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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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約束の騎士

帝歴403年10月20日


 雲一つ無い蒼天、オキデンスの西の荒野に俺は立っている。

 未来の自分との戦い、俺はなんとか勝利を果たす事が出来た。

 そして、未来の自分は役目を終えたのか……肉体ごと灰と化し崩れ去ってしまった。

 奴のいた場所には、炎刻の腕輪……そして過去に遡る為に使われた姉さんの神器が残されていた。

 神器を拾いあげようとすると、炎刻の腕輪は光を放ち俺の持っている腕輪と融合してしまった。

 そして姉さんの神器は……その役目を終えたように奴と同じく灰と化し崩れてしまった。

 「……これで良かったのか……。」

 俺は空を見上げ、静かに目を閉じ祈りを捧げる。

 「…………。」

 ゆっくりと目を開け、俺はこれを見ているであろう人物に話し掛ける。

 「……戦いは終わった。シルビア様、そこにいるんですよね?」

 「……はい。」

 そよ風が頬をなぞる、声の方向を振り向くとそこには金髪の長い髪をもつ女性がそこにいた。

 「こんな形で、あなたに会う事になるとは……。」

 「……そうですね……。」

 「クレシアは、今何処に?」

 「私達の居住地にいます。あなた方の戦いがあまりに凄まじく最後まで見届ける事は不可能と判断した為一度隔離した次第です。」

 「……そうか……。」

 「彼の最後は……。」

 「我が王よ、あなたの遺志は彼に託せました……と。」

 「そうですか…………。」

 「……未来の俺は何を見て生きてきたんでしょうか……。」

 「分かりません。私は彼とは違う時間軸の人間ですから……。彼は私の変えた未来から来た……そう言っていました……。」

 「あなたはどうなんです?あなたの未来で、俺はどんな最後を遂げたんですか?」

 「……私を庇って命を落としました。そしてあなたの亡骸を抱えて、ルーシャ姉様はとても深く悲しんでいました……。」

 「騎士としては名誉ある死に方だと思います……でも、シルビア様はそれが許せないんでしょう?」

 「当たり前です。あなたを失わせない為に、私は王家から身を引き十剣として生きてきましたから。」

 「……十剣になっていたんですね……。」

 「はい……。そして、あなたの部下として十剣の使命を果たしていました。」

 「…………。」

 「ハイドさん、覚悟は出来ています……。私を殺して下さい……。」

 「クレシアを人質として勝手にさらった事の償いか?」

 「…………。」

 「それとも、姉さんを殺すようラウ達に依頼した件について言っているのか?」

 「…………。」

 「あるいは、その両方……それ以外の事についてですか?」

 「全て私の責任です、覚悟は決めていました……。」

 「……。」

 「あなたの命令なら私は自害しても構いません。」 

 「奴なら、あなたの生存を望むはずです。そしてあなたの知る未来での俺も……。」

 「…………。」

 「あなたに生きて欲しかった……。だから俺は、あなたを庇って死んだんだと思います。」

 「ですが……それは私のせいで……」 

 「それでもです……。俺は未熟でもあなたの姉の騎士ですよ、あなたを守る事も俺の使命なんです。」

 「そんな義務なんかで……あなたを失っていい訳が……。」

 「義務ではありません。俺は騎士になる事を自分から望んだ、そしてルーシャとの約束があって俺は騎士であり続ける事が出来たんです。」

 「………私は何も出来なくて…。」

 「それに、あなたはよく頑張りました……。たった一人で、運命を変える為に来たんですから……。」

 「っ……。」

 「あなたは生きるべき人です。未来の俺があなたを庇って命を落としたのなら、その分まであなたは生きなければ未来の俺の死は無駄になりますから。」

 「私は……。」

 「シルビア様、未来を変える為に俺達に力を貸してはくれませんか……?」

 「……はい。この命をあなたの為に使います、もう二度とあなたを失わせない為に……。」

 

● 

 闘武祭での最後の戦いが終わり、ラウの表彰式が行われていた。

 「オキデンス代表、ラウ・クローリア。貴殿の栄誉を称え、ここに賞する。」

 学院国家ラークの国王であり最高責任者でもある、学院長が彼に賞状を手渡した。

 「……。」  

 ラウはそれを受け取り、そして学院長に話し掛けた。

 「……私の望みは、帝国に関する資料の閲覧権だ……。」

 「了解した……手配しておこう。他に何か私に話したい事は無いのかね?」

 「……ノエル、彼女はあなたの教え子だったはずだ、その最後についてあなたは知りたく無いのか?」

 「……確かにノエルは私の教え子だよ。そうだな……彼女は亡くなっていたのか……。」

 「…………。」

 「だが私は、既にあの国を捨てた身だ。君達に何を思われても何も言い返せ無い。一つ君に言える事は……。」

 「……。」

 「ノエルは素晴らしい科学者だったよ。私の見た中で最も優秀で優れていた自慢の生徒だった。だが、あの日……彼を失った事でそれは大きく変わってしまったが……。」

 学院長は淡々と言葉を続ける。

 「復讐に駆られた彼女が……その最後に何を思っていたのか……。最後まで復讐を望んだ……あるいはそれ以外の何かを君に託したのかもしれない……。」

 「私はノエルに奴を滅ぼす為だけに造られた……それ以外に私の生きる理由は無い。」

 「……そうか……。ならば君に一つ課題を与えるとしよう……。」

 「課題だと?」

 「学院在学の間に、君自身が本当に望む事は何なのかについて一度真剣に考えてみなさい。恐らく長い時間が掛かるだろうが、君はとても優秀な生徒だ。きっと、自分の答えが必ず見つかるはずだよ。」

 「………。分かった……答えを見つけ次第あなたの元へ連絡する。」

 「……ああ、待っていよう君の答えを……。」

 そう告げて学院長は去って行った。

 「…………元帝国の魔術省と科学省の最高責任者、リゲル・ホーガン。それが今は学院国家ラークの最高責任者か……。」

 ラウはそう呟き、会場を後にしていく……。


 「っ…………ここは……。」

 意識が戻ると、私はベッドで寝かされていた……。

 私の記憶が確かであれば、私は彼の戦いを見ていた。

 激しい炎と剣がぶつかり合う、凄まじい戦い……。私は彼の戦いを見届けようとしていたが戦いがあまりに激しく、私の意識が途中で途切れてしまった……。

 そして、恐らく私は未来から来たシルビアさんによってここまで運ばれて寝かされていた……。

 「……。」

 言葉が出ない。彼の最後を見届けるつもりが、最後を見届けられずあろう事か、先に倒れてしまった自分が許せない。

 だが、それは無理もない事だ。神器の力はとても大きく強大である、ただの人間に過ぎない私がその力を受ければ例え僅かな力であろうとも体には大きいダメージになる事は明白なのだから……。

 「ハイド……私は……。」

 すると、部屋の扉からノックの音が聞こえた。

 「はい、どうぞ……。シルビアさんですよね……。」

 扉が開き、現れたのは傷まみれで少しふらついているこの時代のハイドだった。私のよく知る彼が、この場所に訪れていた……。

 「ハイド……。」

 「その様子だと、無事みたいだなクレシア。」

 「……うん。ねえ、未来から来たシルビアさんは……?」

 「今はこの場を外して貰っている。俺は彼女から、お前の場所を聞いてここに来たんだ……。」

 「……。」

 「大丈夫だよ、彼女の件は姉さん達に任せているからさ。」

 「ハイド……その体……。」

 「……ああ、奴との戦いで受けた傷だよ。退院当日にまた結構傷を負ってしまったけどさ……すぐに治るよ。」

 そう言って彼は私の元に近付くが、その場で膝を付き倒れる。

 「ハイドっ……!本当に……大丈夫なの……?」

 「大丈夫だよ……クレシアの無事が分かったからさ気が抜けただけだ……。」

 目の前の彼が再び立ち上がろうとするが、またふらついて倒れかける……。

 私はそれを見ていられず、彼の体を抱き抱え支えた……。

 「……ごめんなさい……私の身勝手でこんな事に……。」

 「そうだな……今回ばかりは本当に心配を掛けてるよ。ルーシャ達がお前をどれくらい心配したか分かっているのか?」

 「……分かってる……。でも……私は……。」

 「………分かってるよ、クレシアがどうしてそこまでして彼女の味方をしていたのかさ……。」

 「そう…。」

 「……俺の本当の名前は……ハイド・カルフ。サリア王国のカルフ家の長男として俺は生まれた……。俺さ、思い出したんだよ……俺が何処の誰かについて……本当の両親についてもさ……。」

 「…………。」

 「そして十年前、俺は君に出会っていたんだよ。必ずまた会いに行くと、その首飾りを探し出して見せるって約束をした……。」

 「っ……。」 

 彼の言葉に私は頷き、首飾りを彼に見せる。

 それを見て、彼はゆっくりと頷き……。

 「そうか…。やはり、クレシア……君だったんだな……。」

 「うん……私は必ずまた会えるって私は信じて待っていたから……。必ず私を思い出してくれるって信じていたから……」

 「そうか……。」

 「もう待たなくてもいいんだよね……。」

 「……十年も待たせてしまった……。それに随分遠回りもしたけどさ、ようやく君と交わした約束を果たせるんだな……。」

 「……うん……。」

 「……ようやく君を見つけられたよ……。」

 「…うん……。」

 「ありがとう……俺を忘れずにいてくれて……。」

 「私も……思い出してくれてありがとう……ハイド……。」


 私は彼の体に抱き付き泣いていると、彼は私の涙を優しく受け止め続けた……。


 十年越しの彼との再会を私はようやく果せた……。


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