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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
エピローグ
139/327

エピローグ 前編


帝歴403年10月22日


 「姉様……二人を放っておいていいんですか……。姉様の立場としてはこのままでは少しまずいと思いますけど……。」

 「今はいいの、二人はこの前の事で疲れているんだからさ……。それに今くらい、二人の再会を見守ってあげなきゃ悪いし……。」

 ルーシャとシルビアは、公園で遠くのある人物達を見守っていた。

 二人の視線の先には、ベンチで寄り添いながら眠っている二人の男女がいた……。

 「……いいんですか姉様?……彼女に奪われても……。」

 「奪われるって……まだ二人は付き合っていないんだしそんな事は……まだ先の事だよ……。その時までには私も頑張らないといけないけどさ……。」

 「そうですか……。」

 「そういえば、シルビア。例の記事見た?ほら、この前発表された新しい八席に関する記事……。」

 「はい……確かこの記事ですよね……。」

 シルビアは自分の端末を開き、その記事を開く。 

 記事の見出しは「今年度の学位序列暫定名簿」と表示されていた。

 順位は百位から表示されており……下に進んでいくにつれ順位が上がっていく。

 下に進んでいくと、20位を越えたあたりでシルビアの名前がそこにあった。

 「ほら……シルビアも入ってる。やっぱり上位で入賞しているからだよね……。」

 さらに下へ進むと、16位と15位にオキデンスの八席であったラノワとシトラの名前が出てくる。

 「やっぱり、こうなるよね……シトラさんの順位が高いのは彼の影響かな……。」

 下に進んでいくと、とうとう8位内の欄に入った。

 ここから先の欄には順位の他に二つ名が与えられていく。

 昨年に二つ名が与えられれば、それは継続されるが新たな八席には二つ名が与えられ、その人物は畏怖と尊敬の念が与えられるのだ……。

 順位一人一人確かめていく……。

 

 学位序列8位 メルサ・ハーヴィー

 学位序列7位 シン・レクサス

 学位序列6位 シグレ・ヤマト

 学位序列5位 リノエラ・シュヴル

 学位序列4位 シラフ・ラーニル

 学位序列3位 ルークス・ヤマト

 学位序列2位 ローゼン

 学位序列1位 ラウ・クローリア


 「ほら、ハイドが4位に入ってる……。彼が今年の八席なのはもう確定だよ……。」

 「そうですね、それでハイドさんの二つ名は何ですか?」

 「えっと……。」

  

 ルーシャが画面を下に移動させると、二つ名の文面が現れた。


 以下の者に、学院長から二つ名を授ける。


 シン・レクサス 冷徹の淑女

 シラフ・ラーニル 炎の騎士

 ラウ・クローリア 孤高の覇者


 以上3名の更なる活躍を期待する。


 「……炎の騎士……。今の彼にふさわしいかもね……。」

 「そうですね……。」


 帝歴403年10月24日


 「それじゃあ、このクラスの交換留学生の紹介をしよう。入りたまえ……。」

 教壇に立つ俺の担任のアルス先生はそう横の扉の方へ呼びかけた。

 扉から現れたのは、長い黒髪を揺らす女生徒。

 彼女の登場により、教室内の生徒達がざわついた。

 「シラフ……あの人……。」

 「なるほど、これは苦労しそうだ……。」

 隣のクレシアとそんなやりとりをし、アルス先生が彼女に声を掛けた。

 「全員彼女の事を知っているとは思うが、一応自己紹介を頼む。」

 「はい。はじめまして、私はヤマト国の第三王女シグレ・ヤマトと申します。今回、このクラスに交換留学生として配属されました、これから三ヶ月程の短い期間ですがよろしくお願いします。」

 そして、女性は軽くお辞儀をすると視線を俺の方へと向け優しく微笑む。

 その様子に、教室内の生徒達の視線が俺に集まる。

 それは無論、隣のクレシアさえも……。

 「良かったね、仕える王女様が増えてさ。」

 「……ちょっと待って……仕えるって……?」

 クレシアの言葉に、俺は一瞬思考が追いつかない。

 そんな俺に対して、アルス先生が声を掛ける。

 「シラフ君、君には彼女がオキデンスに在学する期間彼女の護衛に任命する。」

 「……待って下さい、そんな事を一体誰が決めて……。」

 「無論……彼女から直々のご指名だ。サリアの王女に仕えている君なら彼女の護衛も出来るだろう?」

 「…………。」

 俺があまりに突然の出来事に頭を悩まれているのに対して、当のシグレ本人はそれを見て笑顔で微笑んでいる。

 恐らく内心、それ以上にかなり笑っているだろう……。

 彼女からは、ルーシャと似たような雰囲気を感じる。

 恐らく彼女と同類、人を少し困らせて楽しんでいるのだろう。

 俺が唖然としていると、クレシアが優しく背中を叩いた。

 クレシアはゆっくりと頷き、気持ちは分かるよと言っているように感じたが……クレシア本人は少し笑っている。

 「これから三ヶ月、よろしくお願いします。」

 シグレから掛けられた声に一部、僅かな悪意を感じた俺は、少し苦笑いをするしか無かった。


 交換留学生は学院で闘武祭が終わった後に行われる、異文化交流の一環として毎年行われる学院恒例行事の一つである。

 各四つのエリアから、それぞれ百名程を定員として集められ誰が何処に送られるのかまでは当日にならなければ分からない。

 しかし、彼女がコネを使ったのかは定かでは無いがヤマト国の王族であるシグレ・ヤマトは俺のいるクラスに上手い具合に配属され、尚かつ俺は彼女専属の護衛に任命されてしまった。

 そして、昼休みになった今。俺の周りは以上な程の男女比率で共に食事をとっていた。

 「…………最近俺の周りに女性があまりにも多い気がする……。」

 そんな俺の言葉をよそに、周りの彼女達は楽しそうに食事をとりながら喋っていた……。

 「……仕方ありませんよ、ハイドさん……。これも仕事の内ですよ……。」

 そんな事を言って俺の右隣に座っているシルビア様は静かに食事をとっていた。

 珍しく彼女が、姉であるルーシャと会話をしていないのは目の前で行われている会話についてだろう。

 「だから……どうしてあなたが彼を護衛にする必要があるんですか……。彼は私の護衛も兼ねて学院に来ているんですよ……それを他国の王女が勝手に決める事は……。」

 「これは以前から決定していた事ですから。」

 そう言ってシグレは鞄から書類を取り出す。

 出されたのは、サリア国王のサインが書かれた直々の書類。

 内容は俺を交換留学生の期間中、彼女の護衛に任命するという内容だった。両国の印が入っているその書類にルーシャが黙り込む。

 「ですが、彼がわざわざ護衛をする必要は無いですよね……。あなたも王女であるなら、自国から護衛も派遣されているでしょう……。」

 「そうですね……。ですが私の護衛は、少々手違いがあったのか、南の方に派遣されてしまいましたからね。」

 平然とそんな事を笑顔で言う彼女に、俺は少し恐怖を感じる。

 その様子に勘づいたのか、シルビア様が小さくこちらに話掛けた。

 「……シグレさん……多分仕組んでいましたよね……。」

 「多分な……。でもまさかここまで策を巡らしていたとは……。」

 「…お父様からの直々の書類を見せられて姉様もかなり動揺しています……。」

 「動揺だけならいいが、俺にはこの会話がどちらに転んでも恐ろしいよ……。」

 「何故ですか?」

 「どちらの護衛になるにしろ、俺があの二人にこき使われるのには変わり無いからな……。」

 「…………そうですね……。」

 シルビア様の慰めの言葉に、俺は少しため息が出た。

 未だに目の前ではまだ言い争いは続いており、二人の会話を聞かないふりをしながらルーシャの隣に座るクレシアは黙々と食事をとっていた。


 その日の帰り道、俺はシグレの護衛の為一緒に帰宅する事になった。

 昼休みのルーシャと行っていた口論の末、結局ルーシャはシグレに負けてしまった。まあ彼女が勝っていたとしても、サリア国王からの書状がある限り、シグレの勝利は目に見えていたのだが……。

 「あなたの周りは、面白い人達がいますね。」

 「……途中からあなたが一方的に優位ですから、あなたが楽しいのは当たり前でしょう。」

 「そうかもしれませんね……。」

 「……交換留学生の件……やはり、剣技の継承の為ですよね?」

 「……。半分はそうかもしれません……。この丁度良い機会に、あなたにヤマト国の剣技を叩き込んでおきたいですし。」

 「……怖い事を言いますね……。それで、もう半分は何です?」

 「単純に、外の世界を知りたかったからですよ。王族という立場状、海外に赴くのは会談か何かの式典くらいですから……。」

 「…………。」

 「正直、オキデンスに配属されるのは三分の一の確率でした。私はオキデンスに配属が決まったあかつきに、あなたを護衛に任命する事をサリアの国王に許可して貰ったんですよ。」

 「なるほど……。」

 「……少し変わりましたね、そんなに日が空いた訳では無かったはずですが、以前より大人びて見えます……。」

 「そうですか?」

 「あまり実感が無いんですね……?」

 「大人とか、俺にはまだよく分かりませんよ。それに闘武祭が終わってからというもの、結構気が緩んでいるので…そろそろ引き締めていかないと………。」

 「そうだろうと思いましたよ。」

 そんな事を言うと、彼女は突然立ち止まった。

 「……ハイド。あなたにとって、サリアの王女……ルーシャ・ラグド・サリアはどのような方ですか?」

 「俺を騎士としてサリアで認めてくれたのが彼女なんです。俺はそんな彼女の為に騎士として強くありたい、そう思っています。」

 「……そうですか……。」

 「何故、そんな事を聞くんですか?」

 「あなたと彼女を見ていて、単純に少し羨ましいと感じたんですよ……。彼女は自分の身分を分かっている……でもその上であなたとは対等で接している、それはあなた自身も……。」

 「まあ、幼なじみですからね……。」

 「そうでしたか……。強い信頼を感じるのは、それもあるからかもしれませんね……。」

 そんな事を言ったシグレは、少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

 俺はシグレを送り届け帰宅する。

 俺の帰宅を待っていたのか、ルーシャはテーブルにうつ伏せまるで子供のように足をバタバタしていた。 

 「遅い……何をしてたの?」

 「いや、シグレを送り届けただけだよ。シグレの滞在先が少し距離があるからさ。」

 「ふーん……もう名前で呼び合ってるんだ……。」

 「いや……これは、その……。」

 「まあいいよ、とにかく早く着替えて夕飯の支度をしたらどう。」

 「分かったよ……。」

 俺は部屋に戻り、部屋着に着替える。

 着替えながら不意にこれまでの事を考えていた。

 学院に編入する事になって、そして帝国の残した生体兵器であるラウとシンに出会った。

 学院に迎う途中、船を占領されたり……そして学院に着いてからもクレシアに出会った。

 闘武祭が始まったり、シルビア様が神器に選ばれたりもした……。

 「思えば、まだ学院に編入してから半年も経っていないんだよな……。」

 着替えをすまし、俺は机に立て掛けてある剣を手に取った。

 鞘から剣を引き抜きその刀身を俺は眺める。

 サリア国王から直々に授かった剣……。

 毎日手入れは欠かしていないので、その刃は新品同様金属特有の輝きを放つ。

 剣を鞘にしまい、再び机に立て掛ける。

 その机の上には、古びた懐中時計がそこにある。

 銀時計は古びており、時計盤は蓋をされ見えなくなっている

 俺はそれを手に取り、その蓋を開けようとするが開かない。

 「やっぱり、開かないか……。」

 これ以上力を入れようとすれば壊れるのは分かっているので俺はそれを机の上に戻した……。

 「まあ、開いても壊れているんだろうな……。」

 俺は身だしなみを整え、夕飯を作りに向かった。


 

 扉が閉まると、懐中時計の蓋がゆっくりと開く……。

 現れたのは、少し錆びつき動きを止めた時計の姿……。

 その時刻は正午丁度で止まっていた。

 開いた蓋から、小さな一枚の写真がヒラヒラと落ちる。

 写真は少し古びて色褪せており、その中には、二人の子供が写っていた。

 一人は茶髪の子供、その子供の頭を優しく撫でるように隣に寄り添って座る男の子より少し背の高い一人の少女。

 少し照れている男の子に対して、それを楽しげに悪戯っぽく微笑む少女の写真だ……。

 オレンジ色の長い髪を揺らすその少女の背には、蝶のような羽根が生えていた……。

 写真の裏には、少し掠れた文字でこう書かれている。


 新しい我が子と、ハイドとの一枚……。

  彼女の名は、…………。 

             392/11/26

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