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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 幻影、その果てに……
155/327

呼び出し

帝歴403年11月16日


 「…………。」

 その日の早朝、ルヴィラは家の郵便受けに入っていた手紙を読んでいた。

 内容は、セプテントからの緊急の呼び出しである。

 そして、この内容の口外を禁じるなど不明点が多い内容だった。

 手紙は封筒の中に入っており、そしてその中には手紙以外にもオレンジ色の長い髪の毛が数本同封されていた。

 その長い髪の毛には、高い魔力が練り込まれており触れずとも威圧感のような物が感じられた。

 「…………。」

 送られたソレを、ルヴィラは無言で眺める。

 すると、朝の鍛練を終えたハイドが外から帰って来た。

 「……また、早起きをしたんですか。まあ、生活習慣が改善されて良いと思いますけど。すぐに朝食の用意をしますから。」

 ハイドはそう言い、自室へと戻った。そしてハイドは着替えを済ませると部屋から戻り朝食の用意に取りかかる。

 台所に立ち、手早く朝食を作りながらハイドは手紙を見つめているルヴィラに声を掛けた。

 「手紙ですか……誰からです?」

 「セプテントから、私宛よ。内容に関しては、あなたには言えないわ。」

 「そうですか……。まあ、俺は部外者ですしね……。」

 ルヴィラの言葉に納得すると、ハイドは朝食の用意に再び手を掛ける。

 そして、10分程が過ぎるとハイドは朝食を作り終え簡単に盛り付けるとルヴィラの元へ運んだ。

 「呼び出しなら、行った方がいいと思いますよ。この手の話だと、緊急を要する物がほとんどですから。」

 「そうね、今回ばかりはサボりで済みそう無いもの……。」


 帝歴403年11月16日 正午


 この日セプテントへ訪れたルヴィラを待ち構えていたのは、学院の現副理事長であるアルクノヴァであった。

 「副理事長であるあなたが、どうしてここに?」

 「私が君を呼び出したんだよ、ルヴィラ・フリク君。君の噂は私の耳にも届いていたが、まあ呼び出した理由はそれ以外だが。」

 「…………。」

 「内容に関しては、あの封筒の物で察しがつくだろうとは思っていた。やはり、流石の君でも彼女の誘いには断れないようだな。」

 「あの人の事を知っているんですか?」

 「無論だよ、彼女は我々の元にいるのだからね……。」

 「…………。」

 「ここで話すのも、流石にアレだ……。近くに車を手配しているからその中で話をしよう。」

 「そうね……その方が良いかもしれないわ……。」

 

 アルクノヴァが手配した車に乗り込んだ二人。

 車が移動を始めると、アルクノヴァから彼女に対して会話を切り出した。

 

 「セプテントの天才が、彼女から産まれた存在だと聞いた時は流石の私も驚いたよ。なんせ、妖精族から人間の幻影が産まれるのは聞いた事が無いからね。」

 「………。」

 「天才である君が分からないはずは無いだろう?人間からは人間の幻影が産まれる。そして妖精族から産まれる幻影も妖精族なのだから。」

 「そうですね、しかし例外があるとすれば……神器の力が関わっている。」

 「そうだな。証明となるのは、君の存在と言えるだろう……。」

 「私を呼び出してどうするつもりです?まさか私程度を人質のつもりで呼んだと?」

 「人質か……まあ言えなくは無い。しかし、今回ばかりは彼女が君と一度話をしたいと言ったから今回は特別にその場を設けた訳だ。余計な事だとは思うが、今回の話で聞いた事を他言すれば何が起こるかは分かっているだろう?」

 「そうね……でもこの場であなたを仕留める方が早く済むでしょう。」

 「そうだな、確かに私程度では君にすら勝てないだろうよ。この老いぼれが勇猛果敢な剣士などに見えるか?」

 「見えないわね……。」

 「だが、私をこの場で殺しては彼女には会えないだろう。」

 「その方が、私にとって不利益となる。それが分かっているあなたは、私が手出しをするはずが無いとでも言いたいのでしょう?」

 「その通りだよ、ルヴィラ君。」

 「それで、彼女は何故私を呼び出したのですか?」 

 「さあな、理由に関して奴は一向に話そうとはしなかった。」

 「……。」

 「私がしている事に関して、君は何か知っているか?」

 「何かの研究を秘密裏に行っているという、不確かな噂はセプテントにいた頃、それを耳にした。そして過去に一度、勧誘があったわ。それで、実在するという確信は持ったけど私には興味はないもの。でも、今回ばかりに限ってはそうも言ってられないようね……。」

 「………。」

 「あなたは、何を企んでいるの?」

 「神器の人工的な製造だよ。それが私の研究内容だ……。」

 「………。」

 「研究は完全とは言い難いが、実現には至った。ローゼンという者がいただろう、あれが我々の研究の成果という事だ。」

 「神器の製造が目的……なら何故あの人があなたの元にいるの?彼女は、あなたの目的には関係ないはずでしょう?」

 「関係はあるさ。神器の研究をする上では契約者の協力が不可欠……。我々の研究の為に彼女は有効利用させてもらっている。」

 「…………。」

 「まあ、奴は我々の元に自らの意思で属している。過去に一度脱走した事があったが、結局は我々の元に戻って来た……。といっても、アレに我々の元以外の居場所など無いのだからな……。」

 「………。」

 「何も思わないのか……。」

 「それは私の言いたい事ですね……。何故、彼女をこのような事に利用しているのです?」

 「……彼女を利用しているか……。君はアレが何か、何も知らないのか?」

 「あの人は、私を造った存在。あの人は名前も言わず、一人私を置いて消えた人ですから……だから私はあの人の事をあまり知りません。」

 「なるほど……。なら、奴に会うまでに話しておこうか……。」

 

 車に揺られながら、アルクノヴァが口を開き話始めた。

 

 「私はかつて、帝国で科学者をしていた。その当時帝国には、世界各国から集められた莫大な研究資料や材料があった。当時の世界中の科学者は誰しもが帝国での研究者となる事に憧れていた。その中で私は、東帝国軍の軍事科学部の最高責任者として働いていた。全ては、帝国の繁栄の為に私は研究を重ねていた。」

 「……。」

 「帝国が滅びた後、私は学院で秘密裏に研究所を作り再び神器に関する研究を重ねていた。そして13年前、あるモノが我々の元に届いた。」

 「あるモノ?」

 「魔水晶で封印されていた妖精族……それがお前を造った奴の正体だ。」

 「そんな物を何処で手に入れられたの?」 

 「我々の協力者が持って来た物だ。何処で入手したのかは不明だが利用価値は確かだった。そして、1年掛けてその封印を解いた。それから今に至るまで、彼女を利用し神器の被検体として実験を始めた。彼女はそれから僅か二年で、実戦において本物の神器を手に入れソレの契約者となった。当時の奴の成長には我々も驚いたものだよ、我々の目的が必ず達成出来ると確信まで抱いたものだ。」

 「その言い方では、今は少し違うと言っているようなものではないの?」

 「その通りだよ。彼女は我々に、想像以上の結果をもたらした……。が、しかし同時に我々にも徐々に手に負えない程の力を持ってしまったのだからな。」

 「神器を研究する以上、想定の内には入っていなかったの?」

 「入っていたさ、だが奴の力はソレすら遥かに上回っている。奴の力は既に本物の神にも等しい力だと私は思っているからな……。」

 「それなら、処分を検討しなかったのですか?私が言う事ではありませんがそれほど危険な存在を研究対象として研究を続ける事は危険だと思います……。」

 「処分は元より無い、神器の研究を続ける上で契約者と神器は必要不可欠。そして戦闘の記録に関しては年に1度行われる闘武祭で莫大な戦闘記録を収集した。ここまでして、今更研究を取りやめるなど決してあり得ない話だ。」

 「……あなたは、あの人をどう思っているのです?」

 「科学者は、研究対象をそれ以外に見てはならない。一つ一つに情を抱けば簡単に精神が壊れるからな。つまりはそう言う事だよ、ルヴィラ君。」  

 「………そうですか……。」

 「1度だけ、彼女が研究所から失踪した事があった。5ヶ月余りの月日が経ち我々の元に戻って来たが、恐らく君はその期間で作られたのだろう。それ以降は、我々の元で管理されていたのだからな……。」  

 「………。」

 「奴は、君から見てどのような人物だった?」

 「孤独……あの人はそう言う人です。あの人は以前、ある家で共に暮らしていた存在がいたようですがその人達を失ったとあの人は私に言っていました。」

 「それは初耳だな、奴が他人の家で引き取られていた可能性はあるだろうとは思っていたが……。」 

 

 車内で会話を交わす二人、そして目的地に着くと車から降りルヴィラはアルクノヴァの案内されていた。

 ルヴィラの目の前には、巨大な白い壁に阻まれている要塞を思わせる建物だった。

 

 「ついてきたまえ、奴がお前を待っている。」

 「そうね……。」


 アルクノヴァが先頭に立ち、その後ろにルヴィラはついて行く。

 そして二人は、要塞と化している白い建物の中に消えていった。

 

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