、ラウも同じだよね?」 


 「ほぼ同意見だ。だが、そうなると奴等の狙いは一体何だ?」


 「神器使いを相手にすることを想定しているのは確かだよ……。いや、違う……まさか、初めから神器使いを狙った物……。」


 「神器使いを狙っている?」


 「うん……。まだ、仮説だけどね……。神器使いは国際的にもかなり重要な兵器のソレだから。神器使い一人の戦力で一国の軍事力がひっくり返るくらい。でも、最近になってその均衡が崩れている…。」


 「偏りか……。サリア王国側には現在、クラウス、ハイドそしてシルビアにお前という四人の神器使いが存在している。シファ、お前を引き抜いたとしても三人……。そうなると、現在最も神器使いの多い国はサリアとなる。」


 「でも、向こうの狙いはただの神器使いじゃない……。神器使いよりも、更に危険視される存在が現在のサリアには存在している。」


 「解放者の存在か……。」


 「うん。神器の契約者が一国の軍事力と言えるなら、解放者は世界の行方を左右する程の力を持っている。そんな強大な力が神器使いの多い十剣という組織、ましてサリアという一国に存在しているとなれば、世界から彼は危険視される。」


 「…………。」


 「各国は、彼を上手く引き込むもうと使者を送る。あるいは他国に奪われぬよう早めに消そうと動こうとするはず……。」


 「つまり、奴等の狙いは王女達や私ではなくお前の弟であるハイドを狙っていると?」


 「うん……一番可能性が高いのは恐らく……。もし、ハイドを狙うとすればその近くにはルーシャ達も必然といる可能性が高い……。つまり、王女達を狙った犯行だと偽ることも出来る。本来の目的を隠しながらそれを可能にできるのは向こうからすれば利点そのものだからね……。」


 「なるほど、奴等の狙いはハイドただ一人という訳か……。なら話が早い。」

 

 ラウは端末を手に取り、通話を始める。その相手はシン、彼に仕える者である彼女に連絡を取り始めたのだ。


 「はい。何の御用でしょうか、ラウ様。」


 「護衛対象を変更、及び先の任務の内容を変更をする。」 


 「畏まりました。」


 「護衛対象はハイド・ラーニル。彼の監視を徹底し、そして万が一敵の襲撃に遭遇した場合彼と共に敵の殲滅に務めろ。避難等の指示にはシルビアを当たらせる。最低でも襲撃者の時間稼ぎを果たせればそれでいい。」


 「了解しました、ラウ様。」

 

 

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