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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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戦いの果て


帝歴403年10月20日

 

 「これで終わりだぁぁぁ!!!!」

 ハイドから放たれた一閃は、灼熱の炎を生み出しもう一人のハイドに向けて放たれた。

 その炎は凄まじく、けたたましい爆発と衝撃を放ちながら空の彼方まで炎は突き進む……。

 爆風により巻き上げられた砂煙が晴れていく……。

 立っていたのは一人だった。

 剣を杖のように扱い、立つ事がやっとの状態……。

 そして、その一人は視線の先で倒れている者に声を掛けた。

 「……俺の勝ちだな……ハイド。」

 倒れていたのは、長身の男……未来から来たハイドであった。

 「認めよう、お前は俺の託す器に相応しい。」

 「……お前が最後に放った技、ヤマト国の剣技だったな……。」

 「分かっているだろう、私は未来から来たんだ。お前がこれから先経験する事を俺は既に経験している。シグレから受け継いだ技を、俺が扱えない訳が無いだろう?」

 「……記憶の継承……しなくていいのか……。」

 「継承は既に終えている、あとは自分で記憶を引っ張って来れるかの問題だ。」

 「……お前は自分の過去を全て知っているのか?」

 「……そうだな。辛い記憶だよ、だがそれは俺自身に必要な記憶だ。知ることで救えた者もいた……だが知ることで失った人達を知った。」

 「……。」

 「俺は、ルーシャを……王女を守れなかった……王都が崩壊していくその日、彼女は俺達を救う為に王都に残る決断を下したんだ……。あいつが最後に残した言葉、必ずこの絶望の世界を変えて……。だが結局、俺自身の手では果たせなかった。」

 「……。」

 「今の俺には、守るべき主はいない……。だからせめて、お前だけはその主を守り抜いて欲しい……。」

 「……守って見せるさ、必ず……。」

 男は微笑を浮かべると、仰向けに倒れた……。

 視線の先に広がる、蒼天の空……。

 何を思ったのか、男は右手を伸ばす……。

 「……俺は騎士としての最後の使命を果たした…。これで、俺の長い戦いは終わる……。」

 「……。」

 「………我が王よ、あなたの遺志は……彼に託せ…まし…た…よ……。」

 その瞬間、男の体は灰と化し崩れ去った。

 カランと、男の腕にはめられた赤みを帯びた腕輪と銀色の腕輪がそこに残される……。

 目の前の男との長き戦いが終わり、ハイドは残された腕輪に触れた……。

 赤みを帯びた腕輪に触れた瞬間、それは激しい光を放ちハイドの右腕にあった腕輪と融合する。

 そしてその近くにあった銀色の腕輪に触れようとしたその瞬間、腕輪は役目を終えたかのように男と同じく灰と化して崩れ去った……。

 「……これで良かったのか……。」

 ハイドは空を見上げる、雲一つ無く広がっている空に静かに祈りを捧げた……。


 「もっと攻めて来いラウ!!」

 「……。」

 ハイドの戦いが終わったその頃、ラウはローゼンとの戦いで防戦一方になっていた。

 時間稼ぎの役目を十分に果たしていたラウであったが、ローゼンとの戦いを続ける内に僅かながら疲弊していた。

 ラウは両手に構えた黒い銃でローゼンの放つ攻撃を弾いたりいなしていた。

 対してローゼンは、自分の魔力により武器を練成し戦っていた。それは、剣もあれば槍もあり銃もあれば弓矢もある……。

 様々な武器種の武器を状況によって的確に判断し攻撃をしていた。数多の武器を扱える彼であったが、その技も優れており己の使う全ての武器をまるで達人のように扱いこなす。

 体力……技量……魔力の総量……そして経験……。全てにおいてラウを上回っていた……。

 《ヘリオスの観測が途切れた……。ようやく、作戦が終わったか……。》

 ラウがローゼンの攻撃を軽快な動きで悠々とかわす、攻撃の手が休まなくとも最低限の動きで躱していた。

 「躱すだけじゃ、俺には勝てない!」

 「そうだな……そろそろケリを付けようかローゼン。」

 ラウの姿が突然消えた……。

 「っ!!」

 「グリモワールヘリオス解放……。」

 ローゼンの背後に周り込んでラウはその手に炎を纏った漆黒の大剣を手にしていた。

 「お前の戦いは既に覚えているんだよ!!」

 ラウの剣と、ローゼンの剣が衝突する。 

 ローゼンは自らの右足を剣に変え、蹴り放つように剣を振るう。

 互いの力が衝突し、会場に凄まじい衝撃が巻き起こる。

 両者が吹き飛び、ローゼンは地面に叩きつけられラウは上空に飛ばされ会場を覆っている結界に叩きつけられた。

 「ハハハッッ、面白いよラウ。お前との戦いはこれまでのどの戦いよりも俺を楽しませてくれるよ!!」

 ローゼンは多少ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。

 浅い傷が無数にあるが、その表情からは狂気を感じるほどだった。

 ラウは地面に落下する寸前に態勢を直し地上に降りたつ。

 表情は至って冷静……多少の傷が見えるが平静を保っていた。

 「……。」

 「まあいい、そろそろ終わらせ無いと観客共も飽きるからな……。」

 ローゼンは右腕を掲げた。その腕には漆黒の腕輪、赤い基礎的溝が掘られているそれは真紅に輝く……。

 「神器……デウスエクスマキナ・アルファ解放。」

 ローゼンが真紅の光に包まれ……そしてその光が弾けた。

 彼の姿は異形の進化を遂げていた……赤い基礎的模様が前進に浮かびそして隆起しており、その姿は人の姿からかけ離れていた。

 赤い光を放つ、真紅の尾……。

 左右非対称の異型の羽を広げたその姿は、悪魔を彷彿された……。

 「驚くよな……俺が神器使いだという事……そしてグリモワールの観測を受け付けない事にさ。」

 「………なるほど、人口的に神器を製造したのか……。」

 「その通り、そして前回お前が戦ったシラフ・ラーニル。奴が扱っていた深層解放も可能にする。俺はそれぞれに特化した能力の神器を扱える、攻撃、速度、防御、魔術……。つまり俺は本来ならあり得ない四つの神器の力を俺は扱える……。」

 「……。」

 「対してお前はどうだ?グリモワールで観測したのは、十剣のシラフとクラウス、最後にサリアの王女か……。たった3人の神器の力しかお前は扱えないんだからな。」

 「数が多いからと言って、私が負ける可能性は無い。」

 「数で圧倒している俺が、お前如きに負ける事はあり得ない。」

 「口が減らないな、ローゼン。」

 両者が消え、凄まじい衝撃が巻き起こる。

 互いの姿が消えては現れるを繰り返していく、両者の攻撃が衝突するごとに衝撃が会場全体に広がる。

 「その程度か、ラウ!!」

 「っ……!!」

 ラウの腹部にローゼンの蹴りがめり込む……凄まじい速度で吹き飛び、ラウの体が会場を覆う結界にぶつかった。

 「所詮、あの異端のガラクタだったって事か……。」

 「……気に入らないなその言葉……。」

 ラウは多少ふらつきながらも立ち上がる。

 「まあ、そうだよな。お前がこの程度で壊れる訳が無い……よな!!。」

 ローゼンの無数の拳の連打がラウに放たれる。

 あまりの速さと威力故に、ラウは為す術なく攻撃を受け続ける……。

 「どうした……その程度か!!ノエルのガラクタさんよ!!」

 ローゼンの蹴り上げが、ラウのみぞおちに命中し上空に投げられた。

 ラウの体が放物線を描き地面に落とされる。

 その体は限界を超え、生きているのがやっとだろうという状態……。全身の骨は粉砕され、生死が関わるほどの状態……。

 その勝敗は明確だった……。

 「……お前の負けだ、ラウ・クローリア。」

 「…………。」

 ラウの返事は無い……。

 ラウの敗北を悟ったローゼンは、その場を立ち去ろうとする。

 刹那、世界が突然色を失った……。

 「っ何……!!」

 「……私が負ける事はあり得ない……。私は勝ち続けなければならない……それが私の存在理由だからな……。」

 ラウの傷がまるで無かったかのように消えていく……。そしてあり得ない事に、かなり消耗していたはずの自らの魔力すら増幅していたのだ……。

 世界が色を取り戻す。体力、魔力共に全開となったラウの突然の復活に観客達の歓声が巻き起こる。

 「一体……何をした……。」

 「さあな……。」

 ラウの魔力が急激に上昇する……。世界がそれに震え……天候が荒れ始める。

 「グリモワール、解放。」

 ラウの皮膚に黒い基礎的模様が出現し、彼の周りに八本の漆黒の剣が出現した。

 「……悪あがきもいいところだな、ラウ……。その程度で何になるつもりだよ?」

 「……一つ訂正しよう、私が扱える力はこの世に現存する全ての神器の能力だ。私は神器を観測せずともその力を扱える、能力を使用する為にはその力が何のか理解しなくてはならないがな……。」

 「………。」

 「私が観測をするのは、その能力を把握する為だ……。扱える能力を理解せずにはどれだけ強大な力であろうと使い物にはならないからな……。」

 「…面白い……。来いよ……、お前の力を俺に見せてみろ!」

 剣の矛先がローゼンに向けられる。そして八本の剣の魔力が上昇し漆黒の禍々しい魔力を纏い始めていた……。

 そしてラウは右腕に新たに漆黒の剣が出現させる。

 そして両者が踏み込んだ……。

 ラウが二本の剣を、ローゼンに向けて放つ……。

 ローゼンはそれを容易く回避、そして一本の剣を弾いて見せた……。

 再びラウが、今度は感覚を少しずらしながら三本の剣を放つ。

 一本の剣は、ローゼンに軽くいなされ残る二本も弾かれた……。

 ラウは自身の残る三本の剣を一斉に放った。

 先ほどまでより速度を急激に上げた不意を突くための攻撃……。

 一本の剣がローゼンの頬を掠める……。

 そして残る二本の剣は一瞬で弾かれる。

 間合いが2メートルを切り、ラウの武器は己の右手にある漆黒の剣のみ……。

 ローゼンが攻め込んだその刹那……ローゼンの目の前の世界が再び色を失った……。

 「っ……。」

 しかしそれは一瞬の出来事だった……。瞬きも出来ない程の一瞬の出来事……。

 しかし、それが両者の試合の行方を決めていた……。

 「っ……何で俺がお前如きに……。」

 ローゼンの目の前にいたはずのラウは、ローゼンの遥か後方に立っていた。そしてその手に持つ剣はローゼンの腹部を貫通し、そして彼の関節に、漆黒の短剣が刺さっていた……。

 「私の敗北はあり得ない。ローゼン、それがお前の敗因だ。」

 ラウがそう呟くと、ローゼンに刺さっていた刃物達が消え彼の体がゆっくりと床に倒れた……。

 

 闘武祭決勝戦、勝者ラウ・クローリア。

 

 それは学院最強の歴史が塗り変わった事を告げ、そんな彼の勝利を祝福し盛大な歓声が長い間会場に響き続けた……。

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