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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 幻影、その果てに……
147/327

白騎士なる者

 帝歴403年11月6日


 この日、ハイドとシグレが鍛錬の為に放課後公園へと足を運ぶと、そこには既に先客がいた。 

 「なんであいつが……ここに……。それにどうして……。」

 ハイドは目の前の組み合わせに驚きを隠せずにいた。

 「どうかしたの?あの二人……一人はあの王女の妹さんよね。そしてもう一人の彼は、この前の優勝者のラウ・クローリア……。珍しい組み合わせね?」

 彼等の目の前には、戦いの鍛錬に取り組んでいるラウとシルビアがいた。シルビアの手には少し長めの刃を持つ白銀のナイフ、そしてラウは黒いトンファーのような武器を持ち彼女の攻撃を防いでいた

 「いや珍しくは無い、あいつはシルビア様の護衛役だからさ。でも、なんでこんなところで……。」

 しかし、目の前で繰り広げる戦闘の速さは異常だった。明らかに早過ぎる、実戦を考慮しての練習だとしても二人の攻防戦はとても早過ぎて驚きしか表れずにいた。

 「シラフ、彼女もまさか神器使いですか?」

 「ええ……まあ色々と事情が重なって……。」

 「そうですか、それにしても随分とお強いのですねあの二人は……。彼女はまだしも、その動きを完全に捉えている彼の技量も相当ですよ。」

 「あなたも、やはりそう思いますか?」

 「ええ。あの男の動きは一切の無駄を無くした動きですから。あなたが準決勝で敗北に至らせ尚かつ、ルークス様でも勝ち得なかったあの者を倒した者です。あの様子でも、実力の二割も出していないでしょう。」

 「…………。」

 「シラフ、どうして彼に負けたのですか?」

 「奴の能力は、現存する全ての神器の力を扱える事です。ただ、その力が何なのかを理解しなければ扱えないそうですが……。」

 「つまり、自分の力に負けたと?」

 「負けたと言うよりは、神器の能力が無効化され同じ土俵に立たされた事が敗因ですね。認めたくはありませんが、奴の実力は本物ですよ。少なくとも、能力無しでも十剣と神器無しで渡り合える程です。」

 「………十剣と同じですか……。その言い方では十剣の力が優れていないように感じますね。」

 「十剣は個の力は対して強くは無いんです。神器と言っても戦える物が全てではありませんから……。むしろ、戦いの為にある神器が少数ですよ。」

 「そうなんですか?ルークス様のように全員があれほどの実力を持っているのかと思っていましたから。」

 「大きく分けて、十剣の中で前線で戦えるような俺みたいな存在が、俺を含め3人。そして、後衛で支援や政治とかで国々を支えている物が残りの6人という内訳ですね。」

 「あの王女はどちら側に分けられるのです?神器使いなのでしょう?」

 「見たままに、完全に戦闘側の類いですよ。しかし、卒業後にシルビア様自身が十剣になるのかは別ですね。」

 「なるほど。神器使いにも様々な者がいるのですね……。」

 「他国もですよ、武勲で強い国や経済で権力を拡大する国、様々な神器使いが関わり方によって様々な国が成り立っていますからね。」

 「やはり、他の者達に比べあなたは神器等に詳しいのですね。」

 「十剣だからというのもあるけど、姉さんの近くにいたからっていう影響の方が大きいかもな。俺もまだ、神器にはそこまで詳しい訳では無いしさ。」

 「私から見れば充分凄い事ですよ。講義でも神器についての話は何度かお聞きしましたがあなた程詳しい事は聞けませんでしたからね。」 

 「神器がそもそも、国際関係においての最重要機密なんですよ。神器の力はあまりに強大過ぎる故に、その力は軍事力においての兵器そのものですから。世界を統一させた唯一の国である帝国は、一つの国に八つもの神器がありましたからね。」

 「八つもの神器が一つの国に……?」

 「だから、八英傑なる組織が帝国の英雄として存在しているんです。こっちでの、十剣のような存在がね……。」

 「確か、400年前にサリア王国は帝国と戦争をしていますよね?」

 「ええ、確かその時前線で戦ったのが当時の十剣達ですよ。そして、彼等と相対したのは歴代最強と呼ばれる初代八英傑。彼等の戦いは三日三晩行われ決着は付かず、四日目に突如乱入した白騎士による武力制裁により戦いは仲裁されましたがね。」

 「白騎士……。未だに謎の多い存在ですよね、十剣と八英傑を相手に一人で彼等を完全に無力化させ両者を撤退にまで追い込んだんですよね。サリアに住むあなたは白騎士について何か知らないんですか?」

 シグレのそんな質問に、ハイドは言葉に少し困り

 「……知らないよ、流石に……。」

 そう答えると、シグレは少し落ち込むと

 「当たり前ですよね、そもそも白騎士は400年も昔に生きていた人ですから。」

 シグレはそう言うと目の前の二人の戦いを眺める。

 そんな彼女の様子に対し、ハイドの脳裏には昔の記憶が過ぎっていた。



帝歴395年6月

 

 「はっ!!」

 かん高い金属音が森の中に佇む屋敷の庭で響いた。

 「…………。ほら、もっと攻めて攻めて。こんなんじゃ、私に一本も入らずに日が暮れるよ。」

 「っ!!」

 庭で繰り広げられている剣での戦い。小柄な少年が未熟ながらも必死に剣を振るうが、その相手である銀髪の女性はあしらうかのように容易くいなしていく。

 少年が振るっているのは、彼の体躯に合わせた真剣であるが女性の振るっているのは練習用の木剣である。

 「っはぁぁ!!」

 一際強い一撃を少年は放ったが、女性はそれをひらりと躱すと剣の重さに耐えかねて少年は地面に倒れ込んだ。

 「っ痛っぇぇ。」

 「当たり前だよ、それだけ無理に剣を振るえばすぐに体力が尽きるんだからさ。」

 「分かっていますよ、そんな事……。」

 「うーん……そろそろ休憩にしようか?」

 「いや、僕はまだ続けられますよ。」

 「私がお腹空いたの。ほら、この前王都で買ったお菓子もあるからさ。」

 「…………。」

 「ほら、少しくらい休憩しようよシラフ。」

 そう言って無理矢理、女性は少年の手を引いて屋敷に戻った。

 屋敷の中に戻ると、女性は体を伸ばし

 「私は体を洗って来ようかな、少し動き過ぎて汗かいたし。シラフはどうする、一緒に入る?」

 「遠慮します、もうそこまで子供ではありませんから。」

 「つまんないな、小さい頃は一緒に入ったでしょう?」

 「小さい頃の話でしょう、だから気にせずに一人で入って下さい。」

 「はーい。それじゃあリンちゃんと入ろうかな……。」

 そう言って女性は屋敷の奥へと消えた。

 「全く、困った人だ……。」

 そう言って少年も部屋の奥へと進み自室へと戻って行った。


 少年は部屋に戻ると、簡単に着替え等を済ませ応接室に向かおうとすると、部屋の方で何やら慌てている小さな妖精がいた。

 「リン、どうかしたのか?」

 「シラフ!いいところにいた!!」

 「どうしたんだよ、そんなに慌てて?」

 「シファ姉が、着替えも持たずにシャワーに行ったから困っていたんだよ。」

 「……リンが部屋に行って着替えを取りに行けばいいだろ?」

 「私の力じゃ棚を引くどころか、ドアすら開けられ無いの!」

 「分かった、代わりに取りに行くよ……。姉さんには、次から厳重に気を付けるように言わないとな……。」

 そして二人はシファの部屋の前に訪れるが、


 「どうしたのよ……シラフ?」

 「シファさんに以前言われただろ、この部屋には入るなって。」

 「今更……。でもさ……今は緊急事態でしょう?」

 「そうだよな……。元は姉さんの起こした問題だし、仕方ない。必要な物を取ったらすぐに戻るよ。全く……。」

 「はーい。」

 少年は、必要な着替え類をタンスの棚から取り出す。

 「……全く……子供からしたら目に毒だよ……。」

 そんな事を呟き、リンを連れて部屋を出ようとするが、少年はその部屋の光景に足を止めた。一つ、大きな本棚がそこにあった。それにはたくさんの本があるかに思えたがよく見ると、その背表紙はどれも同じような物ばかりであった。

 本達に少年は興味を抱きそれを手に取る。本の中身は彼女の日記であった。日々の出来事がそれにまとめられている。

 「人の日記を見るなんていい趣味しているね?」

 「そんな気は無いよ。」

 さすがに悪いと思い日記を閉じようとするが、

 「あれ……この日付。」

 「どうかしたのシラフ?」

 「いや、日記の日付がおかしいんだよ。」

 「ん?どれどれ?」

 その日記の日付はサリア歴542年8月。現在は帝歴395年。サリア歴が用いられていたのは今から400年近く前だったはずである。少なくとも今から700年は経っているだろうか。

 「……ねえ……シラフ。これ誰の日記かな?」

 「多分、姉さんのだと思う……。」

 「でもこれって、かなり昔だよ……。よく見るとけっこう古い物だし。」

 「確かに古い物だけど……。」 

 「もしかしてあの人、幽霊か何かかな?」

 「いやだったら触れるのはおかしいよ。」

 「それじゃあ一体何かな?」

 「…………。とにかく出よう、今は関係無いだろうし。」

 「そうだね……。」

 リンに少年は着替え類を託し、少しふらふらと飛びながら去って行く。彼女を見送り、少年も部屋を出ようとするが目に止まる物を視界に捉えた。

 部屋の隅に飾っている純白の甲冑である。

 「……白い鎧?」

 思わず見とれる程の美しさと存在感を放つそれに少年は近づいていく。

 それが、ただの鎧では無い事を少年は理解出来ていた。

 何百年いや数千年近く、決して綻びる事も無く現存し続けている神話のそれに近しい存在である事を理解出来ていた。

 「…………。」

 しばらく、時間を忘れてそれを見ていると……。

 「綺麗でしょう、その鎧。」

 「っ!!」

 後ろから声を掛けられ、振り返ると銀髪の女性がそこにいた。

 「姉さん……これは……その……。」

 「……まあ、見られたら仕方ないよね……。」

 そう言うと女性は、その鎧を触りながらこう言った。

 「私の役割は、白騎士。世界の均衡を守る為に戦う一人の騎士なの。」

 「白騎士?」

 「そう、この鎧は私の大切な人が私に託してくれた物で私の大切な宝物の一つなんだ……。」

 「……この鎧が姉さんの宝物なんですか?」

 「まあね、それに日記とか見たでしょう?」

 「うっ……それは……その……。」

 「まあ仕方ないよね、知られたのは私のミスたがらさ。」

 そう言うと、女性は本棚から一冊の日記を取り出しそれを少年に手渡す。

 「私は、ずっと昔……何百年、いや何千年も前から生きているの……。信じてはもらえないかもしれないけどね……。」

 「何千年……ですか……。」

 「うん。私が生き続けているのは、鎧をくれたその人が守ろうとした物を守り続ける為だから。」

 「何を守る為なんですか?」

 それを少年が尋ねると、女性は片膝をつき少年の頭を撫でながらこう言った。


 「君たちを守る為だよ。この世界を生きる全ての者達が争う事無く幸せに生きる為にね……。」


 そんな事を思い返したハイドは……。

 「なんか、余計な事まで思い出したような気が……。」

 「シラフ?どうかしましたか?」

 「いや、なんでも無いよ。それより、こっちも鍛錬を始めよう。実戦は無理そうだけどさ、基礎練習くらいは出来るだろう?」

 「そうですね、ではこちらも始めましょうか?」  

 荷物を近くのベンチに置くと、そこから少し離れて両者は武器を構えた。

 「それじゃあ、今日は五割くらいに抑えてね。」

 「分かりました、五割ですね……。」

 そう言うと、両者ともに僅かに魔力を高める。

 両者の周りの空気が張り詰め、動きが止まる。

 互いの出方を窺い、先手と後手の読み合いになった。

 両者の構えは、ほぼ静止した状態に近く一切の隙は無い。

 「…………。」

 「…………。」

 両者の実力はほぼ同格、互いの攻撃がどう来るのかを理解している為に互いが中々動けずにいる。

 そして、ほぼ同時に両者が動き出した。

 最初の衝撃で、周りに風が吹いた。

 かん高い金属の音が無数に響き渡った。

 「っ!!」

 高速で繰り広げられる両者の剣は一撃の度に僅かに加速していく。

 「何度見ても、あなたの剣には色々と学ぶべき事がありますねシラフ。」

 「それは、こちらもだよシグレ。」

 高速で戦いを繰り広げている二人は数分間程繰り広げると、互いのその手が止まった。

 「……、見ていたんだなラウ。」

 剣を下げ、鞘に収めるとハイドは横の方を眺めた。

 遠目でこちらを見ている黒髪の男と、その隣にいる華奢な体躯の長い金髪の少女がそこにいた。

 こちらの視線に気付いているその二人はゆっくりとこちらに歩み寄って来る。

 「珍しい組み合わせのようだな、ハイド。サリアの第二王女の護衛任務はどうしたんだ?」

 「知っていて、話しているだろう?ご覧の通り、今はヤマトの王女を護衛しているんだよ。」

 「なるほど……。」

 「そっちは、シルビア様の護衛だろう?何故彼女と鍛錬をしている?」

 「彼女から直接頼まれたので、それに応じているだけだ。」

 「姉さんの事を放ってか?」

 「シファには、別の仕事がある。今はそれで忙しいそうだ、弟であるお前はそれを知らないのか?」

 「……何も知らないよ。姉さんの私情にはあまり口を挟まないからな。」

 「……。」

 「お前達は何を企んでいる?」

 「……何を企んでいるという問い掛けに私は答えられない。私の目的は企む程では無い。いずれ果たすべき最終目的だ、故にそこに至る経路はまだ無い。」

 「……よく分からない事を言うんだな。」

 「端的に言えば、先に話しているだろう?編入前での船で話した一件についてで一通りの説明にはなっていたはずだ。」

 「それが分からないんだよ。何故、お前達は神器使いを殺そうとする、それに何故その対象の中に姉さん達もいるんだ?明確な理由は一体何だ?」

 「質問の多い奴だ。順に説明しても良いが、この場で話すべき事かハイド?」 

 ハイドは周りを見て、状況を理解する。自分達の会話を、全く状況が掴めない様子で聞いているシルビアとシグレを見てハイドは渋々状況を理解した。

 「っ……。」

 「理解したようだな、お前は少し冷静になった方がいい。」

 「……。」

 「何か納得いかない事でもあるのか?」

 「……、単純にお前が気に食わないんだけだ。」

 「そうか。」

 すると突然、ラウの端末から着信が鳴り響く。

 ラウはすぐに取り、着信に応じた。

 端末の画面を見た途端、ラウの表情が一瞬曇る。

 「何の用だ?」

 端末から僅かに聞こえてきたのは女性の声だった。

 「ええと、サリアからの通達でラウの言っていた通りあの子の家系には妖精族の養子が迎えられていたのは確かだそうよ。」


 「そうか……、それで彼女の名は?」


 「えーと、リーン・サイリス・ノドルシア・ルヴィ・フリク・エイリシフ・エイラ・モーゼ・ノイス・オベイロン……多分これで合っているよね……。」


 「なるほど、やはり例のオベイロンの血族で間違いないか。」


 「うん…。それで、サリア王国から正式にこの作戦への召集が私とラウ、そしてシンちゃんに入ったから。」


 「了解した。彼女にも伝えよう。」


 「うん……それじゃあ、また明日学院でね。」


 通話を終えると、端末を制服のポケットにラウはしまった。

 「……誰からの電話だ?」

 「お前の姉からだ。内容は言えない。」

 「…………。」

 「……。陛下からの直々のご指名らしい。これ以上は私からは何も言えないな。」 

 「分かったよ、これ以上お前を責めたところで何も言わないんだろう。」

 「分かればいい。……そろそろ時間のようだな。シルビア、帰宅の時間だ。買い物等があるのなら手短に済ませるぞ。」

 突然話を振られたシルビアは少し驚き。

 「……っはい。あの……それじゃあお二人さん、私達は先に失礼します。」

 先に歩いて行ったラウを少し急ぎ足でシルビアは追っていく。

 

 「今の会話、あまり良いような会話ではありませんでしたね。」

 「そうだな、ちょっと奴とは色々あるんだよ。理由に関しては上手く説明出来ない。」

 「……。分かりました、あなたがそこまで言うのなら深く追求しません。」

 「協力に感謝するよ。」

 

 去って行く二人をハイドは眺めていた。その様子に、彼の隣にいたシグレはハイドがラウに向ける敵意を両者の会話から感じ取っており、珍しい彼のその様子に僅かな戸惑いを覚えていた。

 

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