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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 幻影、その果てに……
145/327

似ていると

帝歴403年11月3日

 

 「……以上がこの度のシファ殿からの通達です陛下。」

 サリア王国謁見の間にて茶髪の男、クラウスがシファから送られた書状を読み上げた。

 謁見の間に居るのはその男と玉座に座る陛下のみだった。

 「そうか……では、クラウスよ。近い内にラークに出向く用意をして欲しい。例の物に関しては王国の宝物庫、2589番の場所だ。」

 「畏まりました、陛下。」

 立ち去ろうとする、クラウスを陛下は呼び止める。

 「待ちたまえ、話はまだ終わっておらぬ。」

 「…………。」

 「シファ殿の知らせが真ならば、彼……ハイド殿は君達十剣を遥かに凌駕しておるのだろう?それについてはクラウス殿はどう考えておられる?」

 「……。私個人の意見では、称賛が半分、そして危険性も半分といった判断です。」

 「何故だね?」

 「神器の契約者はほんの一握りの人間です、しかし解放者は歴代でもほんの数える程。解放者と思われる者達の功績は歴史においてとても大きな影響を与えてきました。」

 「その数える程の中に我々サリア王国から一人現れたのだから実に素晴らしい事だと私は思うが……。」

 「ええ……見かけは確かに素晴らしい事だと思う者が多いでしょうが……。解放者の現れる時は、決まって世界規模の危機が訪れています。遥か昔では、かの異種族間戦争においてのオーディン。そして近年で言えば、オラシオン帝国の初代皇帝そして最後の皇帝に仕えたラウ・レクサス。彼等の現れた時代はどれも歴史に深い影響を与えています。」

 「なるほど、確かにそうだな。」

 「陛下、彼への警戒は怠らぬようお願いします。いくら姫と幼なじみとはいえ、あれ程優遇するのはいささか見捨てておけません。」

 「私は素晴らしい人物だと思うがね、父親にとてもよく似た心優しき青年ではないか?」

 「しかし……私は……。」

 「クラウスよ、何故そこまで彼に拘っておる?」

 「拘る?ご冗談を……私は私個人の一般的な意見を述べているだけですよ。」

 「……お主は、彼の10年前に起こした事件をまだ根に持っておるのか?」

 「……。」

 「あれは、我々サリアの人間が起こした物だ。故に彼には何の罪も無い、それを何故責める必要があるのかね?」

 「そうではありません……ただ私は……。」

 「何か私に言えぬ事でもあるのか?」

 「………言ったところで理解されるはずがありませんよ……。」

 「もう良い、下がって構わない。一ヶ月後に出る船でラークに向かいシファ殿の助力に努めるように……。」

 「……。畏まりました、陛下。」

 そう告げると、クラウスは去って言った。

 部屋に一人残された陛下は玉座に深く背を預けると、一言呟いた。

 「妖精族の生き残り……。シファ殿は一体何をするつもりでいるのだろうか……。」


 「随分とお疲れのご様子ですね。」

 この日、ハイドは疲れているのか少しふらふらとした足取りで歩いていた。

 彼の様子に見かねて共に登下校をしているシグレが声を掛けていた。

 「大丈夫、少し疲れている程度だからさ。」  

 「そうね、別に気にしなくて構わないわ」

 ハイドの言葉に応じて同じく登校しているルヴィラがそう言った。

 「…………。彼のの調子が悪いのはあなたのせいでは?」

 「私は何もしていないわ。」

 「いや、何もしていな過ぎだろ。全く、当の本人が自覚していないんじゃどうすればいい……。」

 「……ルヴィラさんでしたよね……。彼がそこまで言っているのでしたら改善を試みては?」

 「そうね、検討しておくわ。」

 「検討ではなく改善して下さい。世話をしているこっちの身にもなって欲しいですよ。」

 「そこまで言うなんて、どういう状況なの?」

 「……ちょっとどころじゃない。家事をこなす程度で済むと思っていたのに……自分で服すらまともに着れない上に、部屋はたった数時間後には荒れ放題なんだよ……。いくら掃除をしてもキリが無い。」

 「……つまり、今の彼女の身だしなみが整っているのは?」

 「俺が直したんだよ……。それに教科書は端末で見れるにしろ、ノートとペンすら持たずに行こうとするんだ……。彼女の準備に追われる内に時間は過ぎて昼食の弁当を用意する時間が無かったからな……。」

 「困ったものだわ、昼食を買う手前が増えたのだもの。」

 「お前のせいだろ、全く……。」

 ハイドとルヴィラのやりとりに唖然とするシグレは上手く言葉が出ない。

 「とにかくだ、ルヴィラさん。先程言った通り、今日の弁当は無しだ。学食で勝手に買って食べていて下さい。」

 「そうさせてもらうわ。」

 そう言うと、少し急ぎ足でルヴィラは歩き去って行った。

 「大変ですね、ハイド。」

 「そうかもしれませんね。」

 「それで、先程の話を聞いて思ったのですけど彼女にはあなたの本当の名は伝えていないんですね。」

 「姉さんからの指示だよ。とりあえず、学院にいる間はシラフとして生活する事を言われたんだ。知られている相手なら、仕方ないにしろ可能な限り控えるようにとの事でね。」

 「何かしらの事情ですか?」

 「サリア王国内と言うよりは、十剣という組織内での問題だろうけどな。上の考えに関しては、いくら俺が十剣の一人とはいえ知る権利は無いようだけどさ。」

 「そうですか……。似ていますね、あの人に……。」

 「あの人?」

 「ルークス様です、あの方とあなたは境遇が似ていると思ったんですよ。」

 「確かあの人って、ヤマト王国の王族でしたよね?なのに似た境遇なんですか?」

 「はい……。あの人は、第五王子で王位継承権は5番目なんですけど実は兄弟達の中では二番目に年齢が高いんです。」

 「どういう事です?ふつう二番目なら第二王子となるはずでは……。」

 「あの人は、学院に入学するまでその存在が無いかのように扱われてきました。理由は、あの人が20年前に崩壊した帝国から逃れてきたヒイラギ様から生まれた子であるからです。」

 「ヒイラギ様……?何処かで聞いた事があるような気が……。」

 「オラシオン帝国最後の皇帝、ハルク・オラシオンの妻であったのがヒイラギ様です。つまりあの人は、時代が時代であればオラシオン帝国の現皇帝となるお方です……。」

 「っ!あの人が帝国の皇帝だなんて……でも、だったら尚更……。」

 「彼の正体は祖国の中でも一部しか知られていません。それにあの人を生んですぐにヒイラギ様はお亡くなりになりましたから、あの人自身も自らの出生を知らないんです。」

 「……。」

 「小さな頃から見ていたから分かるんです。毎日のように、城に仕える者達からの陰口が嫌がらせが絶えなく続いて、それでもあの人はたった一人で自分を磨いていた。とても見ていられ無くて私はある日、剣の稽古していたあの人に聞いたんです、何故あなた様はいつも前を向き続けられるのかと……。それに、あの人はこう返しました。」


 「俺は王を目指している。血筋なんかじゃない、実力で王の玉座に辿り着いてみせる。そして、いずれは世界の在り方を変えたいんだ。生まれだけで、その人の運命が決まるこの世界の在り方を……。」


 「あの人は、前しか見えていない。でも、あの人が進めるのは己に抱いた大義があるからなんです。」

 「とても似ているようには見えませんけど。」

 「いいえ、あなたの忠誠心とその信念の強さは相当な物です。サリアの王女が、あなたに深い信頼を抱いているのも分かります。己の大義の為に進むあの人と、己の大切な物の為に進むあなたは対照的な存在かもしれませんが、でもその信念の在り方はとても似ているように私は思えます。」

 「……そこまで大層な物とは違いますよ。ただ俺は、自分の大切な存在を失いたくないだけです。誰かを失うのは、もう絶対にしないと決めた……。それだけの事です。」

 ハイドが何処か寂しくそんな事を告げた。

 それに対しシグレは、横を歩く彼に聞こえない声で静かに呟いた。


 「その強さこそが、あの人に似ているんです……。」


 帝歴403年11月5日


 その日の早朝、珍しく目が覚めたルヴィラは部屋中を歩き回るがハイドの姿を見つけられずにいた。

 ハイドの自室にもその姿がなかった。

 「…………何かの音?」

 外から響く、何かが空を切る音。僅かに聞こえるそれは、空耳のように聞こえていたがルヴィラの耳は確かにその音を捉えていた。

 音を辿ると、外から聞こえているらしい。ハイドが音の場所にいる可能性が高いと判断したルヴィラは玄関を出て庭の方へと向かった。

 そこで彼女が目にしたのは、剣を振るうハイドの姿だった。

 「っ!……っ!」

 研ぎ澄まされた精練された剣の太刀筋は一切の無駄がなく、芸術とも言える程の美しさまで感じられる域に達していた。

 「……シラフ?」

 ルヴィラの声に反応し剣の素振りを止めると、ルヴィラのいる方向に振り向いた。

 「っ……。ルヴィラさんか、珍しいですね早起きをするなんて。」

 「何故か目が覚めただけよ。それより、あなたは何をしているの?」

 「見ての通り、朝の稽古ですよ。適度に鍛え直さないとなまりますからね。」

 「確か、誰かに仕える騎士よね?」

 「ええ、本来であればサリア王国の第二王女専属の騎士という立場なんですけどね。」

 「サリア王国……。」

 「他の国から見ればサリアは小国かもしれませんが、俺にとっては大切な祖国です。」

 「そう……あなたはサリアの人間なのね……。」

 「ええ……。それがどうかしましたか?」

 「……私の知り合いに、数年前サリアに住んでいた人がいたわ。その人は、その国で大切な人達を失ったらしいけど……。」

 「っ……。」

 「……10年前の火災で、あの人は自分の両親と弟さんを亡くしてしまったから。」 

 「10年前に……火災で……。」

 「それ以上の事をあの人は話してはくれなかったけど、ただあの日以降あの人は笑う事が出来なくなったそうよ…。」

 「……そうですか……。あの……その人の名前は?」

 「どうしてそれを聞くの?」

 「なんか、その人の事を他人のように感じられなくて……。」

 「……聞いたところで無駄だわ。」

 「どうしてです?」

 「その人の名前を私は知らないもの。そして、数年前から音信不通だから私にそれを問いたところで無駄なの。」

 「そうですか……。」

 「……。何か気になるような口ぶりね。」

 「俺も10年前に火災で家族を失ったんです。だから、少し気になって……。」

 「……そう、あなたもなのね……。」

 「はい、でも10年前にあった事ですから慣れつつありますけどね……。」

 「そして、失った人達の事も忘れてしまうの?」

 「どうでしょうね……。10年前に起こった事ですから、気付かぬ内に少しづつ忘れてしまうのかもしれません。でも、自分の失った家族の存在だけは忘れないと思います。それが、どんな形であろうとも……。」

 「……それが、あなたの後悔なの?」

 「恐らくそうなんだろうと思います。」

 「…………そう。私は先に戻っているわ、簡単な物でいいから朝食を用意して。」

 そうハイドに告げると、何事も無かったかのように歩き去って行った。


 「10年前……火災で大切な人達を失ったか……。」

 

 妙な違和感がハイドの脳裏を掠めたが、それを特に気にする事無く鍛錬を終えると、朝食を作る為に彼は部屋へと戻っていった。

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