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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 幻影、その果てに……
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抱いていたモノは

帝歴403年11月13日


 「あれは……リンだよな……。」

 その日の放課後、帰り道を歩いているとハイドは道の塀の上で足をぱたぱたと暇そうに眺めている小さな妖精であるリンを見つけた。

 「おーい、リン。」

 ハイドが声を掛けると、彼の声に気付いたリンが声の方向を振り向きハイドの元にゆっくりと飛んで来た。

 「最近全く顔を合わせないからさ、少しは心配していたがその様子だと問題は無さそうだな。」

 「当たり前でしょう。いくら私が小さいからって子供扱いはしないでよ。」

 「分かったよ、後でお菓子をやるからさ。」

 「それならいいけど……。って、言ったそばから子供扱いしているよね!」

 「そんな気は無いんだけどさ。」

 「全く……。一人で帰るなんて珍しいわね、最近はヤマトの王女様と一緒に帰っているんじゃなかったの?」

 「今日はテナと一緒に出掛けるらしいよ。それで俺は邪魔になりそうだから理由を付けて離れたんだ。」

 「護衛役のくせに、離れて大丈夫なの?」

 「テナに一日任せているから問題ない。リンもあいつの実力はわかっているだろう?」

 「それは……確かにテナは強いけど。やっぱりシファ姉のいう通りテナが編入していたのは本当なんだね。」

 「そうだな、連絡の一つくらい寄こせば良かったのにな。」

 「確かにね……。」

 「リンは、今日一日何をしていたんだ?」

 「特に何もしてない。いつも通り、適当にふらついていたよ。」

 「鳩とかには襲われ無かったのか?」

 「この前、暇だから少し餌付けしたら追われる事があったけどね……。」 

 「襲われる要因を自分で作ったのかよ。」

 「仕方ないでしょう、餌をあげているうちにハマって……なんか面白かったからさ。」

 「全く、相変わらずで何よりだが気をつけろよ。」

 「分かっているよ……。ねえ、シラフはこの後時間空いている?」

 「見た通り、空いているから一人で帰っているんだよ。」

 「確かに。それじゃあ、私の予定に付き合ってよ。」

 「別に構わないけど、お前に何か予定でもあったのか?」

 「これから例の喫茶店に行こうと思っていたの。いつもは店主さんに作り置きのお菓子をごちそうになっているんだけどさ。たまには店の売り上げに貢献しないといけないでしょう?」

 「単に奢らせるつもりだろう。まあ、それくらいなら構わないが……一度お前とは話したい事があったしな。」

 「……そっか……。まあ、シファ姉からある程度は事を把握していたから内容は察しが付くけどね。」

 「そうか……。それじゃあ、行くのは決まりだな。」

 ハイドがそう言うと、リンはハイドの頭の上に止まりそこにちょこんと座った。 

 「…………何のつもりだよ。」

 「今日はたくさん飛んだから疲れたの……。店まで運搬よろしく。」

 「……はいはい、運べばいいんだろう。」 

 多少呆れ気味にハイドは答えると、リンは本当に疲れていたのか彼の頭の上でウトウトとしており。数分もしないうちに本当に眠ってしまった。


 喫茶店に到着したハイドは自分の頭の上で寝ているリンを起こし、適当な空いている席に座った。リンはその体躯故に机の上にちょこんと座り込む。

 「どうしたリン、そんなに固まって?」

 「普段は一人だから慣れないだけだよ。シラフ、そこにあるメニュー開いて貰える?」

 ハイドはリンに言われた通り、机に置いてあるメニューを開きリンに見せる。

 「好きなのを頼めよ、変に気を遣われるのは嫌だからな。」

 「そう。それじゃあ、このケーキをお願い。食べ切れ無かったら、頼むけど。」

 「分かったよ。」

 他愛ない会話を交わしつつも、ハイドはリンに言われたケーキと飲み物を頼み彼自身も適当な紅茶を一つ頼んだ。

 頼まれた紅茶やケーキが届くと、一口含みそしてハイドは話を切り出した。

 「例の写真の件について、リンは既に姉さんから聞いているだろう?」

 「まあね、いずれは自分で知るだろうとは思っていたけど。」

 「リンは既に知っていたのか、あの写真について?」

 「私はあなたの強い思念から産まれた存在だからね、今のシラフ以上には知っていると言えばいいかな……。」

 「……そうか。」

 「それで、聞きたい事はそれだけなの?」

 「いいや、ここからが本題と言えばいいか……。」

 「………。」

 「リンは……俺の強い思念と神器の力が合わさって産まれた存在、そう言っていたよな。」

 「うん……それは間違いないよ。」

 「リンの事について考えている内に、思ったんだよ。強い思念……それは一体何なのかってさ……。」

 「…………。」

 ハイドがゆっくりと告げるその言葉を、リンは静かに聞き入る。

 「でもさ、俺本人は過去のリンについてはあまり覚えていないんだよ。両親と共に暮らしていた頃のリンとの記憶を俺はほとんど覚えていない。せいぜい、家族の中にリンが迎えられて一緒に暮らしていた……その事実しか覚えていないんだ……。」

 「……。」

 「昔、姉さんが俺の記憶を封印した。以前、そう言っていただろう?そして、記憶の封印を提案したのは他でも無い。リン、お前だったよな……。」

 「そうだね……。」

 「つまりさ、強い思念から産まれたリンは……俺の強い思念そのものを持っているんじゃないのか?だから、封印された記憶には過去のお前との記憶がほとんど無かったんだと俺は思う。」

 「……そう、もうそこまでは気付いたんだね……。」

 リンは静かに、ただ達観した口ぶりでそう言った。 

 ハイドは、リンのその言葉をただ受け止める。

 「あなたの言う通り、私はシラフの中にあるリンの記憶を持っている。それ以外にも色々あるけどね……。」

 「……。」

 「記憶はいつか必ず返さないといけない……。でも、それはあなたの心が再び壊れる事を意味するものだよ……。」

 「…………。」

 「シファ姉は、抜け落ちた記憶の補完をしただけに近い。でも、私はあなたの記憶、そして強い思念から産まれた存在。だから、私の存在自体が過去の記憶を具現化されたものだからね。」

 「……そうか……。」

 「シラフ、可能ならば私はあなたにこの記憶を渡したくは無い。私の存在が消えるだけならそれでいい……でも、あなたが壊れるのは嫌だから。」

 「……。」

 「でも……もしかしたら近い内に返さないといけない時が来るかもしれない。」

 「どういう事だよ?」

 「そのままの意味の話だよ。アレとの記憶が必要になるかもしれないから……。」

 「アレって、どういう事だよ?」

 「それは………。」

 「まだ、言えないような事なのか?」

 「そうじゃないよ……、でも……。」

 リンはその回答に困り、俯く。

 「……既にこの世にいない存在に、何をそこまでためらうんだよ……。もう分かっているんだよ、本物のお前がこの世にいない事くらい。俺のせいで、俺の力不足のせいで両親も仕えていた使用人達も、家族だと思っていたリンも……俺のせいで死んだ事くらい分かってる……。」

 「そうじゃない……、そうじゃなくて……あれはあなたのせいで起こった物では……っ!。」

 リンが思わず、自身が口を滑らしてしまった事に気づき言葉を止める。

 不自然なリンの行動をハイドは見逃さく事はなく……。

 「どういうことだよ……あなたのせいではないって……。」

 ハイドはリンを問い詰める。

 「…………。」

 しかし、ハイドのその言葉に対してリンは何も答えない。  

 「やっぱり、まだ何か俺には言えない事があるんだな……」

 「ごめん……。今は……これ以上は言えない……。」

 「そうか……。」

 「ごめん……。」

 「最後にひとつ聞いていいか?」

 「………。」

 「リン……どうしてお前はこれまで俺の心配をしていたんだよ?俺が神器の契約者だったからか、それとも何か別の理由があっての事なのか?」

 「……。」

 「普通に考えてみれば明らかにおかしいだろ……。子供の俺を契約者として認めた事……俺にお前の存在をこれまで疑われないように振る舞っていた事………。普通に考えれば、神器から産まれたお前に何一つ利点は無いじゃないか。あのまま、俺の精神が治らない可能性の方が明らかに可能性は遥かに高かった……なら新しい契約者を探す方が良かったはずだ……壊れた契約者を殺す方が遥かに効率が良かったはずだ……そうだろうリン…。」

 「……。」

 「何故俺だったんだ?どうして俺に拘っていたんだよ……。あの時、どうしてただの子供を契約者として選んだんだ?」

 「契約者を選ぶのは……神器が決める事だよ……。そこに私の意思は関係ない……ただ単にシラフが神器に選ばれるにふさわしい器の持ち主だった。それだけの事だもの……シファ姉もあなたの器は既に見抜いていたくらいだから……。」

 「……。」

 「私があなたを心配していたのは、私はあなたの思念から産まれたという事が大きいのかもね……。私は小さい頃の、シラフを元に産まれた存在だからね……。私の性格とかは……昔のシラフによく似ているようだしさ……。」

 「どういうことだよ、リン……。」

 「私は、あなたと同じだからだよ……。」

 「…………。」

 「あなたは、決して誰かを見捨てられるような人では無い。だから、私もあなたを見捨てる事は無かった。シラフは、自分自身の優しさに救われたんだよ……。」

 「自分自身の優しさに?」

 「やっぱり、自覚は無いよね……。まあ、それもシラフの良いところなのかもね……。」

 「つまり、何が言いたいんだよ?」

 「この子は失わせる訳にはいかない、私は私の意思でそう望んだんだよ。」

 「…………。」

 「前にシラフがシファ姉に言ったんだよね、例え記憶が戻ってもあなたが家族である事に変わりは無いって……。私も同じだよ、例え私の存在が明らかになったとしても私はあなたとシファ姉の家族でいたい。それだけは、決して変わらない私自身の本心だから……。」

 「………そうか……。」

 「うん……。私からは……それだけだよ……。ごめんね……ちゃんと答えられなくて……。私やっぱり、シラフやシファ姉みたいには上手く話せないからさ……。」 

 「気にしなくていい……俺も悪かった問い詰めるような事をしてさ……。」

 「別にいいよ、シラフのそういうところは私も分かっているしさ。何年も一緒に居るんだからさ、遠慮するのもどうかしているだろうしね……。」

 「それは言えてるかもな……。」

 そんなやり取りを交わすと、二人に僅かな笑顔がこぼれる。

 そして他愛ない会話の中、リンはハイドに話を切り出した。

 「シラフ……。シラフは、私が困っていたら助けてくれる?」

 「当たり前だろ。俺だけじゃない、姉さんやルーシャだってきっとお前が困っていたら全力で助けようとするはずだろう。」

 「……そっか……うん、そうだよね……。」

 「それで、結局何が言いたいんだよ?」

 「私と一つだけ約束をして欲しい。」

 「約束?」

 「うん……。」

 そしてリンはハイドの目を真っ直ぐに見つめる。

 そして、何かの覚悟を決めるとその小さな口を開き言葉を続けた。


 「ハイドが、あなた自身が誇れる騎士になれたのなら私とあなたの本当の両親の墓参りに行って欲しい。それが、約束の内容だよ……。」


 リンの真剣なその言葉に対してハイドは……。

 「……そうか、分かったよ……リン。必ず、その約束を果たしに行こう。」

 「……うん……絶対だからね…ハイド……。」


 二人の間で交わされた約束。

 しかし、この時のハイドは知らなかった。

 この約束の本当の意味を………

  

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