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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第三章 乖離の妖精編 序節
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変わっていく、その日常

帝歴403年10月25日


 「全く、あれから毎日のようにヤマトの王女と仲良くしているよ……。全く、私の騎士なのに他の国の王女と仲良くなっているなんて……。」 

 「……仕方ないよ、ルーシャ。一応、国から受けた命令なんだからさ。」

 学院での午前の授業を終え、二人の少女が昼食を取っていた。

 長い金髪の髪を持ち、清楚な印象を受ける彼女の名はルーシャ・ラグド・サリア。サリア王国の第二王女であり、ハイドの幼馴染みであり、そして彼の仕えている人物でもある。

 そして薄焦げ茶の髪の少女がクレシア・ノワール。学院でも有数の医者の一人娘であり、ルーシャとは入学時からの友人でもある。

 ハイドとはルーシャ以前からの幼馴染みの関係であったが、様々な事情が重なり数日前までは、ハイドは彼女が幼馴染みだという事を知らずにいた。

 最近になってようやく、幼馴染みという事を彼が思い出し10年振りの再開を果たした。

 二人はハイドに対し好意を抱いているが、今もそれを伝えられず気付けばヤマト王国の王女、シグレというライバルが現れていたのであった。

 「でもさ、クレシアは少し前から聞いていたんでしょう?どうしてすぐ私に言わなかったのよ……。」

 ルーシャはクレシアにそんな事を言うと、クレシアは渋々と話した。

 「……お父様が仕事の時に噂で聞いていた程度だから、本当かどうかの確証が無かったんだよ……。」

 「それは仕方ないけどさ……クレシアこそいいの?私達以外の人がハイドとあんなに仲良くなっているのが気にならないの?なんかハイドは結構彼女と気が合っているようだし……。」

 少し不機嫌な素振りを見せながら、ルーシャはそう呟く。

 そんなルーシャの発言に思い当たる伏があるクレシアは、ルーシャから視線を少しそらしながらも彼女の問いに答えた。

 「それは……少しは気になるけど……。その位で心替わりとか彼がするとは思えないな……。」

 「まあ……それはそうだよね……。そんなすぐに好意が向いてくれるのなら、一番近くにいた私かクレシアに好意が向いていてもおかしくないでしょう……。」

 「それは……流石に……。」

 ルーシャの発言に苦笑いを浮かべるクレシアであったが、ルーシャの容姿は充分過ぎる程整っており、あり得るかもしれないとクレシアはつくづく思っていた。

 「どうかした?」

 ルーシャが自分の顔を見つめるクレシアの様子に気付き話掛ける。

 「ううん……何でも無い。それで、ここ最近のハイドの様子はどうなの?」

 「いつも通りだよ。まあ近くに居すぎるのか、そんな変化に気付けないんだと思うけど……。」

 「そっか。」 

 「そう言えば、確かクレシアのお屋敷で彼女を引き取る事になったんだよね。」

 「うん……昨日シファ様が私の屋敷に訪れてお父様に事情を説明していたから。お父様はそれを引き入れてくれたようだし。」

 ルーシャの言う彼女とは、先の騒動を起こした人物でもありその素性故に公に出来ない人物。未来から来たという、シルビア・ラグド・サリア、その人の事である。

 シルビアはルーシャの実の妹であり、サリア王国の第三王女。

 そして、神器に選ばれ未来の十剣となる人物だ。

 十剣とはサリア王国を含む四カ国から選ばれた、十人の神器使いの総称である。

 神器は、それ一つで一国の軍事力と等しくそれは各国の抑止力として働いている。しかし神器は誰もが扱える代物という事では無く、神器がその契約者を選ぶのである。

 神器に選ばれたほんの一握りの人間だけが神器使いと呼ばれる存在となり、そして四カ国の所有する十の神器に選ばれた者だけが十剣になる事が出来るのだ。

 「御免ね、身内の事なんだけどクレシアに押し付けてしまってさ……。」

 「私は構わないよ、それにあの人をそのまま放っておくのは可哀想だし……それに、ずっと一人で生きて来たらしいからさ……。」

 「……そう。」 

 未来から来たと言うシルビアは、未来を変える為に過去に来たらしい。本人には様々な事情がありその真相は確かでは無いが、クレシアの知る限り、彼女は自分のせいで未来のハイドを死なせたらしい。その過去故に、これまでたった一人で生きて来たらしいが……。

 「未来の彼は……どんな感じだったの……。」

 「今とあんまり変わらない雰囲気だった。たった一人で全てを背負って、優し過ぎて自分ばかり犠牲にしてさ……。最後に君に会えて良かって、そう言ってた……。」

 「……。」

 「未来のシルビアさんが言ってたんだ。あの人は、未来でルーシャを失ったんだって……。だから今のハイドとの一番の違いは、もう笑え無い程寂しそうな表情をずっとしていた事だと思う……。」

 未来のシルビアは、一人で行動をしている途中でもう一人の未来から来たというハイドに出会っていた。未来から来たハイドは、シルビアの改変した未来から来たらしく他の仲間を連れて行動を共にしていたが彼だけは別行動を取っていた。

 別行動を取っていた理由は、過去に遡る代償として自分の寿命をほとんどを差し出した事が理由だ。過去に遡った時既に、残る寿命は三ヶ月程。

 彼は残された時間を全て自分の目的を果たす為に使った。

 その目的とは過去の自分に自分の記憶と経験を継承する事。

 自分の果たせない約束を過去の自分に託す為だった。

 そして五日前の10月20日、過去の自分と激闘の果てに打ち倒されると彼に記憶と経験を託し、肉体は跡形も無く消えたそうだった。

 「……未来のあいつには、誰か本当に愛した人がいたのかな……。」

 「分からない……でも少なくともさ、ハイドはその人を失った事は確かだと思う。軟禁状態の時、シルビアさんが私に言ってたんだ……。」

 

 「あの人は、今の私以上に大切な人達を失っています。なのに私はそんなあの人に対して、八つ当たりをしてしまって……でもあの人はそんな私を優しく受け止めてくれたんです……。」

 

 「そんな事が……?」

 「うん。やっぱりハイドは、変わらないんだよ。自分の大切な物の為なら自分がどれだけ傷付いても構わない人だって。そんな不器用な優しさに、私達は惹かれたんだと思うから……。」


 その日の放課後、二人は公園で珍しい組み合わせの人達を見掛けた。

 「ねえ、クレシア……あの人達って。」

 「うん……シルビアさんだよね……。」

 二人の視線の先にいるのは長い金髪の小柄な少女と黒髪の男の姿だった。

 二人は何やら会話をしている様子だが内容までは聞き取れ無い。

 「なんか不思議な組み合わせだよね……。」

 「うん……確かあの人って確かシファさんの恋人のラウって人だよね……。」

 「そうみたいだけど……あの人この前の闘武祭で優勝した有名人でしょう……。それに……どうしてシルビアさんがあの人と話しているんだろう……。」

 「うーん……。私もよく分からないかな……。」

 二人の視線の先で会話を交わしている少女の名はシルビア・ラグド・サリア。この時間に元から存在しているルーシャの妹である。サリア王国の第三王女であり、ルーシャと同じく整った容姿とその素直で真面目な性格故に学院でもその人望は厚い。

 彼女は神器に選ばれており闘武祭に出場するも、惜しくもオキデンスの予選で後に現八席の一人となったシン・レクサスに敗れてしまったが学院の中で実力は20位に入っている。

 そして彼女と話している男は、ラウ・クローリア。先に行われた闘武祭において初出場ながらも圧倒的な実力を見せ付け見事、闘武祭の頂点に立った者である。

 サリア王国から特別に編入する事が決まったが、その素性の多くが謎に包まれており詳細はごく僅かな者達が知っている。

 シルビアを破ったシンの仕えている人物でもありよく二人で行動している。そして、ハイドの義姉であるシファと恋人関係にあり、ハイドとその他様々な事情故に敵対関係にある。

 「普段は確かシファ様と一緒にいるはずだよね……。」

 「うん、たまにその様子は見掛けるけどシファ様が一方的に話し掛けている感じだよね……。」


 ルーシャとクレシアがそんな会話を交わしている時、本人達は……。

 「……済みません、突然呼び出してしまって……。」

 「別に構わない、むしろ奴等から離れられ好都合だ。」

 「そうですか……。」

 「話は既にある程度こちらで既に把握している。サリア王国から、私が君の護衛役を務めるよう昨日通達があった。その事で挨拶に来たのだろう?」

 「それもありますが……その……。」

 「何が言いたい?」

 「ラウさん……私に戦い方を教えて欲しいんです。」

 「……。何故、私に頼んだ?君の周りには、私以上の適任が少なくとも二人いるだろう。」

 「……その通りです。でも、私の目指す戦い方とあの人達は全く違いますから……。でも、ラウさんは私と同じように中距離の戦いにおいては、あの二人以上だと思っています。だから……。」

 「何故、強くなろうとする?」

 「守りたい人達がいるんです、だからその為に私は強くなりたい。」

 「守りたい人達か……。」

 「はい。だから、私はあなたを頼ったんです。」

 「どういう事だ?」

 「あなたの本質は私と似ています。あなたの戦い方は、とても合理的で必要最低限の犠牲で目的を果たそうとしている。いや、それどころか誰も失わせずに目的を果たそうとしているように、私は思えたんです……。」

 「……その根拠は?」

 「闘武祭でのこれまでの試合です。あなたの戦いは全て、対戦相手の戦闘が最低限続行不能になる傷を与えて勝利を収めているからです。」

 「それは、当たり前の事だ。対戦相手を死亡させた場合失格なのだからな……。」

 「でしたら準決勝で、ハイドさんは亡くなっていたはずですよ。」

 「…………。」

 「私には分かりました……。ハイドさんは何度でも立ち上がって戦う人です……あなたはそれを分かった上で、手足の骨を折り戦闘の継続を不能にさせたんです。あの戦いで可能な最適解だと、ラウさんは分かっていたから……。」

 「……。」

 「だから、私はあなたを頼ったんです。誰も失わせずに、誰も傷付けずに勝ち進む方法を、大切な誰かを守る方法を……あなたの元でなら学べるはずだと思ったんです。」

 「……なるほど、私は君を甘く見ていたようだな……。……まさか、私の思考をそのように分析されていたとはな……全く恐れいるよ。」

 「それじゃあ……。」

 「その依頼を引き受けると言う事だ。ただ、途中で投げ出すような真似をするなら、私はすぐに降りさせてもらう。その条件でなら引き受けるが構わないか?」

 「はい……。覚悟は出来ています。」

 「分かった。上手く教えられるかは分からないが、やれるだけの事は尽くしてやろう。」

 そう言い終えると、ラウは辺りに視線を向けた。

 「どうかしましたか?」

 「そこにいるんだろう、出て来たらどうだ?」

 ラウがそう呼び掛けると、遠くの木の後ろから二人の少女が現れた。

 「姉様……それにクレシアさんも……。」

 「こちらを観察していたようだな……。ああ……これから君をどう呼べばいい?」

 呼び方に少し困ったラウはシルビアにそう問い掛けると

 「呼び捨てで構いません。あなたの方が年上ですし、それに私はあなたに戦い方を教わる身ですから……。」

 それを聞くとラウは軽く頷き。

 「了解した……では、シルビア。あの二人の元に向かおう。」

 「はい、ラウさん。」

 ラウと共にシルビアは二人の元へ向かう。

 二人が近くに来ると、ルーシャがシルビアに話し掛けた。

 「シルビア、どうしてシファ様の彼氏と一緒にいるの?」

 「ええと……ラウさんは、今日この日から私の護衛役に任命されたんです。」

 シルビアの言葉にルーシャは驚き、シルビアに更に質問を投げ掛けた。

 「護衛役って……どうしてそんな急に……。」

 ルーシャがそう事を言うと、おどおどとしているシルビアに代わってラウが説明を始めた。

 「そのシファが、国王陛下に私が彼女の護衛をするよう命じたんだ。例の一件に関わっている君達なら、容易くその理由に気付くだろう。第二王女の君には、ハイドという十剣が護衛として付いているが、シルビアにはその護衛を付けていない。彼女が神器使いである事を国王陛下に伏せている以上、私が護衛役として任命された訳だ……。」

 「でも、ハイドは今……ヤマトの王女様の護衛役で……。」

 ルーシャのその言葉に対し、ラウは淡々と説明を続ける。

 「事情は把握している。結果として第二王女、君にはシンを新たな護衛役として付ける事になった。来月から彼にはシンと入れ替わって君の世話役となってもらう事になっている。」

 「っ……そんな事を急に言われても……。」

 ルーシャが突然の事に動揺しているが、ラウは冷静に説明を続ける。

 「当前の結果、王女が騎士と同棲しているなど下手をすれば王家の信用に関わる事だろう……。これまで黙認されていたのが不思議なくらいだと私は判断するが……。」

 「この事は、彼に……ハイドには伝わっているんですか?」

 「今日、シファがそれを伝える手筈になっている。」

 「あの……それじゃあ彼は新しく一体誰のルームメイトになるんですか?」

 「……そこまでの事は私は聞かさせれていない。その日になれば分かるはずだ。」

 「そうですか……。」

 「話は以上だ。私はこれから用事があるので失礼したいが、シルビアこの後はどうするつもりだ?」   

 「姉様達と少し話してから帰宅します。家も近いですし先に帰っていても構いませんよ。」

 「了解した。私は先に失礼させてもらう。」 

 そう言い残して彼は去って行った。

 様々な事に衝撃を受けた三人の間には沈黙が続いていた……。

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